異世界最速の魔王討伐 ~転生幼女と美少女奴隷の隠されたミッション~

月城 友麻

文字の大きさ
上 下
41 / 64

41. 乾いた破裂音

しおりを挟む
「あれ? ここ?」

 荒涼とした風景が目前に広がり、蒼は困惑する。来る前に聞いていた生命溢れる大森林は、今や冷たい岩肌と砂に覆われた荒地へと姿を変えていた。

「なんじゃ、これは……?」「えっ……?」

 後からやってきたレヴィアとムーシュも、予期せぬ状況に戸惑いの色を浮かべている。

「ここで間違いないの?」

「ちぃと待ってろ」

 レヴィアは手近な岩をゴリっと削るとその表面をなでていく。すると、文字が浮き出て上の方へと流れていった。岩面がパソコン画面のようになったのだ。

「うーん、間違いは無いようじゃな。どうやら奴の運営が失敗しているっぽいのう」

「たった数十年でこんなになっちゃうものかな?」

「いやいや、ここは時間の流れが速いからもう数百年は経ってるじゃろ」

「えっ!? そんなことってあるの?」

「処理する量が少なきゃ次々と時間は流れる。これだけ人口が少なければ相当速く流れるじゃろうな」

 人の数によって紡がれる時間の流れが変わるというこの世界を織り成す不思議な構造に、蒼は驚きとともに深い困惑を覚えた。

「世界の運営をなめとるからじゃ。バカめが……」

 レヴィアは岩面に手を走らせ、浮かび上がる文字やグラフを食い入るように見つめながら、必死に何かを追い求める。

 ボーっと画面を見つめる蒼の後ろから近づいたムーシュは、嬉しそうに蒼を抱き上げる。

「もうすぐ主様の呪いも解けるんですね」

「まだ分かんないけどね」

 蒼は苦笑する。レヴィアは自信満々だが、本当にサイノンを倒せるかどうかなんて蒼には分かりようがなかった。それに、わざわざ自分を同行させたシアンの意図がいまだに分からず、不安を駆り立てる。

「上手くいったらムーシュが羊の丸焼きご馳走しますよ! 魔王城の美味しいお店知ってるんですから!」

 ムーシュは蒼をキュッと抱きしめると、喜びに身を任せて軽やかに左右に揺れ動いた。

「あー、あまり死亡フラグ立てないで……」

「死亡フラグ? 何ですかそれ?」

「物語では、決戦の前に成功した時のことを言った人は死んじゃうんだよ」

「きゃははは! これは物語じゃなくて現実ですから、大丈夫ですよぉ」

 ムーシュは幸せを噛みしめるように、蒼の柔らかなほっぺたに頬を寄せた。

「あれ……? なんか主様今日は柔らかいですね」

 蒼は息を呑む。否応なしに自分の中で進行する若返りの恐怖が、背筋をゾクッと走った。

「大丈夫! サイノン倒して呪いは解いてもらうんだから!」

 ムーシュを引き剥がし、ぴょんと軽快に地面に跳び降りる。だが、その躍動感の裏では、冷え冷えとした不安が心を蝕むように渦巻いていた。


       ◇


「よーし、見つけたぞ! ターゲットロックオン!」

 レヴィアが岩面をパシパシ叩きながら顔を輝かせ、嬉しそうに声を上げた。

 岩面を覗き込むとそこには宙に浮かぶ石板モノリスが不気味に揺らめく映像が映っていた。その邪悪に満ちた造形は、言葉では言い表せない何か異様なオーラを放っている。サイノンの狂気が具現化したかのようなその光景は、蒼が予想していたものを遥かに超える禍々しさで、彼の心の奥底に名状しがたい恐怖を呼び覚ます。

「地軸補正ヨシ! 効果最大! セキュリティロック解除!」

 レヴィアは迷いのない手つきで画面を操り、その眼差しは集中の色を深めていった。

 運命の瞬間が近づいている……。蒼は緊張で震える指先でムーシュの腕をギュッと掴み、ゴクリと喉を鳴らした。

 レヴィアはチラッと蒼を見る。

「俺でお主も卒業じゃ! よう見とけ!」

 蒼は静かにうなずくとキュッと口を結び、大きく深呼吸をしてその時を待った。

「死にさらせーー!」

 レヴィアは真紅の瞳をキラリと輝かせると、激しい熱情を隠さず岩面をバシッと叩く。

 刹那、遠くの空に一筋の漆黒の柱がシュッと立ち上った。

 衛星軌道より撃ち下ろされた、空間をえぐる特殊攻撃が一瞬のうちに石板モノリスを貫き、石板モノリスは両端を残し、漆黒の円柱に飲み込まれてこの世界から消し飛んだ。


 ズン!

 石板モノリスの両端は爆発炎上しながらゆっくりと崩落し、最後には焼け爛れた遺骸が荒地に墜落して天を裂くような大爆発を起こした。世界を震わせる衝撃波が白い繭のように広がっていき、凄絶な力でキノコ雲を天に向かって噴き上げていく。

「ヨシ! ざまぁみろ! おたんこなすがぁ!」

 閃光が地平線を裂く中、レヴィアは力強く拳を高く掲げ、心からの歓喜をその身全体で表現した。

「おぉ! これでミッションコンプリートだね。やったぁ!」

 蒼は無邪気さを湛えた瞳で、小さな可憐な手を振り上げ軽やかに跳ねた。

 パン!

 その時、予期せぬ乾いた破裂音が荒れ地に鋭く、そして不穏に響き渡る。

 ぐふっ!

 目を大きく見開き、レヴィアは胸を押さえながら凍りつく。

 直後、レヴィアの胸元から押さえきれぬ闇が湧き上がった。漆黒の触手がイソギンチャクのようにウネウネと吹きだしてきて、あっという間にレヴィアを包み込んでしまう。

 あわわわわ……。

 あまりのことに言葉を失った蒼は恐怖に震えながら後ずさりし、首を振る。

 漆黒の塊と化したレヴィアはシューっと蒸気を上げながらすぅっと消えていってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

異世界転生者〜バケモノ級ダンジョンの攻略〜

海月 結城
ファンタジー
私こと、佐賀 花蓮が地球で、建設途中だったビルの近くを歩いてる時に上から降ってきた柱に押しつぶされて死に、この世界最強の2人、賢王マーリンと剣王アーサーにカレンとして転生してすぐに拾われた。そこから、厳しい訓練という試練が始まり、あらゆるものを吸収していったカレンが最後の試練だと言われ、世界最難関のダンジョンに挑む、異世界転生ダンジョン攻略物語である。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...