42 / 59
4-4. すれ違う思い
しおりを挟む
その後、ユリアは時間を止めたままアルシェを連れ、宰相の部屋に行く。クーデターを成功させても国の実務が止まっては何の意味もない。実務部門のトップ、宰相の協力は不可欠である。
そして、そこでもユリアは半ば脅しながらクーデター計画への同意を迫った。
時間を止める事ができ、ドラゴンを使役するユリアに逆らえる者などいない。
「クーデターが成功したらその権力者に従うだけです。我々は政治家じゃないので……」
宰相は渋い顔でそう答える。
ユリアはうれしそうに宰相の肩を叩いて、
「任せたわよ! クーデターの後は世界統一! 全世界の行政実務のトップはあなただからね!」
と、ニコニコしながら言った。
宰相は唖然とした表情で、アルシェと顔を見合わせ、思わず天を仰いだ。
「あ、二人とも面倒くさいことになったって思ってるわね? 一番面倒くさいのは私なのよ? こんなの本来大聖女の仕事なんかじゃないのよ? 分かる?」
ユリアは腰に手を当て、ほおを膨らませて二人を不満そうに見る。
「そ、それは分かります。ただ……、クーデターしないと世界が終わると言われても、実感わかないですよ?」
宰相は気圧されながら答える。
「んー、もう! 平和ボケなんだから! まぁいいわ、クーデターの時に使う権力移譲の書面、用意しておいてね!」
「わ、分かりました」
宰相は渋々うなずく。
「それじゃ、当日はよろしく! チャオ!」
ユリアはそう言ってウインクすると、ジェイドとともに消え、時間はまた動き出す。
アルシェと宰相は渋い表情で顔を見合わせあった。
◇
『蒼天の儀』当日がやってきた。
ユリアは前回のスケジュール通り、純白のシルクにきらびやかな金の刺繍の入った壮麗な衣装で控室のソファに座る。
前回はここで睡眠薬を盛られてしまって全てが崩れていってしまった。物心ついてからずっと一緒だった幼なじみのティモ。本当に彼がそんなことをやるのか……、ユリアは暗い気持ちでため息を繰り返す。
コンコン!
ノックされ、ヒョロッとした天然パーマの少年、ティモがお茶のセットをトレーに入れて入ってきた。そして、ティーカップに紅茶を入れてユリアの前に置く。
見ていると、動きがぎこちない……。
「ねぇ、ティモ? 何か……、私に隠してないかしら?」
ユリアはジッとティモを見ながら言った。
しかし、ティモは目を合わすことなく、
「えっ? な、何のこと?」
そうとぼける。
ユリアは大きくため息をつくと、
「ねぇ、私たち、どこで……、間違えちゃったかな?」
悲痛な表情でそう語りかける。
しかし、ティモは、
「し、知らないよ!」
そう叫ぶと、顔を真っ赤にして部屋を飛び出していった。
ユリアは再度深くため息をつき、入れられた紅茶のデータを解析する。
すると、浮かび上がる『ベンゾジアゼピン(睡眠薬)』との表示。
ユリアは頭を抱え、しばらく考え込む。ティモを便利な従者としてしか見ず、人としての交流を怠ってきた自分の至らなさを反省した。でも、だからといってこんな仕打ちは度を超えている。
ユリアは軽く首を振ると、睡眠薬の成分を消去し、ただの紅茶に戻してすすった。そしてソファに横たわって寝たふりをする。
ほどなく誰かが入ってくる。ゲーザだ。
そろりそろりとユリアに近づき、ユリアの肩をパンパンと叩く。
ユリアが動かずにいると、ゲーザはユリアの胸元に手を忍ばせて封印のシールを貼った。そして、傍らに置いてあった『蒼天の杖』を盗ると、また静かに部屋の出口を目指す。
ユリアは薄目を開けながらその様子をじっと見ていた。
なるほど、こうやったのだ。
「動くな! 窃盗の現行犯だ!」
物陰に隠れていたアルシェがゲーザに飛びかかる。
ひっ!
