異世界最速の魔王討伐 ~転生幼女と美少女奴隷の隠されたミッション~

月城 友麻

文字の大きさ
上 下
53 / 64

53. 神の桃

しおりを挟む
「おぉぉぉ……」「何と素晴らしい……」「素敵……」

 残りのメンバーもやってきて、それぞれがこの世ならざる光景の前で息をのむ。

 そこへ、鬱陶し気な様子で官吏が姿を現した。

「ふん、なんだってこんなことになるんだよ……」

 官吏は、懐疑の影を目に宿し、オディールをギロリとにらむ。

「お前は誰の加護を得てるんだ? 牙を折るなんてありえんのだけど?」

「加護? そんなものある訳ないじゃん。あれはドラゴンの鱗のおかげだってぇ。きゃははは!」

 オディールは無邪気な歓びを振りまくように笑う。

「そんな訳あるかい! だがまぁ通れちゃった以上は案内はせんとな。ふぅ……。ついてこい!」

 官吏は深いため息を漏らすと、不満げにその額に皺を寄せながら、三角屋根の建物に向かって飛び始めた。

「あっ、あそこ行くの? やったぁ! よし、レヴィちゃん競争だ!」

 オディールは歓喜に満ちた声を上げ、野を駆ける子鹿のように金色の花びらを蹴りちらしながら軽快に走り出した。

「あっ! おい、お前勝手に……」

 大天使が怒鳴ろうとしたその刹那、オディールは軽やかに後ろを向き、

「約束、約束ぅ!」

 そう言って人差し指を楽し気に振りながら、碧い瞳でいたずらっ子のウインクをする。そして、笑い声を響かせながら風のように駆けていった。


        ◇


 純白のファサードが天に向かって尖る、この壮大な三角屋根の建物は、繊細かつ豪華な装飾で飾り立てられた荘厳なチャペルだった。

 一歩足を踏み入れると、目に飛び込んできたのは神話から抜け出したかの如き純白の幻獣の浮彫。真っ白だった壁は、内側からはまるで水晶のように透明へと変わり、まるで黄金色に輝く花々の上に幻獣が浮いているかのように見える。その壮麗さは、ここで結婚式を挙げたらこの上ないと思わせるものだった。

「うわぁ……素敵……」

 静かに両手を組んだオディールの碧眼が輝きを増す。

「お前たちはここで待ってろ。この世界の神、ヴェルゼウス様にはすでに連絡済みだ」

 官吏は参列者席を指さし、つまらなそうに言った。

「ヴェルゼウス様は僕らの世界を直して……くれるかなぁ?」

 オディールは首を傾げながら恐る恐る官吏に問いかけた。

「はぁ? そんなのワシは知らん。ただ、一般論として言えば、そんなことしてもヴェルゼウス様には何のメリットもないからねぇ」

 官吏は冷やかな笑いをこぼしながら、肩をすくめる。

「メ、メリットって、数兆人の人の命がかかってるんだよ!?」

 命の尊厳を踏みにじるような計算高い発想に、オディールは猛然と反抗した。

「何兆いようがそれはお宅らの都合でしょ? うちらには何の関係もない」

「そ、そんな……」

 横で見守っていた大天使は、沈黙を守ることができず口をはさむ。

「関係ないってことはないはずですよ? 女神ヴィーナはヴェルゼウス様の後輩、同じく世界を造られている仲間同士じゃないですか!」

「あー、うるさいな。そんなのはワシにはどうでもいい事。直接言ってくれ。あそこの桃でも食べて待ってろ」

 官吏は、壇上に積まれた桃を指し示し、面倒事から逃げるようにすうっと消えていった。

 ハードな交渉になりそうな重苦しい雰囲気の中、一行はお互いの顔を見合って、無言のうちに溜息を漏らす。

 そんな空気を気にもせず、オディールは真っ先に桃を取ってその濃厚な香りを楽しんだ。桃色の豊潤な肉質はすっかり熟しており、馥郁ふくいくとした高貴で芳醇な香りが鼻をくすぐって、彼女を幸せな微笑みへと誘った。

 早速皮をむいてみるとつるんと簡単にむけ、透明感のあるジューシーな中身が姿を現す。

 たまらずかぶりつくと、夏の太陽を凝縮したような蜜の甘みが爆発し、その後を清涼感のある酸味が口の中を駆け巡る。

 うほぉ……。

 緊張で砂漠のように乾いた喉を潤すため、オディールは飢えた狼のごとくむしゃぶりついた。

「う、美味いのか?」

 レヴィアはそんなオディールの様子を不安を抱きつつ見守る。

「いやぁ、神の国は最高だね。うっしっし」

 オディールは一気に種までしゃぶりつくすと、すぐさま二個目へと手を伸ばした。

「神の世界のものを食べちゃいかん、とか聞いたことないのか?」

 レヴィアはゴクリとのどを鳴らしながら言う。

「何言ってんの、長丁場になりそうだからレヴィアも食べときな」

 オディールは微笑みを浮かべながら、滴る果汁の桃を差し出した。

 レヴィアは一瞬ためらったものの、喉の渇きに負け、静かにその甘露を受け取る。


     ◇


 桃を食べ終わったレヴィアは、無力感に身を委ねるように、静かに肩を落とした。

「なぁ、うちらの世界はどうなっちゃうんじゃろ……?」

 レヴィアが視線を落としたその時、頬を伝う悲しみの雫が彼女の手に静かに落ちた。

 オディールは桃を手早く頬張りながらも、そんなレヴィアの背中をやさしくポンポンと叩く。

「大丈夫だってぇ。世界はあるべき姿に必ず戻る。どんなに悪意が捻じ曲げようとしても最後には必ず定まった姿に落ち着いていくんだよ」

 さわやかな風が金色の花畑にウェーブを作りながら渡っていくのを、オディールは目を細めながら眺めた。

「そうは言っても……。お主は強いなぁ……」

 レヴィアは口をとがらせる。

「レヴィちゃん、信じよう。僕らはきっと上手くいく。これは言霊だよ?」

 陽気な笑顔で、オディールはレヴィアの背を軽妙に叩いた。

「きっと……上手くいく……」

「そうそう。はい、もう一個むいてあげるからどんどん食べて」

 レヴィアは自分に言い聞かせるように静かにうなずく。

「きっと上手くいく……。きっと上手くいく……」

 レヴィアは何度か繰り返すと、オディールにむいてもらった桃を、決意のこもった目でガブリとかじった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

処理中です...