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59. 小魚の姿
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へ?
レヴィアが唖然としているのをしり目にオディールは熱く語っている。
「それでさぁ、蒼の奴にガツンと言ってやって欲しいんだよね」
「わかりました。ムーシュは頑張りますよぉ!」
半透明のムーシュは死んでても元気にガッツポーズを見せる。
なんと、ムーシュはすでに見つかっていたのだった。
「な、な、な、なんじゃとぉ!」
あまりのことに声が裏返るレヴィア。
「あぁ、レヴィアお疲れ! ムーシュが説得してくれるってよ」
オディールはにこやかに手を上げる。
「ちょっと待てい! ムーシュが見つかったらちゃんと教えろよ!」
「えー、言ったよねぇ?」
「言ってましたよぉ」
レヴィアはあまりの理不尽さにブルブルと震えた。
声をからして叫んでいたので気がつかなかったということらしい。
「じゃあ、アンノウンまでひとっ飛びよろしく!」
オディールはにこやかにパンパンと鱗を叩いた。
「そうやって叩けばよかったじゃろ!」
レヴィアはプリプリと怒るとこれ見よがしに翼をバサバサと激しく打ちながら、一気に積乱雲の薄い皮を突き破って夕暮れの空へと飛び出した。
◇
川べりまでやってくると、影の幼児が薄暗がりの中で遊んでいるのが見えた。
「よし! ムーシュ! 行け! バッチリ決めてこい!」
オディールはビシッと影を指さし、ムーシュはニコッと楽しそうに笑うとフワフワと影へとむけて降りていった。
死んだ魂状態のムーシュは形こそ生前そのままのピンク髪の翼を持った姿だったが、向こうが透けて見え、光をぼぅっと纏っている。それはこの世とあの世の境界に浮かぶ灯火のようにも感じられた。
無防備にも微笑を浮かべながら降りてくるムーシュに、影は混乱した。愛情豊かに暖かく迎え入れてくれるような態度を向けられたことなどなかったのだ。
「主様、ムーシュが来ましたよぉ」
ムーシュはすうっと降り立つと、にっこりと笑いながら影に向かって温もりを込めた両手をそっと伸ばした。
ぐっ、ぐっ……。
影は何か言おうとしているようだが、言葉にならないようだった。
影のしぐさを見て、ムーシュは確信する。闇に包まれてはいるが、そこには疑う余地なく蒼の輝きがある。サイノンの冷酷な手によって命を落としたあの時以来の再会に、ムーシュの胸は熱くなり、抑えきれぬ涙が湧き上がってきた。
「なんかひどい目に遭いましたねぇ。でも、ムーシュに任せてくれれば全て解決ですよ? さぁ、一緒に帰りましょう。ね?」
ムーシュは涙をぬぐいながら小首をかしげた。
影は、身体の奥底から燃えるように湧き上がる未知の感情に翻弄され、混沌の渦中に放り込まれる。
「さぁ、いつものように胸においで……」
ムーシュはそう言いながら影の手を取ろうとした。
その刹那、影が突如として身をよじらせ、震えながら飛びのき、苦しそうに頭を抱えてうずくまった。
「主様、怖くないですよ。ムーシュは主様の忠実な奴隷ですからね?」
ムーシュは優しく声をかけながら一歩影に迫る。
その時だった。ムーシュをにらんだ影の目が青くギラッと光り、叫んだ。
「Death!」
えっ……?
ムーシュは紫色の光に包まれ、その場に崩れ落ちる。
その様子を見た瞬間、影の中に雷が落ちたような激震が走った。
「うっ……。うっ……」
頭蓋を砕くような苛烈な痛みが襲い掛かり、影は地に崩れ落ちる。
ぐぁぁぁぁ!
