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46. 闇からの使者
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「くふぅ……。危ない危ない」
水瓶宮の執務室にふわっと戻ってきたシアンは、ヨロヨロと空中を飛ぶと、ふんわりと浮かぶパステルピンクの愛らしいチェアに、身体をどさりと投げ出した。
風光明媚な山岳地帯の上空をゆったりと飛ぶ、クリスタルでできた空飛ぶ大水槽、水瓶宮。その大理石で造られた壮麗な艦橋の最上階が艦長であるシアンの執務室だった。
「ふぅ……。これで今までの失敗は帳消し。女神様、ご褒美何くれるかなぁ……。うっしっし」
深い安堵の息をつき、その胸に広がる幸福感に身を委ねると、いたずらっ子のように笑った。
指先をツーっと空中で動かすシアン。空間がシュルっと指先の動きに応じて裂け、そこから極上のコーヒーが現れる。香ばしい匂いが部屋中を優雅に満たし、調和のとれた馥郁たるアロマが豊かなハーモニーを奏でる。
「疲れた時にはコレだよね」
シアンは幸せそうに香りを一通り楽しんだ後、一口コーヒーを含む。上質な音楽のような甘い旋律が、次第にスパイシーなリズムへと変わり、最後には心地よい苦味が鼻をくすぐった。
んふぅ……。
満ち足りた笑みを浮かべながら、彼女は眼下に広がる青く輝く大水槽を静かに眺めた。
陽光が水面で踊り、その向こうには、イルカの【ピィ助】が銀色の魚たちと生命力溢れる躍動とともに戯れている。
楽しそうにうなずいたシアンは、澄み切った空気に口笛を響かせた。その音に応えるように、ピィ助はヒレで力強く水を蹴り、ものすごい速度で水面へと進路をとる――――。
バシュッ!
水面を銀の矢のように切り裂いたピィ助は、キラキラとした水しぶきで虹をかけながら空中で一回転し、再び深い青の大水槽へと溶け込んでいった。
「ふふっ、いい子ね」
シアンは嬉しそうにうなずいた。と、この時、視界の隅を何やら黒い影がすっと動いていく。
ん……?
短い手足に大きな頭で幼児の形をした影は壁をすっと通り抜け、そのまま水瓶宮の大水槽へと落ちていく。
「いや、ちょっと、お前何者だ!?」
シアンは慌てて窓からピョンと飛び出し、デッキに飛び降りると大水槽をのぞきこむ。
すると、小さな黒い影が気持ちよさそうに、日の光を浴びながらゆったりと水の流れに身をゆだねている。その影はタピオカのようなスライム状で向こう側が透けて見える不気味な姿だった。
影は水中のレースに参加するかのように、カラフルな魚たちを追いかけながら泳ぎ始める。やがて、好奇心旺盛なピィ助が近づいてくると、影はピィ助の滑らかな背びれに手をかけ、背中に乗り込んだ。
「あっ! 僕のピィ助に何すんだよ!」
怒りに目を光らせたシアンは、ふん! と、気合を入れると力強く光の鎖を影へと放つ。魔力が水中を切り裂く音が、周囲の静寂を破った。
水中を蛇のようにうねうねと突き進む鎖はピィ助を追いかけ、あっという間にシュルシュルと影を捕縛する。
「不届きなやろーだ!」
シアンはプンプンと怒りながら鎖を引き上げ、影をデッキに転がした。
キューキュー! と、変な鳴き声を立てながら影は蠢く。
この騒動に乗組員たちもぞろぞろとデッキに集まってくる。そのまるで幽霊のような不気味な影が光の鎖に縛られもがいているさまに皆、怪訝そうな顔をして首をひねっていた。
シアンは鑑定をかけたが結果は不定。それはこの世界の者ではないことを表していた。
部下の金髪碧眼の女性【オディール】はシアンに駆け寄ると進言する。
「シアン様、こんなアンノウン危険ですよ。女神様に見てもらいましょう」
しかしそんな部下をシアンは鼻で笑う。
「君はいつも心配ばかりだなぁ。大丈夫だってぇ。今まで僕がどれだけ訳の分からない化け物と対峙してきたか知ってるでしょ? どんな気味悪い連中だって僕に傷一つつけられなかったんだよ?」
