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晩餐

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 本邸での晩餐に誘われた。でもジョゼフに関わるのはやめだ。本邸へ行くのは使用人のため。


「ルーナ、約束を守ってくれてありがとう、行こう」

 腕を差し出してくるジョゼフ。触れるか触れないか程度に手を借りた。手袋はもちろん着用している。仲良くするつもりは一切ない。


 本邸に足を踏み入れると使用人一同が待ち構えていて皆が一斉に頭を下げた。

「奥様、おかえりなさいませ」

 奥様っていう言い方はやめてほしいとあんなに言ったのに……

 メイド長、執事長が先導して食堂へと案内された。なんだかムーディーな雰囲気だわ……

 給仕もこれ見よがしにビシッと決まっていて、隙が全くない。どうしたと言うのかしら?


 ジョゼフが椅子を引いてくれて腰を掛ける。そしてジョゼフは向かいに座った。

「ルーナ、アルコールは?」

「得意ではないので不要です」

「そうか、それなら私もやめておこう」

 残念がるジョゼフだけどアルコールは苦手。もし酔ってしまっても、お酒なのか薬を盛られたか分からなくなると思うと、この男の前ではそんな危険物は口に出来ない。

 使用人も誰の味方か分からないもの。自分の身は自分で守るしかない。


「侯爵様、わたくしに合わせる必要はありません。晩餐は楽しまないと勿体無いですわよ」

 楽しむつもりはないけれど、お好きにどうぞ。酔っ払って襲ってこられたら容赦なくコテンパンにしますけどね。


「……食前酒だけ貰うことにする」

 畏まりました。と給仕は言った。それから食事が始まる。


「ルーナ、突然だが私はアグネスと別れる事にした。相手から良い返事は貰えていないが、この期に契約内容、いや、契約自体を無くし夫婦として一からやり直したいと思う。今すぐ返事はいらない。だが考えてほしい」


 別れる必要なんてないっての! それは誰得なのか考えた? 自分に都合が良いだけ。


「侯爵様は仰いました。わたくしに愛を求めてはいけないと。わたくし達は貴族によくある政略結婚です。ですから契約と言う名の書類が存在するのです」


「これからの人生はルーナと共に……生涯をかけて幸せにすると誓う。バカな事をしたと、申し訳なかった」


 頭を下げるジョゼフ。でも最近よく見るのよね、この姿……反省しているのか?

 ジョゼフといて幸せになる未来なんて無い。


「侯爵様、わたくしは誰かを不幸にしてまで侯爵様と一緒にいたいとは思えません。至らない妻で申し訳ございません」

 妻……言いたくないけど実際は妻なのだ。


「ルーナ、よく考えてほしい。まだ私たちはお互いのことを知らないだろう、だから」

「知り合う時間はたっぷりとあったはずです。子供心にあなたにはたくさん傷つけられて来ましたが敢えてここで言うことではありませんので控えておきます」

 ナプキンで口を拭き席を立った。


「ご馳走様でした。もう結構ですわ」


「ルーナ!」


 ジョゼフが私に近寄ってくる声が聞こえましたが、執事長が止めたようです。さぁて戻りますか。そう思った時でした。


「ジェフ! どうして晩餐に私を誘ってくれないの? 自称妻であるそこのルーナさんの指示?」 


「自称ではない! 自称してくれたらどんなにいいか……」


 うん。そこには同意ね。自称していないもの。喧嘩は私のいないところでしてほしい。


「わたくしはそろそろ失礼致しますわね。あとはお任せしました」


 逃げるが勝ち! なんか雰囲気悪いもの!


「「「奥様!」」」


 使用人達に呼ばれるがにこりと笑って歩き出した。笑顔は武器だとよく言ったものね!


******


「お嬢様」

「なぁに?」

 伯爵家から来た執事に声をかけられた。私が家にいた時から執事をしてくれている。ジョゼフに伯爵家からの使用人を呼んでいいかと聞くと、許可されたから離れに住む事になった理由をスージー以外の伯爵家から来た使用人に説明した。

 はじめは憤っていたけれど、一年後離縁する旨を伝えると納得? したようだった。だから伯爵家から来た使用人は皆私をお嬢様と呼ぶ。決して奥様などとは呼ばない。


 それと何故か伯爵家から来た警備が増えていた。離れの扉の前で待機している。私呼んでないケド? え? お兄様の指示? あ、そう。今度会った時聞いてみよ。


 伯爵家から来たみんなに侯爵家の人達と争わないでね? と言うと私の不利になるようなことはしない。と言ってくれた。

 対して侯爵家の使用人達には私のことを名前で呼ぶ様に頼んだのに、今日はしつこく奥様呼びだった。

 恐らくジョゼフがそう呼ぶように言ったのだろう。もしかして使用人達も何か感じているところがあるのかもしれない。でも侯爵家の人達に離縁をするつもり。とは言わない。誰を信用していいかも分からないから。

 
「こちらが本日届いた手紙です」

 机の上に置かれた手紙。いつものスイーツの注文もあれば、夜会のお誘い、お茶会のお誘い。


「そうねぇ……夜会は全てお断りするわ。お茶会は出なきゃね……この家とこの家は出席しなきゃ失礼よね」
 
 侯爵家と伯爵家、いつも懇意にしてくれるものね。それに王太子妃様のお茶会はなぜかお兄様と来てね。と書いてある。王太子殿下がお兄様に会いたいんでしょうね。いつも家にいないものだからどこかでお兄様が家にいると噂を聞いたのかしら?

「はい。そのように準備をすすめておきます!」

「お願いね! 疲れたから返事は明日書くわね。早く湯船に浸かってのんびりしたいわ。あ、そうだ」

 手袋を脱ぎスージーに渡す。

「ごめん、これ捨てておいてくれない?」

 ジョゼフに触れた手袋……気分的にもう使いたくない。


「畏まりました! 焼いときます!」

 いい笑顔で答えるスージー。理由が分かったのね。焼く必要まではないけれど。

「……任せるわ」


 湯船に浸かり軽くマッサージをしてもらい、その後はすぐにベットに入った。


 思っていた以上に疲れたみたいね。
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