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9. 揺れる魔王城
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蒼は大きく息を吸い、覚悟を決めると煤に煙る空めがけて両手を広げた。
「大爆発で僕らを殺そうとした魔王軍のバカ者には天誅Death!」
蒼の声が山火事の森に響く――――。
果たしてどうなるか、蒼は固唾を飲んで反応を待つ。
ビュゥと煙臭い風が吹き、テントがバタバタと音を立てた。
「そろそろ……、じゃないか……?」
その時、頭の中に電子音が鳴り響く。
ピロローン! ピロローン! ピロローン! ピロローン!
『レベルアップしました』『レベルアップしました』『レベルアップしました』『レベルアップしました』
「キターーーー! はーっはっはっは!」
蒼は思わず手を叩いて笑ってしまった。女神がくれたこのとんでもないスキルは、相手が分からなくても殺せてしまうのだ。
「なんだこりゃ! ヤバすぎでしょ、女神様!」
ムーシュも見たことの無い超巨大魔法を繰り出したそいつは、きっと名のある奴だろう。ルシファーと同じくらい凄い奴に違いない。でも、そんなとんでもない奴でも一言で消せるのだ。なんと痛快だろうか。
「ざまぁみろ! 誰だか知らんが馬鹿野郎め! はっはっはー!」
蒼はひざをパンパンと叩き、ゲラゲラと笑った。ムーシュを瀕死の重傷に陥れたにっくき敵をたった一言で葬り去ったのだ。まさに『ざまぁ』である。
「あー、可笑しい……」
ひとしきり笑った蒼だったが、どうにもぬぐえない違和感が心の奥に渦巻くのを感じた。
「……。俺って……、これでいいのかな……?」
真顔になった蒼はつぶやく。
一言で誰でも殺すことができるという力を手にした蒼は、その圧倒的な力の誘惑と恐怖に同時に襲われる。気に入らない者を容易く消し去る能力は、果たして自分にとっていい事なのだろうか? むしろ呪いではないのか?
殺すのに相手のことを知る必要すらないし、自分のせいだとはバレない。ムカついただけで殺すということが一言でできてしまう、言うならばとてつもない完全犯罪殺人マシーンなのだ。
おいおいおいおい……。
蒼は背中に寒気が走り、その冷たさが骨まで染み渡るのを感じた。
自分の心の弱さがふとしたきっかけで暴走したら、無尽蔵な殺傷力で世界を塗り替える死神に変貌するかもしれない。心のバランス一つで世界を滅ぼしかねない、それはすでに【魔王】なのではないか? そんなとんでもない力を持ってしまったことに蒼は押しつぶされそうになる。
もちろん、自分はそんなことなどしない。しないと思っているが、先ほどの即死攻撃が決まった瞬間、アドレナリンがドバっと出て甘美な快感が心を躍らせていたのは事実だった。
「これは……、マジでヤバい……」
即死スキルの蠱惑的な魅力、それに抗いがたい中毒性があることは認めざるを得ない。
蒼はガバっと起き上がると頭を抱え、必死に考える。即死スキルの持つ甘美なる誘惑にどう対抗して行ったらいいだろうか……。一度でも心の闇の誘惑に負けて命を奪ったら、もはや歯止めが効かなくなってしまうだろう。だからこそ、「生命を軽々しく奪わない」という原則を揺るぎないものにしなければならなかった。
ふぅと大きく息をついた蒼は、拳を強く握りしめる。誰もが頷ける状況でなければこのスキルは絶対に使わないと、堅く心に誓ったのだった。
◇
時は少し遡り、トールハンマーを放った直後の魔王城――――。
「おい! 魔法は成功したのか?」
四天王グリムソウルは、制服姿の若い悪魔にぶっきらぼうに聞いた。
「えーと、現在観測魔法で着弾点のエネルギー反応を見ていますが……」
悪魔は大きな水晶玉をじっと見入る……。
すると、水晶玉は激しい閃光を放った。
うわぁ!
予想外のことに悪魔は目をやられ、あとずさる。
パン!
