3 / 17
タウンハウス
しおりを挟む~ジェラール視点~
ふぅっ。なんとかアナベルをやり込めた!
女は黙って男の言うことさえ聞いていれば可愛げがあるのに、アナベルは何かと口うるさい。
まるで俺の両親や兄みたいだ。
勉強さえ出来て成績が優秀なら何にも言わないと思っていたのにな……。
だからこうして格上の侯爵家の跡取り娘と婚約が出来たわけだけど……。
父上が執務を覚えるためにもクレマン侯爵家に住み込みで覚えてこい! とまるで追い出すように家を出されてしまった。
兄が婚約者とめでたく結婚式を迎え、俺の実家でもあるドロン伯爵家に住む事になったから邪魔になったのだろうか。
こうしてクレマン家にお試しで住み込みを始めたのだが……おいおい……この書類はなんなんだよ。多すぎやしないか?
これをアナベルは学園から帰った後もこなしていると言うのか?
一枚取って目を通す。
『ジェラール様、そちらの書類は計算が正しいかご確認の上サインをお願いしますわね』
計算もするのか? 一枚一枚? 日が暮れる作業だ。
『そちらの書類は不正の事実があるかないかと言う重要なものですので、役所に行って確認を』
しかも現地に行って見てくるのだと言う。
『人を使えば良いのではないか? アナベルが確認に行く必要があるのか?』
帰ってきた答えは、現地に行った方が早く処理できるのだと言う。
だから俺はアナベルと同等の執務をこなす事はない。補佐的要素で十分だ。気楽な婿だからな、好きにさせてもらう。
勉強ができても社会に出ると通用しないことがある。と聞いたことがある。
俺は勉強はできる! だがどうやら領地経営となると、それは関係ないのだ。
先見の明、これがない事にはどうにもならないのだ。
アナベルのようにコツコツ……と幼い頃から領地経営について学んできた者とは違うのだから。
そのアナベルは今日から領地へ行っている。俺も誘われたが行かなかった。俺にはすることがあるから。
「ジェラール、少し良い?」
俺のことをジェラールと呼ぶのは幼馴染のクララだ。家が近くてよく顔を合わせていた。
茶色い肩までの髪の毛に同じく茶色の瞳、小柄な体型で少し病弱な女の子だ。
行儀見習いのためドロン伯爵家に来たのがクララがまだ十歳の頃だった。
昔は健康的でよく笑う女の子だったが、年齢を重ねていくうちに色が白くなり、か細くなった。
「あぁ。良いよ、さぁ行こうか」
「うん。ごめんね私の為に」
「気にするな、当たり前だろう」
向かった先は使用人が住む住居棟だった。
「空いている個室はないのか?」
仕事をしていたメイド長に確かめる
「はい。個室は空いておりません」
「もっと日当たりのいい部屋はないか? そこを空けて一人部屋に変えることは?」
「なりません。それではその他の使用人に示しがつきません。使用人の事は執事長とわたくしに権限がございます。ドロン伯爵家の使用人でもこちらに従事すると言う事は、わたくしどもと働くと言う事、何か問題がございましたらお嬢様にご相談くださいませ」
きっちりと腰から頭を九十度の姿勢で下げて見せるメイド長……。
さすが侯爵家のメイド長。一筋縄では行かない。
「分かった! それではクララは一旦使用人をやめ、俺が招いたゲストとして扱うことにする」
「……何をおっしゃっておいでで?」
メイド長の顔が強張る
「ゲストムールに滞在させることにする。行くぞクララ!」
「はい」
クララと共に使用人の住居棟から出た。
57
お気に入りに追加
3,211
あなたにおすすめの小説
溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。
妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。
しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。
父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。
レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。
その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。
だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。
大切なあのひとを失ったこと絶対許しません
にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。
はずだった。
目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う?
あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる?
でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの?
私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。
義妹がすぐに被害者面をしてくるので、本当に被害者にしてあげましょう!
新野乃花(大舟)
恋愛
「フランツお兄様ぁ〜、またソフィアお姉様が私の事を…」「大丈夫だよエリーゼ、僕がちゃんと注意しておくからね」…これまでにこのような会話が、幾千回も繰り返されれきた。その度にソフィアは夫であるフランツから「エリーゼは繊細なんだから、言葉や態度には気をつけてくれと、何度も言っているだろう!!」と責められていた…。そしてついにソフィアが鬱気味になっていたある日の事、ソフィアの脳裏にあるアイディアが浮かんだのだった…!
※過去に投稿していた「孤独で虐げられる気弱令嬢は次期皇帝と出会い、溺愛を受け妃となる」のIFストーリーになります!
※カクヨムにも投稿しています!
愛しておりますわ、“婚約者”様[完]
ラララキヲ
恋愛
「リゼオン様、愛しておりますわ」
それはマリーナの口癖だった。
伯爵令嬢マリーナは婚約者である侯爵令息のリゼオンにいつも愛の言葉を伝える。
しかしリゼオンは伯爵家へと婿入りする事に最初から不満だった。だからマリーナなんかを愛していない。
リゼオンは学園で出会ったカレナ男爵令嬢と恋仲になり、自分に心酔しているマリーナを婚約破棄で脅してカレナを第2夫人として認めさせようと考えつく。
しかしその企みは婚約破棄をあっさりと受け入れたマリーナによって失敗に終わった。
焦ったリゼオンはマリーナに「俺を愛していると言っていただろう!?」と詰め寄るが……
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
【完結】キズモノになった私と婚約破棄ですか?別に構いませんがあなたが大丈夫ですか?
なか
恋愛
「キズモノのお前とは婚約破棄する」
顔にできた顔の傷も治らぬうちに第二王子のアルベルト様にそう宣告される
大きな傷跡は残るだろう
キズモノのとなった私はもう要らないようだ
そして彼が持ち出した条件は婚約破棄しても身体を寄越せと下卑た笑いで告げるのだ
そんな彼を殴りつけたのはとある人物だった
このキズの謎を知ったとき
アルベルト王子は永遠に後悔する事となる
永遠の後悔と
永遠の愛が生まれた日の物語
幼馴染が夫を奪った後に時間が戻ったので、婚約を破棄します
天宮有
恋愛
バハムス王子の婚約者になった私ルーミエは、様々な問題を魔法で解決していた。
結婚式で起きた問題を解決した際に、私は全ての魔力を失ってしまう。
中断していた結婚式が再開すると「魔力のない者とは関わりたくない」とバハムスが言い出す。
そしてバハムスは、幼馴染のメリタを妻にしていた。
これはメリタの計画で、私からバハムスを奪うことに成功する。
私は城から追い出されると、今まで力になってくれた魔法使いのジトアがやって来る。
ずっと好きだったと告白されて、私のために時間を戻す魔法を編み出したようだ。
ジトアの魔法により時間を戻すことに成功して、私がバハムスの妻になってない時だった。
幼馴染と婚約者の本心を知ったから、私は婚約を破棄します。
【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?
しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。
王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。
恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!!
ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。
この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。
孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。
なんちゃって異世界のお話です。
時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。
HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24)
数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。
*国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。
浮気相手から深く愛された婚約者に捨てられましたけど、とてもお似合いの二人なので幸せを願ってあげます。
田太 優
恋愛
婚約者が包み込まれるような愛について語り出した。
おかしいと思って調べた結果、浮気が明らかになり、浮気相手との愛を見せつけられ婚約破棄された。
障害だらけの二人だけど燃え上がったのなら応援してあげる。
あの二人なら何があっても負けないと信じているから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる