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子爵令嬢

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『モルヴァン嬢、こんにちは』
『あら。ご機嫌よう。今から練習に行かれるのですか?』

 あれは騎士団人気No.3のシオン様? なぜあの女に話しかけているのかしら?

『はい。モルヴァン嬢はどちらへ?』
『馬車に忘れものをしてしまいましたの。練習頑張ってくださいませね』

 また他の男婚約者以外にいい顔をしているわ。やはり阿婆擦れなんじゃない。シオン様のような若いイケメンに色目を使って……そう考えたらあの隊長が可哀想に思えて来たわねぇ。演技でもあの隊長といなきゃならないなんて。

『モルヴァン嬢も私を応援してくださりますか?』
『? え、えぇ、勿論ですわ』

 少しばかり綺麗だからといって笑顔を見せれば男は落ちるだなんて思っていそうな顔ね……

 ……もしかしてシオン様ってあの女の事を好きなの? 隊長がいるから遠慮しているのかしら? それならシオン様を使っても……


「ご機嫌よう」

 シオン様に声をかけた。

「こんにちは。いつも応援ご苦労様です」
 
 なんか、嫌味な言い方ね! さっきあの阿婆擦れ女にむけていた顔とは違うじゃないの!

「……ねぇ、シオン様ってもしかして、あのあば、じゃない。モルヴァン嬢の事が好きなの?」

 明らかに動揺しているじゃない、バレバレだから!

「ちゃんと告白はしましたの?」

「まさか……隊長のご婚約者様ですから。ただ……綺麗な令嬢なので憧れているだけです」

 悔しそうに下を向いた。目線を合わせないと言うことはやましいことがあるからでしょう?

「婚約者と言っても、意にそぐわない婚約かもしれませんわよ? 隊長にと言って差し入れていたものもきっと隊長以外の方にアピールしているんだわ」

「……どういう事ですか?」

 ここまで言って理解できないの? 脳筋は困るわ。

「隊長なんかより素敵な方がいたら乗り換えるつもりなのよ。だってあの隊長よ? 厳しい顔をしてケモノのような大きな身体。令嬢に迫って無理やり婚約させたに違いないわよ」

「え! そうなんですか?!」

 知らないけれどきっとそうに違いありませんわ。


「令嬢は一度婚約破棄されていますでしょう? だから相手がいなかったのですわ。仕方なく歳の離れた隊長と婚約することになったのよ」

 知らないけれどきっとそうに違いありませんわ。

「……なんて事を。それが本当なら可哀想じゃないですか! 隊長は強くて憧れますが、確かに怖い」



 それなら隊長より先に……って言っただけ。ふふっ。


 
 

『……あら? アデールはどうしたのかしら? バスケットはあるのに……何かあったのかしら?』

 あのメイドに聞きたい事があって声をかけたのだけど、生意気で口答えをするメイドだったわ。
 お嬢様と閣下はお互い思い合っています! ムキになっていうところが怪しいのよね! 閣下は優しい方です? 恐ろしい顔をして金でも掴ませているに違いないわ! 
 話にならないわね。嘘つきは要らないわよね? 少し眠って貰いましょう。

 スプレーボトルに眠たくなる物質を含んだ物を入れてある。シュッ! シュッ! と吹きかけた。
 
『え、何を……』

 驚くシオンを見て急かすように言う。

『早くこのメイドを連れて行きなさい。なんのために大きな箱と台車を用意したと思っているの? このメイドはモルヴァン嬢のメイドだから丁重に扱いなさいよ』

 そう言うと脳筋は丁重に扱い倉庫に連れて行った。それからモルヴァン嬢が、おかしいわねぇ。と言い周りをキョロキョロしていた。護衛はいつも連れている護衛とは違って若い護衛だった。やはりこの女は若い男の方が良いのね……

 
『私が探して来ましょうか? 別れてからそれほど時間も経っていませんし』

 かかった! 騎士団内部で問題があるとは普通は思わないものね。


 護衛というからきっとこの男も強いんでしょう。ここ騎士団は騎士団だから揉め事があったらすぐに騎士達が駆けつけてくるでしょう? そうしたら不利になる。大人しくして貰わなきゃ困るわ。

『モルヴァン伯爵家リュシエンヌ嬢の家の方ですか?』

 にこりと声をかける。私の顔を知らないだろうから簡単ね。

『はい、そうです』

『伯爵家のメイドが探していましたよ』

『え? どこでですか?』

『あちらの角を曲がった先でしたわ』

『ありがとうございます。行ってみます』


 角を曲がった先にはシオンが待ちかねている。不意に襲われたら一溜りもないわね。護衛の彼にも暫く眠って貰いましょう。シュッ! シュッ! と吹きかける。かけ過ぎると良くないのよね。壊れちゃうんですって? 何が壊れるかは分からないけど。ここまでは完璧ね。すぐに練習場に戻り観覧席へ。


 憎きモルヴァン嬢に声を掛ける。生意気なメイドの話をしたら油断したのよね。
 このバスケットが邪魔でしょうがないけど、残しておくわけにはいかないから持っていく事にした。公開練習中の廊下は誰も歩いていないから、見られることはなかった。私達は本当にツイているわ!


『シオン様は、このおん、モルヴァン嬢のどこがいいわけ?』

 シオン相手に取り繕っても仕方がないから、ついこんな態度になってしまう。

『隊長が羨ましい。強くて、公爵家の出で、王族の血も流れている。結婚しなくても地位があるからこの先も安泰だ。隊長に勝てることといえば女性にモテる事だと思っていた。私が微笑めば大体の女性は靡いてくれる。騎士は女性の憧れだ』

 ナルシストなのね……

『なのに……隊長にこんなキレイな婚約者が出来て、優しくて……ただ狡いと思っていたんだ。だが隊長といるモルヴァン嬢を見ていたらどんどん惹かれていった。そんな姿を見て欲しいと思った。なんで隊長は全てを手に入れることができるのか……彼女を奪えば隊長に勝てるような気がしたんだ』

 面倒くさっ!

『そうなのね……気持ちはよーく分かるわ。女の子ってね、優しくしてくれる男性が大好きなのよ? だから優しくしてあげて。ね?』

 
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