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35. 女神の秘密
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夕日が鮮やかに赤く空を染め上げながら、穏やかに地平線へと姿を消し、夕闇が静かにこの世界を彩り始める。
夕暮れの空が繊細なグラデーションで彩られる中、レヴィアは真紅の瞳でその絶景を見つめながら、自らの長い苦闘の日々をポツリポツリと語った。
元々、女神の眷属としてこの地上に創造されたレヴィアはこの世界の管理を手伝い、魔物、魔人、魔法を生み出すなど、この世界に活気をもたらす仕事をしていた。
それから千年もの間、大陸は魔王を中心とする世界と人間が支配する世界で二分され、お互いに切磋琢磨を繰り返しながら徐々に文化文明が栄えていくことになる。しかし、王国も魔王軍も旧態依然とした利権構造がはびこり、徐々に活気が落ち、文化文明の進歩が止まってしまう。
これを問題視した女神はエンジニアの若い男【サイノン】を管理者として派遣した。サイノンは神殿に新しい魔法を提供したり、王族に働きかけて若者の重用を促進したり精力的に活動を行っていく。しかし、効果が出たのは最初だけ、その後はどんな施策を施しても神殿はのらりくらりと言うことを聞かず、王族は裏切り、むしろ活気は落ちる一方だった。
サイノンの絶望は深く、しばらく失踪してしまうこととなる。そして数十年前、いきなりレヴィアの前に現れたのだった。
◇
月夜のきれいな晩のこと、火山の火口付近に作られた洞窟内の拠点で、レヴィアはまどろんでいた。洞窟内と言っても広く掘りあげ、大理石でできた大広間は壮麗で居心地のよい空間となっている。ソファで大あくびをするレヴィアがそろそろ寝ようかと思っていると、ズン! という重い衝撃音とともに地面が揺れた。
「な、何じゃあ!?」
レヴィアが慌てて立ち上がると、いきなり広間の扉を蹴破って誰かが入ってくる。
「やぁレヴィア、久しぶりだな」
サイノンだった。サイノンは白シャツにグレーのジャケットを羽織ってさっぱりとした顔で手を振りながら近づいてくる。
「なんじゃお主! 随分乱暴じゃな……。今までどこ行っとったんじゃ!」
レヴィアは真紅の瞳を光らせ、冷たい稲妻を走らせるかのようににらんだ。
「ゴメンゴメン。俺さぁ、新しい世界を作ることにしたんだ」
悪びれもせず、サイノンはにこやかにとんでもない事を言い出す。
「は? この世界も上手くいっとらんのに新しい世界じゃと? そもそもそんなことは女神様の仕事、お主の権限を外れとるぞ」
「それだよ。女神が設計したからこの世界はイケてないんだ。俺が正解という奴を見せてやるよ。でだ、レヴィアも手伝ってくれないか?」
サイノンは怪しい詐欺師のように両手を前に開き、薄気味悪い微笑を浮かべた。
「……。それは女神様の許可を得てるのか?」
「なぜ許可を取る必要があるんだ? この宇宙は成功した者の勝ちだろ? 一緒に出し抜いてやろうぜ」
サイノンの口から零れる女神への冒涜に、怒りが沸々と湧き上がってくるレヴィア。自分たち生み出し、守り続けてくれていた聖なる女神への冒涜は許しがたいものがある。
「話しにならん。お主は研修生からやり直せ!」
「ほう? せっかくのこの俺様の提案を断るのかい?」
「お主は優秀かもしれん。じゃが、優秀なだけじゃ。成果は優秀さが紡げるようなものではないぞ?」
レヴィアは諫めるが、サイノンは軽蔑の表情を浮かべながら、肩をすくめ首を振る。
「お説教ならこれを見てからにしてほしいね」
そう言いながらサイノンはパチンと指を鳴らした。
刹那、サイノンの後ろ側の空間が斜めにスパッと切り裂かれる。
へっ!?
