5 / 64
5. 暴走する煩悩
しおりを挟む
「だったらのど乾いたんだけど、なんかちょうだい」
蒼は頬ずりするムーシュを引きはがし、可愛いモミジのような手を差し出した。転生早々怒涛の展開でのどがカラカラだったのだ。
「えっ!?」
ムーシュは突然、顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。
蒼が不思議に思っていると、ムーシュは蒼を下ろして豊満な胸を押さえ、恥ずかしそうにつぶやいた。
「申し訳ありません。この胸は見てくれだけは立派……なのですが……、おっぱいは出ないのです……」
蒼はボッと顔を赤くする。
「な、何を言ってんだ! 母乳じゃないよ! 水だよ水! 水くらい持ってるだろ!」
そう叫んで蒼はムーシュのお尻をペシペシ叩いた。
「あぁっ! ごめんなさい! 水ですね、すぐにお持ちしますぅぅぅ」
蒼はふんと鼻を鳴らすと腕を組み、荷物を漁るムーシュをにらんだ。いくら幼女姿とは言え母乳はひどい。もし母乳が出る身体だったら吸わせるつもりだったのだろうか?
ここで蒼の妄想が暴走してしまう。
『えっ……? 吸わせる? 確かに奴隷だったら……』
蒼は変なことを想像して再度顔を赤くする。
いかんいかん!
蒼は首を振って煩悩を振り払った。
◇
『そもそもこいつはどんな奴なんだ……?』
蒼はムーシュを鑑定にかける。
ーーーーーーーーーーーーーー
Lv.9 ムーシュ 18歳 女性
種族 :魔族
職業 :奴隷(所有者:アオ)
スキル:絆のヴェール
仲間との絆のエネルギーで結界を張ります
称号 :堕天使の理解者
ーーーーーーーーーーーーーー
防御系のスキル持ちではあるが、レベルはたったの9。何を頼んだらいいか……。蒼は腕を組んで首をかしげる。
最優先なのは原点回帰という【若返りの呪い】の解除である。これは急がないと赤ちゃんになって受精卵になって死んでしまうに違いない。この全くもって忌々しい呪いを何とかしないとせっかくの異世界ライフが台無しである。
「はい、お水をどうぞ―」
ムーシュはニコニコしながら、細かい彫刻と宝石がちりばめられた壮麗なカップとクッキーを差し出す。
「おぉ、サンキュー。何だか準備いいね」
「ふふっ、これでもルシファー様の秘書でしたからね。まぁ、面倒なオッサンでしたが……」
ムーシュは少し先に転がっている、紫に輝く大きな魔石を見ながらため息をつく。その魔石はまるで深淵からの呼び声のように神秘的な輝きを放っていた。
「秘書かぁ……。ムーシュの事もっと教えてよ」
蒼はクッキーを頬張りながらムーシュの生い立ちから魔王軍の実情、水を取り出した四次元ポケットのようなマジックバッグの話を聞いていった。
「これからは主様の奴隷として、頑張りますよぉ!」
ムーシュはこぶしを握り、嬉しそうにガッツポーズを見せる。
「まずは呪いの解除をしたいんだけど、どうしたらいいかな?」
「の、呪い……ですか……? うーん。そんな魔道具があるというのは聞いたことありますよ。やはり魔王城に乗り込んでいって宝物庫を……」
さりげなく魔王にさせようと誘導するムーシュ。
「ストップ! ストップ! そう簡単に宝物庫なんて入れないだろ?」
「大丈夫ですよ! 主様なら邪魔する奴ら全員殺しちゃえるんですから!」
ムーシュは真紅の瞳をキラキラとさせながら物騒なことを言う。
「もう……。それは最後の手段! まずは人間界から探すよ」
「えーー……。わかりましたぁ……」
隙あらば物騒な手段を取らせようとするムーシュに一抹の不安を感じながら蒼はコップの水を飲みほした。
◇
魔石はお金になるそうなので、ムーシュと一緒に魔石を拾い集める。しかし、さすがに五千個もの魔石を全部集めるのは無理だった。幹部を中心に大きくて輝きの良い物を中心に集め、マジックバッグに詰め込んでいく。
やはり、ルシファーの魔石が一番大きく、アメジストのように紫色にキラキラと美しく輝いて辺りを圧倒していた。
蒼はその魔石をしばらく眺め、ふぅとため息をつく。あの恐ろしげな堕天使が死ぬとこんなになってしまう。蒼はその美しさに心を奪われつつ、この不可解な世界の謎に思いを馳せた。
