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41. 乾いた破裂音
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「あれ? ここ?」
荒涼とした風景が目前に広がり、蒼は困惑する。来る前に聞いていた生命溢れる大森林は、今や冷たい岩肌と砂に覆われた荒地へと姿を変えていた。
「なんじゃ、これは……?」「えっ……?」
後からやってきたレヴィアとムーシュも、予期せぬ状況に戸惑いの色を浮かべている。
「ここで間違いないの?」
「ちぃと待ってろ」
レヴィアは手近な岩をゴリっと削るとその表面をなでていく。すると、文字が浮き出て上の方へと流れていった。岩面がパソコン画面のようになったのだ。
「うーん、間違いは無いようじゃな。どうやら奴の運営が失敗しているっぽいのう」
「たった数十年でこんなになっちゃうものかな?」
「いやいや、ここは時間の流れが速いからもう数百年は経ってるじゃろ」
「えっ!? そんなことってあるの?」
「処理する量が少なきゃ次々と時間は流れる。これだけ人口が少なければ相当速く流れるじゃろうな」
人の数によって紡がれる時間の流れが変わるというこの世界を織り成す不思議な構造に、蒼は驚きとともに深い困惑を覚えた。
「世界の運営をなめとるからじゃ。バカめが……」
レヴィアは岩面に手を走らせ、浮かび上がる文字やグラフを食い入るように見つめながら、必死に何かを追い求める。
ボーっと画面を見つめる蒼の後ろから近づいたムーシュは、嬉しそうに蒼を抱き上げる。
「もうすぐ主様の呪いも解けるんですね」
「まだ分かんないけどね」
蒼は苦笑する。レヴィアは自信満々だが、本当にサイノンを倒せるかどうかなんて蒼には分かりようがなかった。それに、わざわざ自分を同行させたシアンの意図がいまだに分からず、不安を駆り立てる。
「上手くいったらムーシュが羊の丸焼きご馳走しますよ! 魔王城の美味しいお店知ってるんですから!」
ムーシュは蒼をキュッと抱きしめると、喜びに身を任せて軽やかに左右に揺れ動いた。
「あー、あまり死亡フラグ立てないで……」
「死亡フラグ? 何ですかそれ?」
「物語では、決戦の前に成功した時のことを言った人は死んじゃうんだよ」
「きゃははは! これは物語じゃなくて現実ですから、大丈夫ですよぉ」
ムーシュは幸せを噛みしめるように、蒼の柔らかなほっぺたに頬を寄せた。
「あれ……? なんか主様今日は柔らかいですね」
蒼は息を呑む。否応なしに自分の中で進行する若返りの恐怖が、背筋をゾクッと走った。
「大丈夫! サイノン倒して呪いは解いてもらうんだから!」
ムーシュを引き剥がし、ぴょんと軽快に地面に跳び降りる。だが、その躍動感の裏では、冷え冷えとした不安が心を蝕むように渦巻いていた。
◇
「よーし、見つけたぞ! ターゲットロックオン!」
レヴィアが岩面をパシパシ叩きながら顔を輝かせ、嬉しそうに声を上げた。
岩面を覗き込むとそこには宙に浮かぶ石板が不気味に揺らめく映像が映っていた。その邪悪に満ちた造形は、言葉では言い表せない何か異様なオーラを放っている。サイノンの狂気が具現化したかのようなその光景は、蒼が予想していたものを遥かに超える禍々しさで、彼の心の奥底に名状しがたい恐怖を呼び覚ます。
「地軸補正ヨシ! 効果最大! セキュリティロック解除!」
レヴィアは迷いのない手つきで画面を操り、その眼差しは集中の色を深めていった。
運命の瞬間が近づいている……。蒼は緊張で震える指先でムーシュの腕をギュッと掴み、ゴクリと喉を鳴らした。
レヴィアはチラッと蒼を見る。
「俺でお主も卒業じゃ! よう見とけ!」
蒼は静かにうなずくとキュッと口を結び、大きく深呼吸をしてその時を待った。
「死にさらせーー!」
レヴィアは真紅の瞳をキラリと輝かせると、激しい熱情を隠さず岩面をバシッと叩く。
刹那、遠くの空に一筋の漆黒の柱がシュッと立ち上った。
衛星軌道より撃ち下ろされた、空間をえぐる特殊攻撃が一瞬のうちに石板を貫き、石板は両端を残し、漆黒の円柱に飲み込まれてこの世界から消し飛んだ。
ズン!
石板の両端は爆発炎上しながらゆっくりと崩落し、最後には焼け爛れた遺骸が荒地に墜落して天を裂くような大爆発を起こした。世界を震わせる衝撃波が白い繭のように広がっていき、凄絶な力でキノコ雲を天に向かって噴き上げていく。
「ヨシ! ざまぁみろ! おたんこなすがぁ!」
閃光が地平線を裂く中、レヴィアは力強く拳を高く掲げ、心からの歓喜をその身全体で表現した。
「おぉ! これでミッションコンプリートだね。やったぁ!」
蒼は無邪気さを湛えた瞳で、小さな可憐な手を振り上げ軽やかに跳ねた。
パン!
その時、予期せぬ乾いた破裂音が荒れ地に鋭く、そして不穏に響き渡る。
ぐふっ!