レヴィアが目を白黒させていると、広間はズズズズ……と断層のようにずれていき、やがて崩落していく。そして、眩しい太陽が突如として広間を満たし、鮮やかな青空、茂り盛った森、そして遠くに輝く海が視界に飛び込んできた。月明かりに照らされた火山の洞窟は、今、明るく、力強い自然の美しさの中に浮かんでいた。
「き、貴様……、何をやった……?」
その信じがたい事態に、レヴィアは額に冷汗を滲ませサイノンをにらむ。
「言っただろ? これが俺の新しい世界だよ」
サイノンは自慢げにほほ笑むとゆったり両手を広げた。
「あ、ありえんぞ……。お主どこにこんなの作ったんじゃ!?」
「ははっ、世界の裏側だよ。女神たちもこれは見つけられまい」
レヴィアはがく然とする。世界に裏などない。あるとすればサイノンが怪しい技術を使って強引に作り上げたということになるが、それは宇宙を揺るがす一大事だった。
「う、裏側……。表の世界のリソースを偽装して勝手に流用してるって……ことか?」
「そう。まぁバグ技だね。もし、ここの存在に感づいても入ってくることもできないし、入って来れても力は発現できない。くふふふ……まさに完璧な計画だろ?」
自画自賛するサイノンはほくそえんで、邪悪に心を躍らせる。
レヴィアはそんな自己陶酔するサイノンに悪寒を覚え、ブルっと震えた。
「こ、こんなことしたって無駄じゃぞ! なんだかんだ言ってもリソースの根源は女神様が押さえておられる。そこを絞ればここも終わりじゃ!」
「そう、そこだよ! レヴィア君! 君は女神とは何か考えたことはあるかね? ん?」
レヴィアはいきなりの根源的な質問に虚を突かれた。
「め、女神様が何か……って? え、えーと……、多くの世界を創られた創造神……じゃろ?」
「カーーッ! 分かってない。女神がポンッ! と、どこからか生まれ出て世界を作っただなんて確率的にはありえんだろ?」
「どういう……ことじゃ?」
レヴィアは今まで考えたこともなかった女神の存在についての話に、驚きと混乱を抱え込む。
「女神よりさらに上位の神が必ずいるって事さ!」
サイノンは自慢げに言い放つ。彼の瞳に閃く不動の確信は、レヴィアを深い混乱へと陥れていった。
夕暮れの空が繊細なグラデーションで彩られる中、レヴィアは真紅の瞳でその絶景を見つめながら、自らの長い苦闘の日々をポツリポツリと語った。
元々、女神の眷属としてこの地上に創造されたレヴィアはこの世界の管理を手伝い、魔物、魔人、魔法を生み出すなど、この世界に活気をもたらす仕事をしていた。
それから千年もの間、大陸は魔王を中心とする世界と人間が支配する世界で二分され、お互いに切磋琢磨を繰り返しながら徐々に文化文明が栄えていくことになる。しかし、王国も魔王軍も旧態依然とした利権構造がはびこり、徐々に活気が落ち、文化文明の進歩が止まってしまう。
これを問題視した女神はエンジニアの若い男【サイノン】を管理者として派遣した。サイノンは神殿に新しい魔法を提供したり、王族に働きかけて若者の重用を促進したり精力的に活動を行っていく。しかし、効果が出たのは最初だけ、その後はどんな施策を施しても神殿はのらりくらりと言うことを聞かず、王族は裏切り、むしろ活気は落ちる一方だった。
サイノンの絶望は深く、しばらく失踪してしまうこととなる。そして数十年前、いきなりレヴィアの前に現れたのだった。
◇
月夜のきれいな晩のこと、火山の火口付近に作られた洞窟内の拠点で、レヴィアはまどろんでいた。洞窟内と言っても広く掘りあげ、大理石でできた大広間は壮麗で居心地のよい空間となっている。ソファで大あくびをするレヴィアがそろそろ寝ようかと思っていると、ズン! という重い衝撃音とともに地面が揺れた。
