30 / 75
紫陽花の花
しおりを挟む「君はその植物図鑑が気に入っているのか? よく読んでいるね」
例のガゼボに居たらウィルベルト様に言われた
「はい。この本には花言葉とか書いてあって、楽しいですよ。あとどのように使えるかとか、参考になります」
「なるほど……それで紫陽花を見ていたのか?」
紫陽花がガゼボの横で見事に咲き誇っている。
「紫陽花は好きですけど、花言葉を見るとちょっと……見方が変わってきて」
紫陽花は土によって色が変わる。しかも根から吸う成分によって、咲いている時に色が変わってしまうものもあるらしい。
【移り気】とか【浮気】とかそんな花言葉だった。土によって変わるだなんて、まるで人みたいだと思った。
レオも領地にいる時と王都では違う人になったから……
「咲く場所によって変わるだなんて」
ウィルベルト様は何かを察したのか
「ちょっと待ってて、すぐ戻る」
そう言ってウィルベルト様は離れていった。そういえばウィルベルト様のハンカチの図案を考えなきゃ……。
いつもお世話になっているのだから、心を込めて刺繍しようと思った。
まずはイニシャルと……そういえばウィルベルト様は何が好きなんだろう? 何色が好みなのかな?
私の作ったパンはとても気に入ってくれたようだけど……ふふっ。パンと言うわけにはいけませんね。
美味しいと言ってくれた顔を思い出した。
すると三十分程してウィルベルト様が戻ってこられた
「お待たせ。なんで笑っているんだ?」
「なんでもないです。思い出し笑いです」
「変なやつだな、はい」
ウィルベルト様の手には白い紫陽花の花束
「え? どうしたんですか?」
「君にプレゼント」
「紫陽花……?」
さっき見方が変わったって言ったばかりなのに……。なぜ?
「これ白い紫陽花」
「綺麗ですけど……」
「そこには書いてないが、白い紫陽花は土の性質を受けずに色は変化しない。どこの土で育てても何にも染まらない、だから白いままだ」
「へー。そうなんですね。知りませんでした」
「まるで君みたいじゃないか?」
「へ?」
「地方から出てきても王都には染まらない、でも王都での生活を受け入れる寛容さがある。だからこの白い紫陽花は君のようだ」
「ウィルベルト様……」
素敵な言葉を貰った。すると急に紫陽花が愛おしく思えた。ある意味私は移り気なのかもしれない。
「早く受け取ってくれない? 流石に恥ずかしいと思っている」
「はい」
受け取った白い紫陽花を愛おしく感じた
「お部屋に飾って、その後はドライフラワーにします。あっ、なんとかして育てる事が出来るかも。庭師と相談して」
「そこまでしなくても……」
「こんな素敵なお花を貰ったのは初めてですもの」
レオから貰った黄色いバラのことを思い出した。
「誰から貰ったのかは聞かないけれど、喜んでくれて良かった」
白い紫陽花と言葉をプレゼントしてくれたウィルベルト様はとても素敵で、私の心臓はばくばくと煩かった
******
女の子に花を渡したのは初めてだった。
あんなに嬉しそうに愛おしそうに花を見る彼女は純粋なんだと思った。
白い紫陽花、花言葉は【ひたむきな愛】と言う意味もある。最近人気の花だ
浮気と聞いてレオ・ファーノンを連想させるが……いや連想したんだろう。
セイラはどこにいてもそのままでいて欲しい。土に関係なく咲く白い紫陽花、セイラのようだと思った。
タイミングよく渡せた事はラッキーだったのかもしれない。
******
家に帰るとお兄様が珍しく帰っていた。
「お兄様、お早いお帰りですね」
「セイラおかえり、どうしたその花?」
「貰いました。珍しいですよね白い紫陽花」
自分でも分かる。顔が緩んでいる
「誰から?」
「秘密です」
「まぁ、良い。話があるちょっとおいで」
侍女のリサにお部屋に飾って欲しいと頼んで花束を渡し、お兄様についていった
「一応、耳に入れておくが、レオ・ファーノンは廃嫡となるようだ」
「え! レオが?」
「学園での問題行動に、男爵が我慢できなくなったそうだ。家の恥だな。婚約破棄をしてよかったと思っている」
「そうですか、レオが……」
「セイラは関係ないからな。学園の噂は社交界にいずれ広まる。レオの子ではなかったが醜聞だ。相手が分からないのだからな」
「はい」
「レオとはその後話はしたか?」
頭を左右に振った
「約束は守られているんだな」
「はい」
「セイラは、好きな男はいるのか?」
「なんですか! 急に、そんなの、そんな人、いません、よ」
パッと思い浮かんだのはウィルベルト様だったけれど、相手は伯爵家……好きと言うか、憧れというか、かっこいいとか……どうしよう。分からない。
「リオネルが言っていたんだけど、特定の男子生徒といるところをよく見かけると聞いた」
「ウィルベルト様……ですね。勉強を教えて貰いました」
先生にウィルベルト様といるところを見られているし、声を掛けられた。やましい事ないもん
「今度の学園祭は父上と母上も王都に来るそうだ」
「えっ! お父様とお母様が!」
「セイラに会うのを楽しみにしていた」
お母様からの手紙を渡され、嬉しくってお兄様に抱きついた
「まだまだ子供だなぁ、セイラは」
背中をぽんぽんと子供をあやすように叩かれた
13
お気に入りに追加
3,434
あなたにおすすめの小説
【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。
yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~)
パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。
この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。
しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。
もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。
「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。
「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」
そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。
竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。
後半、シリアス風味のハピエン。
3章からルート分岐します。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。
https://waifulabs.com/
【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)
君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。
みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。
マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。
そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。
※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓
大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです
古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。
皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。
他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。
救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。
セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。
だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。
「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」
今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。
【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す
おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」
鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。
え?悲しくないのかですって?
そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー
◇よくある婚約破棄
◇元サヤはないです
◇タグは増えたりします
◇薬物などの危険物が少し登場します
私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください
迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。
アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。
断るに断れない状況での婚姻の申し込み。
仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。
優しい人。
貞節と名高い人。
一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。
細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。
私も愛しております。
そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。
「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」
そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。
優しかったアナタは幻ですか?
どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。
辺境伯へ嫁ぎます。
アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。
隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。
私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。
辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。
本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。
辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。
辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。
それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか?
そんな望みを抱いてしまいます。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定はゆるいです。
(言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)
❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。
(出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)
旦那様は転生者!
初瀬 叶
恋愛
「マイラ!お願いだ、俺を助けてくれ!」
いきなり私の部屋に現れた私の夫。フェルナンド・ジョルジュ王太子殿下。
「俺を助けてくれ!でなければ俺は殺される!」
今の今まで放っておいた名ばかりの妻に、今さら何のご用?
それに殺されるって何の話?
大嫌いな夫を助ける義理などないのだけれど、話を聞けば驚く事ばかり。
へ?転生者?何それ?
で、貴方、本当は誰なの?
※相変わらずのゆるふわ設定です
※中世ヨーロッパ風ではありますが作者の頭の中の異世界のお話となります
※R15は保険です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる