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27. 大天使の碧い瞳
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翌朝、蒼は黙々と朝食を口に運びながら、思索に沈んでいた――――。
「ぬ、主様……、お茶要ります?」
ムーシュが恐る恐る声をかけると、蒼は覚悟を決めた目でムーシュを見あげた。
「おい、魔王城へ行くぞ」
「えっ! ついに魔王になられるんですか?」
ムーシュは真紅の目をキラキラと輝かせる。
「違う違う、情報収集だ。天使がムーシュの翼を治したってことは『どこかへ飛んで行け』ってことだろ? ムーシュが飛んでいけるところで一番怪しいのは魔王城じゃないか」
「まぁ……、そうですね? でも、せっかく行くなら魔王になりましょうよぉ」
ムーシュは蒼の手を取って説得にかかる。
「あのな? 僕らには時間が無いの! 日々小さくなってるんだぞ。そんなことやってる時間なんてある訳ないだろ!」
「そ、そうでしたね……」
「食べ終わったらすぐに発つぞ」
「えっ! そんなにすぐ?」
「何か問題でも? あっ、お前魔人に追われているんだっけ?」
蒼がお茶を飲みながら聞くと、ムーシュはもじもじしながら上目づかいで蒼を見る。
「あ、えーと……。こういうとアレなんですけど、あたしは魔王城だと無能の落ちこぼれ。誰も上級魔人を殺せるなんて思ってないので、すぐに潔白だと分かっちゃうんです……。だからそれは大丈夫」
「じゃあ何だ?」
「人気のお店のアップルパイをまだ食べてなかったので……」
ムーシュはペロッと舌を出した。
「……。即時出発! いいね?」
蒼はムーシュをビシッと指さし、鋭い眼差しで刃のように彼女を貫いた。
「アイアイサー!」
ムーシュはブルっと震えると焦って敬礼した。
◇
魔物狩りを装って荷馬車で近くの森まで乗せてもらった二人は、鬱蒼とした森の中へと入っていく。静寂が二人をやさしく包み込み、蒼は両手を広げると胸いっぱいに森の空気を吸い込んだ。
「ふぅ……。じゃあひとっ飛びヨロシク!」
蒼はムーシュに両手を伸ばした。
「はいはい、ムーシュは頑張りますよぉ……」
ムーシュは気乗りのしない声で蒼を抱き上げる。
「なんだ? 魔王城に帰りたくないのか?」
「……。せっかくSランク冒険者になったのに、魔王城に戻ったら無能の役立たず扱いなんですよねぇ」
「天声の羅針盤覚えたじゃないか」
「いつどうやって覚えたのかとか、また面倒くさいんですよぉ。しばらくは秘密にしておかないと……。はぁ……」
ムーシュは、翼を広げ、一瞬の静寂の後、力強いはばたきで森の静寂を切り裂く。次の瞬間、ふわっと舞い上がると、森の密集した木々の間を縫うように天へと飛びぬけていった。
眩しい青空には美味しそうな白い雲が浮かび、その影が美しいパッチワークを森に描き出す。爽快な風が軽やかに駆け抜け、鳥たちの優雅な舞と共に、自然の調べを奏でている。
「うーん、気持ちいいね」
蒼はブロンドをキラキラと陽の光に輝かせながら、久しぶりの空を舞う感触を全身で味わう。
「あのー、なんか軽々と飛べちゃうんですケド?」
ムーシュは翼を元気にはばたかせながら首を傾げる。
「だってお前、かなりレベルあがってるんだよ。FランクがCランクくらいまでには成長してる」
「えっ! そんなに!? じゃあ、どこまで速く飛べるか試してみますね」
ムーシュは力強く羽ばたき、グッと高度を上げていく。
「うわぁ、長旅なんだから無理しちゃダメだって!」
「大丈夫ですって! いっきますよぉ!」
ムーシュはキュッと口を結ぶと翼にグッと魔力を込める。直後、翼は紫色の輝きに包まれ速度が一気に上がっていく。
「そいやーっ!」
「うわぁぁぁ!」
こうして、二人は新しい希望を胸に秘め、一路、霞む地平線の先、魔王城目がけて翼を広げ、飛んでいった。残された時間はもう残り少ない。果たして天使の目論見通り蒼は世界を救えるのだろうか? はるかかなた上空の水瓶宮では碧い髪の大天使シアンがそんな二人の様子を追いかけていた。彼女の碧い瞳は神秘と知恵に満ち、その切なくも力強い眼差しは、地上の二人に寄り添うように静かに注がれていた。
「ぬ、主様……、お茶要ります?」
ムーシュが恐る恐る声をかけると、蒼は覚悟を決めた目でムーシュを見あげた。
「おい、魔王城へ行くぞ」
「えっ! ついに魔王になられるんですか?」
ムーシュは真紅の目をキラキラと輝かせる。
「違う違う、情報収集だ。天使がムーシュの翼を治したってことは『どこかへ飛んで行け』ってことだろ? ムーシュが飛んでいけるところで一番怪しいのは魔王城じゃないか」
「まぁ……、そうですね? でも、せっかく行くなら魔王になりましょうよぉ」
ムーシュは蒼の手を取って説得にかかる。
「あのな? 僕らには時間が無いの! 日々小さくなってるんだぞ。そんなことやってる時間なんてある訳ないだろ!」
「そ、そうでしたね……」
「食べ終わったらすぐに発つぞ」
「えっ! そんなにすぐ?」
「何か問題でも? あっ、お前魔人に追われているんだっけ?」
蒼がお茶を飲みながら聞くと、ムーシュはもじもじしながら上目づかいで蒼を見る。
「あ、えーと……。こういうとアレなんですけど、あたしは魔王城だと無能の落ちこぼれ。誰も上級魔人を殺せるなんて思ってないので、すぐに潔白だと分かっちゃうんです……。だからそれは大丈夫」
「じゃあ何だ?」
「人気のお店のアップルパイをまだ食べてなかったので……」
ムーシュはペロッと舌を出した。
「……。即時出発! いいね?」
蒼はムーシュをビシッと指さし、鋭い眼差しで刃のように彼女を貫いた。
「アイアイサー!」
ムーシュはブルっと震えると焦って敬礼した。
◇
魔物狩りを装って荷馬車で近くの森まで乗せてもらった二人は、鬱蒼とした森の中へと入っていく。静寂が二人をやさしく包み込み、蒼は両手を広げると胸いっぱいに森の空気を吸い込んだ。
「ふぅ……。じゃあひとっ飛びヨロシク!」
蒼はムーシュに両手を伸ばした。
「はいはい、ムーシュは頑張りますよぉ……」
ムーシュは気乗りのしない声で蒼を抱き上げる。
「なんだ? 魔王城に帰りたくないのか?」
「……。せっかくSランク冒険者になったのに、魔王城に戻ったら無能の役立たず扱いなんですよねぇ」
「天声の羅針盤覚えたじゃないか」
「いつどうやって覚えたのかとか、また面倒くさいんですよぉ。しばらくは秘密にしておかないと……。はぁ……」
ムーシュは、翼を広げ、一瞬の静寂の後、力強いはばたきで森の静寂を切り裂く。次の瞬間、ふわっと舞い上がると、森の密集した木々の間を縫うように天へと飛びぬけていった。
眩しい青空には美味しそうな白い雲が浮かび、その影が美しいパッチワークを森に描き出す。爽快な風が軽やかに駆け抜け、鳥たちの優雅な舞と共に、自然の調べを奏でている。
「うーん、気持ちいいね」
蒼はブロンドをキラキラと陽の光に輝かせながら、久しぶりの空を舞う感触を全身で味わう。
「あのー、なんか軽々と飛べちゃうんですケド?」
ムーシュは翼を元気にはばたかせながら首を傾げる。
「だってお前、かなりレベルあがってるんだよ。FランクがCランクくらいまでには成長してる」
「えっ! そんなに!? じゃあ、どこまで速く飛べるか試してみますね」
ムーシュは力強く羽ばたき、グッと高度を上げていく。
「うわぁ、長旅なんだから無理しちゃダメだって!」
「大丈夫ですって! いっきますよぉ!」
ムーシュはキュッと口を結ぶと翼にグッと魔力を込める。直後、翼は紫色の輝きに包まれ速度が一気に上がっていく。
「そいやーっ!」
「うわぁぁぁ!」
こうして、二人は新しい希望を胸に秘め、一路、霞む地平線の先、魔王城目がけて翼を広げ、飛んでいった。残された時間はもう残り少ない。果たして天使の目論見通り蒼は世界を救えるのだろうか? はるかかなた上空の水瓶宮では碧い髪の大天使シアンがそんな二人の様子を追いかけていた。彼女の碧い瞳は神秘と知恵に満ち、その切なくも力強い眼差しは、地上の二人に寄り添うように静かに注がれていた。
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