51 / 100
怪しい人間ではない
しおりを挟む~グレイソン視点~
朝から図書館へ行く。休みなのにわざわざ王宮に向かうと言うのもなんだか……知り合いに会いたくないからコソコソと図書館まで行く。ついでに司書に渡された例の本も返却する予定だ。この本を知り合いに見られるわけにはいかない! 周りを警戒しながら図書館までの道のりを行く。決して怪しい人間ではない。
「閣下、朝から珍しいですね!」
……びっくりした。この司書も私を怖がらないんだよな。
「あぁ。たまにはのんびり本を読むのも悪くないと思ってな。この本の返却を頼む」
「どうでした? 勉強になったでしょう?」
【騎士と令嬢の危ない関係】は見ていて辛くて鳥肌が立った。
「……まぁ、そうだな」
「でしょう! またオススメを用意しておきますね」
「…………」
「閣下、もしかして先日の本を読みにこられたのでは?」
伯爵から譲ってもらった本か。
「あぁ、そうだ、閲覧可能か?」
「はい。陛下も大変喜んでおられましたよ」
「今度伯爵の家にお礼を届けることにするよ。伯爵家の蔵書も素晴らしいんだ」
などと司書と話をしていたらモルヴァン嬢がタイミング良く現れたのだ。
「閣下ではないですか。司書様もご一緒でしたのね、ごきげんよう」
「モルヴァン嬢、おはよう」
にこりと微笑むモルヴァン嬢。くそ、爽やかで眩しいな。
「閣下はもしかして休日ですか? いつもの騎士様の制服ではありませんものね? ラフなお姿もお似合いですね」
「……世辞は不要だが、モルヴァン嬢も……今日の装いは軽やかで、似合っている」
紺色のドレスに白のリボンがアクセントになっていた。落ち着いた服装を選んでいる様だった。パーティーの時のドレスも可愛かったがこのようなシンプルなドレスも清楚でよく似合う。
「まぁ。ありがとう存じます。お世辞でも嬉しいですわ」
(司書はこの二人の雰囲気にいい予感しかしないので、少しだけお節介をしたくなる)
「モルヴァン嬢も来られましたし、閣下例の本を一緒にご覧になってはいかがですか?! 関係者以外立ち入り禁止エリアの本ですが閣下がいるのであればご覧いただけますし、いつものお席でお待ちいただければ私がお持ちしますよ」
「まぁ。先日の本ですの?」
「はい! 閣下どうされますか?」
「モルヴァン嬢が読みたいのであれば……」
「はい、よろしければ是非」
ソファに並んで腰掛けた……このソファ狭くないか? 近くにモルヴァン嬢を感じる。無言ではいけないがここは図書館、静かに会話を楽しもう。声のトーンを抑えて話をする。
「モルヴァン嬢、先日は差し入れをありがとう。隊員達も皆喜んでいた」
ミートパイ……残念だったな。
「閣下も召し上がってくださいましたか?」
「アップルパイを頂いた。シナモンが効いていてうまかった」
レオンも同じことを言っていたな……
「それは……入れ過ぎましたの。それでりんごを急遽増やして……すると量も増えてしまいましたの。パイを包むときに歪になってしまったり……」
「……本当に手作りだったんだな(もっと味わって食べるべきだった)」
そう言えば貴族の令嬢の手作りという言葉を信用してはいけない。と隊員の誰かが言っていたな。手作り=シェフって笑いながら話しているのを聞いたことがある。
「ほぼシェフが作ったのですよ。わたくしは邪魔ばかりでしたわ。でも、クッキーは得意ですの! 何度も作っていますし、弟も妹も喜んでくれます」
「それは今度作ってくれるという事と捉えてしまうが……」
口が勝手に!
「閣下は甘いものが得意ですか?」
「すごく甘いものは食べないが、普通に食べるな」
「それではまた差し入れにいきますね。クッキーでよろしければ」
……また来てくれるのか。でもなぜ私なんかに差し入れをしてくれるのだろうか。
何気ない会話をしていたら司書が本を抱えてやってきた。机に置いて肩を並べてページを開く。
モルヴァン嬢が首を傾けたので何事かと聞く。この文字が解読できませんわ……そうかまだ勉強中だったな。
これは○□○と読むのだ。なぜそうなったかという理由を説明すると──
『閣下の説明は分かりやすいですわ』
頬を染め喜ぶモルヴァン嬢。気がつくと外から鐘の音が聞こえ昼を告げた。もう昼か……時間が経つのは早いな。
「モルヴァン嬢、昼はどうするんだ?」
「いつもはお昼から来るので考えていませんでした。本日は楽しかったですわ、とても勉強になりました。ありがとうございました」
……別れ辛い。
「モルヴァン嬢、時間は……まだいいのか?」
「え? えぇ、夕刻迄に帰らなくてはいけませんが」
「……それなら、ランチを一緒にどうだろう?」
「あ、えっと……よろしいのですか? 閣下は休日ですのに」
「もちろんだ。天気もいいから外でどうだろうか? 大したものは用意出来ないが任せてもらっても良いか? 苦手なものは?」
……結局は騎士団の食堂へ行くことになるのか。外にランチを誘う勇気は持ち合わせていない。
「ありませんわ」
「分かった。この前私がいたベンチで待っていてくれるか?」
「はい、お言葉に甘えて……」
図書館を出てモルヴァン嬢がいつも連れているメイドと護衛に説明をしていた。騎士団の食堂へ行くと部下達が何事かと私を見てくるが華麗にスルーした。
小さな声で女性二人と男二人分を……とシェフにオーダーした。
ニヤニヤするシェフも華麗にスルーした。するとシェフは何も言わずに四人分を持たせてくれた。
シチューパイ?
フルーツサラダ?
パウンドケーキ?
フルーツティー?
そんなもの普段は出さないくせに。どこから出てくるんだ?
モルヴァン嬢、メイド、護衛騎士も喜んでいたからまぁ良い。シェフに礼を言っておくか。美味かったと。
59
あなたにおすすめの小説
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
病弱な幼馴染を守る彼との婚約を解消、十年の恋を捨てて結婚します
佐藤 美奈
恋愛
セフィーナ・グラディウスという貴族の娘が、婚約者であるアルディン・オルステリア伯爵令息との関係に苦悩し、彼の優しさが他の女性に向けられることに心を痛める。
セフィーナは、アルディンが幼馴染のリーシャ・ランスロット男爵令嬢に特別な優しさを注ぐ姿を見て、自らの立場に苦しみながらも、理想的な婚約者を演じ続ける日々を送っていた。
婚約して十年間、心の中で自分を演じ続けてきたが、それももう耐えられなくなっていた。
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定
これで、私も自由になれます
たくわん
恋愛
社交界で「地味で会話がつまらない」と評判のエリザベート・フォン・リヒテンシュタイン。婚約者である公爵家の長男アレクサンダーから、舞踏会の場で突然婚約破棄を告げられる。理由は「華やかで魅力的な」子爵令嬢ソフィアとの恋。エリザベートは静かに受け入れ、社交界の噂話の的になる。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる