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2-6. 王都陥落
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寝る時間になり、ジェイドはハンモックにユリアを寝かせると毛布を掛けた。
「え? ジェイドはどこで寝るの?」
ユリアが聞く。
「我は龍となってビーチで寝る」
そう言って優しく笑うとジェイドは立ち去ろうとする。
ユリアは急いでシャツの裾をつかんだ。
「ま、待って! さっきみたいに一緒に寝たら……いいんじゃない?」
少し引きつった笑顔を見せるユリア。
「狭いよ?」
ジェイドは首をかしげて答える。
ユリアはうつむいて、
「そ、そうよね……」
そう言って手を離し、ジェイドに背を向けて毛布をかぶった。
ベッドで添い寝してもらう暮らしに慣れてしまったユリアには、一人寝はさみしく感じられてしまう。
ふと気がつくと涙がうっすらと滲んでいる。ユリアはあわてて手でぬぐった。
男女の営みのないプラトニックな二人ではあったが、ユリアにとってジェイドがそれだけ大きな存在になってしまっていたのだ。
すると、毛布がそっと持ち上げられ、ジェイドがハンモックに乗り込んでくる。
「寝付くまで一緒にいてあげる」
ユリアは何も言わず、ギュッとジェイドを抱きしめた。
急いで動いたものだからハンモックは大きく揺れる。
「おっとっと……。急に動くと危ないぞ」
ジェイドは飛行魔法でハンモックの揺れを抑えながら言った。
ユリアは幸せそうにジェイドの胸に顔をうずめる。
ジェイドはそんなユリアの髪をそっとなで、微笑んだ。
◇
翌日も二人は海に潜り、魚と戯れ、南国のリゾートライフを満喫する。
午後に海からビーチへと戻ってきた二人は、レモネードを飲んで静かに海を眺めていた。
すると急にジェイドが険しい表情でブツブツと何かをつぶやきだす。
「……、王都? ……、オザッカ? ……、ありがとう……」
そして眉をひそめ、考え込む。
「ど、どうしたの?」
そのただならぬ雰囲気にユリアは恐る恐る聞いた。
ジェイドは大きく息をつくとユリアをじっと見て切り出す。
「戦争だ。王都が襲撃され、すでに陥落したらしい」
「えぇっ!?」
ユリアは思いもしなかった事態に青ざめた。
「オザッカの軍隊が一気に王都を襲い、王都側はまともな反撃もできずにあっという間に制圧されてしまったそうだ」
「そ、そんなことあり得ないわ! 王都の軍隊の方が圧倒的に強かったはず……」
そこまで言って、ユリアはスタンピードのことを思い出す。
「もしかして、魔物との戦いで弱ってしまって……いた……?」
「それもあるが、あっという間に城門を突破されてしまったらしいので、誰かが手引きしたのだろう」
「誰かって!?」
「公爵派じゃないか?」
「そ、そんな! 公爵だって王国の一員よ。王国を裏切るなんて……」
「王国を乗っ取るために公爵はオザッカと手を組んだ、と考えれば全てつじつまが合う。実際、公爵の軍隊は援軍として出てきていないそうだ」
「な、なんてことを……。私が居たらスタンピードも防げたし……」
と、言ってユリアは、気がついてしまった。
大聖女の追放、スタンピード襲来、オザッカによる制圧、全部最初から計画だったのでは?
青ざめるユリア。
自分が呑気に暮らしている間に進んでいた恐るべき計画。こんな所で遊んでる場合じゃない。
「行かなきゃ!」
ユリアは目に涙をいっぱいため、ジェイドの手をガシッと握った。
「行って……、どうする?」
ジェイドは淡々と言う。
「どうするって、決まってるじゃない! オザッカの兵士たちを王都から追い出すのよ!」
「その後は? もう、王族は残っていないと思うが」
「えっ!?」
ユリアは言葉を失う。
確かに公爵派が仕組んだとすれば王族は皆殺しにされているだろう。と、なると、オザッカの兵士を追い出しても後に入るのは……誰?