目を大きく見開き、レヴィアは胸を押さえながら凍りつく。
直後、レヴィアの胸元から押さえきれぬ闇が湧き上がった。漆黒の触手がイソギンチャクのようにウネウネと吹きだしてきて、あっという間にレヴィアを包み込んでしまう。
あわわわわ……。
あまりのことに言葉を失った蒼は恐怖に震えながら後ずさりし、首を振る。
漆黒の塊と化したレヴィアはシューっと蒸気を上げながらすぅっと消えていってしまった。
荒涼とした風景が目前に広がり、蒼は困惑する。来る前に聞いていた生命溢れる大森林は、今や冷たい岩肌と砂に覆われた荒地へと姿を変えていた。
「なんじゃ、これは……?」「えっ……?」
後からやってきたレヴィアとムーシュも、予期せぬ状況に戸惑いの色を浮かべている。
「ここで間違いないの?」
「ちぃと待ってろ」
レヴィアは手近な岩をゴリっと削るとその表面をなでていく。すると、文字が浮き出て上の方へと流れていった。岩面がパソコン画面のようになったのだ。
「うーん、間違いは無いようじゃな。どうやら奴の運営が失敗しているっぽいのう」
「たった数十年でこんなになっちゃうものかな?」
「いやいや、ここは時間の流れが速いからもう数百年は経ってるじゃろ」
「えっ!? そんなことってあるの?」
「処理する量が少なきゃ次々と時間は流れる。これだけ人口が少なければ相当速く流れるじゃろうな」
人の数によって紡がれる時間の流れが変わるというこの世界を織り成す不思議な構造に、蒼は驚きとともに深い困惑を覚えた。
「世界の運営をなめとるからじゃ。バカめが……」
レヴィアは岩面に手を走らせ、浮かび上がる文字やグラフを食い入るように見つめながら、必死に何かを追い求める。
ボーっと画面を見つめる蒼の後ろから近づいたムーシュは、嬉しそうに蒼を抱き上げる。
「もうすぐ主様の呪いも解けるんですね」
「まだ分かんないけどね」
蒼は苦笑する。レヴィアは自信満々だが、本当にサイノンを倒せるかどうかなんて蒼には分かりようがなかった。それに、わざわざ自分を同行させたシアンの意図がいまだに分からず、不安を駆り立てる。
「上手くいったらムーシュが羊の丸焼きご馳走しますよ! 魔王城の美味しいお店知ってるんですから!」
ムーシュは蒼をキュッと抱きしめると、喜びに身を任せて軽やかに左右に揺れ動いた。
「あー、あまり死亡フラグ立てないで……」
「死亡フラグ? 何ですかそれ?」
「物語では、決戦の前に成功した時のことを言った人は死んじゃうんだよ」
「きゃははは! これは物語じゃなくて現実ですから、大丈夫ですよぉ」
ムーシュは幸せを噛みしめるように、蒼の柔らかなほっぺたに頬を寄せた。
「あれ……? なんか主様今日は柔らかいですね」
蒼は息を呑む。否応なしに自分の中で進行する若返りの恐怖が、背筋をゾクッと走った。
「大丈夫! サイノン倒して呪いは解いてもらうんだから!」
ムーシュを引き剥がし、ぴょんと軽快に地面に跳び降りる。だが、その躍動感の裏では、冷え冷えとした不安が心を蝕むように渦巻いていた。
◇
「よーし、見つけたぞ! ターゲットロックオン!」
レヴィアが岩面をパシパシ叩きながら顔を輝かせ、嬉しそうに声を上げた。
岩面を覗き込むとそこには宙に浮かぶ石板が不気味に揺らめく映像が映っていた。その邪悪に満ちた造形は、言葉では言い表せない何か異様なオーラを放っている。サイノンの狂気が具現化したかのようなその光景は、蒼が予想していたものを遥かに超える禍々しさで、彼の心の奥底に名状しがたい恐怖を呼び覚ます。
「地軸補正ヨシ! 効果最大! セキュリティロック解除!」
レヴィアは迷いのない手つきで画面を操り、その眼差しは集中の色を深めていった。
運命の瞬間が近づいている……。蒼は緊張で震える指先でムーシュの腕をギュッと掴み、ゴクリと喉を鳴らした。
レヴィアはチラッと蒼を見る。
「俺でお主も卒業じゃ! よう見とけ!」
蒼は静かにうなずくとキュッと口を結び、大きく深呼吸をしてその時を待った。
「死にさらせーー!」
レヴィアは真紅の瞳をキラリと輝かせると、激しい熱情を隠さず岩面をバシッと叩く。
刹那、遠くの空に一筋の漆黒の柱がシュッと立ち上った。
衛星軌道より撃ち下ろされた、空間をえぐる特殊攻撃が一瞬のうちに石板を貫き、石板は両端を残し、漆黒の円柱に飲み込まれてこの世界から消し飛んだ。
ズン!
石板の両端は爆発炎上しながらゆっくりと崩落し、最後には焼け爛れた遺骸が荒地に墜落して天を裂くような大爆発を起こした。世界を震わせる衝撃波が白い繭のように広がっていき、凄絶な力でキノコ雲を天に向かって噴き上げていく。
「ヨシ! ざまぁみろ! おたんこなすがぁ!」
閃光が地平線を裂く中、レヴィアは力強く拳を高く掲げ、心からの歓喜をその身全体で表現した。
「おぉ! これでミッションコンプリートだね。やったぁ!」
蒼は無邪気さを湛えた瞳で、小さな可憐な手を振り上げ軽やかに跳ねた。
パン!
その時、予期せぬ乾いた破裂音が荒れ地に鋭く、そして不穏に響き渡る。
ぐふっ!
目を大きく見開き、レヴィアは胸を押さえながら凍りつく。
直後、レヴィアの胸元から押さえきれぬ闇が湧き上がった。漆黒の触手がイソギンチャクのようにウネウネと吹きだしてきて、あっという間にレヴィアを包み込んでしまう。
あわわわわ……。
あまりのことに言葉を失った蒼は恐怖に震えながら後ずさりし、首を振る。
漆黒の塊と化したレヴィアはシューっと蒸気を上げながらすぅっと消えていってしまった。
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