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ブドウの収穫
しおりを挟む「わぁ! 凄いですね! エミリオ様!」
がしっとエミリオの腕を掴んでしまった……目があってそっと離れた。毎週のように出掛けるようになって、今日は約束通りフォンターナ公爵領の葡萄畑に来た。
ルーナ留学十ヶ月が経とうとしていた。
「この葡萄の木は樹齢にして百年ほどだそうです。先祖代々この畑を大事にしてきました。私も毎年この時期が来るのを楽しみにしています。今日は収穫祭で秋の実りに感謝する日です」
そんな大事な時に連れてきてくれた事が嬉し? かった。
「おっ、坊ちゃんが今年は別嬪さんを連れている! 彼女かい?」
エミリオに親しげに話しかけているオジィさん。
「うるさいですよ。ほら、仕事してくださいよ! 収穫祭に間に合いませんよ!」
「へぇ否定しないようだ。これは飲ませて全部聞かないと。坊ちゃんは秘密主義だからな」
「…………さぁ、行きましょうか。まだお見せしたいところがあるんですよ」
ワインを作る工程などを職人さんから教えてもらった。この前はフォンターナ邸で搾乳も体験させてもらって楽しかった。こうやってミルクが食卓に出てくると思ったら感慨深いものがあった。ワインも然り!
感謝祭はいつもなら公爵様が乾杯の合図をするのだそうだけど、今回は多忙でエミリオが乾杯をするそうでグラスが渡された。
和気藹々とした感じでの乾杯となった。エミリオはざっくばらんと言った感じで農民達と話をしていた。
チビチビとワインを飲んでいたらエミリオが戻ってきて既にたくさん飲まされたと言った感じだった。
「飲まされてしまって……ルーナ嬢一人にしてしまってすみません」
暑さのせいかシャツがはだけていて、目のやり場に困る。見た目通りに逞しい胸元だった。ってバカ! だって目がそこに行ってしまったの……
はぁっ。と息を吐くエミリオがいつもと様子が違う。胸がはだけているから? ちょっと色っぽい?
「毎回収穫祭は無礼講です。父は酒がさほど強くないけれどこの日だけは飲まされるとぼやいていた……私も少し飲みすぎました」
「お水を貰ってきますね」
そう言ってパタパタと走り水を貰ってきた。戻ってくるとエミリオは目を瞑っていた。
「エミリオ様? お水をお持ちしました」
寝ているのかしら? そう思うと何故か悪戯心が芽生えてきた。冷たい水の入った瓶をエミリオの頬にくっつけた。えい!
「……んっ」
とろんっと目を開けるエミリオはなんだか可愛らしい。
「お水です。いかがですか」
「ん、ありがとうございます」
瓶ごと水を飲むエミリオ。ごくごくと美味しそうに飲み干した。
「美味しいですか? まだありますよ」
「お酒の飲み過ぎは良くないと言う事がよく、分かりました……勿体無いな。せっかくルーナ嬢と過ごしていると言うのに」
「エミリオ様?」
な、なに? 急に……両膝に肘をつき頭が下がる格好のエミリオ、つむじが見えた!
「もう貴女が留学してから十ヶ月経とうとしています……不甲斐ない私は貴方に気持ちを伝える事が出来なくて……貴方のことになると急に臆病になって……株を売買するときは積極的に動けるのになぁ」
「え……っと、エミリオ様飲み過ぎておかしなことを口にしていませんか?」
気持ちを伝えるって何事……私のことになると臆病になるって……
「貴女のことが好きなんです。酔ったまま告白するつもりはなかったのに……言わなきゃ前に進めない。貴女と初めて会った時から……一目惚れです」
ひゅっと、息を呑んだ……
「ごめんなさい、私は」
「貴女も少なからず私のことを悪く思っていないと思っています。貴女の事を教えてください。貴女を何故そうさせるのか……貴女の口から聞きたい、こんな気持ちは初めてなんです」
どうしよう……
「……私はエミリオ様に相応しくありません。公爵家の跡取りで」
「家柄ではなくて……ただの一人の男として見てほしい」
「……私はご存知かと思いますが結婚をしていた時期があります。たった数ヶ月でしたし、書類上も結婚していたと言う事は無くなってはいますが、」
「……それが何か? 私は貴女のことを苦しめた相手が憎いです。でもそれが糧になり事業を成功させたいと言う気持ちにさせたのではないですか? 私は今の貴方が好きです。それも含めて全てです。まだ知らないことも沢山あるでしょうが知りたいですし、私のことも知ってほしい……」
「……公爵家の皆さんが許さないかもしれません」
「はっ。何を今更……父も母も貴女を気に入っているではありませんか……貴女に聞きたかったことがあります」
もう酔いは覚めているようで目がしっかりと合った。
「何故離縁を? 相手がゲスだったのは……すみません聞いていましたが、本当にそれだけですか?」
……なんで? 表向きは愛人がいて可哀想な妻だったからだけど……
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