「追い出しても次は公爵の軍隊が攻めてくるだろう」
「そ、そんなぁ……」
ユリアはがっくりと肩を落とし……、うなだれた。
「これは権力闘争であり、覇権争いだ。ユリアは近づかない方がいい」
ジェイドは諭すように言う。
ユリアはあまりにもたくさんの想い、考えが渦巻いてぐちゃぐちゃとなり、頭を抱えた。
確かに権力闘争であればユリアは近づくべきではない。でも……、優しくしてくれた侍女や聖女のみんながひどい目に遭っているとしたらそれは助けたい。そしてアルシェ……彼がまだ生きているなら力になりたい。自分が強制収容所送りにならなかったのは彼のおかげなのだから。
ユリアはガバっと身を起こすと、しっかりとした目で言った。
「ジェイド、王都まで送って。この目で見て、できることを考えたいの」
ジェイドは目をつぶって大きく息をつき、しばらく考える。
そして意を決すると、ユリアを見てゆっくりとうなずいた。
「え? ジェイドはどこで寝るの?」
ユリアが聞く。
「我は龍となってビーチで寝る」
そう言って優しく笑うとジェイドは立ち去ろうとする。
ユリアは急いでシャツの裾をつかんだ。
「ま、待って! さっきみたいに一緒に寝たら……いいんじゃない?」
少し引きつった笑顔を見せるユリア。
「狭いよ?」
ジェイドは首をかしげて答える。
ユリアはうつむいて、
「そ、そうよね……」
そう言って手を離し、ジェイドに背を向けて毛布をかぶった。
ベッドで添い寝してもらう暮らしに慣れてしまったユリアには、一人寝はさみしく感じられてしまう。
ふと気がつくと涙がうっすらと滲んでいる。ユリアはあわてて手でぬぐった。
男女の営みのないプラトニックな二人ではあったが、ユリアにとってジェイドがそれだけ大きな存在になってしまっていたのだ。
すると、毛布がそっと持ち上げられ、ジェイドがハンモックに乗り込んでくる。
「寝付くまで一緒にいてあげる」
ユリアは何も言わず、ギュッとジェイドを抱きしめた。
急いで動いたものだからハンモックは大きく揺れる。
「おっとっと……。急に動くと危ないぞ」
ジェイドは飛行魔法でハンモックの揺れを抑えながら言った。
ユリアは幸せそうにジェイドの胸に顔をうずめる。
ジェイドはそんなユリアの髪をそっとなで、微笑んだ。
◇
翌日も二人は海に潜り、魚と戯れ、南国のリゾートライフを満喫する。
午後に海からビーチへと戻ってきた二人は、レモネードを飲んで静かに海を眺めていた。
すると急にジェイドが険しい表情でブツブツと何かをつぶやきだす。
「……、王都? ……、オザッカ? ……、ありがとう……」
そして眉をひそめ、考え込む。
「ど、どうしたの?」
そのただならぬ雰囲気にユリアは恐る恐る聞いた。
ジェイドは大きく息をつくとユリアをじっと見て切り出す。
「戦争だ。王都が襲撃され、すでに陥落したらしい」
「えぇっ!?」
ユリアは思いもしなかった事態に青ざめた。
「オザッカの軍隊が一気に王都を襲い、王都側はまともな反撃もできずにあっという間に制圧されてしまったそうだ」
「そ、そんなことあり得ないわ! 王都の軍隊の方が圧倒的に強かったはず……」
そこまで言って、ユリアはスタンピードのことを思い出す。
「もしかして、魔物との戦いで弱ってしまって……いた……?」
「それもあるが、あっという間に城門を突破されてしまったらしいので、誰かが手引きしたのだろう」
「誰かって!?」
「公爵派じゃないか?」
「そ、そんな! 公爵だって王国の一員よ。王国を裏切るなんて……」
「王国を乗っ取るために公爵はオザッカと手を組んだ、と考えれば全てつじつまが合う。実際、公爵の軍隊は援軍として出てきていないそうだ」
「な、なんてことを……。私が居たらスタンピードも防げたし……」
と、言ってユリアは、気がついてしまった。
大聖女の追放、スタンピード襲来、オザッカによる制圧、全部最初から計画だったのでは?
青ざめるユリア。
自分が呑気に暮らしている間に進んでいた恐るべき計画。こんな所で遊んでる場合じゃない。
「行かなきゃ!」
ユリアは目に涙をいっぱいため、ジェイドの手をガシッと握った。
「行って……、どうする?」
ジェイドは淡々と言う。
「どうするって、決まってるじゃない! オザッカの兵士たちを王都から追い出すのよ!」
「その後は? もう、王族は残っていないと思うが」
「えっ!?」
ユリアは言葉を失う。
確かに公爵派が仕組んだとすれば王族は皆殺しにされているだろう。と、なると、オザッカの兵士を追い出しても後に入るのは……誰?
「追い出しても次は公爵の軍隊が攻めてくるだろう」
「そ、そんなぁ……」
ユリアはがっくりと肩を落とし……、うなだれた。
「これは権力闘争であり、覇権争いだ。ユリアは近づかない方がいい」
ジェイドは諭すように言う。
ユリアはあまりにもたくさんの想い、考えが渦巻いてぐちゃぐちゃとなり、頭を抱えた。
確かに権力闘争であればユリアは近づくべきではない。でも……、優しくしてくれた侍女や聖女のみんながひどい目に遭っているとしたらそれは助けたい。そしてアルシェ……彼がまだ生きているなら力になりたい。自分が強制収容所送りにならなかったのは彼のおかげなのだから。
ユリアはガバっと身を起こすと、しっかりとした目で言った。
「ジェイド、王都まで送って。この目で見て、できることを考えたいの」
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