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56. 狩場のチャペル
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おぉぉぉ……。うわぁ……。
観る者すべてが、ヴェルゼウスの息を呑むほどの空間操作術に圧倒される。現実を歪めて閉じ込め、全てを粉々に粉砕していくその圧倒的な力の前に、皆畏敬の念を禁じえなかった。
どんどんねじれる速度は上がり、やがて竜巻のようにして周りを巻き込みながら空高く輝く白い柱となって、天を穿つかのように堂々とそびえ立つ。
「はっはっはー! これで一丁上がり。どうだ? 俺とヴィーナ、どっちが優秀か分かったか? ん?」
ヴェルゼウスは勝ち誇った微笑みでオディールを見下ろしたが、彼女はただ黙って、じっとヴェルゼウスを見つめ返すだけだった。
その時、古びたチャペルの石壁が微かに震え、不気味な暗いシルエットが躍るように滑り込んできた。その黒い影は楽しそうにピョコピョコと飛び跳ねながら一行に近づいてくる。
え? へっ!? な、何だ……?
驚きのあまり、誰もが凍りついているその時、影は参列席の足元をすり抜けヴェルゼウスの前にまで進んだ。
「逃げて!」
顔面蒼白のオディールは震える声で叫びながら駆け出す。もはやチャペルはアンノウンの狩場になってしまったのだ。オディールは動揺するレヴィアの手をぐいと引いて、チャペルの裏手へと急いで身を潜めた。
「お、お前……。なぜこんなところに……」
完璧な攻撃を潜り抜けたという信じがたい光景に、ヴェルゼウスは身動き一つできずに影を見つめた。
影は楽しそうにニコッと笑うと口を開いた。
「Death」
刹那、ヴェルゼウスは紫色の輝きに呑み込まれ、椅子から崩れ落ちていく。
う、うわぁぁぁ! ヴェルゼウス様ぁぁぁ! ひぃぃぃぃ!
みんなその恐怖の光景に恐れ慄き、一斉に散り散りに逃げ惑った。しかし逃れることなど叶わず、無情にも彼らもまた紫の輝きに抱かれ、静かに崩れ落ちていった――――。
◇
「オ、オディール、どうなったんじゃ? 物音一つしないじゃないかぁ」
チャペルの裏手でレヴィアは絶望に声を枯らし、オディールにすがった。しかし、オディールは冷たい碧眼でレヴィアを見据えると、唇に指を当て、首を静かに横に振る。
周囲の静けさが全てを物語っていた。ヴェルゼウスも仲間もすべてアンノウンの手によって命を奪われたのだろう。
ヴィーナの世界の崩壊を癒すため、苦難を超えてやってきたのに、ここもまた、アンノウンの破滅的な【即死】によって穢され、壊れてしまった。
砕けた希望の下で、二人は互いの体温を分かち合い、ドクンドクンという高鳴る心音を感じながらアンノウンに見つからないように息を潜める。
◇
太陽が地平線に沈んでいくと、空は魔法をかけられたかのように茜色から深い群青へとゆっくりと染め上げられていく。夜の帳が静かに地上へと降りてきた。
オディールは、ドアの隙間からこっそりと室内をうかがう。もしアンノウンに見つかれば即死である。息をのむギリギリの緊張感の中、オディールは慎重に目を慣らす。そして、闇の中に隠された影がないかと、彼女の瞳は薄暗がりを縫うように動いた。
「ま、まだおるか?」
レヴィアは震える手でオディールの腕をギュッと握り、こらえきれずに聞く。
「んー、もう居ないみたい……だね」
「ふぅ……。良かったぁ……」
レヴィアは大きく息をついてほっと胸をなでおろす。
ドアを開けて中に戻ると、そこに広がる光景はまさに地獄の一幕だった。暗がりの中で、たくさんの無念の表情を凍りつかせた身体が、生前の光を一切失った瞳で虚空を凝視している。
あわわわわ……。ひぃっ!
