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その16(メイド・アン視点)

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「お嬢様ー。どちらにおいでですか?」
屋敷の広い庭を歩きながらキョロキョロと探す

「アンー?ここよーーー。」

お嬢様の声が上から聞こえる。

恐る恐る声のする方へ顔を上げると
やはりと言うか、もう恒例の

「お嬢様!もう木登りはおやめ下さい」

見ていてハラハラするので、やめて欲しい。

「眺めが良いの!それにパパもこの木なら登って良いって言ってくれたもの」

確かにこの木はしっかりした幹に下には芝生がひかれ、落ちても大怪我する事は無いでしょうけど……

侯爵様はお嬢様に甘すぎるのよ。


お嬢様はみんなに甘やかされている。
みんな甘いのよ!
えっ?私も甘いですって?
そりゃ………否定は出来ません。。


上位貴族のご令嬢となると傲慢な態度を取ったりツンと気高くおられるのが一般的なのだ。
うちのお嬢様は甘やかされて育っておいでるのに、傲慢なところが一切なく、使用人にも分け隔てなくお話してくださるそれはそれは優しく、可愛らしい自慢のお嬢様なのだ。


なのだが……。八歳になられるお嬢様は木登りが大好きでヒマがあれば木に登っておられるのだ。少しお転婆が過ぎるような……

お嬢様のお母さまが亡くなられた年にお嬢様は少々変わられた。
とても大人しいお子さまでいらした………はずのお嬢様はその頃からお転婆になられたのだ。
はじめはびっくりもしましたが、落ち込んでいた侯爵様のお気持ちを変えたのもお嬢様なのだ。木登りをされ始めたのもその頃から。

挙げ句の果てに侯爵様を巻き込み木登りをしているではないですか???

侯爵様とお登りになる木はこの屋敷の中で一番見晴らしのいい立派な木なのである。
少し坂の上にある侯爵家からは、街が綺麗に見えるらしいのだが、心臓に悪いったら!!
この木に登る時は必ずお二人で登る約束らしく、心臓の負担も二倍になるのだ。


お二人で木の上で何をお話しされているかは分かりませんが、親子のコミュニケーションというものなんでしょうか?
降りた後はいつも仲睦まじく、みているこちらまで幸せになるので、止めることは出来ないのです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「お嬢様、もうすぐ声楽の先生が来られる時間です。降りてきてください!」

「…………はーい」

お嬢様が木から降りようとした時足を滑らせてしまった。
あっ!危ない!と下敷きになる覚悟で木のそばへ近寄ったのだが、それより早くお嬢様のもとへ向かう影が……腕を広げて

「ほっ。間に合ったね!危なかった!!」

目を瞑っていたお嬢様が相手を確認しようと目を開けたそのお相手は

「パパーーー」

侯爵様でした。

お、怒られるとわたしは思いすぐに
「侯爵様、申し訳ございませんでした。私がお嬢様に声をかけてしまったのでびっくりさせてしまいました!」
と頭を低く下げる。

「パパ!アンは悪くないの!!」

「あぁ。分かっているよ、アンは悪くないよ。見ていたからね。マリーを助けようとしていたのも見ていたよ。ありがとうアン」

何というお優しい言葉……

「さてローズマリアには罰を与えなきゃいけないね」

「……………どうして?」

「先生が来るのが分かっていてどうして庭にいる?」

「天気が良かったんだもん」

「ふーん。そっか。先生が来る時間なのになんで木に登ったの?」

「登りたかったの」

「そっか」

侯爵さまはそれは綺麗な微笑みでお嬢様を見ておられるのだが、

「じゃこれからマリーとは木登りをしない事にしよう」

「えっ、なんで?なんで?」

「登りたくないからかな?」

「ヤダ!ヤダ!パパとじゃなきゃ登れないもん」

「約束を破ったのに?」

「約束?」

「授業のある日は木登り禁止の約束忘れた?」

「あっ!………ゴメンなさい」




「一ヶ月間木登りは禁止!いいね?」

「…………ハイ」

「よし。じゃ最後に少しだけ登ろっか?」

「良いの?」

「約束守れるよね?」

「うん!!!!!!」

侯爵様………。
お優しいわ。その優しさのかけらをユーリウス様にも分けて差し上げてくださいませ…。


お二人は仲良く木の上でお話ししておりますが、「失礼致します。侯爵様!申し訳ございませんが先生がお待ちですよ。お嬢様と降りてきてくださいませーーー」
申し訳なさそうに声を掛ける。

お二人はそれはそれは楽しそうに、こちらに手を振りその後降りていらっしゃいました。


結局先生をお待たせする羽目になりましたが、お二人の笑顔が見られて私も幸せな気持ちになりました。
お嬢様の笑顔は太陽のように暖かくとても眩しいのです。




執事さんが来て侯爵さまとお話しをしていますが、侯爵様が執事さんに「坊ちゃん」と呼ばれていたのは気のせいでしょう………。


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