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42. 地獄からの招待状
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「レ、レヴィアぁぁぁ! な、なぜ……?」
慌てて振り返ると、無表情のムーシュが硝煙の上がる拳銃を持ち、ボーっと突っ立っている。
「ム、ムーシュ……? ど、どういうことだ……?」
理解し難い展開に、蒼の顔には驚愕と困惑が浮かび、眉間には深い皺が刻まれた。
だが、ムーシュは無言のまま、冷酷にも銃口を蒼に向ける。
「お前……止めろよ?」
蒼はずさりしながらムーシュの目を鋭く見据えた。
真紅の瞳を大きく見開きながらガタガタと身を震わせるムーシュ。
漆黒の拳銃の撃鉄がガチャリと起こされ、緊迫が最高潮に達した……。
ゴクリとのどを鳴らす蒼。
しかし、ムーシュは身を震わせるばかりだった。
突如、ムーシュが唇を開き、言葉を放つ。
「なんだ、こいつは奴隷なのか。役に立たねぇなぁ!」
ムーシュはそう言いながら、糸の切れた操り人形のようにガクリとひざを折って崩れた。
「ム、ムーシュぅ!」
蒼は慌てて駆け寄り、ムーシュの崩れ落ちる身体を受け止めた。今の邪悪な言葉は、サイノンに違いない。サイノンがムーシュの身体を乗っ取り、レヴィアを冷酷に撃ち抜いたのだ。
サイノン討伐は失敗し、レヴィアも失われたという受け入れがたい現実が蒼の心を切り裂き、深い絶望をもたらす。
「に、逃げなきゃ……」
顔面蒼白の蒼は、逃走方法を必死に考える。しかし、レヴィアなき今、この空間を脱出する方法など分かりようがない。蒼の前には果てしない荒れ地が、ただ無情に広がっているだけだった。
死の冷たい恐怖が、蒼の胸を鋭い爪で掴むように襲う。神の力を操るサイノンになど到底勝てるわけがないし、逃げる方法も分からない。蒼に残されたのは、静かな絶望と共に迫る死のみだった。
くぅぅぅ……。
じわっと悪い汗が湧いてくる。
「ま、マズいぞ、ムーシュ! おい、ムーシュぅ!!」
蒼はムーシュを揺り動かす。しかし、ムーシュは身体を乗っ取られた後遺症か、ぼーっと心ここにあらずという感じで虚空を見つめている。
ヴォン!
不穏な電子音が荒野を裂くように響き渡った。
突如として現れたのは、巨大な石版。その漆黒に輝く石版が天を塞ぐように立ちはだかり、蒼は恐れと畏怖に打ちのめされ、言葉を失い後ずさる。
太陽を覆い隠しながら近づいてくるその巨大構造物は、まさに悪を煮詰めたようなすさまじい禍々しさを放ちながら蒼を圧倒した。
『はーっはっはっは! どうかね我が電子浮岩城は? ん?』
自己陶酔に浸る中年男の声が、荒れ野に響き渡る。
絶望が蒼の心を包み込む。蒼の目の前に広がる漆黒の壁は、地獄からの招待状のように、彼の言葉を奪った。
直後、ピュン! という電子音が空間を切り裂くように響き、電子浮岩城から閃光が放たれた。
ズン! と大地を揺るがす衝撃が走り、土煙が舞い上がる。
蒼は腕で顔を覆いながら険しい目でその煙をにらんだ。
土煙が風に流される中からグレーのジャケットを纏った、ひょろりとした中年の男が姿を現す。彼の眼鏡越しの目は狡猾な笑みを浮かべながら、蒼に向かってゆるやかに手を挙げた。
「やぁやぁ、女神の手先の諸君、ご苦労。だが……、ドラゴンは死んだぞ? お前らは何を見せてくれるんだ? ん?」
蒼の心臓が早鐘を打つ中、サイノンがツカツカと距離を詰めてきた。震える手で鑑定を試みるも、その結果は予想通り――――レヴィアと同じ、突き抜けるような高レベル。勝てるはずがないという現実が、蒼の胸を苛烈に打ちのめした。
「お、お前はなぜこんなことをやっているんだ? 何百年もやって砂漠しか作れないような運営は明らかに失敗じゃないか!」
一生懸命に言葉を紡ぐ蒼だったが、サイノンはどこか虚空を見つめながら、それをまるで聞こえてないように無視した。