即死スキルにしても、若返りの呪いにしても、まるでゲームの舞台を彷彿とさせるこの世界に蒼は暗い気分に沈む。一体女神たちは自分をこんなところに送り込んで何をさせたいのか……。蒼は深く目を閉じ、静かに首を横に振った。
「主様! もうこれくらいにしましょうよぉ」
ムーシュが腕一杯に煌めく魔石を集めてくる。
「そうだね、それじゃ近くの街まで案内してよ」
蒼はルシファーの魔石をマジックバッグにしまう。
「えっ!? 人間の街ですか?」
「そこで魔石換金して美味しいものでも食べようよ」
「いいですけど……、私、人間の街なんて行ったことないから分からないですよ?」
ムーシュは山盛りの魔石をザラザラとマジックバッグに流し込みながら言った。
「かーーっ! 役に立たんなぁ……」
蒼は思わず宙を仰ぐ。
「だから魔王城にしましょうって!」
「それだけはヤダ!」
蒼は腕を組んでキッとムーシュをにらんだ。
「むぅ……。しょうがないですねぇ。確か南の方に街があったから、ひとっ飛び行ってみますか」
ムーシュはそう言うと蒼をひょいと抱き上げて両腕で抱きしめた。豊満なふくらみに包まれてしまう蒼。
「お、おい、ちょ、ちょっと!」
柔らかな温かさに蒼は真っ赤になってもがく。
ムーシュはコウモリを思わせる漆黒の巨大な翼を青空めがけてピンと広げ、南の空をキッとにらんだ。
「危ないですよ! しっかりつかまってて!」
ムーシュはその翼を力強く羽ばたかせ、その壮大な翼で風を捉えると一気に大空へと舞い上がる。その動きは、まるで運命を自らの手で掴み取ろうとするように、決然としていた。
蒼は頬ずりするムーシュを引きはがし、可愛いモミジのような手を差し出した。転生早々怒涛の展開でのどがカラカラだったのだ。
「えっ!?」
ムーシュは突然、顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。
蒼が不思議に思っていると、ムーシュは蒼を下ろして豊満な胸を押さえ、恥ずかしそうにつぶやいた。
「申し訳ありません。この胸は見てくれだけは立派……なのですが……、おっぱいは出ないのです……」
蒼はボッと顔を赤くする。
「な、何を言ってんだ! 母乳じゃないよ! 水だよ水! 水くらい持ってるだろ!」
そう叫んで蒼はムーシュのお尻をペシペシ叩いた。
「あぁっ! ごめんなさい! 水ですね、すぐにお持ちしますぅぅぅ」
蒼はふんと鼻を鳴らすと腕を組み、荷物を漁るムーシュをにらんだ。いくら幼女姿とは言え母乳はひどい。もし母乳が出る身体だったら吸わせるつもりだったのだろうか?
ここで蒼の妄想が暴走してしまう。
『えっ……? 吸わせる? 確かに奴隷だったら……』
蒼は変なことを想像して再度顔を赤くする。
いかんいかん!
蒼は首を振って煩悩を振り払った。
◇
『そもそもこいつはどんな奴なんだ……?』
蒼はムーシュを鑑定にかける。
ーーーーーーーーーーーーーー
Lv.9 ムーシュ 18歳 女性
種族 :魔族
職業 :奴隷(所有者:アオ)
スキル:絆のヴェール
仲間との絆のエネルギーで結界を張ります
称号 :堕天使の理解者
ーーーーーーーーーーーーーー
防御系のスキル持ちではあるが、レベルはたったの9。何を頼んだらいいか……。蒼は腕を組んで首をかしげる。
最優先なのは原点回帰という【若返りの呪い】の解除である。これは急がないと赤ちゃんになって受精卵になって死んでしまうに違いない。この全くもって忌々しい呪いを何とかしないとせっかくの異世界ライフが台無しである。
「はい、お水をどうぞ―」
ムーシュはニコニコしながら、細かい彫刻と宝石がちりばめられた壮麗なカップとクッキーを差し出す。
「おぉ、サンキュー。何だか準備いいね」
「ふふっ、これでもルシファー様の秘書でしたからね。まぁ、面倒なオッサンでしたが……」
ムーシュは少し先に転がっている、紫に輝く大きな魔石を見ながらため息をつく。その魔石はまるで深淵からの呼び声のように神秘的な輝きを放っていた。
「秘書かぁ……。ムーシュの事もっと教えてよ」
蒼はクッキーを頬張りながらムーシュの生い立ちから魔王軍の実情、水を取り出した四次元ポケットのようなマジックバッグの話を聞いていった。
