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食事会

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「何を着ていけば良いのかしらね……」

 食事をするというからにはドレスコードが必要なのかしら? 以前のように高級なお店ではないとは思うのだけど……少し着飾った方が良さそうよね? わざわざ予約を入れるくらいだもの。どこのお店か聞けば良かったわ。

「何を着てもお似合いですよ。こちらのグリーンのドレスなんて如何ですか?」

「見たことがないドレスね?」

 何枚か見覚えのないドレスがあった。

「お嬢様がいつ戻ってきても良いように奥様が用意をされていたみたいですね」

 少し大人っぽいデザインのものを作ってくれたみたい。フリルやリボンなんかは抑え気味にでも華やかに。

「せっかくだから新しいドレスにしましょう」

 デコルテがすっきりして見えるグリーンのドレスに控えめなアクセサリーを選んだ。アーネスト様がクララさんに言っていたわね。ゴテゴテしたアクセサリーは怪我をするし、引っ掛けたら首が締まるって。おかしくて笑ったら、首飾りで亡くなった人も中にはいますよ。と言われて笑いが止まった。本気でクララさんを心配して教えているのだわ。と。それから私も首飾りは極力しなくなったのよね。

 髪の毛は邪魔にならないようにアップスタイルにしてもらった。

「お嬢様、とてもお似合いです」

「ありがとう」

 確かにいつもとは違うと思った。こういうドレスを着るといつまでも子供じゃないんだな。と思い知らされる。

「そろそろアーネスト様が迎えにくる時間ね」

 時間をきちんと守る方だからそろそろ降りてお待ちしようと階段を降りた。するとちょうどアーネスト様が迎えに来て挨拶をする。

「時間通りですね」

「アリス嬢をお待たせするわけにはいきませんからね。本日のドレスはとても華やかでお似合いです」

 アーネスト様もきっちりと身なりを整えていて、体躯の良さが良く分かる。身長が大きいからロングコートが似合う。

「アーネスト様もとても素敵です」

 久しぶりに見ると垢抜けた印象で流行りのデザインを取り入れたコートだった。

「ありがとうございます。本日のディナーを予約したお店は庭がとても美しいと評判なんですよ。少し散策をしてからお店に入りませんか?」

「えぇ。楽しみです」

 一体どこに連れて行くつもりなんだろう? と思っていたら顔に出ていたみたい。

「最近出来たばかりで会食で一度行ったのですが、とても雰囲気の良いお店でした。気に入ってもらえると良いのですが」

 お店の名前を聞いても知らなかった。そういえばあの辺りは土地改革で街並みがすっかり変わったのだったわ。最近出来たお店には疎かったので知らなかった。

「まぁ。そうでしたのね、そういう事でしたら私の案内はもう不要ですね」

 なんて可愛くないことを言ってしまった!

「え! そういうつもりは全くありませんでした。私から誘うのにアリス嬢に店を決めて欲しいなんてかっこ悪くて言えないではありませんか!」

 しどろもどろと言い訳をするアーネスト様をクスリと笑う。こういうところがアーネスト様の可愛いところ、って!

「冗談ですわ。お誘いくださりありがとうございます。そろそろいきましょうか?」

 エントランスでの立ち話もなんだし、皆んなが見ているし仕事の手を止めてしまっているわね。

 馬車に揺られる事二十分。

「こちらです」

 先に馬車を降りて手を差し伸べてくれた。

「素敵なところですのね」

 私が最後に見た時はほぼ更地だったイメージなのに、街灯もあって素晴らしい街並みだわ。煉瓦造りの建物が外国を思わせる。

「私もそう思います。昼と夜ではまた雰囲気が変わります」

 お店の人に声をかけて庭を見てから席に着くと言っていた。スマートにエスコートされてこれは本当にアーネスト様なのか? なんて疑ってしまいました。それくらい紳士的なのです。

「静かで良いですね。緑も多くて落ち着きますね」

 ナチュラルガーデンは自然を感じられてとても落ち着く。

「そうですね。王都の中心で洗練された空間ですよね。賑やかなところは苦手なのですがこの辺りは良いですね」

 辺境の地に住んでいるとそうなるのよね。私も辺境の地に慣れてしまったから、堅苦しいと思ってしまう。

「はい。グレマン領はとても過ごしやすいですから」

 他の貴族の目も気にならないし領民は気さくだし、栄えているとはいえないけれど、新鮮な野菜、お肉、お魚が安価で手に入るし隣国からの物も手軽に買える。そう考えると王都は物価が高いわね……

「そう言って頂けるとお世辞でも嬉しいですよ」

 そうやって寂しそうに笑うのはどうして? 聞きたいけれど聞いて良いのか分からない。

「お世辞ではありませんよ? 本心です。もし叶うなら、ずっと」

 と言って止めた。こんなことを言ったら困らせてしまうかもしれない。

「え? それは、その、あ、いえ。そろそろ食事にしましょうか」

 困らせるつもりはなかった。




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