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3-1. 爆弾の皇帝

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 その頃、東京でも動きがあった――――。

 ウェーブがかった美しい金髪を揺らし、少女「ルドヴィカ」は田町の街を歩いていた。大胆に大股で歩く、ミニスカートから延びるすらりとした生足に、すれ違う人も目を奪われている。国道十五号線を行きかうバスやタクシー、ずらりと並ぶガラス張りの高層ビル、遠くには赤い東京タワーも見える。少女は楽しそうに歩き、高級マンションの前まで来ると、まるでドラッグをキメたかのように狂気をはらんだ瞳でキャハッ! と笑ってマンションを見上げた。

 マンションの最上階、メゾネット造りの気持ちのいいオフィスにきた少女は、会議室へと案内される。少女はずらりと並ぶ面々をチラッと見ると、フンと鼻を鳴らし、席に着く。

「ルドヴィカさん、わざわざ来てもらってすみませんね」
 チェストナットブラウンの髪を揺らし、琥珀色の瞳を輝かせながら、神懸った美しさを放つ女性「ヴィーナ」が口を開いた。
「いや、全然かまわないわ」
 ルドヴィカはやや反抗的な口調で答える。
「さっそくで悪いけど、これを見てくれるかしら?」
 そう言ってヴィーナは会議机の上にグラフをいくつか浮かび上がらせた。
「あなたに管理を任せていた星の情報よ。戦乱だらけで人口……、多様性……、その他全ての点で急速に悪化してるの。説明をしてもらえるかしら?」
 ヴィーナはポインターでグラフを指し、ルドヴィカを静かに見つめた。
「説明もくそも、見たまんまよ!」
 そう言って肩をすくめる。
「では、廃棄処分に同意という事でいいかしら?」
 ヴィーナは淡々と事務的に言った。
「ふん! あんたらはいつもそうよ。お高く留まって偉そうに処分をするだけ! いいご身分だこと!」
 ルドヴィカは叫ぶ。
「あなたの行動記録……見たわよ。管理者アドミニストレーター権限使って酒池肉林に享楽の数々……。それで批判するの?」
 抑制的なトーンで返すヴィーナ。
 くっ!
 ルドヴィカは歯をぎゅっと食いしばると、いきなり立ち上がり、腕を高く上げて、
爆弾の皇帝ツァーリボンバ!」
 と、叫んだ。
 直後、窓の向こう、東京タワー上空で激烈な閃光が放たれ、東京は瞬時に鮮烈な熱線にかれた。街路樹は一瞬にして黒焦げとなって燃え上がり、ガラスは溶け、街ゆく人々は瞬時に沸騰して爆発した。
 閃光がおさまると、白い繭のような衝撃波が広がっていき、ビルは次々と吹き飛び、東京全域を瓦礫の山へと変えていく。
「キャハッ! ざまぁみろ!」
 イカれた狂気を孕んだ目で叫ぶルドヴィカ。
 しかし、全てを焼き尽くす史上最強の核兵器爆弾の皇帝ツァーリボンバをまともにくらいながらも会議室はビクともしなかったし、出席者も白けていた。

「どうしてみんなコレやるのかしら?」
 ヴィーナはウンザリしたように肩をすくめる。
 そして、腕を高く掲げると、
後退復帰ロールバック!」
 と、叫ぶ。直後、窓の外が青白い光の奔流に覆いつくされ……、やがて光が晴れるとそこには爆破前の東京が戻っていた。
「へっ!?」
 唖然とするルドヴィカ。
 青空に東京タワーがそびえ、道には多くの車が行きかい、爆発前と寸分たがわない東京がそこにあった。
「ご苦労様、言い残すことは?」
 ヴィーナは鋭い視線でルドヴィカをにらむ。
「くっ! 化け物どもめ! グァ――――!」
 ルドヴィカは怒りに任せてこぶしを会議テーブルに叩きつけ、粉々に砕いて吹き飛ばすとヴィーナに飛びかかった。
「くらえ!」
 渾身のパンチがヴィーナの頬にさく裂し、ヴィーナは吹き飛ぶ。
 そして、ルドヴィカはそれを追いかけると馬乗りになり、両手で次々とヴィーナを殴った。唇が切れて血が飛び散り、ゴスッ! ゴスッ! と猟奇的な鈍い音が部屋に響き続ける……。
「死ね! 死ね!」
 しかし、殴りながらルドヴィカは違和感に囚われた。
 なぜ誰も止めないのか……?
 そして、血にまみれた殴る手を止め、恐る恐る周りを見ると、ニコニコと笑っている水色の髪の女の子「シアン」一人を残して、他には誰もいなくなっていた。
「な、何で……止めないんだ?」
 ルドヴィカはけげんそうに聞く。
「だって、それただの人形だもん。きゃははは!」
 シアンは楽しそうに笑った。
「に、人形!? くっ……」
 ルドヴィカは血まみれとなった女性の人形を忌々しそうに見つめ、大きく息をつくと首を振った。
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