水晶玉は破裂音と共に砕け散り、バラバラと破片を床にまき散らした。
「お、おい、どうなったんだよ!」
グリムソウルは悪魔を気遣いもせず、怒鳴りつける。
「わ、分かりません! こんなこと初めてなので……」
「カーッ! 使えんなぁ!」
グリムソウルは肩をすくめ、まだ目が良く見えない悪魔の頭をパシッとはたいた。
その時だった、カタカタカタとテーブルが揺れる。
「な、なんだ……?」
グリムソウルが見上げると、上から吊り下げられた魔法ランプがゆらゆらと揺れている。
「地震かしらね? 魔王城で地震なんて聞いたことないけど?」
アビスクィーンは大麻のパイプをカンカンと灰皿に叩きつけながら、けげんそうに辺りを見回した。
直後、ズン! という激しい揺れが魔王城を襲う。
うわぁぁぁ! 何だこりゃぁ! くぁぁぁ!
キャビネットは倒れ、窓ガラスは吹き飛び、まるで天罰の嵐に翻弄される船のように魔王城は激しく揺れ動き、調度品は次々と吹っ飛んだ。
グリムソウルは倒れ込んできた本棚を拳で吹き飛ばし、落ちてきた魔王の肖像画を叩き割りながら叫んだ。
「敵襲か!? 一体誰が?」
「これ、トールハンマーじゃないの?」
アビスクィーンは空中にフワフワと浮きながらウンザリとした表情で肩をすくめた。
「ト、トールハンマー!? 誤爆って事か?」
「違うわ、トールハンマーのエネルギーで地震が起こったのよ」
「ま、まさか……」
「揺れが来た方向が爆心地なのよね……」
アビスクィーンはウンザリとした表情で指さした。
「な、なら攻撃は大成功って事……だな?」
「これだけのエネルギー、誰も生き残れないでしょうね」
アビスクィーンは葛藤を微かに表情に浮かべながら、気重なため息を一つ落とす。
グォォォォォォォ!
グリムソウルは天に響くような雄叫びを上げた。ついに魔王軍は壊滅的な危機をくぐり抜けたのだ。その喜悦は言葉では表せなかった。
「ヨシ! 宴だ宴! 宴席の準備をしろー!」
絶好調にグリムソウルは言い放った。
「恐れながら、こんな地震の後じゃ準備は無理です!」
制服の悪魔があわてて反論する。
「馬鹿が、今飲まなくていつ飲むんだ!? 酒ぐらい用意できるだろ? 気を利かせろ!」
グリムソウルはバシッと悪魔の頭をはたいた。
「大爆発で僕らを殺そうとした魔王軍のバカ者には天誅Death!」
蒼の声が山火事の森に響く――――。
果たしてどうなるか、蒼は固唾を飲んで反応を待つ。
ビュゥと煙臭い風が吹き、テントがバタバタと音を立てた。
「そろそろ……、じゃないか……?」
その時、頭の中に電子音が鳴り響く。
ピロローン! ピロローン! ピロローン! ピロローン!
『レベルアップしました』『レベルアップしました』『レベルアップしました』『レベルアップしました』
「キターーーー! はーっはっはっは!」
蒼は思わず手を叩いて笑ってしまった。女神がくれたこのとんでもないスキルは、相手が分からなくても殺せてしまうのだ。
「なんだこりゃ! ヤバすぎでしょ、女神様!」
ムーシュも見たことの無い超巨大魔法を繰り出したそいつは、きっと名のある奴だろう。ルシファーと同じくらい凄い奴に違いない。でも、そんなとんでもない奴でも一言で消せるのだ。なんと痛快だろうか。
「ざまぁみろ! 誰だか知らんが馬鹿野郎め! はっはっはー!」
蒼はひざをパンパンと叩き、ゲラゲラと笑った。ムーシュを瀕死の重傷に陥れたにっくき敵をたった一言で葬り去ったのだ。まさに『ざまぁ』である。
「あー、可笑しい……」
ひとしきり笑った蒼だったが、どうにもぬぐえない違和感が心の奥に渦巻くのを感じた。
「……。俺って……、これでいいのかな……?」
真顔になった蒼はつぶやく。
一言で誰でも殺すことができるという力を手にした蒼は、その圧倒的な力の誘惑と恐怖に同時に襲われる。気に入らない者を容易く消し去る能力は、果たして自分にとっていい事なのだろうか? むしろ呪いではないのか?
