52 / 64
52. 鱗のお守り
しおりを挟む
ジッと白虎の口をにらみ、呼吸を整えるオディール――――。
「あー、飛び込もうったって無駄ですよ。白虎の牙が閉じるのに1ミリ秒もかかりませんからね。くふふふ……」
その様子を見ていた官吏は毒を帯びた微笑を見せた。
えっ……?
オディールは眉をひそめ、凍りつく。
「邪心が無ければ……嚙まれないんですよね?」
引きつった微笑みを浮かべ、改めて小人に聞くオディール。
「もちろん、そうですよ? でも今までたくさんの人が挑戦してきましたが、なぜか全員噛み殺されちゃったんですよねぇ。ぐふっぐふっ……」
小人の残酷な笑いに、オディールは冷たくにらみ返した。
レヴィアが翼をバサバサ鳴らしながら慌てて飛んでくる。
「オディール、こんなの止めるんじゃ。こんな無謀な事せんでええ。本当に出口がここだけかなんてわからんじゃないか」
オディールの腕をギュッとつかみ、熱を込めて説得するその真紅の瞳には涙が切なく光っていた。
しかし、オディールは不屈の決意を瞳に宿しながら首を振る。
「僕たちの肩には数兆人の未来がかかっているんだよ? このくらいは大したことないって」
「いやいや、死んだら終わりなんじゃ!」
「はははは、レヴィアはさっきまで死んでたじゃん」
オディールは屈託のない晴れやかな笑いを見せる。
レヴィアは口をとがらせ、オディールをジト目で見ると、指先を自分のわき腹に滑らせ、力を込めた。
いてっ!
そう言うと、顔を歪めながら、黒く鈍い光を放つ欠片を無言でオディールに渡す。
え……?
「ドラゴンの鱗は幸運のお守りにもなるんじゃ。持っとけ」
レヴィアは今にもこぼれそうな涙をたたえながら言った。
「ありがと。……。でもちょっと何か臭うよ?」
オディールは鱗を受け取ると、くんくんと嗅いでみて眉を寄せる。
「バッカもん! 返せ!」
レヴィアは真っ赤になると、怒りに燃える瞳でオディールに飛びかかった。
「うそうそ。ありがとっ!」
オディールはレヴィアを優しく抱きしめると、ほっぺたにチュッ! とキスをする。
え? あ……。
レヴィアはちょっと恥ずかしげにうつむいた。
「さーて、幸運のお守りも手に入れたし、イッツ、ショーターーイム!」
オディールはレヴィアをそっと地面に下ろすと軽くピョンピョンと跳んで、競技直前の陸上選手のように手足をクルクルと回した。
「死体の掃除、大変なんですから、頑張ってくださいね。ぐふふふふ」
官吏の口元からは、邪悪な笑みがこぼれた。
オディールは冷めた目でその官吏を一瞥し、フンと鼻を鳴らすと、大きく息をつく。
じっと白虎の口を見つめるオディール――――。
はっ!
気合を入れた直後、一気に全力で白虎へ向かって駆けだした。
オディールの鮮やかな動きに全員が息を呑む。足音のリズムが、戦場のドラムのように響きわたった。
そいやー!
オディールはまるで高校球児のようにヘッドスライディングをしながら、一気に口の中へと飛ぶ。
刹那、ギラっと白虎の瞳が神秘的な光を放ち、オディールめがけて牙が動き出す。
直後、雷のような轟音が鳴り響き、舞い上がる土煙――――。
視界が土煙に閉ざされる中、レヴィアはたまらず駆け出す。そして、白虎の巨大な口からオディールの白く細い足首が露わになっているのを見て、レヴィアは息をのみ、悲痛な叫びをあげた。
「オ、オディールぅぅぅ!」
すると、白虎の口がゴゴゴゴと石の擦れる音を立てながら、少しずつ開いていく。
えっ……?
中から現れたのはオディールの明るい笑顔だった。
「なんか、牙折れちゃったけど、条件は『通れたらOK』だからこれはセーフなんですよね? くふふふ……」
四方に散乱する鋭利な牙の破片たちを前にして、官吏は顔が引きつった。
「あ、あ、あ、聖なる石像が……。まさか……」
「では、先に行ってるから早くみんなもおいで~。大天使様はちゃんと願い聞いてよ? きゃははは!」
輝く笑顔を湛えながら、オディールは石像の影の奥深く、神秘的な闇へと消えていった。
◇
オディールがゆっくりと瞼を開けると、目の前には黄金の楽園が広がっていた――――。
うわぁぁぁ……。
煌めく太陽の下、丘を埋め尽くすネモフィラのような花々は黄金色に輝き、それぞれが太陽の粒子のようにキラキラと輝いていた。まるで神々が丘全体を黄金の絨毯で飾り立てたかのようである。
その黄金の海の中央に、壮麗な純白の建物がひときわ目を引く。その三角屋根は青空に向かってそびえ、黄金の世界の遠い伝説を静かに守っているかのようだった。
「オディールぅぅぅ!」
振り返ると、レヴィアが金髪おかっぱの女の子の姿で、涙と共に全身を震わせながら飛びついてくる。
「おわぁ! レヴィちゃん。うふふ……。鱗のお守りありがと……」
オディールはレヴィアをキュッと抱きしめると、輝く太陽のような金髪を優しく撫でた。
「あんまり無茶はせんでくれ」
レヴィアは涙をポロポロとこぼしながら、切なくも優しい声で言葉を紡いだ。
「ははは、でも無茶しないと数兆人は救えないんだよねぇ……」
オディールはうんざりした様子で重く深いため息をついた。
「あー、飛び込もうったって無駄ですよ。白虎の牙が閉じるのに1ミリ秒もかかりませんからね。くふふふ……」
その様子を見ていた官吏は毒を帯びた微笑を見せた。
えっ……?
