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44. 受精卵の罠
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蒼はこぶしに集めた全てのエネルギーを魔力に転化して、目つぶしの魔法に注ぎ込んだ。
「ムーシュの力だ、食らえ!」
辺り一面を覆い尽くすように放たれたピンクの激光が、サイノンの瞳を直撃する。目を逸らす間も与えず、その桁外れのエネルギーは彼の視界の全てを奪い、網膜を焼いた。
くっ!
サイノンは予想外の目つぶしに一瞬ひるむ。それはムーシュが遺してくれた最後の千載一遇のチャンスだった。
嵐のような怒りとともに、蒼はサイノンに向かって猛然と飛びかかり、渾身の蹴りがまばゆいほどの速さで放たれた。
セイッ!
衝撃波を伴いながら、サイノンのこめかみ目がけ閃光のように迫る蒼の脚――――。
だが、炸裂するほんの寸前、サイノンもまた緊迫した状況を感じ取り、慌てて後ろに跳び退いた。
果たして、乾いた音が荒れ野に響き、蒼の振りぬいた蹴りは拳銃を弾き飛ばすにとどまってしまう。
あと一歩……。そのわずかな距離が及ばず、蒼の奇襲は空振りに終わってしまったのだ。
「くっ! もう一丁!」
畳みかける蒼だったが、サイノンは素早く目を治してしまう。こうなればもはや蒼に勝ち目はなかった。
次の瞬間、サイノンの目にもとまらぬ蹴りを食らい、蒼はピンポン玉のように弾き飛ばされる。音速を超えて吹き飛ばされた蒼は衝撃波を放ちながら、上空の電子浮岩城まで打ち上げられると底面に当たって跳ね返された。
ズン! と地を揺るがす衝撃音を放ちながら、蒼の体が無情にも地面に叩きつけられ、土埃が激しく舞い上がる。
蒼は全身の骨を砕かれ、もはや指一本動かせなかった。
「ゴミが! よくもこの俺様に触れやがったな!」
怒髪天を衝くサイノンは蒼の金髪を荒々しく鷲掴みにし、乱暴に引き上げる。満身創痍の蒼は手足をだらんと揺らし、もはや息も絶え絶えだった。
蒼の唇からは暗い血が滴り、うつろな目でサイノンをただ見ることしかできない。
せっかくのムーシュの魔法も生かせず、ただ殺されるのを待つばかりとなってしまった蒼の中には言い表せないほどの無念が渦巻く。
「お前も今すぐあの奴隷の元へ送ってやろう」
勝ち誇るサイノンに、蒼はブフッと血しぶきを吹きかける。それが蒼のできる最後の抵抗だった。
くわっ!
サイノンは憤怒の形相で、顔に浮かんだ無数の赤い斑点を激しくぬぐい去った。
「この野郎……。ただ殺すだけじゃ飽きたらん。よし、こうしよう。お前の呪いを加速してやる。お前はみずからの呪いで死ぬのだ。受精卵へと戻る恐怖におののきながら死ね!」
蒼を無慈悲にも地面に叩きつけたサイノンは、病的なほど歪んだ笑みを浮かべながら指をパチンと鳴らした。
「や、止めろ……」
蒼は何とか逃れようとするが、もはや体は動かず、サイノンの冷酷な仕打ちを止められない。
長かった金髪はどんどんと短く薄くなり、歯は消え去り、手足は縮んでいく。
「くははは! まるで生物の授業だな。こんなのは俺も初めて見るぞ。実に興味深い」
サイノンは嬉しそうに蒼の若返りのさまを楽しんでいた。
蒼は必死に身体を動かそうとするが、もはや筋肉も新生児レベルまで落ちた蒼には身動き一つとれなかった。
「ひゃ、ひゃめへ……」
その言葉を最後に蒼は目も開けられなくなり、徐々に胎児へと堕ちていく。
手はやがてヒレになり、足は縮み、尾っぽが生え、どんどん豆粒みたいに縮んでいった。
「はっはっは! ザマァないな。女神の手先よ安らかに眠り給え。はっはっは!」
サイノンは勝ち誇り、受精卵へと一直線に堕ちていく蒼を嗤った。
そしてその時がやってくる。
豆粒サイズにまで縮んだ蒼は最後、一ミリにも満たない点、受精卵へと化してしまったのだ。
だが、その瞬間、予想もつかないことが起こる。
受精卵の周りの空間がぐにゃりと歪んだのだ。
直後、受精卵を中心に空間にひびが入り、眩い閃光とともに、世界の隅々まで爆発的に無数のヒビが走っていく。
はぁっ!?
サイノンは慌てて逃げながら焦った。なぜ、受精卵がこんな反応を起こすのか全く理解できなかったのだ。
空間のひびは電子浮岩城すらもズタズタに引き裂き、あちこちから火の手が上がる。
「おい! ちょっと待てよ、どういうことだよ!」
真っ青になって逃げながら叫ぶサイノン。
この時、サイノンの中に一つの仮説がよぎった。
それは『年齢がマイナスの人間の処理は未定義であり、システムが不定動作している』というものだった。確かに今まで年齢がマイナスの人間がこの世に存在したことなどない。だから、システムはその存在を処理できず、暴走してしまっているのかもしれない。
「バ、バカな! そのくらいエラー処理が何とかしてくれるはずじゃないのか?」
サイノンは真っ青になりながら頭を抱えた。
そうこうしている間にも空間の亀裂は世界を破壊し続けていく。電子浮岩城は激しい爆発音を立てながら次々と崩落していく。
「うわぁ! 止めろ、止めてくれぃ!」
サイノンは受精卵を消し飛ばそうと慌てて空間操作スキルを放ち、漆黒の筋が次々と受精卵めがけて飛んだ。しかし、受精卵の周りには無数の空間の亀裂が走り、エネルギーが暴走しており、スキルはその空間の崩壊をむしろ助長してしまうだけだった。
受精卵は歪んだ空間の向こうで激しい閃光を放ち続け、とても近づくこともできない。
「くぅぅぅ……。な、何とかしないと……」
サイノンは頭を抱えるが、こんなシステムの不定動作に対応する方法など知りようがない。ただ、壊れ続けていく世界を眺めているしかできなかった。
「あぁ、俺の世界がぁぁ!」
サイノンが叫んだ時だった。
「きゃははは!」
崩壊の進む荒れ地に笑い声が響き渡った。
「ムーシュの力だ、食らえ!」
辺り一面を覆い尽くすように放たれたピンクの激光が、サイノンの瞳を直撃する。目を逸らす間も与えず、その桁外れのエネルギーは彼の視界の全てを奪い、網膜を焼いた。
くっ!
サイノンは予想外の目つぶしに一瞬ひるむ。それはムーシュが遺してくれた最後の千載一遇のチャンスだった。
嵐のような怒りとともに、蒼はサイノンに向かって猛然と飛びかかり、渾身の蹴りがまばゆいほどの速さで放たれた。
セイッ!
衝撃波を伴いながら、サイノンのこめかみ目がけ閃光のように迫る蒼の脚――――。
だが、炸裂するほんの寸前、サイノンもまた緊迫した状況を感じ取り、慌てて後ろに跳び退いた。
果たして、乾いた音が荒れ野に響き、蒼の振りぬいた蹴りは拳銃を弾き飛ばすにとどまってしまう。
あと一歩……。そのわずかな距離が及ばず、蒼の奇襲は空振りに終わってしまったのだ。
「くっ! もう一丁!」
畳みかける蒼だったが、サイノンは素早く目を治してしまう。こうなればもはや蒼に勝ち目はなかった。
次の瞬間、サイノンの目にもとまらぬ蹴りを食らい、蒼はピンポン玉のように弾き飛ばされる。音速を超えて吹き飛ばされた蒼は衝撃波を放ちながら、上空の電子浮岩城まで打ち上げられると底面に当たって跳ね返された。
ズン! と地を揺るがす衝撃音を放ちながら、蒼の体が無情にも地面に叩きつけられ、土埃が激しく舞い上がる。
蒼は全身の骨を砕かれ、もはや指一本動かせなかった。
「ゴミが! よくもこの俺様に触れやがったな!」
怒髪天を衝くサイノンは蒼の金髪を荒々しく鷲掴みにし、乱暴に引き上げる。満身創痍の蒼は手足をだらんと揺らし、もはや息も絶え絶えだった。
蒼の唇からは暗い血が滴り、うつろな目でサイノンをただ見ることしかできない。
せっかくのムーシュの魔法も生かせず、ただ殺されるのを待つばかりとなってしまった蒼の中には言い表せないほどの無念が渦巻く。
「お前も今すぐあの奴隷の元へ送ってやろう」
勝ち誇るサイノンに、蒼はブフッと血しぶきを吹きかける。それが蒼のできる最後の抵抗だった。
くわっ!
