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50. ゲームチェンジャー

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「きゃははは!」

 シアンは楽しそうに笑うと玲司と一緒に上空へワープをしてかわし、玲司をすごい速さで上空へ放り投げた。

 うはぁ!

 暮れなずむ柔らかな光の中でどんどんと小さくなっていく地上の風景を見下ろしながら、一体何をするつもりなのかハラハラしていると、閃光があたりを包んだ。

 それは三尺玉の打ち上げ花火のような巨大な瑠璃るり色の光の炸裂だった。直後、あちこち、あらゆるところで瑠璃るり色の花が咲き、辺りは激しい閃光で埋め尽くされた。

 うわぁ……。

 ワープで逃げてもどこかでは当ててやろうというシアンのとんでもない物量作戦だった。

 その光のイリュージョンをぼーっと見ているとミゥが飛んできた。

「ちょっとなんなのだあれは?」

 呆れた口ぶりである。

「お疲れ様。あれ撃つの難しいの?」

「難しいというか、あの光の粒一つ一つがハッキングツールで、全部に特権レベルアクセス用のトークンIDが要るのだ」

「トークンID?」

管理局セントラルに申請して発行してもらうのだ」

「え? じゃああの光の粒全部が発行申請済み?」

管理局セントラルもバカじゃないから機械的な大量な申請は受け付けないのだ。どうやってあんな量通したのかなぁ?」

 ミゥが首をかしげていると、

 ぐぉぉぉ!

 うめき声が響き、下の方で瑠璃るり色に輝く男が見えた。

「ゾルタンに当たったのだ!」

 ミゥは【影切康光】を青く光らせ臨戦態勢に入る。

 シアンはここぞとばかりにありったけの弾をゾルタンに向けて射出した。

 直後、激しい閃光がゾルタンの辺りを覆う。

「やったか!?」

 玲司は手で顔を覆いつつ、薄目で様子を見ながら叫ぶ。

「それ、言っちゃダメな奴なのだ」

 ミゥはジト目で玲司を見る。

 果たして光が落ち着いていく中で見えてきたのはモスグリーンのまゆのようなシールドだった。

 中にはゾルタンらしき男が倒れていて、百目鬼が治療を施している。

「な、なんで無事なのだ!?」

 ツールによる攻撃はシールドでは守れない。しかし、シアンのあれほどまでの無慈悲な集中砲火を浴びて無事な理由が分からず、ミゥは固まった。

 するとシアンは今度は両手を高く掲げ、手の間にバリバリとスパークを走らせた。

 そして球状にしたスパークの弾をゾルタンたちに向けて放り投げた。

 スパークは光の微粒子を振りまきながらモスグリーンのシールドで炸裂し、ゴリッという音をたてながら漆黒の球を展開する。空間そのものを切り離したのだ。これでゾルタンたちは管理区域に転送され、もはや何もできなくなる。

 これに対抗できるすべは存在しない。しかし、ミゥは胸騒ぎが止まらなかった。

「やったか!?」

 無邪気に禁句を連発する玲司にムッとしたミゥは、発泡スチロールの棒を取り出し、スパーン! といい音をたてながら叩いた。

「それは止めてって言ってるのだ!」

「ご、ごめん。でも、空間切り取ったら勝ちだって言ってたじゃん?」

「普通はそうなんだけど、あいつらちょっとおかしいのだ」

 ミゥは眉間にしわを寄せた。

 すると、シアンがツーっと飛んでくる。

「ミゥ~、あいつら変だゾ」

「シアンちゃん、お疲れなのだ」

 ミゥはそう言ってシアンをハグで迎え入れ、健闘をたたえた。

 シアンが言うにはモスグリーンのシールドが特殊で特権レベルのツールを無効化してるとのことだった。となると、空間の切り取りも効いていない可能性がある。

 ほどなくして闇は晴れたが、懸念通り、モスグリーンのシールドは健在だった。

 一行は言葉を失う。あのシールドがある限り彼らは無傷。自分たちはやられ放題、まさに一方的な殺りくになってしまう。いまだかつてない事態にミゥは渋い表情でキュッと唇をかんだ。

 やがて、ゾルタンの治療が終わったらしく、二人は立ち上がって不敵な笑みをたたえたまま一行に近づいてきた。

「見たかね! この新型シールドを」

 得意げにゾルタンが叫ぶ。ゾルタンは不気味に手足の長いヒョロっとした長身の男で、日焼けして黒いカッターシャツを着ている。

 ミゥは玲司と顔を見合わせ、なんと返すべきか言葉を探すが、圧倒的なゲームチェンジャーの登場に言うべき言葉が見つからなかった。
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