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56. 関西勢

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 マンションを降りて行くと下はショッピングモールになっていた。吹き抜けを上から見下ろしてみると、名だたるブランドが煌びやかに勢揃いで圧倒される。

「はぁぁぁ、すごい場違いって感じよね……」

 ソリスはオシャレなファッションで闊歩かっぽするレディーたちを上から見下ろし、気おされてため息をついた。

「ソリス殿は……東京……出身でござったか?」

 フィリアが恐る恐る切り出してくる。

「そ、そうだったのよ。こないだ初めて思い出したの」

 ソリスは焦って早口で答える。今までずっと隠してたように思われるのは避けたかったのだ

「あんなぁ……、うち……大阪出身やってん」

 フィリアはうつむき、ボソッと聞きなれない言葉を使う。

 へ……?

 ソリスはフィリアのいきなりの大阪弁に焦る。

 すると隣で聞いていたイヴィットも口を開いた。

「うちは……京都どす……」

 はぁ!? へっ!?

 三人はお互いの顔を見合わせ……。

「なんやのんそれ!?」「勘弁しとぉくれやす」「何なのー?」

 三人は楽しそうにゲラゲラと笑った。

 異世界で出会った余り者三人はみんな日本からの転生者だったのだ。三人はお互いの肩を抱き合い、その数奇な運命を心の底から笑いあった。

「日本の風景見とって思い出したわ~」「うちもどす」

 どうもみんな転生の際の記憶の引き継ぎが上手くいっていないようだった。どういうことか後で女神に聞いてみるしかない。

 しばらく三人はそのおかしな状況に笑いが止まらず、周りの客のけげんそうな視線を集めながらゲラゲラ笑っていた。

 二十数年、お互いそんなことも気づかずにただ異世界での暮らしを一緒に頑張っていた三人。考えてみれば、この三人が余り者となって同じパーティになったのも日本人で説明がつく。要は日本人の感性を持った者は現地になじめず、日本人同士集まってしまうのだ。このパーティは言わば必然だったのだ。

 ひとしきり笑ったソリスは涙を手で拭う。

「あー、おっかしい! じゃあまずは日本人らしく着飾りますか?」

 ソリスは嬉しそうに限度額無制限のチタンクレジットカードを取り出すと、キラキラっと揺らした。

「ほなええ服買いまひょ! うっしっし……」

 フィリアは底抜けの贅沢の予感に悪い顔で笑う。

「うちも……ええ服欲しおす」

 イヴィットは両手を組んで、アパレルのショーウィンドウをうっとりと眺めた。

「じゃぁ、レッツゴー!」「行くでー!」「ほな行きまひょ……」

 まるでコスプレしているみたいな冒険者一行は、こうしてショッピングモールを楽しそうに歩き出す。

「まずはこの店やでー!」

 三人とも今世では全く贅沢ができずに、みすぼらしい恰好をずっと我慢してきたが、頼もしいチタンカードを得て、まるで水を得た魚のようにアパレルを爆買いし始めた。

「あっ! あんた、これ似合うんちゃう?」
「うちは……もっと地味な方がええどす」
「何言ってんの! 今はこれが流行りなんやて! ほら、うてから考え! 次行こか、次!」

 ソリスはフィリアが次々と欲しいものを手に取っていく姿に少し圧倒されつつも、初めての贅沢に目を輝かせる二人を見て心がじんわりと温かくなる。

「ほんと、生き返って良かった……」

 うっすらと涙を浮かべながら、ソリスは優しい眼差しで二人を見守った。


      ◇


 久しぶりの日本を堪能した三人は、すっかり日本のレディーとなって恵比寿へとやってきた。

「恵比寿なんて久しぶりだわ! 肉、肉~っ!」

「松阪牛やて?! ソリス殿~!」

「転生前でも食べられへんかった……楽しみやわぁ……」

 すっかり爆買いし放題楽しんだ三人はテンションがおかしくなっている。

「ここかしら?」

 マップで示された恵比寿の裏通りの狭い道を進んで行くと、木造二階建ての雰囲気のあるレストランがあった。木製の看板には『翼牛亭』と彫られている。

「ここでゴザルか? うほぅ!」

 フィリアは絶好調でこぶしを握った。ついに松坂牛とご対面である。

 その時だった――――。

 パリーン!

 ガラスの割れる派手な音が響き渡り、二階からガラスの破片とお皿が降ってくる。

 キャーーーーッ! ひぃぃぃぃ! 危なーい!!

 頭を抱えて逃げる三人。

 しかし、その直後、降ってきたガラスの破片がピタッと止まったのだ。

 え……? あれ……?

 空中でピタッと止まり、まるでシャンデリアのようにキラキラと光輝く破片達に三人は顔を見合わせ、息を飲んだ。

 すると破片達はまるで吸い込まれるように元通りに二階の窓枠へと集まって、何事もなかったかのように綺麗なガラス窓に戻ったのだった。

「な、何やのんこれ……?」「す、すごい……」「あきまへん……」

 三人はガラス窓を見上げながら青い顔をして首を振った。

 ガラスを割るなど論外、ましてや超常の力で修復するなど、まったくもって信じられない光景である。その部屋にいるのは女神を筆頭にした破天荒で超常的な人物たちだという現実に、三人は言葉を失い、凍りついたように動けなくなった。

 先ほどまでの浮かれた調子はどこへやら、この打ち上げパーティが気楽なものじゃない予感に三人はキュッと口を結んだ。
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