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2-8. ざまぁな惨状

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 ユリアは人化したジェイドと一緒に、自分が監禁されていた牢屋への階段を下りていく……。
 すると、もわぁと、すえた悪臭が漂ってくる。
 ユリアは眉をひそめ、慎重に降りて行く……。
 最初の牢をのぞくと、衣服をビリビリに破られ、ぐちゃぐちゃに乱暴された女性が白い肌をさらしながら倒れ、痙攣けいれんしていた。

「ひっ!?」
 思わず後ずさるユリア。
 それはついさっきまで男たちにもてあそばれていた女の子。体のあちこちには悪臭を放つ体液が残されていた。

「えっ……? ゲ、ゲーザ……?」
 思わずユリアは口を手で覆う。
 それはよく見ると銀髪を編み込んだ紅い唇の女性、ゲーザだった。
 ユリアを陥れ、追放させた悪女は自らの愚行で墓穴を掘ったのだ。

「じ、自業自得だわ……。ざまぁよ!」
 そう言いながらもユリアの目には涙が浮かび、おもわずジェイドに抱き着く。

 うっうっうっ……。
 ユリアは涙を流しながら、不幸の連鎖、どこかで歯車が狂ってしまった世界を呪った。
 ジェイドはそんなユリアを心配そうに見つめ、髪を優しくなでる。

 すると、隣の牢からもすすり泣く声が聞こえてくる。聞き覚えのある声だ。
 ユリアはハッとして隣の牢へ走る。
 そこで倒れていたのはかつての聖女の仲間たちだった。彼女たちにもまた、乱暴された跡が生々しく残り、悲痛なうめきが牢に響く。
 ユリアは清浄化の魔法と治癒魔法を部屋全体にかける。牢の中は金色の光の微粒子が舞い、緑の光の渦がゆったりと牢の中を回った。
「ユリアさまぁ……、うわぁぁん!」「ユリアさまぁ!」
 ユリアは泣きながら飛びついてくる聖女たちを両手いっぱいに抱きしめ、そして一緒に涙を流す。
 例え大聖女であっても、彼女たちの穢された悲しみを癒してやることなんて到底できない。ただ一緒に泣いてあげることしかできなかった。

            ◇

 さらに隣の牢を見ると、教皇が囚われていた。
 教皇はユリアを見るとビクッとして無言のままうつむく。
 ユリアの追放に関与していたはずの教皇。ユリアは険しい声で言った。
「公爵派の暗躍について証言してもらえますか?」
 すると教皇は口を開いた。
「ワシも全貌は知らん。じゃが、こうやって収監されてしまった以上、公爵派の肩を持つ気もない。全て話そう」
「私の追放は公爵派の陰謀だったという事でいいですね?」
「そうじゃ、そなたには……、申し訳ない事をした」
 そう言って教皇は頭を下げる。
「ふざけるな!」
 ジェイドは目の奥に赤い炎を揺らし、重低音のどすを聞かせた声を響かせた。
 ひぃ!
 教皇は恐ろしいドラゴンの威圧にやられ、しゃがみこんで頭を抱え、
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
 と、泣き叫んだ。
「謝ってすむ話じゃない!」
 ジェイドはさらに凄んだが、ユリアはそれを制止する。
「そういうのは後にしましょう。今は公爵派の陰謀の立証を優先させたいの」
「な、何でもする。だから許してくれぇ!」
 すっかり恐怖で追い込まれた教皇は、ユリアに手を合わせてひたすら頭を下げた。

         ◇

 次に捕虜が拘束されている大講堂へと移動する。
 大講堂はすでに解放の喜びで大騒ぎとなっていた。
 ユリアが入り口を入ると、
「ユ、ユリア様だぁ!」「あ、ありがとうございます!」「ユリア様――――!」
 と、歓声が上がり、次々と人が集まってくる。
 予想外の大歓迎を受け、圧倒されるユリア。
 もみくちゃにされながら奥に進むと、向こうの方には負傷兵たちがたくさん横たわっていた。雑に巻かれた包帯は血で滲み、高熱を出してうなされているものも少なくない。
 ユリアは、ギョッとし息をのむと、ギュッと目をつぶった。そして、大きく深呼吸を繰り返して心を落ち着かせ、「範囲上級治癒エリアハイヒール!」と、叫んで緑色の光の渦を大講堂中に展開した。
 緑の光の流れは負傷兵たちの身体をすり抜けながら少しずつ治癒の奇跡を起こし続け、やがて、みんな元の身体を取り戻していく。
「おぉぉぉ!」「うわぁぁぁ!」「す、すごいぞ!」
 大講堂にいた人たちは皆、ユリアの起こす奇跡に圧倒され、あるものは涙を流し、あるものはユリアにひざまずいて手を合わせた。

 すると、下級兵士の服装をした黒髪の少年が駆けてきて、
「ユリア、ありがとう!」
 と叫んでユリアの手を両手で包んだ。
 ユリアは一瞬戸惑った。透き通るような白い肌に凛とした鼻筋……、それはアルシェに見えるが……。
「あれ? アルシェ……よね?」
「あ、ゴメンゴメン」
 そう言うと、少年はかかっていた変装の魔法を解き、輝くような金髪とエンペラーグリーンに輝く瞳を取り戻した。
「アルシェ! 無事だったのね!」
 ユリアは死んだと思っていた恩人の登場に感極まってハグをする。
 死を覚悟していたアルシェも緊張の糸が切れ、涙が止まらなくなった。
 二人はしばらくお互いの体温を感じながら無事を喜びあう。
 周りの観衆たちもそんな二人の涙にもらい泣きをして、鼻をすする音がいくつも響いた。
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