サイノンは憤怒の形相で、顔に浮かんだ無数の赤い斑点を激しくぬぐい去った。
「この野郎……。ただ殺すだけじゃ飽きたらん。よし、こうしよう。お前の呪いを加速してやる。お前はみずからの呪いで死ぬのだ。受精卵へと戻る恐怖におののきながら死ね!」
蒼を無慈悲にも地面に叩きつけたサイノンは、病的なほど歪んだ笑みを浮かべながら指をパチンと鳴らした。
「や、止めろ……」
蒼は何とか逃れようとするが、もはや体は動かず、サイノンの冷酷な仕打ちを止められない。
長かった金髪はどんどんと短く薄くなり、歯は消え去り、手足は縮んでいく。
「くははは! まるで生物の授業だな。こんなのは俺も初めて見るぞ。実に興味深い」
サイノンは嬉しそうに蒼の若返りのさまを楽しんでいた。
蒼は必死に身体を動かそうとするが、もはや筋肉も新生児レベルまで落ちた蒼には身動き一つとれなかった。
「ひゃ、ひゃめへ……」
その言葉を最後に蒼は目も開けられなくなり、徐々に胎児へと堕ちていく。
手はやがてヒレになり、足は縮み、尾っぽが生え、どんどん豆粒みたいに縮んでいった。
「はっはっは! ザマァないな。女神の手先よ安らかに眠り給え。はっはっは!」
サイノンは勝ち誇り、受精卵へと一直線に堕ちていく蒼を嗤った。
そしてその時がやってくる。
豆粒サイズにまで縮んだ蒼は最後、一ミリにも満たない点、受精卵へと化してしまったのだ。
だが、その瞬間、予想もつかないことが起こる。
受精卵の周りの空間がぐにゃりと歪んだのだ。
直後、受精卵を中心に空間にひびが入り、眩い閃光とともに、世界の隅々まで爆発的に無数のヒビが走っていく。
はぁっ!?
サイノンは慌てて逃げながら焦った。なぜ、受精卵がこんな反応を起こすのか全く理解できなかったのだ。
空間のひびは電子浮岩城すらもズタズタに引き裂き、あちこちから火の手が上がる。
「おい! ちょっと待てよ、どういうことだよ!」
真っ青になって逃げながら叫ぶサイノン。
この時、サイノンの中に一つの仮説がよぎった。
それは『年齢がマイナスの人間の処理は未定義であり、システムが不定動作している』というものだった。確かに今まで年齢がマイナスの人間がこの世に存在したことなどない。だから、システムはその存在を処理できず、暴走してしまっているのかもしれない。
「バ、バカな! そのくらいエラー処理が何とかしてくれるはずじゃないのか?」
サイノンは真っ青になりながら頭を抱えた。
そうこうしている間にも空間の亀裂は世界を破壊し続けていく。電子浮岩城は激しい爆発音を立てながら次々と崩落していく。
「うわぁ! 止めろ、止めてくれぃ!」
サイノンは受精卵を消し飛ばそうと慌てて空間操作スキルを放ち、漆黒の筋が次々と受精卵めがけて飛んだ。しかし、受精卵の周りには無数の空間の亀裂が走り、エネルギーが暴走しており、スキルはその空間の崩壊をむしろ助長してしまうだけだった。
受精卵は歪んだ空間の向こうで激しい閃光を放ち続け、とても近づくこともできない。
「くぅぅぅ……。な、何とかしないと……」
サイノンは頭を抱えるが、こんなシステムの不定動作に対応する方法など知りようがない。ただ、壊れ続けていく世界を眺めているしかできなかった。
「あぁ、俺の世界がぁぁ!」
サイノンが叫んだ時だった。
「きゃははは!」
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