殺すのに相手のことを知る必要すらないし、自分のせいだとはバレない。ムカついただけで殺すということが一言でできてしまう、言うならばとてつもない完全犯罪殺人マシーンなのだ。
おいおいおいおい……。
蒼は背中に寒気が走り、その冷たさが骨まで染み渡るのを感じた。
自分の心の弱さがふとしたきっかけで暴走したら、無尽蔵な殺傷力で世界を塗り替える死神に変貌するかもしれない。心のバランス一つで世界を滅ぼしかねない、それはすでに【魔王】なのではないか? そんなとんでもない力を持ってしまったことに蒼は押しつぶされそうになる。
もちろん、自分はそんなことなどしない。しないと思っているが、先ほどの即死攻撃が決まった瞬間、アドレナリンがドバっと出て甘美な快感が心を躍らせていたのは事実だった。
「これは……、マジでヤバい……」
即死スキルの蠱惑的な魅力、それに抗いがたい中毒性があることは認めざるを得ない。
蒼はガバっと起き上がると頭を抱え、必死に考える。即死スキルの持つ甘美なる誘惑にどう対抗して行ったらいいだろうか……。一度でも心の闇の誘惑に負けて命を奪ったら、もはや歯止めが効かなくなってしまうだろう。だからこそ、「生命を軽々しく奪わない」という原則を揺るぎないものにしなければならなかった。
ふぅと大きく息をついた蒼は、拳を強く握りしめる。誰もが頷ける状況でなければこのスキルは絶対に使わないと、堅く心に誓ったのだった。
◇
時は少し遡り、トールハンマーを放った直後の魔王城――――。
「おい! 魔法は成功したのか?」
四天王グリムソウルは、制服姿の若い悪魔にぶっきらぼうに聞いた。
「えーと、現在観測魔法で着弾点のエネルギー反応を見ていますが……」
悪魔は大きな水晶玉をじっと見入る……。
すると、水晶玉は激しい閃光を放った。
うわぁ!
予想外のことに悪魔は目をやられ、あとずさる。
パン!
水晶玉は破裂音と共に砕け散り、バラバラと破片を床にまき散らした。
「お、おい、どうなったんだよ!」
グリムソウルは悪魔を気遣いもせず、怒鳴りつける。
「わ、分かりません! こんなこと初めてなので……」
「カーッ! 使えんなぁ!」
グリムソウルは肩をすくめ、まだ目が良く見えない悪魔の頭をパシッとはたいた。
その時だった、カタカタカタとテーブルが揺れる。
「な、なんだ……?」
グリムソウルが見上げると、上から吊り下げられた魔法ランプがゆらゆらと揺れている。
「地震かしらね? 魔王城で地震なんて聞いたことないけど?」
アビスクィーンは大麻のパイプをカンカンと灰皿に叩きつけながら、けげんそうに辺りを見回した。
直後、ズン! という激しい揺れが魔王城を襲う。
うわぁぁぁ! 何だこりゃぁ! くぁぁぁ!
キャビネットは倒れ、窓ガラスは吹き飛び、まるで天罰の嵐に翻弄される船のように魔王城は激しく揺れ動き、調度品は次々と吹っ飛んだ。
グリムソウルは倒れ込んできた本棚を拳で吹き飛ばし、落ちてきた魔王の肖像画を叩き割りながら叫んだ。
「敵襲か!? 一体誰が?」
「これ、トールハンマーじゃないの?」
アビスクィーンは空中にフワフワと浮きながらウンザリとした表情で肩をすくめた。
「ト、トールハンマー!? 誤爆って事か?」
「違うわ、トールハンマーのエネルギーで地震が起こったのよ」
「ま、まさか……」
「揺れが来た方向が爆心地なのよね……」
アビスクィーンはウンザリとした表情で指さした。
「な、なら攻撃は大成功って事……だな?」
「これだけのエネルギー、誰も生き残れないでしょうね」
アビスクィーンは葛藤を微かに表情に浮かべながら、気重なため息を一つ落とす。
グォォォォォォォ!
グリムソウルは天に響くような雄叫びを上げた。ついに魔王軍は壊滅的な危機をくぐり抜けたのだ。その喜悦は言葉では表せなかった。
「ヨシ! 宴だ宴! 宴席の準備をしろー!」
絶好調にグリムソウルは言い放った。
「恐れながら、こんな地震の後じゃ準備は無理です!」
制服の悪魔があわてて反論する。
「馬鹿が、今飲まなくていつ飲むんだ!? 酒ぐらい用意できるだろ? 気を利かせろ!」
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