「んー? お前、日本出身の呪われた転生者……こんなところで何やってんだ?」
蒼のデータをのぞきこみ、けげんそうに首をひねるサイノン。
「し、知らないよ! ただ……、成り行きで……」
蒼はいたたまれなくなってうつむいた。天使に呪われ、訳も分からず死地におくりこまれたなど情けなくて到底口にできない。
「はっ、女神たちはどうしようもないな。こんなの送り込んで何がしたいんだ? 俺はな、上位神の力を受けながら実験をしてるんだよ。実際電子浮岩城だって女神レベルの攻撃なら復活できただろ? これがお前らの限界ってわけさ」
くぅぅぅ……。
蒼は静かな絶望に包まれ、ゆっくりと首を振る。レヴィアが放った、あの凄まじい攻撃でさえも無力なのだ。上位神の力とはもはや理不尽にしか見えない。
「見たまえ! この電子浮岩城の風格を! 直線を基調としたシンプルで力強い造形……美しいとは思わんかね?」
超巨大な漆黒の一枚岩に入る青く輝くスリット群。そして時折、ポーンという電子音とともに漆黒の表面を、赤や黄色の波紋が水面のように同心円を描きながら広がっていく。
「これこそが新しい世界の象徴、お前ら旧世界の連中を一掃し、これからこの電子浮岩城を中心とする新世界が始まるのだ!」
サイノンは得意げに、興奮と誇りに満ちた声で叫んだ。
蒼はチラッとモノリスを見上げ、
「ただのでかい墓石だ……」
とつぶやき、深く大きくため息をつく。
サイノンは急に真顔になるとキッと蒼をにらんだ。
「まぁ、もう死ぬ君たちと話しても無意味だがな」
そう言うとジャケットの内ポケットから、漆黒の拳銃を静かに取り出し、蒼に銃口を向けた。その銃は電子浮岩城と同じ素材のように見え、艶消しの黒が周囲のあらゆる光を呑み込んでいる。部品の継ぎ目からは、鮮やかな青い光が漏れ、サイノンが蒼をニヤリとにらむと、その光がいっそう一層、不気味な輝きを放った。
慌てて振り返ると、無表情のムーシュが硝煙の上がる拳銃を持ち、ボーっと突っ立っている。
「ム、ムーシュ……? ど、どういうことだ……?」
理解し難い展開に、蒼の顔には驚愕と困惑が浮かび、眉間には深い皺が刻まれた。
だが、ムーシュは無言のまま、冷酷にも銃口を蒼に向ける。
「お前……止めろよ?」
蒼はずさりしながらムーシュの目を鋭く見据えた。
真紅の瞳を大きく見開きながらガタガタと身を震わせるムーシュ。
漆黒の拳銃の撃鉄がガチャリと起こされ、緊迫が最高潮に達した……。
ゴクリとのどを鳴らす蒼。
しかし、ムーシュは身を震わせるばかりだった。
突如、ムーシュが唇を開き、言葉を放つ。
「なんだ、こいつは奴隷なのか。役に立たねぇなぁ!」
ムーシュはそう言いながら、糸の切れた操り人形のようにガクリとひざを折って崩れた。
「ム、ムーシュぅ!」
蒼は慌てて駆け寄り、ムーシュの崩れ落ちる身体を受け止めた。今の邪悪な言葉は、サイノンに違いない。サイノンがムーシュの身体を乗っ取り、レヴィアを冷酷に撃ち抜いたのだ。
サイノン討伐は失敗し、レヴィアも失われたという受け入れがたい現実が蒼の心を切り裂き、深い絶望をもたらす。
「に、逃げなきゃ……」
顔面蒼白の蒼は、逃走方法を必死に考える。しかし、レヴィアなき今、この空間を脱出する方法など分かりようがない。蒼の前には果てしない荒れ地が、ただ無情に広がっているだけだった。
死の冷たい恐怖が、蒼の胸を鋭い爪で掴むように襲う。神の力を操るサイノンになど到底勝てるわけがないし、逃げる方法も分からない。蒼に残されたのは、静かな絶望と共に迫る死のみだった。
くぅぅぅ……。
じわっと悪い汗が湧いてくる。
「ま、マズいぞ、ムーシュ! おい、ムーシュぅ!!」
蒼はムーシュを揺り動かす。しかし、ムーシュは身体を乗っ取られた後遺症か、ぼーっと心ここにあらずという感じで虚空を見つめている。
ヴォン!
