上 下
43 / 59

4-5. ざまぁ再び

しおりを挟む
「国宝の窃盗は死罪よ?」
 ユリアは二人をにらみながら、感情のこもらない声で淡々と言う。
「ふん! これは私の独断じゃないわ! 牢でも何でも入れなさいよ。すぐに釈放されるわ」
 ふてぶてしく言い放つゲーザ。
「残念でした。公爵も教皇ももう捕まえてあるの」
 ニヤッと笑うユリア。
「へっ!?」
 ゲーザは真っ青になって言葉を失う。
「死刑……、残念だけど仕方ないわね」
 ユリアは憐れみのこもった視線を投げかける。
「ふざけんじゃないわよ! この! 何の苦労も知らない小娘が!」
 すごい形相ぎょうそうで喚くゲーザ。
「あら、私、あなたのコレですっごい苦労……したのよ?」
 ユリアは胸のシールをペリペリと剥がし、火魔法でポッと燃やすとゲーザをにらんだ。
「あなた何……言ってるの? それになんで火魔法なんて使えるのよ?」
 ゲーザはどういうことか分からず困惑する。
「あなたの苦労って何? 男に股開いただけじゃないの?」
 ユリアはジト目でゲーザを見る。
「な、何を! ……。ユリア……、あ、あなた純潔を捨てたわね? 大聖女のくせに!」
「『愛を知った』と、言って欲しいわ」
 ユリアはうれしそうに笑った。
「何が『愛』よ! 男はね、可愛い女だったら誰だっていいの! あんたもそのうち捨てられるのよ! ざまぁみろ!」
「そんなこと考えてるから、あなたには『愛』が手に入らないのよ」
 ユリアは余裕の笑みで言う。
 くっ!
 ゲーザは鬼のような形相でユリアをにらんだ。そして、大きく息をつくと、
「いいわ、そしたらいい事教えてあげる。……、耳を貸して……」
 そう言ってニコッと笑う。
「あら……、何かしら?」
 ユリアはそっとゲーザに近づく。
 直後、ゲーザは奥歯をギュイっと鳴らして何かをかみ砕くと、ゴォーっと豪炎を口から吐いた。
 猛烈な火炎は一気にユリアを包み、純白の衣装が燃え上がる。
「バーカ! ざまぁ! はーはっはっは!」
 ゲーザは大笑いし、アルシェは慌てた。
「うわぁ! ユリアァァァ!」
「大丈夫、あれ、人形なの」
 いつの間にかアルシェの後ろにいたユリアは肩を叩いて言う。
「へっ!?」
 ゲーザは驚いて振り返る。と、その時、燃え上がってる人形がゲーザの方に倒れ込む。
 ぎゃぁぁぁ!
 ゲーザは慌てて逃げようとするが、足は動かず逃げられない。
 勢いよく燃える炎はゲーザに燃え移り、服や髪を燃やし始めた。
「あちっ! あちっ! 何してんのよ! 助けなさいよ! うぎゃぁぁぁ!」
 必死に喚くゲーザだったが、ユリアたちはあまりに馬鹿げた自業自得に言葉を失い、ただ、間抜けなさまを白い眼で眺める。

 ほうほうの体で何とか転がって火を消し止めたものの髪の毛を失い、火ぶくれした顔はもはや別人になっていた。
「ヒール! ヒール!」
 ゲーザは必死に治癒魔法を唱え、何とか事なきを得たが、焼け焦げた服にチリチリの坊主頭で放心状態となり、床に転がったまま動かなくなる。

「ここから先は裁判で決めてもらうわ」
 ユリアはそう言うと、アルシェに収監を依頼し、ゲーザは連行されていった。

       ◇

 続いてユリアはティモをにらんで言った。
「あの女の色仕掛けにやられたってこと?」
 ティモはうなだれて答える。
「俺はただ『しゃっくりが止まらなくなる薬で恥かかせてやって』と、言われたのでその通りにしたんだ。まさか杖を盗むなんて……」
「ふーん、私が恥かくのはいいんだ?」
 ティモは最初押し黙ったままだったが、そのうち顔を真っ赤にして言った。
「ユリアばかりチヤホヤされるのっておかしいじゃないか! 同じ境遇で生まれて一緒に育ってきたのに俺だけずっと雑用……。まるでユリアの奴隷じゃないか!」
 ユリアはキュッと口を一文字に結び、黙り込む。確かに自分が大聖女になったのは単に配られたカードが良かったからなだけだし、ティモに何の配慮もしなかったことも事実だった。
 ユリアは何か言おうとして、うまい言葉が見つからず、ため息をつく。

「ふざけるな! なら、そう言えばいい。薬を盛る理由にはならん!」
 ジェイドが重低音の声で吠え、その圧倒的な威圧にティモは青ざめる。
 
 ユリアはティモと一緒に野山を駆けまわっていた頃のことを思い出し、思わず涙をこぼす。傷ついた幼生のジェイドを見つけたのもティモだったし、あの頃は本当に毎日が楽しかった。
 ティモに配慮できなかったのは、毎日大聖女の仕事に追われていたからである。王都の十万人の人々の安寧を守ること、それが大聖女の務めであり、使命だと考え、毎日必死に働いていた。
 しかし、ティモはもっと子供時代のような親密な交流が当たり前だと考えている。それは見えているものの違いだった。ティモは目の前の人を見て、ユリアは十万人を見ていた。どっちが正しいということは無い、単に視野の違いである。
 ユリアは大きく息をつくと、
「ティモ、あなたは王都出入り禁止処分にしてもらうよう嘆願しておくわ。田舎に帰りなさい。長い間、ありがとう」
 目頭を押さえながらそう言って、その場を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

処理中です...