二人は立ちすくんでしまう。
頭では理解していたものの、実際に知り合いが無残な死体となって折り重なっているのを見た瞬間、それは骨の髄まで沁みる恐怖となった。
「マズい、マズいぞ……。どうすればいいんじゃ……」
レヴィアは絶望の重みに耐えかね、頭を抱えながら崩れ落ちる。
亡骸の間を歩き、オディールは死者たちに黙祷を捧げ、彼らの目をやさしく閉じてゆく。
ヴェルゼウスが横たわっているところまで行くと、オディールはその象徴的な杖へと手を伸ばした。杖の上部には螺旋状の装飾が巧みに施されており、その中心に宿るサファイアは、薄暗がりの中キラキラと煌びやかな輝きを放っている。
オディールは杖を拾い上げるとブンブンと振りまわし、何かを思いついたようにニヤッと笑った。
「お主、そんなもんどうするんじゃ?」
レヴィアが不思議そうに聞くと、オディールはウインクをして外へと飛び出していった。
外には夕焼けがまだその上部を赤く照らしている壮大な積乱雲が渦を巻いている。
オディールはそこへ向かって杖を振り回した。
「おーい! おーい!」
すると、宝石の封印が解けるがの如く、サファイヤが閃光を放ちながらシュオォォォという神秘の旋律を奏で始める。
やがて、大空を支配する積乱雲はその輝きに応えるかのように光の筋をオディールの方に放つ。それは天界への招待状とも言うべき、荘厳なる光のはしごだった。
「お、お主、まさか……」
レヴィアが驚愕し、目を丸くすると、オディールはいたずらっ子の笑みを浮かべる。
「なんか入れてくれるみたいだよ? 僕らでアンノウンを何とかしよう!」
「いやいや……。えーーっ!?」
勝手に上位神の居城に乗り込もうとするオディールの大胆不敵さに、レヴィアはあっけにとられ、言葉を失った。
「さぁ、急ごう!」
レヴィアの手を握りしめると、オディールは彼女を導きながら、まばゆい光のはしごへと歩みを進める。その瞬間、二人はふわりと軽やかに浮かび上がり、まるで天に至るエスカレーターに乗るかのように、彼らは積乱雲の奥深くへと静かに吸い込まれていった。
観る者すべてが、ヴェルゼウスの息を呑むほどの空間操作術に圧倒される。現実を歪めて閉じ込め、全てを粉々に粉砕していくその圧倒的な力の前に、皆畏敬の念を禁じえなかった。
どんどんねじれる速度は上がり、やがて竜巻のようにして周りを巻き込みながら空高く輝く白い柱となって、天を穿つかのように堂々とそびえ立つ。
「はっはっはー! これで一丁上がり。どうだ? 俺とヴィーナ、どっちが優秀か分かったか? ん?」
ヴェルゼウスは勝ち誇った微笑みでオディールを見下ろしたが、彼女はただ黙って、じっとヴェルゼウスを見つめ返すだけだった。
その時、古びたチャペルの石壁が微かに震え、不気味な暗いシルエットが躍るように滑り込んできた。その黒い影は楽しそうにピョコピョコと飛び跳ねながら一行に近づいてくる。
え? へっ!? な、何だ……?
驚きのあまり、誰もが凍りついているその時、影は参列席の足元をすり抜けヴェルゼウスの前にまで進んだ。
「逃げて!」
顔面蒼白のオディールは震える声で叫びながら駆け出す。もはやチャペルはアンノウンの狩場になってしまったのだ。オディールは動揺するレヴィアの手をぐいと引いて、チャペルの裏手へと急いで身を潜めた。
「お、お前……。なぜこんなところに……」
完璧な攻撃を潜り抜けたという信じがたい光景に、ヴェルゼウスは身動き一つできずに影を見つめた。
影は楽しそうにニコッと笑うと口を開いた。
「Death」
刹那、ヴェルゼウスは紫色の輝きに呑み込まれ、椅子から崩れ落ちていく。
う、うわぁぁぁ! ヴェルゼウス様ぁぁぁ! ひぃぃぃぃ!
みんなその恐怖の光景に恐れ慄き、一斉に散り散りに逃げ惑った。しかし逃れることなど叶わず、無情にも彼らもまた紫の輝きに抱かれ、静かに崩れ落ちていった――――。
◇
「オ、オディール、どうなったんじゃ? 物音一つしないじゃないかぁ」
チャペルの裏手でレヴィアは絶望に声を枯らし、オディールにすがった。しかし、オディールは冷たい碧眼でレヴィアを見据えると、唇に指を当て、首を静かに横に振る。
周囲の静けさが全てを物語っていた。ヴェルゼウスも仲間もすべてアンノウンの手によって命を奪われたのだろう。
ヴィーナの世界の崩壊を癒すため、苦難を超えてやってきたのに、ここもまた、アンノウンの破滅的な【即死】によって穢され、壊れてしまった。
砕けた希望の下で、二人は互いの体温を分かち合い、ドクンドクンという高鳴る心音を感じながらアンノウンに見つからないように息を潜める。
◇
太陽が地平線に沈んでいくと、空は魔法をかけられたかのように茜色から深い群青へとゆっくりと染め上げられていく。夜の帳が静かに地上へと降りてきた。
オディールは、ドアの隙間からこっそりと室内をうかがう。もしアンノウンに見つかれば即死である。息をのむギリギリの緊張感の中、オディールは慎重に目を慣らす。そして、闇の中に隠された影がないかと、彼女の瞳は薄暗がりを縫うように動いた。
「ま、まだおるか?」
レヴィアは震える手でオディールの腕をギュッと握り、こらえきれずに聞く。
「んー、もう居ないみたい……だね」
「ふぅ……。良かったぁ……」
レヴィアは大きく息をついてほっと胸をなでおろす。
ドアを開けて中に戻ると、そこに広がる光景はまさに地獄の一幕だった。暗がりの中で、たくさんの無念の表情を凍りつかせた身体が、生前の光を一切失った瞳で虚空を凝視している。
あわわわわ……。ひぃっ!
二人は立ちすくんでしまう。
頭では理解していたものの、実際に知り合いが無残な死体となって折り重なっているのを見た瞬間、それは骨の髄まで沁みる恐怖となった。
「マズい、マズいぞ……。どうすればいいんじゃ……」
レヴィアは絶望の重みに耐えかね、頭を抱えながら崩れ落ちる。
亡骸の間を歩き、オディールは死者たちに黙祷を捧げ、彼らの目をやさしく閉じてゆく。
ヴェルゼウスが横たわっているところまで行くと、オディールはその象徴的な杖へと手を伸ばした。杖の上部には螺旋状の装飾が巧みに施されており、その中心に宿るサファイアは、薄暗がりの中キラキラと煌びやかな輝きを放っている。
オディールは杖を拾い上げるとブンブンと振りまわし、何かを思いついたようにニヤッと笑った。
「お主、そんなもんどうするんじゃ?」
レヴィアが不思議そうに聞くと、オディールはウインクをして外へと飛び出していった。
外には夕焼けがまだその上部を赤く照らしている壮大な積乱雲が渦を巻いている。
オディールはそこへ向かって杖を振り回した。
「おーい! おーい!」
すると、宝石の封印が解けるがの如く、サファイヤが閃光を放ちながらシュオォォォという神秘の旋律を奏で始める。
やがて、大空を支配する積乱雲はその輝きに応えるかのように光の筋をオディールの方に放つ。それは天界への招待状とも言うべき、荘厳なる光のはしごだった。
「お、お主、まさか……」
レヴィアが驚愕し、目を丸くすると、オディールはいたずらっ子の笑みを浮かべる。
「なんか入れてくれるみたいだよ? 僕らでアンノウンを何とかしよう!」
「いやいや……。えーーっ!?」
勝手に上位神の居城に乗り込もうとするオディールの大胆不敵さに、レヴィアはあっけにとられ、言葉を失った。
「さぁ、急ごう!」
レヴィアの手を握りしめると、オディールは彼女を導きながら、まばゆい光のはしごへと歩みを進める。その瞬間、二人はふわりと軽やかに浮かび上がり、まるで天に至るエスカレーターに乗るかのように、彼らは積乱雲の奥深くへと静かに吸い込まれていった。
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