「な、何じゃあ!?」
レヴィアが慌てて立ち上がると、いきなり広間の扉を蹴破って誰かが入ってくる。
「やぁレヴィア、久しぶりだな」
サイノンだった。サイノンは白シャツにグレーのジャケットを羽織ってさっぱりとした顔で手を振りながら近づいてくる。
「なんじゃお主! 随分乱暴じゃな……。今までどこ行っとったんじゃ!」
レヴィアは真紅の瞳を光らせ、冷たい稲妻を走らせるかのようににらんだ。
「ゴメンゴメン。俺さぁ、新しい世界を作ることにしたんだ」
悪びれもせず、サイノンはにこやかにとんでもない事を言い出す。
「は? この世界も上手くいっとらんのに新しい世界じゃと? そもそもそんなことは女神様の仕事、お主の権限を外れとるぞ」
「それだよ。女神が設計したからこの世界はイケてないんだ。俺が正解という奴を見せてやるよ。でだ、レヴィアも手伝ってくれないか?」
サイノンは怪しい詐欺師のように両手を前に開き、薄気味悪い微笑を浮かべた。
「……。それは女神様の許可を得てるのか?」
「なぜ許可を取る必要があるんだ? この宇宙は成功した者の勝ちだろ? 一緒に出し抜いてやろうぜ」
サイノンの口から零れる女神への冒涜に、怒りが沸々と湧き上がってくるレヴィア。自分たち生み出し、守り続けてくれていた聖なる女神への冒涜は許しがたいものがある。
「話しにならん。お主は研修生からやり直せ!」
「ほう? せっかくのこの俺様の提案を断るのかい?」
「お主は優秀かもしれん。じゃが、優秀なだけじゃ。成果は優秀さが紡げるようなものではないぞ?」
レヴィアは諫めるが、サイノンは軽蔑の表情を浮かべながら、肩をすくめ首を振る。
「お説教ならこれを見てからにしてほしいね」
そう言いながらサイノンはパチンと指を鳴らした。
刹那、サイノンの後ろ側の空間が斜めにスパッと切り裂かれる。
へっ!?
レヴィアが目を白黒させていると、広間はズズズズ……と断層のようにずれていき、やがて崩落していく。そして、眩しい太陽が突如として広間を満たし、鮮やかな青空、茂り盛った森、そして遠くに輝く海が視界に飛び込んできた。月明かりに照らされた火山の洞窟は、今、明るく、力強い自然の美しさの中に浮かんでいた。
「き、貴様……、何をやった……?」
その信じがたい事態に、レヴィアは額に冷汗を滲ませサイノンをにらむ。
「言っただろ? これが俺の新しい世界だよ」
サイノンは自慢げにほほ笑むとゆったり両手を広げた。
「あ、ありえんぞ……。お主どこにこんなの作ったんじゃ!?」
「ははっ、世界の裏側だよ。女神たちもこれは見つけられまい」
レヴィアはがく然とする。世界に裏などない。あるとすればサイノンが怪しい技術を使って強引に作り上げたということになるが、それは宇宙を揺るがす一大事だった。
「う、裏側……。表の世界のリソースを偽装して勝手に流用してるって……ことか?」
「そう。まぁバグ技だね。もし、ここの存在に感づいても入ってくることもできないし、入って来れても力は発現できない。くふふふ……まさに完璧な計画だろ?」
自画自賛するサイノンはほくそえんで、邪悪に心を躍らせる。
レヴィアはそんな自己陶酔するサイノンに悪寒を覚え、ブルっと震えた。
「こ、こんなことしたって無駄じゃぞ! なんだかんだ言ってもリソースの根源は女神様が押さえておられる。そこを絞ればここも終わりじゃ!」
「そう、そこだよ! レヴィア君! 君は女神とは何か考えたことはあるかね? ん?」
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「どういう……ことじゃ?」
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