35 / 64
35. 女神の秘密
しおりを挟む
夕日が鮮やかに赤く空を染め上げながら、穏やかに地平線へと姿を消し、夕闇が静かにこの世界を彩り始める。
夕暮れの空が繊細なグラデーションで彩られる中、レヴィアは真紅の瞳でその絶景を見つめながら、自らの長い苦闘の日々をポツリポツリと語った。
元々、女神の眷属としてこの地上に創造されたレヴィアはこの世界の管理を手伝い、魔物、魔人、魔法を生み出すなど、この世界に活気をもたらす仕事をしていた。
それから千年もの間、大陸は魔王を中心とする世界と人間が支配する世界で二分され、お互いに切磋琢磨を繰り返しながら徐々に文化文明が栄えていくことになる。しかし、王国も魔王軍も旧態依然とした利権構造がはびこり、徐々に活気が落ち、文化文明の進歩が止まってしまう。
これを問題視した女神はエンジニアの若い男【サイノン】を管理者として派遣した。サイノンは神殿に新しい魔法を提供したり、王族に働きかけて若者の重用を促進したり精力的に活動を行っていく。しかし、効果が出たのは最初だけ、その後はどんな施策を施しても神殿はのらりくらりと言うことを聞かず、王族は裏切り、むしろ活気は落ちる一方だった。
サイノンの絶望は深く、しばらく失踪してしまうこととなる。そして数十年前、いきなりレヴィアの前に現れたのだった。
◇
月夜のきれいな晩のこと、火山の火口付近に作られた洞窟内の拠点で、レヴィアはまどろんでいた。洞窟内と言っても広く掘りあげ、大理石でできた大広間は壮麗で居心地のよい空間となっている。ソファで大あくびをするレヴィアがそろそろ寝ようかと思っていると、ズン! という重い衝撃音とともに地面が揺れた。
「な、何じゃあ!?」
レヴィアが慌てて立ち上がると、いきなり広間の扉を蹴破って誰かが入ってくる。
「やぁレヴィア、久しぶりだな」
サイノンだった。サイノンは白シャツにグレーのジャケットを羽織ってさっぱりとした顔で手を振りながら近づいてくる。
「なんじゃお主! 随分乱暴じゃな……。今までどこ行っとったんじゃ!」
レヴィアは真紅の瞳を光らせ、冷たい稲妻を走らせるかのようににらんだ。
「ゴメンゴメン。俺さぁ、新しい世界を作ることにしたんだ」
悪びれもせず、サイノンはにこやかにとんでもない事を言い出す。
「は? この世界も上手くいっとらんのに新しい世界じゃと? そもそもそんなことは女神様の仕事、お主の権限を外れとるぞ」
「それだよ。女神が設計したからこの世界はイケてないんだ。俺が正解という奴を見せてやるよ。でだ、レヴィアも手伝ってくれないか?」
サイノンは怪しい詐欺師のように両手を前に開き、薄気味悪い微笑を浮かべた。
「……。それは女神様の許可を得てるのか?」
「なぜ許可を取る必要があるんだ? この宇宙は成功した者の勝ちだろ? 一緒に出し抜いてやろうぜ」
サイノンの口から零れる女神への冒涜に、怒りが沸々と湧き上がってくるレヴィア。自分たち生み出し、守り続けてくれていた聖なる女神への冒涜は許しがたいものがある。
「話しにならん。お主は研修生からやり直せ!」
「ほう? せっかくのこの俺様の提案を断るのかい?」
「お主は優秀かもしれん。じゃが、優秀なだけじゃ。成果は優秀さが紡げるようなものではないぞ?」
レヴィアは諫めるが、サイノンは軽蔑の表情を浮かべながら、肩をすくめ首を振る。
「お説教ならこれを見てからにしてほしいね」
そう言いながらサイノンはパチンと指を鳴らした。
刹那、サイノンの後ろ側の空間が斜めにスパッと切り裂かれる。
へっ!?
レヴィアが目を白黒させていると、広間はズズズズ……と断層のようにずれていき、やがて崩落していく。そして、眩しい太陽が突如として広間を満たし、鮮やかな青空、茂り盛った森、そして遠くに輝く海が視界に飛び込んできた。月明かりに照らされた火山の洞窟は、今、明るく、力強い自然の美しさの中に浮かんでいた。
「き、貴様……、何をやった……?」
その信じがたい事態に、レヴィアは額に冷汗を滲ませサイノンをにらむ。
「言っただろ? これが俺の新しい世界だよ」
サイノンは自慢げにほほ笑むとゆったり両手を広げた。
「あ、ありえんぞ……。お主どこにこんなの作ったんじゃ!?」
「ははっ、世界の裏側だよ。女神たちもこれは見つけられまい」
レヴィアはがく然とする。世界に裏などない。あるとすればサイノンが怪しい技術を使って強引に作り上げたということになるが、それは宇宙を揺るがす一大事だった。
「う、裏側……。表の世界のリソースを偽装して勝手に流用してるって……ことか?」
「そう。まぁバグ技だね。もし、ここの存在に感づいても入ってくることもできないし、入って来れても力は発現できない。くふふふ……まさに完璧な計画だろ?」
自画自賛するサイノンはほくそえんで、邪悪に心を躍らせる。
レヴィアはそんな自己陶酔するサイノンに悪寒を覚え、ブルっと震えた。
「こ、こんなことしたって無駄じゃぞ! なんだかんだ言ってもリソースの根源は女神様が押さえておられる。そこを絞ればここも終わりじゃ!」
「そう、そこだよ! レヴィア君! 君は女神とは何か考えたことはあるかね? ん?」
レヴィアはいきなりの根源的な質問に虚を突かれた。
「め、女神様が何か……って? え、えーと……、多くの世界を創られた創造神……じゃろ?」
「カーーッ! 分かってない。女神がポンッ! と、どこからか生まれ出て世界を作っただなんて確率的にはありえんだろ?」
「どういう……ことじゃ?」
レヴィアは今まで考えたこともなかった女神の存在についての話に、驚きと混乱を抱え込む。
「女神よりさらに上位の神が必ずいるって事さ!」
サイノンは自慢げに言い放つ。彼の瞳に閃く不動の確信は、レヴィアを深い混乱へと陥れていった。
夕暮れの空が繊細なグラデーションで彩られる中、レヴィアは真紅の瞳でその絶景を見つめながら、自らの長い苦闘の日々をポツリポツリと語った。
元々、女神の眷属としてこの地上に創造されたレヴィアはこの世界の管理を手伝い、魔物、魔人、魔法を生み出すなど、この世界に活気をもたらす仕事をしていた。
それから千年もの間、大陸は魔王を中心とする世界と人間が支配する世界で二分され、お互いに切磋琢磨を繰り返しながら徐々に文化文明が栄えていくことになる。しかし、王国も魔王軍も旧態依然とした利権構造がはびこり、徐々に活気が落ち、文化文明の進歩が止まってしまう。
これを問題視した女神はエンジニアの若い男【サイノン】を管理者として派遣した。サイノンは神殿に新しい魔法を提供したり、王族に働きかけて若者の重用を促進したり精力的に活動を行っていく。しかし、効果が出たのは最初だけ、その後はどんな施策を施しても神殿はのらりくらりと言うことを聞かず、王族は裏切り、むしろ活気は落ちる一方だった。
サイノンの絶望は深く、しばらく失踪してしまうこととなる。そして数十年前、いきなりレヴィアの前に現れたのだった。
◇
月夜のきれいな晩のこと、火山の火口付近に作られた洞窟内の拠点で、レヴィアはまどろんでいた。洞窟内と言っても広く掘りあげ、大理石でできた大広間は壮麗で居心地のよい空間となっている。ソファで大あくびをするレヴィアがそろそろ寝ようかと思っていると、ズン! という重い衝撃音とともに地面が揺れた。
「な、何じゃあ!?」
レヴィアが慌てて立ち上がると、いきなり広間の扉を蹴破って誰かが入ってくる。
「やぁレヴィア、久しぶりだな」
サイノンだった。サイノンは白シャツにグレーのジャケットを羽織ってさっぱりとした顔で手を振りながら近づいてくる。
「なんじゃお主! 随分乱暴じゃな……。今までどこ行っとったんじゃ!」
レヴィアは真紅の瞳を光らせ、冷たい稲妻を走らせるかのようににらんだ。
「ゴメンゴメン。俺さぁ、新しい世界を作ることにしたんだ」
悪びれもせず、サイノンはにこやかにとんでもない事を言い出す。
「は? この世界も上手くいっとらんのに新しい世界じゃと? そもそもそんなことは女神様の仕事、お主の権限を外れとるぞ」
「それだよ。女神が設計したからこの世界はイケてないんだ。俺が正解という奴を見せてやるよ。でだ、レヴィアも手伝ってくれないか?」
サイノンは怪しい詐欺師のように両手を前に開き、薄気味悪い微笑を浮かべた。
「……。それは女神様の許可を得てるのか?」
「なぜ許可を取る必要があるんだ? この宇宙は成功した者の勝ちだろ? 一緒に出し抜いてやろうぜ」
サイノンの口から零れる女神への冒涜に、怒りが沸々と湧き上がってくるレヴィア。自分たち生み出し、守り続けてくれていた聖なる女神への冒涜は許しがたいものがある。
「話しにならん。お主は研修生からやり直せ!」
「ほう? せっかくのこの俺様の提案を断るのかい?」
「お主は優秀かもしれん。じゃが、優秀なだけじゃ。成果は優秀さが紡げるようなものではないぞ?」
レヴィアは諫めるが、サイノンは軽蔑の表情を浮かべながら、肩をすくめ首を振る。
「お説教ならこれを見てからにしてほしいね」
そう言いながらサイノンはパチンと指を鳴らした。
刹那、サイノンの後ろ側の空間が斜めにスパッと切り裂かれる。
へっ!?
レヴィアが目を白黒させていると、広間はズズズズ……と断層のようにずれていき、やがて崩落していく。そして、眩しい太陽が突如として広間を満たし、鮮やかな青空、茂り盛った森、そして遠くに輝く海が視界に飛び込んできた。月明かりに照らされた火山の洞窟は、今、明るく、力強い自然の美しさの中に浮かんでいた。
「き、貴様……、何をやった……?」
その信じがたい事態に、レヴィアは額に冷汗を滲ませサイノンをにらむ。
「言っただろ? これが俺の新しい世界だよ」
サイノンは自慢げにほほ笑むとゆったり両手を広げた。
「あ、ありえんぞ……。お主どこにこんなの作ったんじゃ!?」
「ははっ、世界の裏側だよ。女神たちもこれは見つけられまい」
レヴィアはがく然とする。世界に裏などない。あるとすればサイノンが怪しい技術を使って強引に作り上げたということになるが、それは宇宙を揺るがす一大事だった。
「う、裏側……。表の世界のリソースを偽装して勝手に流用してるって……ことか?」
「そう。まぁバグ技だね。もし、ここの存在に感づいても入ってくることもできないし、入って来れても力は発現できない。くふふふ……まさに完璧な計画だろ?」
自画自賛するサイノンはほくそえんで、邪悪に心を躍らせる。
レヴィアはそんな自己陶酔するサイノンに悪寒を覚え、ブルっと震えた。
「こ、こんなことしたって無駄じゃぞ! なんだかんだ言ってもリソースの根源は女神様が押さえておられる。そこを絞ればここも終わりじゃ!」
「そう、そこだよ! レヴィア君! 君は女神とは何か考えたことはあるかね? ん?」
レヴィアはいきなりの根源的な質問に虚を突かれた。
「め、女神様が何か……って? え、えーと……、多くの世界を創られた創造神……じゃろ?」
「カーーッ! 分かってない。女神がポンッ! と、どこからか生まれ出て世界を作っただなんて確率的にはありえんだろ?」
「どういう……ことじゃ?」
レヴィアは今まで考えたこともなかった女神の存在についての話に、驚きと混乱を抱え込む。
「女神よりさらに上位の神が必ずいるって事さ!」
サイノンは自慢げに言い放つ。彼の瞳に閃く不動の確信は、レヴィアを深い混乱へと陥れていった。
0
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
【完結】聖女戦記物語。結局、誰が聖女役?-魔法より武力と丈夫な体に自信があります-
ジェルミ
ファンタジー
聖女召喚再び。失敗したと誰もが思ったが、現れたのは….
17歳でこの世を去った本郷 武は異世界の女神から転移を誘われる。
だが転移先は魔物が闊歩し国が荒れていた。
それを収めるため、国始まって以来の聖女召喚を行った。
そして女と男が召喚された。
女は聖女ともてはやされ、男は用無しと蔑まれる。
しかし召喚に巻き込まれたと思われていた男こそ、聖女ではなく聖人だった。
国を逃げ出した男は死んだことになり、再び聖女召喚が始まる。
しかし、そこには…。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
この作品は嗜好が分かれる作品となるかと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる