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4-5. ざまぁ再び
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「国宝の窃盗は死罪よ?」
ユリアは二人をにらみながら、感情のこもらない声で淡々と言う。
「ふん! これは私の独断じゃないわ! 牢でも何でも入れなさいよ。すぐに釈放されるわ」
ふてぶてしく言い放つゲーザ。
「残念でした。公爵も教皇ももう捕まえてあるの」
ニヤッと笑うユリア。
「へっ!?」
ゲーザは真っ青になって言葉を失う。
「死刑……、残念だけど仕方ないわね」
ユリアは憐れみのこもった視線を投げかける。
「ふざけんじゃないわよ! この! 何の苦労も知らない小娘が!」
すごい形相で喚くゲーザ。
「あら、私、あなたのコレですっごい苦労……したのよ?」
ユリアは胸のシールをペリペリと剥がし、火魔法でポッと燃やすとゲーザをにらんだ。
「あなた何……言ってるの? それになんで火魔法なんて使えるのよ?」
ゲーザはどういうことか分からず困惑する。
「あなたの苦労って何? 男に股開いただけじゃないの?」
ユリアはジト目でゲーザを見る。
「な、何を! ……。ユリア……、あ、あなた純潔を捨てたわね? 大聖女のくせに!」
「『愛を知った』と、言って欲しいわ」
ユリアはうれしそうに笑った。
「何が『愛』よ! 男はね、可愛い女だったら誰だっていいの! あんたもそのうち捨てられるのよ! ざまぁみろ!」
「そんなこと考えてるから、あなたには『愛』が手に入らないのよ」
ユリアは余裕の笑みで言う。
くっ!
ゲーザは鬼のような形相でユリアをにらんだ。そして、大きく息をつくと、
「いいわ、そしたらいい事教えてあげる。……、耳を貸して……」
そう言ってニコッと笑う。
「あら……、何かしら?」
ユリアはそっとゲーザに近づく。
直後、ゲーザは奥歯をギュイっと鳴らして何かをかみ砕くと、ゴォーっと豪炎を口から吐いた。
猛烈な火炎は一気にユリアを包み、純白の衣装が燃え上がる。
「バーカ! ざまぁ! はーはっはっは!」
ゲーザは大笑いし、アルシェは慌てた。
「うわぁ! ユリアァァァ!」
「大丈夫、あれ、人形なの」
いつの間にかアルシェの後ろにいたユリアは肩を叩いて言う。
「へっ!?」
ゲーザは驚いて振り返る。と、その時、燃え上がってる人形がゲーザの方に倒れ込む。
ぎゃぁぁぁ!
ゲーザは慌てて逃げようとするが、足は動かず逃げられない。
勢いよく燃える炎はゲーザに燃え移り、服や髪を燃やし始めた。
「あちっ! あちっ! 何してんのよ! 助けなさいよ! うぎゃぁぁぁ!」
必死に喚くゲーザだったが、ユリアたちはあまりに馬鹿げた自業自得に言葉を失い、ただ、間抜けなさまを白い眼で眺める。
ほうほうの体で何とか転がって火を消し止めたものの髪の毛を失い、火ぶくれした顔はもはや別人になっていた。
「ヒール! ヒール!」
ゲーザは必死に治癒魔法を唱え、何とか事なきを得たが、焼け焦げた服にチリチリの坊主頭で放心状態となり、床に転がったまま動かなくなる。
「ここから先は裁判で決めてもらうわ」
ユリアはそう言うと、アルシェに収監を依頼し、ゲーザは連行されていった。
◇
続いてユリアはティモをにらんで言った。
「あの女の色仕掛けにやられたってこと?」
ティモはうなだれて答える。
「俺はただ『しゃっくりが止まらなくなる薬で恥かかせてやって』と、言われたのでその通りにしたんだ。まさか杖を盗むなんて……」
「ふーん、私が恥かくのはいいんだ?」
ティモは最初押し黙ったままだったが、そのうち顔を真っ赤にして言った。
「ユリアばかりチヤホヤされるのっておかしいじゃないか! 同じ境遇で生まれて一緒に育ってきたのに俺だけずっと雑用……。まるでユリアの奴隷じゃないか!」
ユリアはキュッと口を一文字に結び、黙り込む。確かに自分が大聖女になったのは単に配られたカードが良かったからなだけだし、ティモに何の配慮もしなかったことも事実だった。
ユリアは何か言おうとして、うまい言葉が見つからず、ため息をつく。
「ふざけるな! なら、そう言えばいい。薬を盛る理由にはならん!」
ジェイドが重低音の声で吠え、その圧倒的な威圧にティモは青ざめる。
ユリアはティモと一緒に野山を駆けまわっていた頃のことを思い出し、思わず涙をこぼす。傷ついた幼生のジェイドを見つけたのもティモだったし、あの頃は本当に毎日が楽しかった。
ティモに配慮できなかったのは、毎日大聖女の仕事に追われていたからである。王都の十万人の人々の安寧を守ること、それが大聖女の務めであり、使命だと考え、毎日必死に働いていた。
しかし、ティモはもっと子供時代のような親密な交流が当たり前だと考えている。それは見えているものの違いだった。ティモは目の前の人を見て、ユリアは十万人を見ていた。どっちが正しいということは無い、単に視野の違いである。
ユリアは大きく息をつくと、
「ティモ、あなたは王都出入り禁止処分にしてもらうよう嘆願しておくわ。田舎に帰りなさい。長い間、ありがとう」
目頭を押さえながらそう言って、その場を後にした。
ユリアは二人をにらみながら、感情のこもらない声で淡々と言う。
「ふん! これは私の独断じゃないわ! 牢でも何でも入れなさいよ。すぐに釈放されるわ」
ふてぶてしく言い放つゲーザ。
「残念でした。公爵も教皇ももう捕まえてあるの」
ニヤッと笑うユリア。
「へっ!?」
ゲーザは真っ青になって言葉を失う。
「死刑……、残念だけど仕方ないわね」
ユリアは憐れみのこもった視線を投げかける。
「ふざけんじゃないわよ! この! 何の苦労も知らない小娘が!」
すごい形相で喚くゲーザ。
「あら、私、あなたのコレですっごい苦労……したのよ?」
ユリアは胸のシールをペリペリと剥がし、火魔法でポッと燃やすとゲーザをにらんだ。
「あなた何……言ってるの? それになんで火魔法なんて使えるのよ?」
ゲーザはどういうことか分からず困惑する。
「あなたの苦労って何? 男に股開いただけじゃないの?」
ユリアはジト目でゲーザを見る。
「な、何を! ……。ユリア……、あ、あなた純潔を捨てたわね? 大聖女のくせに!」
「『愛を知った』と、言って欲しいわ」
ユリアはうれしそうに笑った。
「何が『愛』よ! 男はね、可愛い女だったら誰だっていいの! あんたもそのうち捨てられるのよ! ざまぁみろ!」
「そんなこと考えてるから、あなたには『愛』が手に入らないのよ」
ユリアは余裕の笑みで言う。
くっ!