不穏な電子音が荒野を裂くように響き渡った。
突如として現れたのは、巨大な石版。その漆黒に輝く石版が天を塞ぐように立ちはだかり、蒼は恐れと畏怖に打ちのめされ、言葉を失い後ずさる。
太陽を覆い隠しながら近づいてくるその巨大構造物は、まさに悪を煮詰めたようなすさまじい禍々しさを放ちながら蒼を圧倒した。
『はーっはっはっは! どうかね我が電子浮岩城は? ん?』
自己陶酔に浸る中年男の声が、荒れ野に響き渡る。
絶望が蒼の心を包み込む。蒼の目の前に広がる漆黒の壁は、地獄からの招待状のように、彼の言葉を奪った。
直後、ピュン! という電子音が空間を切り裂くように響き、電子浮岩城から閃光が放たれた。
ズン! と大地を揺るがす衝撃が走り、土煙が舞い上がる。
蒼は腕で顔を覆いながら険しい目でその煙をにらんだ。
土煙が風に流される中からグレーのジャケットを纏った、ひょろりとした中年の男が姿を現す。彼の眼鏡越しの目は狡猾な笑みを浮かべながら、蒼に向かってゆるやかに手を挙げた。
「やぁやぁ、女神の手先の諸君、ご苦労。だが……、ドラゴンは死んだぞ? お前らは何を見せてくれるんだ? ん?」
蒼の心臓が早鐘を打つ中、サイノンがツカツカと距離を詰めてきた。震える手で鑑定を試みるも、その結果は予想通り――――レヴィアと同じ、突き抜けるような高レベル。勝てるはずがないという現実が、蒼の胸を苛烈に打ちのめした。
「お、お前はなぜこんなことをやっているんだ? 何百年もやって砂漠しか作れないような運営は明らかに失敗じゃないか!」
一生懸命に言葉を紡ぐ蒼だったが、サイノンはどこか虚空を見つめながら、それをまるで聞こえてないように無視した。
「んー? お前、日本出身の呪われた転生者……こんなところで何やってんだ?」
蒼のデータをのぞきこみ、けげんそうに首をひねるサイノン。
「し、知らないよ! ただ……、成り行きで……」
蒼はいたたまれなくなってうつむいた。天使に呪われ、訳も分からず死地におくりこまれたなど情けなくて到底口にできない。
「はっ、女神たちはどうしようもないな。こんなの送り込んで何がしたいんだ? 俺はな、上位神の力を受けながら実験をしてるんだよ。実際電子浮岩城だって女神レベルの攻撃なら復活できただろ? これがお前らの限界ってわけさ」
くぅぅぅ……。
蒼は静かな絶望に包まれ、ゆっくりと首を振る。レヴィアが放った、あの凄まじい攻撃でさえも無力なのだ。上位神の力とはもはや理不尽にしか見えない。
「見たまえ! この電子浮岩城の風格を! 直線を基調としたシンプルで力強い造形……美しいとは思わんかね?」
超巨大な漆黒の一枚岩に入る青く輝くスリット群。そして時折、ポーンという電子音とともに漆黒の表面を、赤や黄色の波紋が水面のように同心円を描きながら広がっていく。
「これこそが新しい世界の象徴、お前ら旧世界の連中を一掃し、これからこの電子浮岩城を中心とする新世界が始まるのだ!」
サイノンは得意げに、興奮と誇りに満ちた声で叫んだ。
蒼はチラッとモノリスを見上げ、
「ただのでかい墓石だ……」
とつぶやき、深く大きくため息をつく。
サイノンは急に真顔になるとキッと蒼をにらんだ。
「まぁ、もう死ぬ君たちと話しても無意味だがな」
そう言うとジャケットの内ポケットから、漆黒の拳銃を静かに取り出し、蒼に銃口を向けた。その銃は電子浮岩城と同じ素材のように見え、艶消しの黒が周囲のあらゆる光を呑み込んでいる。部品の継ぎ目からは、鮮やかな青い光が漏れ、サイノンが蒼をニヤリとにらむと、その光がいっそう一層、不気味な輝きを放った。
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