ゲーザは急いで逃げようとするが、足が動かない。ユリアが足の筋肉を麻痺させていたのだ。
「な、何なのよコレ!」
ゲーザは『蒼天の杖』を振り回して威嚇するが、程なく捕縛される。そして、ティモも警備の兵士によって捕まり、連れてこられ、二人とも床に正座で並ばされた。
そして、そこでもユリアは半ば脅しながらクーデター計画への同意を迫った。
時間を止める事ができ、ドラゴンを使役するユリアに逆らえる者などいない。
「クーデターが成功したらその権力者に従うだけです。我々は政治家じゃないので……」
宰相は渋い顔でそう答える。
ユリアはうれしそうに宰相の肩を叩いて、
「任せたわよ! クーデターの後は世界統一! 全世界の行政実務のトップはあなただからね!」
と、ニコニコしながら言った。
宰相は唖然とした表情で、アルシェと顔を見合わせ、思わず天を仰いだ。
「あ、二人とも面倒くさいことになったって思ってるわね? 一番面倒くさいのは私なのよ? こんなの本来大聖女の仕事なんかじゃないのよ? 分かる?」
ユリアは腰に手を当て、ほおを膨らませて二人を不満そうに見る。
「そ、それは分かります。ただ……、クーデターしないと世界が終わると言われても、実感わかないですよ?」
宰相は気圧されながら答える。
「んー、もう! 平和ボケなんだから! まぁいいわ、クーデターの時に使う権力移譲の書面、用意しておいてね!」
「わ、分かりました」
宰相は渋々うなずく。
「それじゃ、当日はよろしく! チャオ!」
ユリアはそう言ってウインクすると、ジェイドとともに消え、時間はまた動き出す。
アルシェと宰相は渋い表情で顔を見合わせあった。
◇
『蒼天の儀』当日がやってきた。
ユリアは前回のスケジュール通り、純白のシルクにきらびやかな金の刺繍の入った壮麗な衣装で控室のソファに座る。
前回はここで睡眠薬を盛られてしまって全てが崩れていってしまった。物心ついてからずっと一緒だった幼なじみのティモ。本当に彼がそんなことをやるのか……、ユリアは暗い気持ちでため息を繰り返す。
コンコン!
ノックされ、ヒョロッとした天然パーマの少年、ティモがお茶のセットをトレーに入れて入ってきた。そして、ティーカップに紅茶を入れてユリアの前に置く。
見ていると、動きがぎこちない……。
「ねぇ、ティモ? 何か……、私に隠してないかしら?」
ユリアはジッとティモを見ながら言った。
しかし、ティモは目を合わすことなく、
「えっ? な、何のこと?」
そうとぼける。
ユリアは大きくため息をつくと、
「ねぇ、私たち、どこで……、間違えちゃったかな?」
悲痛な表情でそう語りかける。
しかし、ティモは、
「し、知らないよ!」
そう叫ぶと、顔を真っ赤にして部屋を飛び出していった。
ユリアは再度深くため息をつき、入れられた紅茶のデータを解析する。
すると、浮かび上がる『ベンゾジアゼピン(睡眠薬)』との表示。
ユリアは頭を抱え、しばらく考え込む。ティモを便利な従者としてしか見ず、人としての交流を怠ってきた自分の至らなさを反省した。でも、だからといってこんな仕打ちは度を超えている。
ユリアは軽く首を振ると、睡眠薬の成分を消去し、ただの紅茶に戻してすすった。そしてソファに横たわって寝たふりをする。
ほどなく誰かが入ってくる。ゲーザだ。
そろりそろりとユリアに近づき、ユリアの肩をパンパンと叩く。
ユリアが動かずにいると、ゲーザはユリアの胸元に手を忍ばせて封印のシールを貼った。そして、傍らに置いてあった『蒼天の杖』を盗ると、また静かに部屋の出口を目指す。
ユリアは薄目を開けながらその様子をじっと見ていた。
なるほど、こうやったのだ。
「動くな! 窃盗の現行犯だ!」
物陰に隠れていたアルシェがゲーザに飛びかかる。
ひっ!
ゲーザは急いで逃げようとするが、足が動かない。ユリアが足の筋肉を麻痺させていたのだ。
「な、何なのよコレ!」
ゲーザは『蒼天の杖』を振り回して威嚇するが、程なく捕縛される。そして、ティモも警備の兵士によって捕まり、連れてこられ、二人とも床に正座で並ばされた。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です
カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」
数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。
ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。
「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」
「あ、そういうのいいんで」
「えっ!?」
異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ――
――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる