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25. イケメンは敵だ!
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その晩、ギルドでのお祝いを断って二人は夜を待った。
「なぁ、上手く解呪できるかなぁ……?」
蒼はベッドに身を横たえ、窓から見える夕暮れの空を静かに見つめた。星々が徐々に現れ、一つ一つが静かに輝きを放ち始める。
「きっと上手くいきますよ! なんて言ったって女神の魔道具ですからね! くふふふ」
ムーシュは蒼の隣に静かに身を横たえ、楽しそうに笑うと、その深く紅い瞳で蒼のブロンドを愛おしそうになでた。
「だといいんだけど……」
海より深いため息をついて蒼は目をつぶった。生きるか死ぬか、運命の時が近づいていることに蒼は落ち着かない心を持て余す。
「上手くいったら主様はどうするんですか?」
「ん……? まぁ……、田舎の村でのんびり暮らそうかな」
「はぁ!? 何ですかその老人みたいな暮らし。主様は世界一強いお方。もっと表舞台で活躍していただかないと!」
ムーシュはガバっと起き上がるとこぶしを握り力説した。
蒼はチラッとムーシュを見ると鼻で笑う。
「活躍したら何が嬉しいんだ?」
「お金ガッポガッポで、毎日おいしいもの食べてイケメン侍らせられますよ!」
はぁ~……。
蒼は首を振り、深いため息をついた。
「あのなぁ。金なら魔石換金したら不自由しないし、僕はイケメン嫌いなの!」
「イ、イケメン嫌い……。それはまだ主様が小さいからですよ! 大きくなればイケメンの良さも……」
「歳は関係ないの! イケメンは敵だ!!」
八割の男子が抱えているであろう本音を蒼は爆発させる。
前世、女の子たちのキラキラと輝く瞳がイケメンに向けられていたのを、モテない自分がどれだけ恨めしく思っていたことか。ちょっと容姿がいいだけで特別扱いされるその理不尽さに、激しい怒りを覚えていたことがフラッシュバックしてしまう。しかしそれは所詮ひがみだし、幼女となった自分にはもう関係ない話だった。
蒼は自分でも情けないことを言っていることに嫌気がさして、毛布に潜り込んだ。
「もしかして……。女の子の方が好きとか……」
ムーシュは恐る恐る聞いてくる。
うるさい!
蒼は毛布から手だけ出してパシパシとムーシュをはたいた。
「痛い痛い……。わかりましたよぉ、主様ぁ」
ムーシュはたまらず逃げだしていく。
蒼はもう一度銃身の模様を眺め、ふぅと深くため息をついた。
◇
やがて暗がりが徐々に王都を覆いつくし、星々が空にきらめきを散らばらせた。赤い月が石畳の道の先から、静かにその顔を現し、いよいよその時がやってくる。
蒼は銃を取り出すとそっと窓辺に置いた。
「これで……いいのかな?」
ほのかな月明かりに照らされて、心なしか拳銃も光を纏って見える。
「うーん、もうちょっと昇って来ないと月光が弱いかもですね……」
ムーシュはワクワクした瞳でじっと拳銃を見つめた。
◇
しばらくすると月も青く輝き始め、拳銃も光の微粒子を辺りに放ち始めた。
「おぉぉぉ……」「綺麗ですねぇ……」
月の明かりを浴びて徐々に輝きを増す拳銃。幻獣の彫り物も今にも飛びかかってきそうな迫力を帯びてきた。
「ではムーシュ、一発……頼むよ」
蒼は何度か大きく深呼吸をするとそっと拳銃を持ち上げる。そして、先の方をつかんでムーシュに差し出した。その碧い瞳には今にも泣きだしそうな悲痛な覚悟が浮かんでいる。
「わ、私が撃つんですか?」
「自分じゃ上手く撃てないじゃないか」
「……。わかりましたよぉ……」
ムーシュはおっかなびっくり銃を受け取ると、そっと光り輝く銃身をなでてみる。なでるたびに光の微粒子がパァっと散って部屋が明るくなった。
「引き金を引けば……いいんですね?」
ムーシュはベッドに腰かける蒼の心臓を、素人丸出しのフォームで狙った。
「そう、引くだけ。ちゃんと心臓を狙えよ?」
蒼はまるで予防注射を受ける保育園児のように、苦々しい顔をしながら顔をそらす。
「い、いきますよぉ……」
「外すなよ!」
ムーシュは大きく息をつくと、目をギュッとつぶって引き金を引いた――――。
キュイィィィィン……。
拳銃は甲高い音を立てながら激しい閃光を放ち、直後パン! という破裂音を立てた。
刹那、キン! という金属音が部屋に響き、蒼の胸の前には水面のように青く輝く波紋が広がっていった。
カン! コロコロコロ……。
床にはクリスタルの銃弾が転がっていく。
は……? あれ……?
呆然とする二人。
心臓に当たらなければならないはずの弾丸が足元を転がっている。それはあってはならない事態だった。
「な、なんだよこれぇ!」
蒼は頭を抱えた。女神製の魔道具ははじき返されてしまったのだ。つまり、天使のかけた呪いの方が魔道具より強かったということだろう。
「チクショー! もう一度だ!」
その後二人は何度も試したが、何度やっても弾ははじき返され、心臓に届くことはなかった。
「なぁ、上手く解呪できるかなぁ……?」
蒼はベッドに身を横たえ、窓から見える夕暮れの空を静かに見つめた。星々が徐々に現れ、一つ一つが静かに輝きを放ち始める。
「きっと上手くいきますよ! なんて言ったって女神の魔道具ですからね! くふふふ」
ムーシュは蒼の隣に静かに身を横たえ、楽しそうに笑うと、その深く紅い瞳で蒼のブロンドを愛おしそうになでた。
「だといいんだけど……」
海より深いため息をついて蒼は目をつぶった。生きるか死ぬか、運命の時が近づいていることに蒼は落ち着かない心を持て余す。
「上手くいったら主様はどうするんですか?」
「ん……? まぁ……、田舎の村でのんびり暮らそうかな」
「はぁ!? 何ですかその老人みたいな暮らし。主様は世界一強いお方。もっと表舞台で活躍していただかないと!」
ムーシュはガバっと起き上がるとこぶしを握り力説した。
蒼はチラッとムーシュを見ると鼻で笑う。
「活躍したら何が嬉しいんだ?」
「お金ガッポガッポで、毎日おいしいもの食べてイケメン侍らせられますよ!」
はぁ~……。
蒼は首を振り、深いため息をついた。
「あのなぁ。金なら魔石換金したら不自由しないし、僕はイケメン嫌いなの!」
「イ、イケメン嫌い……。それはまだ主様が小さいからですよ! 大きくなればイケメンの良さも……」
「歳は関係ないの! イケメンは敵だ!!」
八割の男子が抱えているであろう本音を蒼は爆発させる。
前世、女の子たちのキラキラと輝く瞳がイケメンに向けられていたのを、モテない自分がどれだけ恨めしく思っていたことか。ちょっと容姿がいいだけで特別扱いされるその理不尽さに、激しい怒りを覚えていたことがフラッシュバックしてしまう。しかしそれは所詮ひがみだし、幼女となった自分にはもう関係ない話だった。
蒼は自分でも情けないことを言っていることに嫌気がさして、毛布に潜り込んだ。
「もしかして……。女の子の方が好きとか……」
ムーシュは恐る恐る聞いてくる。
うるさい!
蒼は毛布から手だけ出してパシパシとムーシュをはたいた。
「痛い痛い……。わかりましたよぉ、主様ぁ」
ムーシュはたまらず逃げだしていく。
蒼はもう一度銃身の模様を眺め、ふぅと深くため息をついた。
◇
やがて暗がりが徐々に王都を覆いつくし、星々が空にきらめきを散らばらせた。赤い月が石畳の道の先から、静かにその顔を現し、いよいよその時がやってくる。
蒼は銃を取り出すとそっと窓辺に置いた。
「これで……いいのかな?」
ほのかな月明かりに照らされて、心なしか拳銃も光を纏って見える。
「うーん、もうちょっと昇って来ないと月光が弱いかもですね……」
ムーシュはワクワクした瞳でじっと拳銃を見つめた。
◇
しばらくすると月も青く輝き始め、拳銃も光の微粒子を辺りに放ち始めた。
「おぉぉぉ……」「綺麗ですねぇ……」
月の明かりを浴びて徐々に輝きを増す拳銃。幻獣の彫り物も今にも飛びかかってきそうな迫力を帯びてきた。
「ではムーシュ、一発……頼むよ」
蒼は何度か大きく深呼吸をするとそっと拳銃を持ち上げる。そして、先の方をつかんでムーシュに差し出した。その碧い瞳には今にも泣きだしそうな悲痛な覚悟が浮かんでいる。
「わ、私が撃つんですか?」
「自分じゃ上手く撃てないじゃないか」
「……。わかりましたよぉ……」
ムーシュはおっかなびっくり銃を受け取ると、そっと光り輝く銃身をなでてみる。なでるたびに光の微粒子がパァっと散って部屋が明るくなった。
「引き金を引けば……いいんですね?」
ムーシュはベッドに腰かける蒼の心臓を、素人丸出しのフォームで狙った。
「そう、引くだけ。ちゃんと心臓を狙えよ?」
蒼はまるで予防注射を受ける保育園児のように、苦々しい顔をしながら顔をそらす。
「い、いきますよぉ……」
「外すなよ!」
ムーシュは大きく息をつくと、目をギュッとつぶって引き金を引いた――――。
キュイィィィィン……。
拳銃は甲高い音を立てながら激しい閃光を放ち、直後パン! という破裂音を立てた。
刹那、キン! という金属音が部屋に響き、蒼の胸の前には水面のように青く輝く波紋が広がっていった。
カン! コロコロコロ……。
床にはクリスタルの銃弾が転がっていく。
は……? あれ……?
呆然とする二人。
心臓に当たらなければならないはずの弾丸が足元を転がっている。それはあってはならない事態だった。
「な、なんだよこれぇ!」
蒼は頭を抱えた。女神製の魔道具ははじき返されてしまったのだ。つまり、天使のかけた呪いの方が魔道具より強かったということだろう。
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