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アルベーヌ
しおりを挟む立食パーティーでの事だった。エミリオに声をかけられた。
「やぁアルベーヌ殿」
すっと頭を下げて挨拶をするアルベーヌ。
「失礼ですが、先程妹とは何を話されていたのでしょうか?」
「ルーナ嬢が留学すると伺いました。慣れない国でしょうから困ったことがあったら、是非サポートしたいと思いお声を掛けさせてもらいましたが宜しかったでしょうか?」
「あぁ、そう言う事でしたか。フォンターナ卿にサポートしていただけるのなら安心ですね。が、しかし卿はなぜ妹にそこまで良くしてくださるのでしょうか?」
公爵家の嫡男。隣国では有名な家柄で両国の王族からの信頼も厚いような人物。モテないわけがない。大柄で物腰が柔らかくうちのような伯爵家にもわざわざ来てくれるような男だ。
「……ルーナ嬢と話をしていると心が安らぐと言うか、一緒にいて楽しいと思っています。もちろんルーナ嬢が嫌がる事はいたしませんのでご安心を」
ふむ。この男ルーナに惚れたな。ルーナが嫌でなければ悪くない話だが、ルーナは男に免疫がない! でもこの男とはなぜか話をしていて楽しそうである。
「なるほど……妹が嫌がることさえしなければ構いませんが……卿は妹をどう思っておられるのでしょうか? いえ、妹は一度嫁いだ身。何もなかったとはいえ良い噂から悪い噂の絶えない身ですから、兄としては心配なんですよ」
ズバッと好きだとか言ってくれたら楽なんだけど、そうはいかんだろうな。
「……ルーナ嬢の事はとても可愛らしい人だと思います。それにルーナ嬢の出してくれる菓子はとても美味しくて癒されますし、笑顔も可愛らしい。それなのにちゃんと経営者としての顔をも持っていて、尊敬する部分も多々あります。見習わなくてはいけないなと思わせる部分が刺激になっています」
……ほぅ。それは、それは……ルーナが聞くと喜ぶだろうな。
「卿のような方は令嬢にさぞモテることと思います。なぜ今まで婚約者がいなかったのでしょうか? 踏み込んだことを聞いて申し訳ありません」
「あぁ、それは単に忙しかったのと、私のことを私として見てくれる人がいなかったのです……公爵家嫡男、金のある男。贅沢したい令嬢くらいしか寄ってきませんでした……モテるとはまた違いますね。両親も無理やり政略結婚させるつもりはないと言ってくれて言葉に甘えていたらこの歳です」
私と歳が変わらないはずなのに……この歳と言われたら笑ってしまった。
「ふっ、はははっ。卿と私は年齢が近いのにもうこの歳と言われたら私も肩身が狭くなります」
「そうですね。アルベーヌ殿こそモテるでしょうに……なぜ婚約者がおられないのですか?」
「同じです。肩書きに釣られるような令嬢はゴメンです……パーティーで令嬢に囲まれるのにもウンザリして最近は遠のいていました」
「それは近くに夫人やルーナ嬢と言う自立した女性を見ていたからでしょうね」
と言うと笑い出したエミリオ。たしかにその通りだった。守ってやるだけならそんなの子供と同じだ。
「似てますね、私たちは」
公爵家と言う高い爵位を持っていても同じ考えがあると思ったらついそんなことを口にした。物腰の柔らかいエミリオだからこそだろう。
「そのようですね……少しは信用していただけましたか? ベルモンド伯爵には私から手紙を書いておきます。ルーナ嬢には安心して学生生活を楽しんでもらい、変な虫は寄せ付けません。ルーナ嬢が嫌がる事は致しません。お約束致します」
公爵家がルーナを嫁に! と言えばそれだけでうちは断れないのを知っていてそう言ってくれると言う事は、自分に自信があるのか、単なる誠実なのかよく分からない。でも悪いことにはならないと思った。
「それでは約束してください。嫌がる妹に婚約を迫ったり交際を迫ったりしないでください。私は妹には笑っていて欲しいのです。次こそは幸せになって欲しいと思います。妹が貴方と同じ気持ちであるのならもちろん反対はしません。その時はよろしくお願いします」
頭を下げると、すぐにやめてくれ! と言われた。
「宜しかったら私のことはエミリオと呼んでください」
そう言う呼び方をすると、そう言ったことには鈍いルーナでも何かを感じてしまうかもしれない。外堀を埋められた! となると自分の思いを伝えられなくなるかも知れない。
「それは、またにしておきます。家族になる事になったら改めて」
「ははっ。これは手強いですね。分かりました。アルベーヌ殿、ルーナ嬢を送ってきた際は是非我が家にご招待したい」
公爵家か……気になる。パドルの家に行こうと思っていたが言葉に甘えようと思った。
「私の滞在は三日間です。一日目はホテルでその後はデュポン伯爵邸に世話になる予定ですのでお言葉に甘えて次の日にご迷惑になります。よろしいですか?」
「もちろん。美味い酒を用意しておきます」
三日目の滞在先も決まった。ルーナには内緒だ。
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