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その後
ただの……レオ3
しおりを挟む「腹へらないか?」
特に減ってはいない……寧ろ胸はいっぱいと言うか……
「男二人で、色気もないが茶でも飲むか」
馬車の中で器用に茶を淹れ出した。そういえばこの馬車はずいぶんと立派だ。
「先生の馬車ですか?」
「家の馬車を借りてきた。私は二男で兄が家を継いだ。こんな立派な馬車を、いち教師が持てるわけないだろう?」
「そうだったんですか」
「私は兄のスペアだ。兄が家を継ぐなら、どこか貴族の家に婿養子に入るか、自分で稼いで生きていくかのどっちかだ。
私は勉強が好きだったから学者になりたかったんだが、ユベールや殿下に人に教えるのが向いているのではないか? といわれて、その気になった」
「そんな事があったんですね」
「ユベールが学年トップだったんだ。私は二位、殿下は三位か四位だった。
田舎子爵の息子が偉そうに! 生意気だ! とユベールは良く言われていた。でも、どこ吹く風でな、カッコよかったよ。
それで友人になった。三年の時に上から圧力がかかってな、テストで私とユベールは手を抜いた。そしたら殿下が怒ってな….くくくっ。首位で卒業したのは殿下だ、だから殿下は私とユベールを面倒な男だと言うんだ」
「ユベール殿にもそんな時代があったんですね。そんな素振りを見せなかったから」
「あいつは昔も今も領地を大事にしているだろ? 田舎者と言われてもなんとも思わないんだよ。妹君のことも同じように大事にしている。あいつはどれだけ文句を言われようが、そこはブレないんだ。でも妹君は女の子だから何かあったらと不安で王都に残っていたんだ。本来なら王宮で働けるほどの人物なのにな。そう言うところも面白いって、しまった! 茶が冷めるじゃないか!」
そう言って茶菓子のクッキーを出してきた。ひとくち食べると懐かしい味がした。
初めて食べるクッキーなのに……
「うまいだろ? 今王都で人気なんだぞ」
「はい、なぜか懐かしいような味がします」
「……そうか」
「優しい味というか、何というか……」
セイラを思い出した。昔、領地で作ってくれたクッキーを。塩味のクッキーなんて食べた事はないのに不思議だ。
その後は静かに風景を見ながら、茶を飲んでいた。
「そろそろだな……」
「ここは?」
王都から程よく離れた村だった。村の外れに馬車を止め歩いた。
先生は小さな家の前に足を止めた。家の中からは楽しそうな笑い声が聞こえる。
ノックすると「はーい」と女性の声が聞こえ、かちゃりと扉を開けられた。
「……え! レオナ? ルネも、どうして」
王都のカフェで働いていた女性……ルネを産んだ女性だ。
訳がわからず先生を見た
「両親揃っていた方が子供にはいいと思う。彼女はレオが貴族だったから、子供を手放すしかなかったんだ。
皆に産むのを反対されたらしいし、貴族の子を育てる事は出来ない。泣く泣く孤児院に預けたのだそうだ。お前はもう平民だ、働き先は家族皆と来ていいそうだ。
手が足りないらしい。まずは話し合いが必要だろ? 馬車は置いていくから話が纏まったら乗っていけ。私が出来るのは此処までだ、じゃあな、達者でな!」
振り向き立ち去ろうとする先生に感謝の言葉を伝えた
「あなたは俺の恩人だ。どうすれば恩を返せるのだろう、感謝しかない」
「バカな子ほど可愛いってやつかなぁ……手がかかるやつだ。若いのに苦労は多そうだ。お前がそれを乗り越えて幸せになるのが私への恩返しだ。
そのかわり悪い事に手を染めたらその時は、殿下の力を借りてでも罪を償わせる」
「はい、……先生」
「あぁ、じゃあな。とにかく落ち着いたら手紙をくれ」
「はい、みなさんによろしくお伝えください……匿名希望の方にも……感謝を」
******
その後レオナとルネと紹介された伯爵家へと向かった。道中はレオナに今までの事を話した。
すぐに結婚する事は出来ないが、共にルネを育てる事になった。
ルネもすっかりレオナに懐いていた。
下働きから始まったが、三人で暮らせるのは思いの外楽しかった。
ルネに本を読み聞かせする。ルネは物語が好きらしく、本を読むのが好きだ。大きくなるにつれ文字を教えた。
使用人の子供だから、教師が付くわけではないが、俺が教えれる事はルネに教えた。
まずは文字から、そして計算も教えた。
俺は学園を中退したが、勉強は元々好きだったし、男爵家では帳簿も付けていた事から、屋敷の執事について帳簿を担当するようになった。
帳簿を任せられるという事は信頼されている事だと思い、誠心誠意勤める事が出来た。
たまに屋敷で働くメイドに色目を使われ誘われる事があったが、全くその気になれなかったし、仕事が楽しかった。
レオナとルネの生活が大事だ。
ルネが大きくなる度に、教える内容が難しくなるのだが、ルネと共に口論する事も楽しく成長が感じられ、幸せだった。
ルネが十五歳になる頃に……
働いている伯爵領に学校が出来た。辺境といっても良いほどの土地に学校ができるのは異例で、教師も不足していた。
国の学力を上げるために、平民でも通えるようにと開かれた学校だった。
そしてなんと私に教師にならないか? と白羽の矢が立ったのだ。
ルネに教えるがてら、屋敷に住んでいる子供達にも教えていた。
元貴族で中退はしていたが、王立学園という高い教養がある者はこの地には中々居ないのだ。
俺が人に教えるなんて……出来るのだろうか……
文通相手と言っても良い俺の恩師に相談した。
『転機だと思え!』
その一言が俺の背中を押してくれた。
恩師には遠く及ばないが、尊敬する恩師と同じ職業に就いた。
そして俺も先生と呼ばれる存在になった。
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