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子供の頃のメイナード
しおりを挟む可愛い女の子は大好きだ。男なんてそんなもんだ。
未だ幼き日の頃、母の開いたお茶会でアルベルティーナに会った。
ピンクの髪の毛と紫色の大きな瞳が、とても印象的で可愛かった。
膝より少し長いドレスをふわふわとさせて、長男のユリウスに手を引かれている姿は、人形のように愛らしかった
私と歳が同じと言う事で、アルベルティーナを紹介された。挨拶の後ににこっとはにかみながら笑うアルベルティーナに一目惚れをしたのかもしれない。
それからアルベルティーナはよく王宮に来るようになった。何か用事があるらしい
見かけると、呼び止めて庭で散歩をしたりお茶を飲んだりして交流を深めた
「アルベルティーナは家族からなんて呼ばれているの?」
「ティーナと呼ばれています。わたくしの名前は長いですもの」
「そっか。それなら私はアルベルと呼んでも良い?私のことも名前で呼んでほしい」
「はい、メイナード様」
嬉しそうに笑うアルベルの顔は人形なんかではなく、表情が豊かな可愛い女の子だ
ある日母に、あまりアルベルと仲良くしてはいけないと言われてショックを受けた。
理由を聞くとアルベルは私の兄と婚約の話があるのだそうだ。
五つ上の兄はいずれ王太子になり国を背負って立つ人間だ。アルベルは公爵家の令嬢だから政略結婚をしても何らおかしくはない
兄はアルベルを気に入っている。アルベルは良い子で兄上との婚約話を受け入れることになるだろう。嫌だな…
数日後、王宮の庭でふわふわと風に靡くピンクの髪の毛が見えた。隣国では女神の祝福とされているピンクの髪の毛は、シーバ国でも珍しい髪質だ。
「アルベル?」
「メイナード様!こんにちは」
「どうした?こんなところで一人か?」
「…はい、気分転換に歩いていたらいつの間にかこんな場所まで…戻らなきゃ…」
困った表情をするアルベル、何があったんだろう?
「何かあったの?」
ううん。と、頭を振るアルベル
「それでは失礼します」
ペコリと頭を下げて去ろうとするから腕を掴んで引き留めた
「待って!何があったか言って、そうじゃないと離さないよ」
ただ心配になった、笑っていないアルベルは嫌なんだ、こんな顔で一人でいて欲しくない
「お話をしたら離してくださいますか?」
「うん、約束するよ」
「ベルナルド様のお茶会に参加をしています」
「うん」
「ベルナルド様はご令嬢にとても人気があるでしょう?わたくしとお話をしてくださるんですけど、他の参加者のご令嬢と過ごす時間が少なくなってしまいます」
「うん」
「なので、会場を離れたのです」
「アルベルは兄上が好きではないの?」
兄はアルベルと婚約をするつもりで、他の令嬢と仲良くしないんだろうと思った。
「あちらの会場は年上の令嬢ばかりで、わたくしみたいな歳の人はいませんもの。ベルナルド様はそれを不憫に思って良くしてくださるだけだと思います」
五つ上の兄上のお茶会は私達からしたらみんな年上で、楽しめる場ではないのだろう
「他の令嬢達とは話はしないの?」
「……はい」
半ば強制的に話を聞くと、令嬢達はアルベルティーナが話しかけても、聞こえないふりや無視をして離れていくのだそうだ
「兄上はこの事知っているの?」
ううん。とピンクの髪の毛が揺れる
「言わないでお願い。ベルナルド様が知ったら、悲しむでしょう?」
悲しませとけばいい。というか怒るだろうね。自分が誘ったくせにアルベルに悲しい思いをさせるなんて…ちゃんと見ておけよ!と腹が立った。
「アルベルティーナ、ここに居たのか!居なくなるから心配した。なんだ…メイナードといたのか…?」
兄がこちらを睨んできたので腹が立った
「なんで会場から離れたんだ!急に居なくなるから、肝を冷やした」
「申し訳ございませんでした」
兄が怖い顔を見せるからアルベルの目元に涙が浮かんできていた。
十歳のアルベルからしたら、十五歳の男の怒った顔は怖いだろう
「泣かなくていい。怒っているわけではないんだよ。もうお開きにしようか、ティーナは私とおいで、二人で茶会の続きをしよう」
アルベルが涙を指で拭おうとして、兄上はハンカチを渡した。そして何かに気がついたようでそっとアルベルの髪を結わえているリボンに手を伸ばした
「リボンが解けそうだ、せっかく似合っているのに」
そう言って器用にリボンを直してやった
「ありがとうございますベルナルド様」
機嫌が治ったのか、目が赤いままアルベルは兄上に微笑んだら兄上は頬を赤らめた
「行こうか?じゃあなメイナード、アルベルティーナの相手をしてくれてありがとな」
アルベルの手を引いて歩き出した
「メイナード様ご迷惑をおかけしました」
「あぁ、またな…」
胸が痛んだ…兄上はアルベルが、兄の婚約者候補の令嬢達に冷たくされているのを知らない…政略結婚なんてアルベルを不幸にするだけだ
貴族社会の政略結婚なんて碌なもんじゃない
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