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2-12. 口移し

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「ジェイド! お家に帰ろう!」
 ユリアはジェイドに話しかけるが返事がない。意識がもう失われてしまっている。
 一刻を争う事態に、ユリアはジェイドを背負うと飛行魔法で浮かび上がった。
 そして、月夜の空へ飛び立っていく。
 ダギュラの街明かりを受けながら徐々に高度を上げるユリア。
 だが、ジェイドを担いで飛ぶのはユリアには荷が重かった。何度もフラフラとバランスを崩しながらも必死に飛び続ける。
「ジェイド、死んじゃダメ!」
 ユリアは月明かりを浴びながら涙をポロポロとこぼし、必死にオンテークを目指す。
 自分が余計なことを頼んだがためにジェイドを傷つけてしまった。ユリアは自分の考えの甘さが招いた悲劇に打ちひしがれながら必死に飛んだ。
 ジェイドのいない人生なんてもうユリアには考えられない。ジェイドを失ったらもう生きていく自信なんてなかった。
 自分を救ってくれた大切な人、こんな自分を「好き」と、言ってくれたかけがえのない人、自分が命にかけても救うのだ。
 ユリアは歯をぎゅっと食いしばると飛行のイメージを固め、さらに加速していく。
 途中何度も強風であおられるも、ユリアは自分の命も燃やす勢いで力を絞り出し、ただひたすらに遠くに見えてきた火山、オンテークを目指した。

          ◇

 月が沈みかける頃、ユリアはボロボロになりながらようやくジェイドの棲み処に戻ってきた。
 ユリアはジェイドをベッドに寝かせると、服をはいで傷口を露わにする。パックリと開いた肩口の傷はまだ血が止まらず、青黒く変色しており、その痛々しいさまにユリアは思わず歯がガチガチと鳴る。この傷をうまく治療できないとジェイドは死んでしまうだろう。ユリアは涙をポロポロとこぼしながら、浄化魔法をかけた。

 ぐわぁぁ!
 ジェイドは、苦しそうに叫ぶ。浄化魔法が瘡蓋かさぶたになりかけの部分までぬぐってしまっているからなのか、相当に痛そうだった。でも傷口を綺麗にしなければ化膿してしまう。
「ごめんね、ごめんね」
 ユリアは泣きながら手を握り、浄化魔法を続けた。

 消毒が終わると、裁縫道具から糸と針を取り出す。戦場では消毒して傷口を縫うと聞いたことがある。自分は回復魔法が使えるから無関係だと思っていたが今、大切の人の命を懸けて縫わねばならない。
 ユリアはブルブルと震える手を何とか押さえ、溢れてくる血の中、一針ずつ涙をポロポロとこぼしながら縫っていった。
 縫うたびにジェイドは歯を食いしばり、苦しそうにするが、どうしようもない。
「もう少し……もう少し、我慢してね」
 ユリアは袖で涙をぬぐいながら針を進めた。

         ◇

 全部縫い終わると、タオルを縫い合わせた包帯で患部をグルグルと巻き、毛布を掛け、寝かせた。
 しかし、ジェイドの息は荒く、高熱で汗が止まらない。
 このままだと脱水症状になってしまう。ユリアは、水をくんでくると、ジェイドに飲ませようとした。しかし、意識がもうろうとしているジェイドはうまく飲んでくれない。
「あぁ……、どうしよう。ジェイド……」
 ギュッと手を握って、苦しそうに喘ぐジェイドを悲痛な思いで眺めるユリア。
 そして意を決すると、ユリアは自分の口に水を含み、そのままジェイドのくちびるに重ねた。そして舌で少しずつすき間を作り、ジェイドの中へと口移しで流し込んでいく。最初は戸惑っているようだったジェイドも、無心にゴクゴクと飲む。
 何回か水を飲ませると、ジェイドは少し安らいだ表情になって静かに眠りについていった。

        ◇

 ベッドわきで看病しながら眠り込んでいたユリアは、頬を優しくなでられて目が覚めた。
「ん……?」
 目を開けると、ジェイドが優しく微笑んでいる。
「ジェ、ジェイドぉ!」
 ユリアはバッと身を起こすと、ジェイドの手を抱きしめ、ポロポロと涙をこぼした。
「ユリアのおかげだ。ありがとう」
 ジェイドはそう言って震えるユリアに頬を寄せる。
 うっうっうっ……。
 ユリアは大切な人が回復した喜びと同時に、自分のせいでジェイドを失いかけた恐ろしさを思い出し、頭の中がぐちゃぐちゃになってただ泣きじゃくっていた。
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