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2-5. ガラスの五十階建てビル

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 パチ、パチン!
 薪のはぜる音でユリアが目覚めると、満天の星々の中、濃い天の川がまるで光の柱の様に立ち昇っていて思わず目をこすり、息をのんだ。
「うわぁ……、綺麗……」

 脇の方ではジェイドが焚火をたいて、ディナーの準備を進めている。香ばしい肉の焼ける匂いが漂ってくる。

「ごめんなさい、何か手伝うわ……」
 ユリアは急いで駆け寄ると、ジェイドは
「では食器を並べて」
 と言ってニコッと笑った。

        ◇

 ジェイドはお皿に肉を削いで、グラスにリンゴ酒を注ぐ。そして、焚火のほのかな明かりの中で乾杯をした。

「さっきはごめんなさい……」
 ユリアは、腫れぼったい目をしながら謝る。
「魔物で被害が出たならそれは魔物のせいだろ? 責任を感じることなんてない」
 ジェイドは肉を食べながら淡々と返した。
「でも……」
「そんなことより、肉が冷めちゃうよ。早く食べて」
 ジェイドは微笑んで言った。
 ユリアは目をつぶって大きく息をつくと、
「そうよね……。それに、終わったことを悩んじゃダメね」
 そう言ってこんがりと焼けたお肉をほお張る。
「美味しい……」
 ユリアはしばらくジューシーな肉の旨味に癒されていた。

「たくさんあるから、いっぱい食べて」
 ジェイドは肉を削いでユリアの皿に肉を追加する。
「ふふっ、ありがと……」
 ユリアはうれしそうに笑った。
 ジェイドはそんなユリアを見て微笑む。

       ◇

 たらふく食べた後、紅茶を飲みながらユリアは聞いた。
「ジェイドさぁ……、魔法は作られたモノって言ってたよね?」
「そうだね」
「でも……、魔法って自分と深い所ですごいなじんでて、後付けされたように思えないんだけど……」
 首をかしげるユリア。
「んー、人間もまた神様たちに作られたものだからね」
「う? 神様……?」
 ユリアは驚いた顔でジェイドを見つめる。
「この星も一万年くらい前に作られて、その時に人間も生まれたんだ」
「ちょ、ちょっと待って!? 一万年!?」
「正確には一万二千年前くらいかな?」
「いやいや、地層とか化石とか、何千万年前の物だってあるわよ?」
「それは神様が埋めたんだよ」
 ジェイドは笑いながら答える。
「埋めた!?」
「神様にしてみたら、その辺をシミュレートしてそれっぽく仕上げるのはお手の物だからね」
 ユリアは絶句した。この世界は神様に作られ、自分の先祖もその時にできたものらしい。
「何か変かな?」
 ショックを受けているユリアを見てジェイドが聞いた。
「え? いや……、神様はなんでそんなことを?」
「さぁ……、神様のすることなんて龍には分からない」
 ジェイドは肩をすくめる。
「会ったこと……あるの?」
「前世で一回、視察に来られた女神様に会った。気さくな方だったよ」
「気さくな女神……。会って何したの?」
「この星の状況を聞かれたので答えたのと……、女神様の住む街、東京に連れてってもらった」
「東京? 神様の街?」
「住んでるのは人間だね。その中に紛れて神様たちの拠点があるんだ。とんでもない街だったよ。ガラス張りの五十階建てのビルとかが建っていて、それがたくさん並んでるんだ」
 ジェイドは両手を広げ、少し興奮気味に言う。
「ガラス張りで五十階!? すごい魔法ね……」
「それが、魔法のない街なんだ」
「へ……? 魔法も無くてどうやって?」
「わからない。東京には一千万人の人が住んでいて、空には何百人乗りの乗り物が飛んで、時速三百キロで走る乗り物が街を繋いでいるんだ」
 ユリアは絶句する。魔法もなしで一体そんなことどうやって実現するのか、皆目見当もつかなかった。
「次に機会があったら連れてってもらうといい」
 微笑むジェイド。
「そ、そうね……」
 この星と自分たちを作った神様が、五十階建てのガラスのビルの街で人々に紛れて暮らしている。ユリアはその信じがたい不思議な話をどう捉えたらいいか途方に暮れ、パチパチとはぜる焚火の炎をボーっと眺めていた。
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