影の空気を引き裂くような絶叫があたりに響き渡った。
重大な過ちを犯し、大切な存在を殺してしまった。その強烈な罪悪感が影の中で爆発してアンノウンを管理するシステムが膨大なエラーを吐いて異常動作を起こす。
あおむけに倒れ、泡を吹く影――――。
倒れていたムーシュはむくっと立ち上がり、慌ててそんな影を抱き起こすと、キュッと抱きしめる。
「主様、ムーシュはもう死んでるからこれ以上は殺せないのですよ? さぁいつもの主様に戻るのです……」
ぐ、ぐぉっ……。
次の瞬間、急に影が縮み始めた。それはサイノンが幼児の蒼を受精卵まで縮めた逆をいくような急速な退行だった。
赤ちゃんサイズになり、ネズミサイズになり、オタマジャクシのようになり、最後には点になって川べりの石の上でキラリと光を放つ影――――。
直後、今度は影ではなく、普通の生き物として逆に大きくなり始める。
シラスのような小魚の姿になったかと思うと、やがて胎児として腕が生え、足が生え、そこから一気に生命の梯子を駆け上がり、赤ちゃんになり、幼児になり、最後には一人前の青年へと成長を遂げたのだった。
レヴィアが唖然としているのをしり目にオディールは熱く語っている。
「それでさぁ、蒼の奴にガツンと言ってやって欲しいんだよね」
「わかりました。ムーシュは頑張りますよぉ!」
半透明のムーシュは死んでても元気にガッツポーズを見せる。
なんと、ムーシュはすでに見つかっていたのだった。
「な、な、な、なんじゃとぉ!」
あまりのことに声が裏返るレヴィア。
「あぁ、レヴィアお疲れ! ムーシュが説得してくれるってよ」
オディールはにこやかに手を上げる。
「ちょっと待てい! ムーシュが見つかったらちゃんと教えろよ!」
「えー、言ったよねぇ?」
「言ってましたよぉ」
レヴィアはあまりの理不尽さにブルブルと震えた。
声をからして叫んでいたので気がつかなかったということらしい。
「じゃあ、アンノウンまでひとっ飛びよろしく!」
オディールはにこやかにパンパンと鱗を叩いた。
「そうやって叩けばよかったじゃろ!」
レヴィアはプリプリと怒るとこれ見よがしに翼をバサバサと激しく打ちながら、一気に積乱雲の薄い皮を突き破って夕暮れの空へと飛び出した。
◇
川べりまでやってくると、影の幼児が薄暗がりの中で遊んでいるのが見えた。
「よし! ムーシュ! 行け! バッチリ決めてこい!」
オディールはビシッと影を指さし、ムーシュはニコッと楽しそうに笑うとフワフワと影へとむけて降りていった。
死んだ魂状態のムーシュは形こそ生前そのままのピンク髪の翼を持った姿だったが、向こうが透けて見え、光をぼぅっと纏っている。それはこの世とあの世の境界に浮かぶ灯火のようにも感じられた。
無防備にも微笑を浮かべながら降りてくるムーシュに、影は混乱した。愛情豊かに暖かく迎え入れてくれるような態度を向けられたことなどなかったのだ。
「主様、ムーシュが来ましたよぉ」
ムーシュはすうっと降り立つと、にっこりと笑いながら影に向かって温もりを込めた両手をそっと伸ばした。
ぐっ、ぐっ……。
影は何か言おうとしているようだが、言葉にならないようだった。
影のしぐさを見て、ムーシュは確信する。闇に包まれてはいるが、そこには疑う余地なく蒼の輝きがある。サイノンの冷酷な手によって命を落としたあの時以来の再会に、ムーシュの胸は熱くなり、抑えきれぬ涙が湧き上がってきた。
「なんかひどい目に遭いましたねぇ。でも、ムーシュに任せてくれれば全て解決ですよ? さぁ、一緒に帰りましょう。ね?」
ムーシュは涙をぬぐいながら小首をかしげた。
影は、身体の奥底から燃えるように湧き上がる未知の感情に翻弄され、混沌の渦中に放り込まれる。
「さぁ、いつものように胸においで……」
ムーシュはそう言いながら影の手を取ろうとした。
その刹那、影が突如として身をよじらせ、震えながら飛びのき、苦しそうに頭を抱えてうずくまった。
「主様、怖くないですよ。ムーシュは主様の忠実な奴隷ですからね?」
ムーシュは優しく声をかけながら一歩影に迫る。
その時だった。ムーシュをにらんだ影の目が青くギラッと光り、叫んだ。
「Death!」
えっ……?
ムーシュは紫色の光に包まれ、その場に崩れ落ちる。
その様子を見た瞬間、影の中に雷が落ちたような激震が走った。
「うっ……。うっ……」
頭蓋を砕くような苛烈な痛みが襲い掛かり、影は地に崩れ落ちる。
ぐぁぁぁぁ!
影の空気を引き裂くような絶叫があたりに響き渡った。
重大な過ちを犯し、大切な存在を殺してしまった。その強烈な罪悪感が影の中で爆発してアンノウンを管理するシステムが膨大なエラーを吐いて異常動作を起こす。
あおむけに倒れ、泡を吹く影――――。
倒れていたムーシュはむくっと立ち上がり、慌ててそんな影を抱き起こすと、キュッと抱きしめる。
「主様、ムーシュはもう死んでるからこれ以上は殺せないのですよ? さぁいつもの主様に戻るのです……」
ぐ、ぐぉっ……。
次の瞬間、急に影が縮み始めた。それはサイノンが幼児の蒼を受精卵まで縮めた逆をいくような急速な退行だった。
赤ちゃんサイズになり、ネズミサイズになり、オタマジャクシのようになり、最後には点になって川べりの石の上でキラリと光を放つ影――――。
直後、今度は影ではなく、普通の生き物として逆に大きくなり始める。
シラスのような小魚の姿になったかと思うと、やがて胎児として腕が生え、足が生え、そこから一気に生命の梯子を駆け上がり、赤ちゃんになり、幼児になり、最後には一人前の青年へと成長を遂げたのだった。
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