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ユベールの思い(回想あり)

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「おにいちゃま、あそぼ~」

 六つ歳の離れている妹が両手を広げて走ってきた。


「セイラ! 危ない、走ってはいけない」


「おにいちゃまが、受け止めてくださるから大丈夫です」



 うちの妹は可愛い。天使のように無垢で妖精のように可憐。
 将来が心配だ……(セイラ四歳)
 


 父セイラを溺愛している。嫁になんて出したくないと言うも、せめて近くにいてくれるのなら……と言う理由で、隣の領地のファーノン男爵の嫡男と婚約の話が出てきた。



 遠くに嫁に行かれるよりも、
 相手に何かあれば婚約を破棄してしまえば良いだけ。思う事はセイラに幸せになって欲しい。出来れば私たちの近くで……。


「セイラはおにいちゃまと結婚するので、ずっとお父ちゃまともいられますよね」


 きょとんとした顔で私に言うセイラ。超絶可愛いだろう、うちの妹!


「セイラ……残念だがユベールとは結婚できないんだよ、兄妹だからね」


 父上が無念……とばかりにセイラに言った


「やだぁ、おにいちゃまとずっと一緒だもん」

 ぐすんぐすんと泣き出すセイラの姿を見ていると胸が苦しい。
 こんな可愛いセイラを……他の誰かが攫っていくと思うだけで辛い



 時が経ち……

 十五歳で王都にある学園へ通うことになる。うちには王都に屋敷があり、私は十五を待たずに王都の屋敷へと行くことになった。


 セイラがレオとよく遊ぶようになった。レオは優しくて勉強熱心で私にも懐いている。将来は私も領地に戻ってくるし、セイラがレオと結婚して、隣の領地にいると言うのならば、涙を飲むしかない。


「レオ、セイラを頼んだ」

「はい。ユベール兄さんもお元気で」


「セイラ、長期休暇には帰ってくるからね、父上と母上の言うことをしっかりと聞いて、良い子にしているんだよ」


「おにいさまぁ……お手紙くださいね、セイラも書くから、セイラの事忘れないで」


 ぐすぐすと泣き止まないセイラの頭を撫でた


 私は将来、妹を守る為に学園で学ぶことを選んだ。セイラに何かあった時の為に学園で学ぶのだ。


 縦の繋がり横の繋がりの大事さを学んだ。うちは子爵家で貴族としては決して高くない身分だから、情報収集をしなくてはこの貴族社会で取り残されてしまう。


 学園生活は意外と楽しいものであった。友人もできたし、勉強は難しいがやり甲斐はあったし、学年で上位に入るくらいの成績を収めた。

 たまに田舎貴族のくせに! と言う奴もいたが、その田舎貴族に成績で負けて恥ずかしくないのか? と心の中でバカにしている。


 田舎で何が悪い? 田舎の豊かさを王都の奴らは知らないのだろう。可哀想な奴らだ……。
 決して王都が嫌いなわけではない。国の中心で情報も早く入ってくる。だがここにはセイラがいない。


 セイラが手紙と共に刺繍をしたハンカチを送ってきてくれた。リサに教えてもらって初めて縫いました。と書かれてあった。心を込めて縫ってくれたことが分かる。
 初めて刺繍したものを私に送ってくれたのか……と思うと胸が目頭が熱くなる。


 ある時はハーブティーを作りました。と送ってくれた。
 庭に新たにハーブを植えたらしい。できる事は自分でするのがうちのモットーだ。
 セイラも成長したのだな。もうすぐ長期休暇だから帰省した際にセイラに会うのが楽しみだ。


 セイラは私が帰ってくると言うので、菓子を作って待ってくれたようだ。


「お兄様! おかえりなさいませ」


 エプロンをつけたまま飛びついてくるセイラからは甘い香りがした。家に帰ってきたんだなぁとセイラをハグしながら思った。


「ただいま、セイラ良い子にしていた?」

「はい。お父様とお母様の言う事をちゃんと聞いていました。私が良い子にしていないとお兄様が帰ってこないと言われました」


 セイラにお土産の櫛を渡したらとても喜んでくれた。
 友人が実家に帰る際妹に土産を強請られたらしいので、付き合うついでにセイラにも買った。


 セイラは今もずっとその櫛を使っている。物持ちが良いのも我が家のモットーだ。



 学園を卒業して、私は王宮で働かないか?と誘われたのだが断った。
 セイラが王都で暮らす時に家を開ける時間が多くなるじゃないか! 可愛い妹が王都のような都会の屋敷に一人で(使用人はいる)留守番なんて考えられない。


 学園時代の侯爵家の友人が商売を始めるので、経理や交渉などの仕事を手伝うことにした。給料も大変良かったから、と言うのもある。
 この仕事は楽しいし、将来領地を経営するにあたっての勉強にもなる、知り合いも増えるし、休みも融通がきく。



 セイラが入学する一年前にレオが王都に来たのだが……

「おかしいな……レオがうちに挨拶に来ないなんて」

 律儀なところがあり、ほぼ弟のようなものだと思っていたレオが来ないのだ。

 学園には着いているんだよな? しばらく様子を見るものの、一向に連絡がない。セイラに心配をかけたくないから、セイラにはきけない。父にレオから手紙は来ているのかを確認した。


「私もそこが心配だ。手紙の返事は止まっている。ユベールすまないが少し調べてくれ」


 そう言われ、レオのことを調べたら、なんとも言えない始末……。
 どうしようもないならセイラが来る前にあるべき姿に戻した方が良い。


 父に言うとセイラが来ても、レオが変わらないようなら考えよう。との答えだった。


 もうすぐセイラが王都に来る。レオはどうなるのか? セイラが悲しむ姿を見たくない








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