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番外編
ダニエル
しおりを挟む「なっ、おまえ、ダニエルか?」
「お久しぶりですね。まさかこのような形でお会いすることになるとは」
クラウディオを領地に連れて行く役目はまさかのダニエルだった。かつての主人に頭を下げる。
「おまえ、王宮を辞めて、ここで執事をしていたのか?」
「はい。王宮はあなたが失脚してしまいましたが、残るようにと言ってくれました。レナート殿もあなたのかつての愚行に責任を感じて側近を辞しました。その時に奥様に手紙をいただき、奥様はお世話になった人へ丁寧に挨拶をしておりました。私はあなたではなく奥様についていきたいと思っておりました。念願が叶いロレンツィ侯爵家に家族でお世話になることになり、奥様とウィリアム様には感謝しかありません」
クラウディオの失脚により肩身が狭い思いをしていた所、声が掛かった。
『うちは今人手不足なの。ダニエルさんさえよかったらうちで働いて貰えませんか?』
一度はお断りした。すると
『そうよね、家族がいらっしゃるもの。でももう一度考えて欲しいの。領地にいる執事は腰が痛いとか、首が痛いとか、歳だとか煩いのよ? それとも領地は王都から離れているから嫌かしら? 領地を任せられる人を今から探すのが大変なの』
と言って下さった。家族にも相談したら王都の生活にこだわる必要はない。あなたの仕えたい人が誘ってくださるのならお言葉に甘えましょう。と言ってくれた。
しばらく王都でウィリアム様と奥様の執事として働いた。奥様は領地での出産を望んでいるようだがウィリアム様は今騎士団を辞めることはできないようで、離れて暮らすのは嫌だと奥様に縋っていた。
それなら侯爵を引き継ぎ、仕事を辞めればいい。と旦那様に言われている様だが、子供が産まれて落ち着いてから……と断っている。
恐らく奥様と生まれてくるお子様とゆっくりしたいのだろう。侯爵となるとその肩書きゆえ大忙しとなるだろう。
私は先にロレンツィ侯爵領へ引っ越すことが決まった。本邸の老執事に早くくるようにと急かされていた。
その矢先に元主が奥様を訪ねてきた。
見窄らしい姿はかつての王子の姿とは違うがやはり、中身は変わっていない様に思えた。野菜は食べる様になった……成長をしたところはそれだけか?
「嫌味か?」
「それも含まれています。少しは成長をしたみたいですね。正直あなたを侯爵領に連れて行くのは反対ですが、ウィリアム様の決定ですから仕方がありません」
それからしばらくしてロレンツィ領に入った。
「あなたの職場はココです」
ダニエルが連れてきた先は鉱山。汚れた男達はよく見ると若いものから年嵩のいったものまで様々だ。
「何を、するんだ……」
「ここはロレンツィ領の心臓部ですよ? ダイヤモンドを掘るのです。あなたは見習いの日雇いです。もし大きなダイヤモンドの原石を掘ったら特別手当てを渡します。それと大事な注意点があります。ココで掘ったダイヤモンドの所有権はロレンツィ侯爵家のもの。もし内緒で盗んで転売しようとしたらそれは窃盗と同じ罪に問われます。一日の成果は必ず仕事終わりに出す事。それさえ守れば一攫千金も夢ではありません。もし見つからなくても日雇いの給金は出しますのでご安心ください」
そう言ってダニエルは鉱山を任されている男にクラウディオを託した。
「コレに何かあればすぐに連絡してください。決して甘えさせない様に、厳しく指導してください」
そう言ってダニエルは本邸へと戻る。
それからしばらくして奥様とウィリアム様が領地へ出産準備のために戻ってくると聞いた。
「思っていたより早かったんですね。ウィリアム様はどうされるおつもりですかね?」
レナートに聞くと、苦笑いしていた。
「私は結婚したばかりなので、王都にいたかったんですよ……侯爵邸の仕事は私も含め、文官達に任せてくれましたよ。後はサインをする状態にしておきます。ウィリアム様はこんなこともあろうかと仕事を頑張っていましたから皆張り切っています。と言ってもウィリアム様は週末だけ早馬で戻ってくるそうです。奥様の出産の際は立ち会いたいそうでその辺も含めて調整中です」
「そうですか、それは奥様も心強いでしょうね」
「それよりもアレはどうしていますか?」
「はじめは文句を言っていましたが、しばらくして年若いものが大きな原石を発掘して褒賞を得たのを見てから必死に掘っています。今はあそこの川に居ます」
川で汚れを落としているのか……元気そうで良かった……っと!
「奥様だ! まずいぞ!」
ウィリアムとフランチェスカの乗る馬車が来てしまった。しかし降りてくるのはウィリアムだけ。
「ウィリアム様! 今はまずいのですが……」
「あぁ。わかっているよ。フランは領地に来ると必ずここを見に来る。来させないと怪しまれるから遠目でしか見せない。身重だから足元の悪い採掘現場に降りてこようとは思わない。馬車の中から見るだけと言っていた」
安堵するダニエルとレナート。しかし馬車の窓を開けてフランチェスカが顔を出してきた。
「「「……あっ!」」」
駆け出すウィリアム
「フラン、どうかした? どこか痛い?」
体調は良好だったことを知っているウィリアム。何か異変を感じたのかもしれない。アレの姿を確認すると発掘現場に戻ろうと背中を向けていた。
「ううん、気のせいよね。見間違いに決まっているわね」
「どうかした?」
「ううん、なんでもない。それにしても此処には久しぶりに来たわ」
馬車から降りようとしたので手を貸した。座ってばかりいるのも辛い様だ。
「足元が悪いから、ここまでだよ。躓いたりでもしたらもう二度とフランを部屋から出せなくなってしまう。そんな事はしたくないのに……」
真面目な顔でウィリアムは言う。
「……大袈裟ね、腰を伸ばしたかったの」
フランチェスカが外に出て腰を伸ばすとウィリアムが腰を一生懸命に摩っていた。それを見るダニエルとレナート。
「ウィリアム様のツンデレって切り替えが凄いですね」
「あ、それは私もそう思います」
ダニエルは見逃さなかった。アレがウィリアムとフランチェスカを見ていた事を。しかし背中を向けて行ってしまった。
******
「お疲れ様です」
「お疲れ様です」
ダニエルは金の用意をして鉱山を任されている男にそれを渡す。金を用意して持って行くのは今のところダニエルの仕事だ。日雇いの者達に日銭を渡す姿を見ていた。すると突然
「子供が産まれるのか?」
クラウディオに声をかけられた。
「えぇ」
「そうか、幸せなんだな」
と言って金を受け取り宿舎へと戻って行った。
何か感じた事があったのだろうか。奥様はウィリアム様といるととても幸せそうで見ているこちらが恥ずかしくなるほど仲睦まじい二人。
そんな幸せそうな顔をする奥様の顔を見た事がないだろう。本来ならアレが奥様を笑顔にする立場だったと思うとフクザツだ。
ウィリアム様は領地へ来ると必ず巡回に来る。そうやって領民の心を掴んでいる。ウィリアム様が来てから犯罪が減ったとも言われている。
そんな時にある事件が起きた。
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