「いやまぁ、シアン様は確かに宇宙最強ではおられるとは思うんですが……」
「それに、こいつにはもう次元結界をかけてあるんだゾ。どんな攻撃も無効さ。コイツを調べたら何か面白いことが分かりそうだし。くふふふ……」
シアンは不気味なアンノウンも好奇心を満たすオモチャにしか見えなかった。
「私は神殿に逃げてますからね……」
オディールはそう言うとそそくさと艦橋の方へと駆けていく。
「心配性だなぁ……。さてと……。お前は何者だ! ピィ助をオモチャにするとは許しがたいゾ!」
影をにらみつけ、ギュッと光の鎖を引き絞るシアン。
影は苦しそうに身もだえをすると、シアンに獰猛なまなざしを投げかけた。
「おう! 何か言ってみろ!」
シアンは一歩も引かず、その鮮烈な碧い瞳で闘志を燃やし、にらみつける。
すると、影はシアンに向かって口を開いた。
「Death」
刹那、シアンは紫の光をぶわっと纏うと、瞳はその色彩を失い、光が消えると同時に力なく膝を折り、静かに崩れ落ちた。
一瞬の静寂の後、見守る者たちの間に緊迫の波紋が広がる。
「えっ!? シアン様……?」
スタッフの一人が駆け寄り、激しくシアンをゆさぶったが、彼女から漂うのはもはやこの世ならざる静けさだけだった。
「し、死んでる……」
彼は恐怖のあまり腰を抜かし、立ち上がることもできず、無様に後退しながら、震える手足で這いずり始めた。
うわぁぁ! ひぃぃぃ!
恐怖に満ちた瞬間、乗組員たちはパニックに陥り、慌てて逃げまどう。
大天使シアン、その名は宇宙の隅々にまで轟き、彼女の力は星々の運命をも揺るがすほど絶大なものだった。繰り出す技はまるで芸術のように洗練されており、いかなる攻撃も効かず、どんな存在もシアンとの戦いだけは避けていた程である。
しかし、そんなシアンが瞬殺され、足元に転がっている。これはただの敗北ではなく、神々の住む世界の基盤自体が揺らぐ、未曾有の大災害の兆しであった。
ウキャキャキャ!
光の鎖がほどけた影は邪悪な笑みを浮かべ、闇から出てきた滅びの使者のように、興奮しながら乗組員たちを追い始めた。
水瓶宮の執務室にふわっと戻ってきたシアンは、ヨロヨロと空中を飛ぶと、ふんわりと浮かぶパステルピンクの愛らしいチェアに、身体をどさりと投げ出した。
風光明媚な山岳地帯の上空をゆったりと飛ぶ、クリスタルでできた空飛ぶ大水槽、水瓶宮。その大理石で造られた壮麗な艦橋の最上階が艦長であるシアンの執務室だった。
「ふぅ……。これで今までの失敗は帳消し。女神様、ご褒美何くれるかなぁ……。うっしっし」
深い安堵の息をつき、その胸に広がる幸福感に身を委ねると、いたずらっ子のように笑った。
指先をツーっと空中で動かすシアン。空間がシュルっと指先の動きに応じて裂け、そこから極上のコーヒーが現れる。香ばしい匂いが部屋中を優雅に満たし、調和のとれた馥郁たるアロマが豊かなハーモニーを奏でる。
「疲れた時にはコレだよね」
シアンは幸せそうに香りを一通り楽しんだ後、一口コーヒーを含む。上質な音楽のような甘い旋律が、次第にスパイシーなリズムへと変わり、最後には心地よい苦味が鼻をくすぐった。
んふぅ……。
満ち足りた笑みを浮かべながら、彼女は眼下に広がる青く輝く大水槽を静かに眺めた。
陽光が水面で踊り、その向こうには、イルカの【ピィ助】が銀色の魚たちと生命力溢れる躍動とともに戯れている。
楽しそうにうなずいたシアンは、澄み切った空気に口笛を響かせた。その音に応えるように、ピィ助はヒレで力強く水を蹴り、ものすごい速度で水面へと進路をとる――――。
バシュッ!
水面を銀の矢のように切り裂いたピィ助は、キラキラとした水しぶきで虹をかけながら空中で一回転し、再び深い青の大水槽へと溶け込んでいった。
「ふふっ、いい子ね」
シアンは嬉しそうにうなずいた。と、この時、視界の隅を何やら黒い影がすっと動いていく。
ん……?
短い手足に大きな頭で幼児の形をした影は壁をすっと通り抜け、そのまま水瓶宮の大水槽へと落ちていく。
「いや、ちょっと、お前何者だ!?」
シアンは慌てて窓からピョンと飛び出し、デッキに飛び降りると大水槽をのぞきこむ。
すると、小さな黒い影が気持ちよさそうに、日の光を浴びながらゆったりと水の流れに身をゆだねている。その影はタピオカのようなスライム状で向こう側が透けて見える不気味な姿だった。
影は水中のレースに参加するかのように、カラフルな魚たちを追いかけながら泳ぎ始める。やがて、好奇心旺盛なピィ助が近づいてくると、影はピィ助の滑らかな背びれに手をかけ、背中に乗り込んだ。
「あっ! 僕のピィ助に何すんだよ!」
怒りに目を光らせたシアンは、ふん! と、気合を入れると力強く光の鎖を影へと放つ。魔力が水中を切り裂く音が、周囲の静寂を破った。
水中を蛇のようにうねうねと突き進む鎖はピィ助を追いかけ、あっという間にシュルシュルと影を捕縛する。
「不届きなやろーだ!」
シアンはプンプンと怒りながら鎖を引き上げ、影をデッキに転がした。
キューキュー! と、変な鳴き声を立てながら影は蠢く。
この騒動に乗組員たちもぞろぞろとデッキに集まってくる。そのまるで幽霊のような不気味な影が光の鎖に縛られもがいているさまに皆、怪訝そうな顔をして首をひねっていた。
シアンは鑑定をかけたが結果は不定。それはこの世界の者ではないことを表していた。
部下の金髪碧眼の女性【オディール】はシアンに駆け寄ると進言する。
「シアン様、こんなアンノウン危険ですよ。女神様に見てもらいましょう」
しかしそんな部下をシアンは鼻で笑う。
「君はいつも心配ばかりだなぁ。大丈夫だってぇ。今まで僕がどれだけ訳の分からない化け物と対峙してきたか知ってるでしょ? どんな気味悪い連中だって僕に傷一つつけられなかったんだよ?」
「いやまぁ、シアン様は確かに宇宙最強ではおられるとは思うんですが……」
「それに、こいつにはもう次元結界をかけてあるんだゾ。どんな攻撃も無効さ。コイツを調べたら何か面白いことが分かりそうだし。くふふふ……」
シアンは不気味なアンノウンも好奇心を満たすオモチャにしか見えなかった。
「私は神殿に逃げてますからね……」
オディールはそう言うとそそくさと艦橋の方へと駆けていく。
「心配性だなぁ……。さてと……。お前は何者だ! ピィ助をオモチャにするとは許しがたいゾ!」
影をにらみつけ、ギュッと光の鎖を引き絞るシアン。
影は苦しそうに身もだえをすると、シアンに獰猛なまなざしを投げかけた。
「おう! 何か言ってみろ!」
シアンは一歩も引かず、その鮮烈な碧い瞳で闘志を燃やし、にらみつける。
すると、影はシアンに向かって口を開いた。
「Death」
刹那、シアンは紫の光をぶわっと纏うと、瞳はその色彩を失い、光が消えると同時に力なく膝を折り、静かに崩れ落ちた。
一瞬の静寂の後、見守る者たちの間に緊迫の波紋が広がる。
「えっ!? シアン様……?」
スタッフの一人が駆け寄り、激しくシアンをゆさぶったが、彼女から漂うのはもはやこの世ならざる静けさだけだった。
「し、死んでる……」
彼は恐怖のあまり腰を抜かし、立ち上がることもできず、無様に後退しながら、震える手足で這いずり始めた。
うわぁぁ! ひぃぃぃ!
恐怖に満ちた瞬間、乗組員たちはパニックに陥り、慌てて逃げまどう。
大天使シアン、その名は宇宙の隅々にまで轟き、彼女の力は星々の運命をも揺るがすほど絶大なものだった。繰り出す技はまるで芸術のように洗練されており、いかなる攻撃も効かず、どんな存在もシアンとの戦いだけは避けていた程である。
しかし、そんなシアンが瞬殺され、足元に転がっている。これはただの敗北ではなく、神々の住む世界の基盤自体が揺らぐ、未曾有の大災害の兆しであった。
ウキャキャキャ!
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