就活か魔王か!? 殺虫剤無双で愛と世界の謎を解け! ~鏡の向こうのダンジョンでドジっ子と一緒に無双してたら世界の深淵へ~

月城 友麻

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1章 鏡の中の異世界

2-6. ドジっ子前途多難

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 ダンジョンの入り口は昨日と同じようににぎわっていた。
 地図を広げ、エステルと相談をしていると、若い男に声をかけられた。
「おい! エステル!」
 腰に剣を差した皮よろいの男、歳は高校生くらいだろうか? 装備はまだピカピカで駆け出しの冒険者らしい。

「あっ! この前はごめんなさいでした……」
 頭を下げて謝るエステル。どうやら以前のエステルのパーティ仲間のようだ。

「お前が勝手にワナに落ちて、俺たち帰らなきゃならなくなったんだぞ!」
 若い男は語気強くなじる。
「ごめんなさい……」
「このポンコツの出来損ないめ! 二度とお前とは組まないからな!」
 エステルは小さくなり、今にも泣きそうである。
「そのくらいにしてやってくれ。彼女に悪意があったわけではないし」
 俺は彼女と男の間に入って言った。
「なんだ? オッサン?」
 男は俺をにらんで言う。

「エステルは俺とのパーティではよくやってくれている。侮辱するのは止めてもらいたい」
 俺は淡々と言った。
「ポンコツにポンコツって言って何が悪いんだよ!」
 エステルは俺の腕にしがみつき、震えている。
 就活の面接で何度も否定され、何十通もお祈りメールをもらってきた俺には自分を否定される言葉の痛さは良く分かる。
「足りないところはあるかもしれない。でも、悪意が無い者を責めるのは筋が違うと思うよ」
 俺は男の目をジッとにらんで言った。
「なんだ? このオッサン。ショボい装備でイッチョ前に!」
 男は俺の身なりを一瞥すると、あざけるように言った。男の仲間もゲラゲラと笑う。

「冒険者は倒した魔物の成果で語るものだ。見た目で判断しない方がいい」
「偉そうにしやがって!」
 男は俺をドンと押し、その拍子に銅の認識票が胸元でチラリと顔を出す。
 それを見た仲間の黒いローブを着た女の子は焦った。
「ちょっと! ダメよ!」
 そう言って若い男を引っ張り、
「この人Cランクよ!」
 小声で男に告げる。魔導士だろうか?
「し、Cランク!?」
 男は目を白黒とさせた。
 彼女は、頭を下げ、
「ご迷惑おかけしました!」
 と言うと、みんなを連れてそそくさと立ち去って行く。
 認識票は最初から見えるところに出しておくべきだった。

 エステルがしょげて、
「ごめんなさい……」
 と、頭を下げてくるが、どう考えてもあいつらの方が問題だ。
「気にしなくていいよ」
 俺はそう言って、エステルの頭をポンポンと叩いた。

       ◇

 俺たちはダンジョンへと入っていった。まずは地下一階。
 エステルはいい所を見せようと張り切っている。

「ここは何度も来ていますからね! 任せてください!」
 そう言って、胸を張る。
「こっちから行くと階段に近いですよ!」
 エステルは俺の手を引いて細い洞窟へと入っていく。
「え!? こんなところ大丈夫なの?」
「ここは地図にも載っていない裏ルートなんです」
 そう言ってズンズンと進むが……

 カチッ!

 どこかで聞いた音がして床がパカッと開いた。
「ひぇぇ!」「うわぁ!」

 いきなり落とし穴にはまり、落っこちていく二人。ホーリークッションを使って落ちる速度は落としたが、早くも計画が狂ってしまった。

「ご、ごめんなさい……」
 ゆっくりと下降しながら、しょげるエステル。
「うん……、まぁ、気を付けよう」
 俺は額に手を当て、前途多難だと気が重くなる。
 あの若い男が怒っていた気持ちも少し分かった気がした。

 さて、どこに着くのだろうか……。
 俺は殺虫剤を軽くプシュっと吹いて臨戦態勢をとる。

       ◇

 落ちた先は広間で、ゴブリンが三匹いた。俺たちを見つけると、
「グルグルグル!」「グギャ――――!」
 と、叫びながら襲いかかってくる。

 俺は落ち着いてプシューっと殺虫剤を噴霧し、瞬殺した。
 このくらいだともう機械作業的に処理できるようになっている。

「さて、ここはどこかなぁ?」
 俺は洞窟の繋がり方などを確かめて、地図の中を探していく。
「きっと十八階辺りじゃないかと……」
「十八階ね……」
 地図をずっと追っていくと、確かに似たような広間を見つけた。
「階段はこっちの方だ。行ってみよう」
 俺はそう言って歩き始める。
「はい……」
 エステルは少し申し訳なさそうに答える。
「そんな落ち込まないで。落ちたおかげで随分ショートカットにはなったじゃないか」
「そ、そうですよね!」
「でも、洞窟内ではむやみに駆けないこと。分かったね?」
「は、はい……」

 ダンジョンでは些細なドジが命を奪うのだ。俺はくぎを刺しておいた。
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