「これからは主様の奴隷として、頑張りますよぉ!」
ムーシュはこぶしを握り、嬉しそうにガッツポーズを見せる。
「まずは呪いの解除をしたいんだけど、どうしたらいいかな?」
「の、呪い……ですか……? うーん。そんな魔道具があるというのは聞いたことありますよ。やはり魔王城に乗り込んでいって宝物庫を……」
さりげなく魔王にさせようと誘導するムーシュ。
「ストップ! ストップ! そう簡単に宝物庫なんて入れないだろ?」
「大丈夫ですよ! 主様なら邪魔する奴ら全員殺しちゃえるんですから!」
ムーシュは真紅の瞳をキラキラとさせながら物騒なことを言う。
「もう……。それは最後の手段! まずは人間界から探すよ」
「えーー……。わかりましたぁ……」
隙あらば物騒な手段を取らせようとするムーシュに一抹の不安を感じながら蒼はコップの水を飲みほした。
◇
魔石はお金になるそうなので、ムーシュと一緒に魔石を拾い集める。しかし、さすがに五千個もの魔石を全部集めるのは無理だった。幹部を中心に大きくて輝きの良い物を中心に集め、マジックバッグに詰め込んでいく。
やはり、ルシファーの魔石が一番大きく、アメジストのように紫色にキラキラと美しく輝いて辺りを圧倒していた。
蒼はその魔石をしばらく眺め、ふぅとため息をつく。あの恐ろしげな堕天使が死ぬとこんなになってしまう。蒼はその美しさに心を奪われつつ、この不可解な世界の謎に思いを馳せた。
即死スキルにしても、若返りの呪いにしても、まるでゲームの舞台を彷彿とさせるこの世界に蒼は暗い気分に沈む。一体女神たちは自分をこんなところに送り込んで何をさせたいのか……。蒼は深く目を閉じ、静かに首を横に振った。
「主様! もうこれくらいにしましょうよぉ」
ムーシュが腕一杯に煌めく魔石を集めてくる。
「そうだね、それじゃ近くの街まで案内してよ」
蒼はルシファーの魔石をマジックバッグにしまう。
「えっ!? 人間の街ですか?」
「そこで魔石換金して美味しいものでも食べようよ」
「いいですけど……、私、人間の街なんて行ったことないから分からないですよ?」
ムーシュは山盛りの魔石をザラザラとマジックバッグに流し込みながら言った。
「かーーっ! 役に立たんなぁ……」
蒼は思わず宙を仰ぐ。
「だから魔王城にしましょうって!」
「それだけはヤダ!」
蒼は腕を組んでキッとムーシュをにらんだ。
「むぅ……。しょうがないですねぇ。確か南の方に街があったから、ひとっ飛び行ってみますか」
ムーシュはそう言うと蒼をひょいと抱き上げて両腕で抱きしめた。豊満なふくらみに包まれてしまう蒼。
「お、おい、ちょ、ちょっと!」
柔らかな温かさに蒼は真っ赤になってもがく。
ムーシュはコウモリを思わせる漆黒の巨大な翼を青空めがけてピンと広げ、南の空をキッとにらんだ。
「危ないですよ! しっかりつかまってて!」
ムーシュはその翼を力強く羽ばたかせ、その壮大な翼で風を捉えると一気に大空へと舞い上がる。その動きは、まるで運命を自らの手で掴み取ろうとするように、決然としていた。
0
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
【完結】聖女戦記物語。結局、誰が聖女役?-魔法より武力と丈夫な体に自信があります-
ジェルミ
ファンタジー
聖女召喚再び。失敗したと誰もが思ったが、現れたのは….
17歳でこの世を去った本郷 武は異世界の女神から転移を誘われる。
だが転移先は魔物が闊歩し国が荒れていた。
それを収めるため、国始まって以来の聖女召喚を行った。
そして女と男が召喚された。
女は聖女ともてはやされ、男は用無しと蔑まれる。
しかし召喚に巻き込まれたと思われていた男こそ、聖女ではなく聖人だった。
国を逃げ出した男は死んだことになり、再び聖女召喚が始まる。
しかし、そこには…。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
この作品は嗜好が分かれる作品となるかと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる