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61. サンチュは舞った
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「えー、そろそろよろしいでしょうか? 皆さんグラスをお持ちください」
すっかり復元した東京の恵比寿にある焼き肉屋を借り切って、一同を集めたパーティが開かれる。男子高校生の蒼は乾杯の挨拶を任されてウーロン茶のグラスを掲げた。
「えー、この度はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます」
「ホントよぉ。あなたに殺された人たち復元するの大変だったんだから」
女神ヴィーナは口をとがらせながらビールのジョッキを掲げる。
「まぁまぁヴィーナ様、今日は楽しく飲みましょうって」
大天使シアンは嬉しそうに女神の肩をポンポンと叩くと、我慢できずにビールを一口呷って一人だけ幸せそうな顔をする。
「はいはい、早く乾杯!」
オディールは自分勝手な人たちにため息を漏らすと、蒼の背中をパンと叩いた。
「あー、では。無事、解決したことを祝いまして……、カンパーイ!」
イェーイ! お疲れ! ヤフー!
みんな思い思いにジョッキをぶつけ合い、ムーシュも楽しそうに蒼のグラスにジョッキをぶつける。
みんなの楽しそうな様子を見て、蒼は自分の選択が正しかったことを改めて感じ、目頭が熱くなった。数百億人が生きていた状態からのシステムの再起動、それは気が遠くなるような大変な作業だったが、何とか無事に復旧できたのだった。
◇
「ハイ! こちらが当店自慢のトモサンカクになります」
店員が入ってきて大皿に山盛りの希少部位、トモサンカクを並べていく。
「ウヒョー! さぁ食べるゾーー!」
シアンは大皿をひっくり返し、一気にロースターにトモサンカクをぶち込んだ。
「あんたねー! そんなんじゃちゃんと焼けないでしょ!」
怒る女神をしり目にシアンはまだ冷たいトモサンカクにかぶりつく。
「ウホー! うまーっ!」
「あー! シアン様ズルーい!」
レヴィアもロースターから生の肉をガサッと取るとそのまま丸呑みした。
「うほぉ、これは極上じゃな」
「あんたたち、肉は焼いて食べなさいよ!」
女神の怒りが爆発する。
そんなやり取りを横目に、蒼は自分たちのテーブルのロースターにトモサンカクを並べていった。
「こんな風にしてお肉を食べるの初めてですよぉ」
ムーシュはニコニコしながら肉を裏返していく。
「今回は、いろいろ世話になったね」
「何を言ってるんですか。ムーシュは主様の一番奴隷ですから」
ムーシュは嬉しそうに微笑み、パチッとウインクをした。
「あー、僕が本当はこんな姿だって知って幻滅……しない?」
「あら、そんなことないですよ? むしろ今の方が……、あのプニプニほっぺたは名残惜しいですケド」
ムーシュはほほをポッと赤くする。
「良かった……。はいどうぞ」
蒼はトモサンカクをムーシュの皿にのせる。
「どれどれ……。おほっ! おいしーい」
ムーシュは目を輝かせながら脂のうまみが爆発するトモサンカクに感動する。
「ふふっ。日本の牛肉は美味しいんだよ」
蒼はそう言いながら自分でもトモサンカクを頬張り、しばしその肉汁に心を奪われていた。
◇
宴もたけなわに盛り上がってきた頃――――。
「そもそもあんたが、不正動作を狙う呪いをかけたのが問題じゃない!」
ジョッキを何杯空けたのか数えられなくなってきたころ、女神の怒りが爆発する。
「いやいや、任せるって言いましたよね? ご自分の発言には責任持っていただかないと?」
真っ赤になったシアンも座った目でにらみ返す。
「いやいや、世の中やっていい事と悪いことがあるでしょ!」
「やっちゃいけないことはちゃんと明文化してもらわないと守れませんね」
シアンはそう答えながらジョッキをグッと空けた。
「私は常識の話をしてんの!」
女神も負けじとグッとジョッキを飲み干す。
「常識に縛られたらイノベーションは起こせませんってぇ」
「イノベーション? 殺されるのがイノベーションなの? はっはっは! あー、可笑しい」
「まさか全知全能のはずの女神様まで殺されるなんて、思いもしませんでしたからね」
シアンはそう言うと新たなジョッキをグッとあおった。
「……。何アンタ……。ケンカ売ってんの?」
女神も新たなジョッキをグッとあおり、ガン! とテーブルに叩きつけた。
「さぁ? 売られたら買いますよ?」
シアンは碧い目をギラっと輝かせると女神をにらむ。
「やんのかコラァ!」
女神はフラフラしながらバン! とテーブルを叩き、全身から黄金色のオーラを放った。
「いいですよ? やりますか?」
シアンも碧眼をギラリと光らせ、負けじと青いオーラをぶわっと全身から放つ。
二人の発するオーラが闘気となってぶつかり合い、衝撃波が辺りを襲う。
皿は飛び、ジョッキはなぎ倒され、サンチュは舞った。
「まぁまぁ。お二方とも、ここはお祝いの席ですから……」
あわててオディールが間に入る。
「あんたは黙ってな!」「あんたは黙ってな!」
ハモった二人から衝撃波が放たれ、オディールは吹き飛ばされた。
二人は恐ろしい形相でにらみ合っている。
「あわわわわ、世界が終わっちゃう……」
ムーシュは真っ青になってガタガタ震えた。創造神と宇宙最強が争えば次の瞬間地球が吹っ飛んでいてもおかしくない。せっかく復旧した世界は再度深刻な危機に直面していた。
すっかり復元した東京の恵比寿にある焼き肉屋を借り切って、一同を集めたパーティが開かれる。男子高校生の蒼は乾杯の挨拶を任されてウーロン茶のグラスを掲げた。
「えー、この度はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます」
「ホントよぉ。あなたに殺された人たち復元するの大変だったんだから」
女神ヴィーナは口をとがらせながらビールのジョッキを掲げる。
「まぁまぁヴィーナ様、今日は楽しく飲みましょうって」
大天使シアンは嬉しそうに女神の肩をポンポンと叩くと、我慢できずにビールを一口呷って一人だけ幸せそうな顔をする。
「はいはい、早く乾杯!」
オディールは自分勝手な人たちにため息を漏らすと、蒼の背中をパンと叩いた。
「あー、では。無事、解決したことを祝いまして……、カンパーイ!」
イェーイ! お疲れ! ヤフー!
みんな思い思いにジョッキをぶつけ合い、ムーシュも楽しそうに蒼のグラスにジョッキをぶつける。
みんなの楽しそうな様子を見て、蒼は自分の選択が正しかったことを改めて感じ、目頭が熱くなった。数百億人が生きていた状態からのシステムの再起動、それは気が遠くなるような大変な作業だったが、何とか無事に復旧できたのだった。
◇
「ハイ! こちらが当店自慢のトモサンカクになります」
店員が入ってきて大皿に山盛りの希少部位、トモサンカクを並べていく。
「ウヒョー! さぁ食べるゾーー!」
シアンは大皿をひっくり返し、一気にロースターにトモサンカクをぶち込んだ。
「あんたねー! そんなんじゃちゃんと焼けないでしょ!」
怒る女神をしり目にシアンはまだ冷たいトモサンカクにかぶりつく。
「ウホー! うまーっ!」
「あー! シアン様ズルーい!」
レヴィアもロースターから生の肉をガサッと取るとそのまま丸呑みした。
「うほぉ、これは極上じゃな」
「あんたたち、肉は焼いて食べなさいよ!」
女神の怒りが爆発する。
そんなやり取りを横目に、蒼は自分たちのテーブルのロースターにトモサンカクを並べていった。
「こんな風にしてお肉を食べるの初めてですよぉ」
ムーシュはニコニコしながら肉を裏返していく。
「今回は、いろいろ世話になったね」
「何を言ってるんですか。ムーシュは主様の一番奴隷ですから」
ムーシュは嬉しそうに微笑み、パチッとウインクをした。
「あー、僕が本当はこんな姿だって知って幻滅……しない?」
「あら、そんなことないですよ? むしろ今の方が……、あのプニプニほっぺたは名残惜しいですケド」
ムーシュはほほをポッと赤くする。
「良かった……。はいどうぞ」
蒼はトモサンカクをムーシュの皿にのせる。
「どれどれ……。おほっ! おいしーい」
ムーシュは目を輝かせながら脂のうまみが爆発するトモサンカクに感動する。
「ふふっ。日本の牛肉は美味しいんだよ」
蒼はそう言いながら自分でもトモサンカクを頬張り、しばしその肉汁に心を奪われていた。
◇
宴もたけなわに盛り上がってきた頃――――。
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「いやいや、任せるって言いましたよね? ご自分の発言には責任持っていただかないと?」
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「いやいや、世の中やっていい事と悪いことがあるでしょ!」
「やっちゃいけないことはちゃんと明文化してもらわないと守れませんね」
シアンはそう答えながらジョッキをグッと空けた。
「私は常識の話をしてんの!」
女神も負けじとグッとジョッキを飲み干す。
「常識に縛られたらイノベーションは起こせませんってぇ」
「イノベーション? 殺されるのがイノベーションなの? はっはっは! あー、可笑しい」
「まさか全知全能のはずの女神様まで殺されるなんて、思いもしませんでしたからね」
シアンはそう言うと新たなジョッキをグッとあおった。
「……。何アンタ……。ケンカ売ってんの?」
女神も新たなジョッキをグッとあおり、ガン! とテーブルに叩きつけた。
「さぁ? 売られたら買いますよ?」
シアンは碧い目をギラっと輝かせると女神をにらむ。
「やんのかコラァ!」
女神はフラフラしながらバン! とテーブルを叩き、全身から黄金色のオーラを放った。
「いいですよ? やりますか?」
シアンも碧眼をギラリと光らせ、負けじと青いオーラをぶわっと全身から放つ。
二人の発するオーラが闘気となってぶつかり合い、衝撃波が辺りを襲う。
皿は飛び、ジョッキはなぎ倒され、サンチュは舞った。
「まぁまぁ。お二方とも、ここはお祝いの席ですから……」
あわててオディールが間に入る。
「あんたは黙ってな!」「あんたは黙ってな!」
ハモった二人から衝撃波が放たれ、オディールは吹き飛ばされた。
二人は恐ろしい形相でにらみ合っている。
「あわわわわ、世界が終わっちゃう……」
ムーシュは真っ青になってガタガタ震えた。創造神と宇宙最強が争えば次の瞬間地球が吹っ飛んでいてもおかしくない。せっかく復旧した世界は再度深刻な危機に直面していた。
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