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新規オープン
しおりを挟む庶民向けのお店の新規オープンに伴い、スタッフ研修が始まった。三日間の教育を経てお店のオープンが近づく!
「オーナーも一緒に研修をされるなんて。しかも貴族様なのに……」
一緒に研修を受けたスタッフの子に言われるも、みんな同じような年頃。
「オーナーって言う呼び方はここではやめてほしいの。歳も同じくらいだし、私は皆さんにお店を良くするために手伝って貰いたいから、意見を聞かせてくださいね。私のことはルーナさんとでも呼んで貰えればいいわ。皆さんと仲良くやっていきたいの」
「「「「「はい」」」」」
貴族のお友達も沢山いるけれど、なんかこう言うのも気楽で良いわね。
お客様は貴族相手じゃないから、明るく元気に接客をしよう。と決めた。
そして家路に着く。
「ルーナ遅かったじゃないか! 最近は帰りが遅いようだけど、一体何をしているんだ!」
馬車を降りるとジョゼフが飛んできた。
「契約その①です。わたくしのプライベートは放っておいてください。それに遅いと仰いましたがまだ夕方ですよ? 侯爵様から見たらわたくしはまだまだ子供でしょうけれど、世間では大人と認められていますので、過度な心配は無用です」
「……一緒に晩餐でもどうかな? 夫婦として、いや侯爵夫人として使用人にも示しがつかないと思うんだ。契約その④にあたると思う」
「急に申されても困りますわ。こちらも食事の準備はしているでしょうから、食材の無駄になりますわ」
一緒に食事をしても美味しいとは思えない。なるべくなら断りたいと思う。
「それなら明日、昼食を、」
「申し訳ございませんが昼は先約がございます」
「それなら晩餐だ! 迎えに行くから空けておいてくれ。使用人もルーナを見ていないと言っているんだ」
「……分りました。そのように」
面倒くさい。早くジョゼフの仕事が始まれば良いのに! なんで十日も休みなのっ!
******
「ルーナ、請求書を持ってきた」
現れたのはフェルナンドと侍従たち。
「わざわざ届けてくれてありがとう。良かったらお茶にしない?」
庭に面した応接室に案内した。
「ルーナはここに住んでいて不満はないの?」
フェルナンドが周りを見て顔を顰める。
「本邸には侯爵様と彼女が住んでいるから邪魔者は退散しなきゃ。本邸に私が居ると使用人達にも申し訳ないわよ。たった一年の付き合いになるんだもの」
使用人とも深い付き合いはしない。みんないい人達だもの。仲良くなると別れが辛くなる。だから離れに住んでいる方がお互いのためだと思う。
「そうか……何かあったら助けになりたい。すぐに相談してほしい。僕に言えないのならシルビアを通して言ってほしい」
「ありがとう。その時はお願いします。シルビア様にもご心配をお掛けしますわ。そんなことより、私のことはどうでも良いけれど、この請求者の金額! 本当にこの金額でいいの? 安すぎない?」
貴族街に出したお店の半分以下!
「いや、合っているよ。かと言って手抜きをしたわけではない。貴族街の店と違って材質も違うしラグジュアリー感と言う店ではないけど、十分な金額だよ」
「申し訳ないわね……」
きっと割り引いてくれたんだと思う。私がお金の心配をしている事を言ったから。
「気にしないで! と言いながらそのかわり食材はうちで仕入れてよ」
「もちろんお世話になるわ!」
持つべきものは商人の息子ね! 幼馴染と言っても過言ではないわよね。フェルナンドは優しいお兄さんって感じでもある。
するとメイドが入って来てお菓子とお茶を出してきた。今日のお菓子は新作で試食会も含めて出すことにした。
「感想を聞かせてほしいの、皆さんもどうぞ」
粉糖をまぶしたホロホロクッキー。手が汚れるのが難点だけど、絶対売れると思う。だって美味しいもの。
「美味しいよ。手が汚れるのは貴族向けではないね、庶民街ではいけると思う」
「ピックを付けるといいのかも知れないわね。手の汚れは私も気になるところだし、女の人は特に気になるわよね」
他の人の意見もそんな感じだった。改善するべくところはして商品化することにした。
話に花が咲いていると、庭から人影が……
「おや? お客様がいらしたのか」
……なんで来るの!
「侯爵様、昨日お伝えしたはずです。庭から出てくるなんてお客様に失礼ですわよ」
「いや、失礼。ルーナの夫のジョゼフ・バルビエです。妻がお世話になっております」
……なんなの、この人?
「バルビエ侯爵、初めまして私はフェルナンド・デュポンと申します。本日はルーナ様の事業の件でお話に伺いました」
フェルナンドはジョゼフに頭を下げた。とって貼り付けたような笑顔だわね。
「そうでしたか。大事なお客様ならこんな離れで話をしなくても本邸にお呼びすれば良かったものを。こちらでは大したもてなしもできないんじゃないか?」
……はぁ? なんなのこの人! 笑顔が引き攣るわ。私の表情筋頑張ってよ! 何が夫よ! 私は認めていませんからね。
「侯爵様、何か用事でもありましたか?」
「いや、散歩途中だよ。休日でも体を動かさないと鈍ってしまうからね。ルーナもどうかと誘いにきたんだ。それにお客様がいるのなら夫として挨拶をするのは当然だろう?」
ちょっと! 当然のように中に入ってこないでよ!
「これは?」
机の請求書を見てジョゼフが私に聞いて来た。パシッとその書類を取り
「これはわたくしの事業に関する物ですわ。侯爵様には関係のない事です」
知られたくないの! これは私の夢のお店なんだから!
「結構な金額が動くんだね。よし、これは私が払ってやろう」
はぁ! やめてよ!
「失礼します侯爵様、こちらはルーナ様からのご依頼ですのでルーナ様に支払いを求めます。ショップの内装、その他をルーナ様が一から考え実現したルーナ様がオーナーのショップです。いくら夫と言えどもそれはルーナ様の意に反する事でございます」
「いや、それくらいは夫婦なんだから良いだろう? 妻の負担を減らそうとしているんだ。ルーナたまには甘えてほしい。まだ君は若いんだから、」
「……結構です! 事業のことに口を出してこないで下さい! 何も知らないくせにっ。そんな事望んでいませんわっ」
下を向いているルーナは悔しそうに見えた。そしてルーナは耐えられずに部屋を出て行った。
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