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7. 強者の愉悦
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簡易宿に泊まった翌朝、まだ朝もやのけぶる中をソリスは大剣を背負い、晴れやかな気持ちで石畳の道を歩き出した。
いよいよ生死をかけた弔い合戦へと赴くのだ。
もう二度と見れないかもしれない景色、そう思うと古びた街並みも、壊れかけて軋む看板も、パン屋が元気よく開店の準備をするさまもすべて愛おしく見えた。
立派な浮彫の施された堅牢な城門をくぐると、ソリスは振り返る。
城門の向こうに見える愛しい街並み――――。
「長い間ありがとう……。仇を討って戻ってくるわ……」
ソリスは深々と頭を下げた。嫌な事も楽しいこともいっぱい詰まったこの街。一旦すべてを捨てて、この一戦に賭けるのだ。
ソリスは不思議とさっぱりとした気分で別れを告げると、決意のこもった目で前を向き、グッとこぶしを握った。
◇
その後何度も殺されながら、予想外のチート級ギフトで地下十階のボスに勝ってしまったソリス――――。
その理不尽な展開に、床にペタンと座り込んだソリスは仲間を想い、泣き崩れる。
涙はとうとう枯れ果て、ソリスは泣きはらした目でぼんやりと壁に並ぶ魔法のランプを見つめた。ランプは静かにゆらゆらと揺れ、その光が彼女の頬を優しく照らす。
例え勝てても厳しい人生だったはずなのに、予想外の展開で明るい未来が開けてしまったのだ。死なないで強くなれるのであれば自分は世界一の剣士になってしまう。それはいわゆる【勇者】という奴ではないだろうか? ひっそりと生きてきた中年女が今さら勇者だとは、なんとも笑えないジョークだ。ソリスは渋い顔で首を振った。
国王に讃えられ、街を行く華やかなパレードでみんなの歓声を浴びる。少し想像してみただけで、鳥肌が立ってしまう。日陰でひっそりと自分ならではの幸せの世界を満喫する。それがソリスにとって最善であり、今さら華やかな場所など気疲ればかりして何も楽しくなさそうに見えた。
ただ……。三婆トリオと呼んでた連中だけはどうにも許すわけにはいかなかった。冒険者稼業というのは自らの命を天秤にかけながら、自分なりの戦略をもって臨むもの。自分と違う道を選んだものを嗤うとは傲慢で許しがたい。あいつらだけはぎゃふんと言わせねば、死んでいった仲間に申し訳が立たないのだ。
華年絆姫の名を歴史に残さねばならない。ソリスはグッとこぶしを握った。
このダンジョンの最深踏破記録は地下三十九階。Aランクパーティでも地下四十階のボスは倒せていないのだ。で、あれば五十階のボスをぶっ倒して、華年絆姫の成果として記録させるのだ。ギルドのロビーに燦然と輝く金のプレートに華年絆姫の名前を刻む……。そう、それこそが散っていった仲間に対する餞になるのではないだろうか?
そこまでやったらすぐに旅に出て、どこかののんびりとした田舎でゆったりと老後のスローライフを楽しむのだ。
ヨシッ!
ソリスはピョンと跳び上がると、大剣を高く掲げた。
「フィリア、イヴィット、我々華年絆姫は最強パーティとして歴史に名を刻むぞ!」
ソリスは目をつぶり、新しい決意と共に二人の冥福を祈った。
◇
地下十一階、ソリスは軽い足取りでダンジョンの奥へと乗り込んでいく――――。
早速出てくる屈強なリザードマンの群れ。十数頭はいるだろうか? 薄暗がりの中に赤く煌めく目がずらっと並んでいる。リザードマンは爬虫類タイプの怪力なファイターであり、以前なら三人がかりでも苦戦しただろう強敵だった。
しかし、ソリスは速度を緩めることなく、むしろ加速しながら大剣を下段に構え、肩から突っ込んでいく。
うぉぉぉぉぉ!
リザードマンたちはいきなり現れたソロの女剣士にニヤリと笑うと、チロチロっと赤い舌を出しながら剣を構えた。
一匹目のリザードマンが、迫ってくるソリスに鋭く剣を振り下ろす。
ウキョーー!!
ギラリと光った刀身が目にも止まらぬ速度でソリスを捉える――――直前、ソリスはすっと横に身体をずらし、そのままリザードマンの胴を一文字斬りで真っ二つに切り裂いた。
血しぶきが飛び散る中、ソリスは二匹目を目指す。
あっさりと突破されたことに浮足立った二匹目は対応が遅れる。ソリスはその隙を逃さず、そのまま袈裟斬りで瞬殺した。
キョキョキョ!! キョーー!!
三匹目と四匹目が同時に突っ込んできて剣を振るったが、ソリスは直前でピョンと跳び上がって頭上を飛び越えた。
うひょぉ!
羽根が生えたかのように高く跳躍した瞬間、ソリスの顔に無邪気な笑みが広がる。レベル55の驚異的な身体能力は、まるで異次元からの贈り物のように強烈だった。
レベル55は、若い子ならレベル50に相当し、ランクで言えばBランク。街に千人近くいる冒険者でもBランクは十人もいない精鋭クラスなのだ。
ソリスは着地するや否や、しゃがんだまま軸足を中心に一回転しながら二匹を撫で斬りに切って棄てる。
せいやーーっ!!
絶好調のソリスはギラリと目を輝かせ、残りのリザードマンたちを見上げた。
キョキョキョー!!
パニックに陥ったリザードマンたちは、混乱の中で逃走を試みる。だがソリスは、風のような速さで追いすがり、その大剣で容赦なく彼らを斬り倒していった――――。
やがて静寂に包まれる洞窟。こうしてあっという間に、洞窟には無数のリザードマンの骸があふれたのだった。
リザードマンの死体はゆっくりと消えていき、後には緑色に輝く魔石がパラパラと転がっていく。
「ふぅ……。十一階って大したことないのね?」
ソリスは血だらけになった大剣をビュッと振って血を払い、床に散らばった魔石を眺める。
かつて生活のための暗く危険な作業場でしかなかったダンジョンが、今、彼女の目には、魅力的な宝の山として映っていた。
「ダンジョンってこんなに楽しかったかしら? くふふふ……」
ソリスはかつてない強者の愉悦に身を委ね、恍惚の表情を浮かべながら両腕を大きく広げた。
いよいよ生死をかけた弔い合戦へと赴くのだ。
もう二度と見れないかもしれない景色、そう思うと古びた街並みも、壊れかけて軋む看板も、パン屋が元気よく開店の準備をするさまもすべて愛おしく見えた。
立派な浮彫の施された堅牢な城門をくぐると、ソリスは振り返る。
城門の向こうに見える愛しい街並み――――。
「長い間ありがとう……。仇を討って戻ってくるわ……」
ソリスは深々と頭を下げた。嫌な事も楽しいこともいっぱい詰まったこの街。一旦すべてを捨てて、この一戦に賭けるのだ。
ソリスは不思議とさっぱりとした気分で別れを告げると、決意のこもった目で前を向き、グッとこぶしを握った。
◇
その後何度も殺されながら、予想外のチート級ギフトで地下十階のボスに勝ってしまったソリス――――。
その理不尽な展開に、床にペタンと座り込んだソリスは仲間を想い、泣き崩れる。
涙はとうとう枯れ果て、ソリスは泣きはらした目でぼんやりと壁に並ぶ魔法のランプを見つめた。ランプは静かにゆらゆらと揺れ、その光が彼女の頬を優しく照らす。
例え勝てても厳しい人生だったはずなのに、予想外の展開で明るい未来が開けてしまったのだ。死なないで強くなれるのであれば自分は世界一の剣士になってしまう。それはいわゆる【勇者】という奴ではないだろうか? ひっそりと生きてきた中年女が今さら勇者だとは、なんとも笑えないジョークだ。ソリスは渋い顔で首を振った。
国王に讃えられ、街を行く華やかなパレードでみんなの歓声を浴びる。少し想像してみただけで、鳥肌が立ってしまう。日陰でひっそりと自分ならではの幸せの世界を満喫する。それがソリスにとって最善であり、今さら華やかな場所など気疲ればかりして何も楽しくなさそうに見えた。
ただ……。三婆トリオと呼んでた連中だけはどうにも許すわけにはいかなかった。冒険者稼業というのは自らの命を天秤にかけながら、自分なりの戦略をもって臨むもの。自分と違う道を選んだものを嗤うとは傲慢で許しがたい。あいつらだけはぎゃふんと言わせねば、死んでいった仲間に申し訳が立たないのだ。
華年絆姫の名を歴史に残さねばならない。ソリスはグッとこぶしを握った。
このダンジョンの最深踏破記録は地下三十九階。Aランクパーティでも地下四十階のボスは倒せていないのだ。で、あれば五十階のボスをぶっ倒して、華年絆姫の成果として記録させるのだ。ギルドのロビーに燦然と輝く金のプレートに華年絆姫の名前を刻む……。そう、それこそが散っていった仲間に対する餞になるのではないだろうか?
そこまでやったらすぐに旅に出て、どこかののんびりとした田舎でゆったりと老後のスローライフを楽しむのだ。
ヨシッ!
ソリスはピョンと跳び上がると、大剣を高く掲げた。
「フィリア、イヴィット、我々華年絆姫は最強パーティとして歴史に名を刻むぞ!」
ソリスは目をつぶり、新しい決意と共に二人の冥福を祈った。
◇
地下十一階、ソリスは軽い足取りでダンジョンの奥へと乗り込んでいく――――。
早速出てくる屈強なリザードマンの群れ。十数頭はいるだろうか? 薄暗がりの中に赤く煌めく目がずらっと並んでいる。リザードマンは爬虫類タイプの怪力なファイターであり、以前なら三人がかりでも苦戦しただろう強敵だった。
しかし、ソリスは速度を緩めることなく、むしろ加速しながら大剣を下段に構え、肩から突っ込んでいく。
うぉぉぉぉぉ!
リザードマンたちはいきなり現れたソロの女剣士にニヤリと笑うと、チロチロっと赤い舌を出しながら剣を構えた。
一匹目のリザードマンが、迫ってくるソリスに鋭く剣を振り下ろす。
ウキョーー!!
ギラリと光った刀身が目にも止まらぬ速度でソリスを捉える――――直前、ソリスはすっと横に身体をずらし、そのままリザードマンの胴を一文字斬りで真っ二つに切り裂いた。
血しぶきが飛び散る中、ソリスは二匹目を目指す。
あっさりと突破されたことに浮足立った二匹目は対応が遅れる。ソリスはその隙を逃さず、そのまま袈裟斬りで瞬殺した。
キョキョキョ!! キョーー!!
三匹目と四匹目が同時に突っ込んできて剣を振るったが、ソリスは直前でピョンと跳び上がって頭上を飛び越えた。
うひょぉ!
羽根が生えたかのように高く跳躍した瞬間、ソリスの顔に無邪気な笑みが広がる。レベル55の驚異的な身体能力は、まるで異次元からの贈り物のように強烈だった。
レベル55は、若い子ならレベル50に相当し、ランクで言えばBランク。街に千人近くいる冒険者でもBランクは十人もいない精鋭クラスなのだ。
ソリスは着地するや否や、しゃがんだまま軸足を中心に一回転しながら二匹を撫で斬りに切って棄てる。
せいやーーっ!!
絶好調のソリスはギラリと目を輝かせ、残りのリザードマンたちを見上げた。
キョキョキョー!!
パニックに陥ったリザードマンたちは、混乱の中で逃走を試みる。だがソリスは、風のような速さで追いすがり、その大剣で容赦なく彼らを斬り倒していった――――。
やがて静寂に包まれる洞窟。こうしてあっという間に、洞窟には無数のリザードマンの骸があふれたのだった。
リザードマンの死体はゆっくりと消えていき、後には緑色に輝く魔石がパラパラと転がっていく。
「ふぅ……。十一階って大したことないのね?」
ソリスは血だらけになった大剣をビュッと振って血を払い、床に散らばった魔石を眺める。
かつて生活のための暗く危険な作業場でしかなかったダンジョンが、今、彼女の目には、魅力的な宝の山として映っていた。
「ダンジョンってこんなに楽しかったかしら? くふふふ……」
ソリスはかつてない強者の愉悦に身を委ね、恍惚の表情を浮かべながら両腕を大きく広げた。
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