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41. 煉獄審判

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「治療が最優先よ。家まで焼いてくれちゃって、賠償とかもしっかりやってもらうから!」

 ソリスはブレイブハートを鋭い目でにらみつける。

「OK! 賠償は前向きに話し合おう。その代わり、準備が整うまで君はそこを一歩も動かないでほしい」

「……。どういうこと?」

 ソリスはけげんそうに小首をかしげる。いよいよきな臭い。一気に突っ込んでいって斬ってしまおうかとも考えたが、セリオンのことを考えるとうかつには動けない。

「君のような凄腕の剣士にチョロチョロされたら、治療する方も怖がってしまうだろ?」

「そんなのあんたらの都合でしょ?」

「交渉決裂……ですか?」

 ブレイブハートはわざとらしく悲しそうに言う。そのムカつく態度にイラっとさせられたソリスだったが、セリオンの治療がすべてに優先される今、こんなことでもめている場合ではない。

「分かったわよ! ここにいるわ。その代わりちょっとでも変なことしたらすっ飛んでってぶった切るわよ!」

 ソリスはそう言うと花畑の中にポスッと座り込んだ。

「ありがとうございます。僧侶の方集まってくださーい!」

 ブレイブハートはうやうやしく頭を下げると治療の準備を始めた。

 ふんっ……!

 ソリスは変な事をしないか、じっとブレイドハート達をにらんでいた。いけ好かない若造ではあるが、街の若きホープである。能力はそれなりに高い。玉砕覚悟の討伐隊の面々も揉めることもなくまとめているようで、事態は収束しそうな雰囲気が漂いはじめた。

「これから治療魔法を使います。少し光りまーす!」

 ブレイブハートはソリスに手をあげて叫ぶ。

「ひ、光る……? 何よそれ?」

 ソリスは何を言っているのか分からなかった。そんな治療魔法など聞いたこともなかったのだ。

 その時、青空が赤く輝いた――――。

 へ……?

 見上げた瞬間、ソリスの目に飛び込んできたのは、真上に浮かぶ真紅の巨大な魔法陣だった。魔法陣は膨大な魔力をはらんでパリパリと周囲にスパイクを散らせている。

 しまった!!

 ソリスは地面を思いっきり蹴ってその場を飛び出す。

 刹那、激しい真紅の閃光が空から花畑に降り注いだ――――。

 ズン!

 天空と大地が激光に染まるその瞬間、激しい爆発が美しい花畑を一瞬で覆い尽くす。

 ぐはぁぁぁ……。ひぃぃぃぃ!

 討伐隊メンバーの苦痛の声があちこちから漏れ聞こえてくる。

 やがて訪れる静寂――――。

 花畑にポッカリと開いた巨大なクレーターから、灼熱のキノコ雲が猛々しい熱線を放ちながらゆっくりと空に昇っていく。その光景はまるでこの世の終わりのようで、周囲には黄金色に輝く微粒子が幻想的に舞っていた。

「やったか!?」

 焼け焦げた花畑からブスブスと煙が立ち上る中、ブレイブハートはクレーターに駆け寄り、辺りを見回す。そこには大爆発で開いた赤茶けた土の穴が広がっているばかりだった。

「先生! やりましたよ! 小娘は跡かたなく吹っ飛びました!!」

 ブレイブハートは振り向くと、セリオンの陰から姿を見せた大魔導士に嬉しそうに叫んだ。

「はしゃぐな、小僧!」

 豪華なダマスク柄のローブをまとった大魔導士は一喝する。知識と力の象徴である古代の杖を携えた彼の白髪と豊かな髭は、研鑽けんさんの歳月による深い知恵を感じさせ、その眼差しはどこか遠くを見つめていた。

 ブレイブハートはソリスの死角に大魔導士を呼び、他の魔導士と共同で究極の炎魔法【煉獄インフェルノ審判ジャッジメント】の詠唱を続けてもらっていたのだ。

「はっはっは! 馬鹿な小娘め! 蒸発させてしまえばもう生き返れまい。王国の精鋭たちをなめんなよ!」

 ブレイブハートは愉快そうに笑う。

「ヤッター!」「大魔導士様、バンザーイ!」

 討伐隊の歓喜の声が焼け野原に響き渡る。恐怖の象徴であった少女の影が消え去り、皆がその解放感に喜びを爆発させた――――。

『レベルアップしました!』

 クレーターの底に何かが黄金色に鮮烈に輝く。

 へ……?

「殺す!」

 七歳の少女が黄金の輝きの中から飛び出してくる。七歳になってかなり減衰したもののレベル127の前代未聞の戦闘力はまだ人類最強クラスだった。

 慌てて剣を構えるブレイドハートだったが、ソリスの憤怒の拳が唸りを上げ剣を粉々に粉砕する。

「騙しやがったなぁぁぁ!!」

 ソリスは顔面めがけてこぶしに力を込めた。

 その時だった――――。

 ザスッ!

 ぐふっ……。

 いきなり胸に激痛が走り、凍り付くソリス。

 見ればブレイドハートの腹部から氷の槍が伸び、自分の胸を貫通しているではないか。

 ぐほぉ……。くぅぅぅぅ……。

 ブレイブハートは泡を吹きながら倒れ、その後ろには大魔導士が冷徹な目をソリスに向けていた。

「お、お前……、味方ごと撃つなんて……」

 ソリスはガックリとひざをつき、胸から伸びる氷の槍をつかんだ。

「彼もお国のために死ねて本望じゃろう。で、貴様は何者じゃ? なぜ生き返れる?」

「め、女神に連なる者……よ……」

 息も絶え絶えになりながらソリスは大魔導士を見上げ、にらんだ。

「ほう? 女神……、道理で聖なる光を纏っておったか。じゃが、この国ではもはや聖なる力は毒じゃ。安らかに眠れ……」

 大魔導士はつまらなそうにそう言うと、杖を振り、目の前に青い魔法陣を次々と浮かべ輝かせた――――。

「や、止めろ……」

 ソリスは何とか逃げようと思うものの、血を失いすぎておりもはや力も入らなかった。

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