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プレオープン
しおりを挟むさて迎えたプレオープン初日。
立ち仕事って疲れるのね。たった数時間立ったままだけだったのに、足がパンパンだわ。
「「いらっしゃいませ」」
あら、お客様だわ。笑顔で明るく!
「すみません」
「はーい、お決まりですか?」
疲れていても笑顔、笑顔!
「君のおすすめは何?」
男の人が一人で買い物だなんて珍しいわ! だってここは女性向きのお店だもの。彼女へのプレゼントかしら? それにしても大きな人ね。ガタイも良さそう。
「そうですね、このスノーボールと言うクッキーがオススメです。周りの粉砂糖が、中のクッキーと合わさると口の中でホロホロと溶け出すんですよ! 見た目よりも甘さが控えめで、中にセサミが入っているのもおススメです。ただしこのままだと手が汚れるのが難点ですので付属のピックをお使いください」
笑顔で元気に明るく! お店のクッキーを食べて元気になってもらう事が一番嬉しい……そしてリピーターになって貰いたい。
「美味しそうだね、それでは君のおススメを貰おうかな」
「ありがとうございます。今お包みしますね」
代金を支払って貰い、包んだ物を渡した。
「君はこのお店で働いているの?」
……オーナー兼売り子としてです。とは言えない。こんな小娘がやっている店と思われたら信用がなくなるかもしれない。
「はい。毎日ではないですけれど働いています」
「そうか。また来るよ」
「お待ちしております」
笑顔で見送った。
今日の営業は昼から夕方までの数時間だった。売上は上々で納得のいく数字だった。
「皆さん今日はありがとうございます。明日からまたよろしくお願いします」
「「「「「はいっ」」」」」
ふぅ。と、一息をつくとスタッフの一人に声をかけられた。
「ルーナさん、やはり人気でしたね!」
「なんのこと?」
「さっき休憩中に聞こえてきたんですけど、町でプラチナブロンドの可愛い店員さんがいるって噂になっていましたよ!」
そっか、この髪の色目立つのかもしれないわね。明日から纏めてこよう。
「髪の色と……制服マジックね! この制服我ながら可愛いもの」
制服のワンピースの裾をひらひらとさせる。白いエプロンも清潔で清楚な感じね!
「……ルーナさんって、周りにどう思われているかと気にならないタイプなんですか?」
「なんのこと?」
「このお店はお給料も良いですし、制服も可愛いですし働きやすそうです。こういうお店で働いていると世間的にはモテるんです」
「へぇ。そうなの! 知らなかった……」
「きっと明日からまたたくさんお客様が来ますよ」
ふぅーん。それなら嬉しい。
なんて思っていたのに…………
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ」
「「いらっしゃいませ」」
もう喉がカラカラだわ。ちょっと疲れが溜まってきたみたい。それに比べて他の子達はなんて元気なの……
昨日よりもお客様が増えた。男の人も多い。
「いらっしゃいませ、あ……」
「繁盛しているようだね」
昨日の人だ。
「今日来てくださったという事は、昨日のクッキーは気に入ってくださったのですか?」
笑顔で元気に明るく!
「とても美味しかったよ。甘すぎない所も良かった」
「貴方様が食べられたのですか?」
「そうだよ。甘いものが好きなんだ。意外そうな顔をしているね」
……顔に出ていたのね。
「失礼いたしました。あまり甘い物を好むと言うイメージがなかったので、恋人かご家族に購入されたのかと勝手に思っていまして……」
「甘いものを食べると疲れが吹っ飛ぶような気がして、疲れている時にはよく食べるんだ。それと彼女もいなければ結婚もしていないよ。自分の為に買っている」
世の中には甘いものが好きな男の人だっているわよね。甘さ控えめが好みなのかな? この甘みの強いザクザクチョコチップクッキーとかどう思うのかしら?
「うちのお菓子を食べて元気になって貰えたら、とても嬉しい事です」
それにしてもこの方の装いってうちの国ではあまり見ないような襟元の飾りだわ。細かい刺繍や手が凝っていると分かる宝飾類……
「今日もおすすめを教えてくれる?」
「甘いものがお好きと伺いましたので……このチョコチップクッキーはどうですか? すごく甘いですけど、ザクザクとした食感と小麦の甘さでコーヒーとの相性が良いですよ」
甘いものにはほろ苦いコーヒーを合わせるとホッとするし、甘いお菓子に甘い飲み物なんて、後からの体重増加が……考えるだけでゾッとするわ。
「今日はそれを貰おうかな」
「はい。ありがとうございます、お包みいたしますね」
うちの資材は可愛いからプレゼントにもオススメ。水色の包装紙に白いリボンをかけて渡す。紙袋も水色。
「お待たせ致しました」
「あぁ、ありがとう。この店はみんな元気で明るくていいね」
「わぁ、ありがとうございます! そう言っていただけると皆んな喜びます」
嬉しくておもわずガッツポーズを取った。
「ははっ、私も元気がもらえたよ、また来る」
「はい、またお待ちしています」
颯爽と店を出て行く男の人。何者なんだろう? 貴族だとわざわざこの町で買い物しないだろうし、貴族は貴族の店で買い物をすることに誇りを持っているもの。
それにこの国の貴族だと大体は顔を合わせたことがあるはず。
「ルーナさんお願いしますっ!」
「はーい。今行きます」
男は振り返って言った。ルーナと言うのか。可愛い子だった。
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