上 下
49 / 68

49. 逆神戦線

しおりを挟む
 ウニャァァァァ!

 まるでジェットコースターのように目まぐるしく襲ってくる加速度に、ソリスはグルグルと目が回る。

 ミサイルが近くで爆発したのだろう。シャトルの船体にはダメージはないのだろうか? ソリスは出航早々襲ってくる試練に泣きそうになった。

 ガッ、ガガッ!

 いきなりスピーカーからノイズが流れてくる。

『直ちに停船せよ! 我々は逆神戦線ディスラプターズである! データセンターは我々の手に堕ちた。これ以上近づくようであれば容赦はしない!』

 野太い男の声が船室内に響き渡る。どうやらこいつが【テロリスト】と呼ばれているものの正体だろう。シャトルの出航を検知して、いきなり攻撃を仕掛けくるとはとんでもなく野蛮な奴だし、その優秀さも相当のものだった。ソリスは自分たちが相手にしている敵の手ごわさに眉をひそめた。

 しかし、シアンはそんな彼らの宣告を聞き流し、画面をパシパシと叩きながら悪い顔でニヤッと笑う。

「お馬鹿さーん。今の攻撃でお前の居場所はバレちゃったぞ? きゃははは!」

 どうやら、あっという間にテロリストの居場所を割り出してしまったらしい。

 敵も優秀だが、このお気楽な女の子の有能さも相当のものだった。ソリスが感心した直後、視界からシアンがふっと消える――――。

 はぁっ!?

 凍りつくソリス。いきなりシャトルに一人置き去りである。どうやったのかも、どこへ行ってしまったのかも全く分からない。

 シアンの恐るべき能力にソリスは震撼しんかんした。これが女神も一目置く、恐るべき能力なのかもしれない。

 ソリスはこんなシアンの弟子になることの深遠な意味におののき、思わず息を飲んだ。

 その刹那、激しい閃光が海王星を包みこむ。

 うわぁぁぁ!

 船内も光に覆いつくされ、目を開けていることもできない。

 ひぃぃぃぃ!

 いきなりの出来事に、一体何が起こったのか分からずソリスはパニックに陥った。

 やがて落ち着いてくる光の洪水――――。

 そっと目を開けると、青く輝く海王星の表面には巨大な衝撃波の波紋がゆっくりと広がっていた。

 こ、これは……?

 そのエネルギー量たるや核兵器すら凌駕りょうがする鮮烈な規模である。あんなのに巻き込まれたら一瞬で跡形もなく蒸発してしまうだろう。ソリスは目の前で展開された、その想像を絶する事態にシッポをキュッと体に巻き付け、ガクガクと震えた。

「きゃははは! あー、楽しかった!」

 いつの間にかシアンが戻って来ていて楽しそうに笑っている。

「えっ!? い、今のってシアンさんが……?」

 ソリスは恐る恐る聞いた。可愛い女の子がそれこそ何十億人も焼き殺せるような甚大なエネルギーを放出したのだ。もし、こんな娘が敵だったらと思うと、ソリスはゾッとしてぶわっと毛が逆立った。

「ふふーん、カッコよかったろ? コレでテロリストも木っ端微塵こっぱみじんってなもんよ。くふふふ」

「えっ、えっ、どうやったんですか?」

瞑想めいそうだよ、瞑想! すーー、はーー! すーー、はーー! ってやってみ?」

 シアンはおどけながら深呼吸をして見せる。

 え……?

 ソリスは絶句した。これは冗談で言っているのだろうか? 冗談でないとすると瞑想と大爆発にどんな関係があるのだろうか? ソリスは全く想像もつかない世界に唖然として静かに首を振った。

 そんなソリスを見てニヤッと笑うシアン。

「キミは僕の弟子なんだからね? このくらいマスターしてもらわなきゃ困るよ?」

 えっ!?

 自分にもこれをやれという師匠の言葉に丸い目を見開くソリス。こんなことができるとは到底思えなかったのだ

「わ、私にもこれができる……?」

「もーちろん!」

 シアンは眉をひそめているソリスの顔を碧い目でのぞきこみ、クシャクシャっと頭をなでると、ニコッと笑った。


        ◇


「大気圏突入よーい!」

 シアンは画面をにらみながら何やらパシパシとボタンを叩いている。

 目の前には巨大な海王星の水平線が広がり、いよいよ未知の母なる星、海王星へと入っていくのだ。

 テロリストの攻撃部隊はさっきので殲滅せんめつしたものの、まだ、データセンター側に生き残りがいるということらしい。

 いよいよ自分の星の心臓部での戦闘になる――――。

 ソリスは予断を許さない展開にゴクリと息をのんだ。

 コォー……。

 今まで無音だった世界に音が聞こえてきた。薄い大気の層まで降りてきたということだろう。

「まもなく当機は最終の着陸体制に入ります。どなた様も今一度シートベルトをお確かめくださーい!」

 シアンは茶目っけたっぷりにソリスの顔をのぞきこむ。

「いよいよですね」

 子ネコのソリスは緊張して手で自分の顔をなでる。

「そうだね。まぁ着陸って言っても陸なんて無いんだけどね。きゃははは!」

 楽しそうに笑うシアンにソリスは少し救われる思いがした。

 やがて船体は大気との衝突で高熱を発して赤く光り出し、ズンズンと激しい衝撃が断続的にシャトルを揺らした。

 いよいよ自分の星の心臓部に近づいている――――。

 だが、目の前にはただ、広大な青い水平線が広がるばかりだった。

 ソリスはこんなところに自分の故郷の星があるという話をうまく理解することができず、眉間にしわを寄せながら、ただ大きく揺れるシャトルの手すりにしがみついていた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

処理中です...