ゲーザは鬼のような形相でユリアをにらんだ。そして、大きく息をつくと、
「いいわ、そしたらいい事教えてあげる。……、耳を貸して……」
そう言ってニコッと笑う。
「あら……、何かしら?」
ユリアはそっとゲーザに近づく。
直後、ゲーザは奥歯をギュイっと鳴らして何かをかみ砕くと、ゴォーっと豪炎を口から吐いた。
猛烈な火炎は一気にユリアを包み、純白の衣装が燃え上がる。
「バーカ! ざまぁ! はーはっはっは!」
ゲーザは大笑いし、アルシェは慌てた。
「うわぁ! ユリアァァァ!」
「大丈夫、あれ、人形なの」
いつの間にかアルシェの後ろにいたユリアは肩を叩いて言う。
「へっ!?」
ゲーザは驚いて振り返る。と、その時、燃え上がってる人形がゲーザの方に倒れ込む。
ぎゃぁぁぁ!
ゲーザは慌てて逃げようとするが、足は動かず逃げられない。
勢いよく燃える炎はゲーザに燃え移り、服や髪を燃やし始めた。
「あちっ! あちっ! 何してんのよ! 助けなさいよ! うぎゃぁぁぁ!」
必死に喚くゲーザだったが、ユリアたちはあまりに馬鹿げた自業自得に言葉を失い、ただ、間抜けなさまを白い眼で眺める。
ほうほうの体で何とか転がって火を消し止めたものの髪の毛を失い、火ぶくれした顔はもはや別人になっていた。
「ヒール! ヒール!」
ゲーザは必死に治癒魔法を唱え、何とか事なきを得たが、焼け焦げた服にチリチリの坊主頭で放心状態となり、床に転がったまま動かなくなる。
「ここから先は裁判で決めてもらうわ」
ユリアはそう言うと、アルシェに収監を依頼し、ゲーザは連行されていった。
◇
続いてユリアはティモをにらんで言った。
「あの女の色仕掛けにやられたってこと?」
ティモはうなだれて答える。
「俺はただ『しゃっくりが止まらなくなる薬で恥かかせてやって』と、言われたのでその通りにしたんだ。まさか杖を盗むなんて……」
「ふーん、私が恥かくのはいいんだ?」
ティモは最初押し黙ったままだったが、そのうち顔を真っ赤にして言った。
「ユリアばかりチヤホヤされるのっておかしいじゃないか! 同じ境遇で生まれて一緒に育ってきたのに俺だけずっと雑用……。まるでユリアの奴隷じゃないか!」
ユリアはキュッと口を一文字に結び、黙り込む。確かに自分が大聖女になったのは単に配られたカードが良かったからなだけだし、ティモに何の配慮もしなかったことも事実だった。
ユリアは何か言おうとして、うまい言葉が見つからず、ため息をつく。
「ふざけるな! なら、そう言えばいい。薬を盛る理由にはならん!」
ジェイドが重低音の声で吠え、その圧倒的な威圧にティモは青ざめる。
ユリアはティモと一緒に野山を駆けまわっていた頃のことを思い出し、思わず涙をこぼす。傷ついた幼生のジェイドを見つけたのもティモだったし、あの頃は本当に毎日が楽しかった。
ティモに配慮できなかったのは、毎日大聖女の仕事に追われていたからである。王都の十万人の人々の安寧を守ること、それが大聖女の務めであり、使命だと考え、毎日必死に働いていた。
しかし、ティモはもっと子供時代のような親密な交流が当たり前だと考えている。それは見えているものの違いだった。ティモは目の前の人を見て、ユリアは十万人を見ていた。どっちが正しいということは無い、単に視野の違いである。
ユリアは大きく息をつくと、
「ティモ、あなたは王都出入り禁止処分にしてもらうよう嘆願しておくわ。田舎に帰りなさい。長い間、ありがとう」
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