オディールは眉をひそめ、凍りつく。
「邪心が無ければ……嚙まれないんですよね?」
引きつった微笑みを浮かべ、改めて小人に聞くオディール。
「もちろん、そうですよ? でも今までたくさんの人が挑戦してきましたが、なぜか全員噛み殺されちゃったんですよねぇ。ぐふっぐふっ……」
小人の残酷な笑いに、オディールは冷たくにらみ返した。
レヴィアが翼をバサバサ鳴らしながら慌てて飛んでくる。
「オディール、こんなの止めるんじゃ。こんな無謀な事せんでええ。本当に出口がここだけかなんてわからんじゃないか」
オディールの腕をギュッとつかみ、熱を込めて説得するその真紅の瞳には涙が切なく光っていた。
しかし、オディールは不屈の決意を瞳に宿しながら首を振る。
「僕たちの肩には数兆人の未来がかかっているんだよ? このくらいは大したことないって」
「いやいや、死んだら終わりなんじゃ!」
「はははは、レヴィアはさっきまで死んでたじゃん」
オディールは屈託のない晴れやかな笑いを見せる。
レヴィアは口をとがらせ、オディールをジト目で見ると、指先を自分のわき腹に滑らせ、力を込めた。
いてっ!
そう言うと、顔を歪めながら、黒く鈍い光を放つ欠片を無言でオディールに渡す。
え……?
「ドラゴンの鱗は幸運のお守りにもなるんじゃ。持っとけ」
レヴィアは今にもこぼれそうな涙をたたえながら言った。
「ありがと。……。でもちょっと何か臭うよ?」
オディールは鱗を受け取ると、くんくんと嗅いでみて眉を寄せる。
「バッカもん! 返せ!」
レヴィアは真っ赤になると、怒りに燃える瞳でオディールに飛びかかった。
「うそうそ。ありがとっ!」
オディールはレヴィアを優しく抱きしめると、ほっぺたにチュッ! とキスをする。
え? あ……。
レヴィアはちょっと恥ずかしげにうつむいた。
「さーて、幸運のお守りも手に入れたし、イッツ、ショーターーイム!」
オディールはレヴィアをそっと地面に下ろすと軽くピョンピョンと跳んで、競技直前の陸上選手のように手足をクルクルと回した。
「死体の掃除、大変なんですから、頑張ってくださいね。ぐふふふふ」
官吏の口元からは、邪悪な笑みがこぼれた。
オディールは冷めた目でその官吏を一瞥し、フンと鼻を鳴らすと、大きく息をつく。
じっと白虎の口を見つめるオディール――――。
はっ!
気合を入れた直後、一気に全力で白虎へ向かって駆けだした。
オディールの鮮やかな動きに全員が息を呑む。足音のリズムが、戦場のドラムのように響きわたった。
そいやー!
オディールはまるで高校球児のようにヘッドスライディングをしながら、一気に口の中へと飛ぶ。
刹那、ギラっと白虎の瞳が神秘的な光を放ち、オディールめがけて牙が動き出す。
直後、雷のような轟音が鳴り響き、舞い上がる土煙――――。
視界が土煙に閉ざされる中、レヴィアはたまらず駆け出す。そして、白虎の巨大な口からオディールの白く細い足首が露わになっているのを見て、レヴィアは息をのみ、悲痛な叫びをあげた。
「オ、オディールぅぅぅ!」
すると、白虎の口がゴゴゴゴと石の擦れる音を立てながら、少しずつ開いていく。
えっ……?
中から現れたのはオディールの明るい笑顔だった。
「なんか、牙折れちゃったけど、条件は『通れたらOK』だからこれはセーフなんですよね? くふふふ……」
四方に散乱する鋭利な牙の破片たちを前にして、官吏は顔が引きつった。
「あ、あ、あ、聖なる石像が……。まさか……」
「では、先に行ってるから早くみんなもおいで~。大天使様はちゃんと願い聞いてよ? きゃははは!」
輝く笑顔を湛えながら、オディールは石像の影の奥深く、神秘的な闇へと消えていった。
◇
オディールがゆっくりと瞼を開けると、目の前には黄金の楽園が広がっていた――――。
うわぁぁぁ……。
煌めく太陽の下、丘を埋め尽くすネモフィラのような花々は黄金色に輝き、それぞれが太陽の粒子のようにキラキラと輝いていた。まるで神々が丘全体を黄金の絨毯で飾り立てたかのようである。
その黄金の海の中央に、壮麗な純白の建物がひときわ目を引く。その三角屋根は青空に向かってそびえ、黄金の世界の遠い伝説を静かに守っているかのようだった。
「オディールぅぅぅ!」
振り返ると、レヴィアが金髪おかっぱの女の子の姿で、涙と共に全身を震わせながら飛びついてくる。
「おわぁ! レヴィちゃん。うふふ……。鱗のお守りありがと……」
オディールはレヴィアをキュッと抱きしめると、輝く太陽のような金髪を優しく撫でた。
「あんまり無茶はせんでくれ」
レヴィアは涙をポロポロとこぼしながら、切なくも優しい声で言葉を紡いだ。
「ははは、でも無茶しないと数兆人は救えないんだよねぇ……」
オディールはうんざりした様子で重く深いため息をついた。
0
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。


夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる