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王都に向かって
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「荷物はたったそれだけですか?」
アーネスト様に言われた言葉が不思議でならない。王都に滞在中は実家で過ごすのだから必要なものは道中のものだけで良いもの。道中もアーネスト様はぼんやりしていたり少し元気がなかったように思える。
王都について家まで送って貰い、お茶を勧めたけれど遠慮しておきます。と断られた。今後の予定はまた。と言って帰って行った。別々の家に帰るなんて不思議な気分だわ。それだけ一緒の家に帰るのが普通になっていた。慣れって怖い。
「アリス、おかえり」
お父様とお母様に迎えられたのでただいま帰りました。とハグをする。着替える間もなくお茶をする。手紙のやり取りはしていたけれど直接聞きたかったみたい。困っている事はないか、足りないものはないか、最後に戻ってくるつもりはないのか……
そうよね、良い年頃の娘がふらふらとしているのは良くないわよね。
「卒業式には出席するの?」
すっと机の上に出された紙には卒業式のことについて書かれていた。行かなくても卒業した事にはなるけれど、最後に学園に行くのも思い出になるのかも。
「そうですね。せっかくこの時期に王都にいるので、」
と言いハッとする。だからこの時期に王都に来たのね。急がなくても問題ない報告書だったもの。
「親としてはきちんと卒業させてやりたいと思っている」
晴れ姿を見せるのは親孝行になりますものね。もちろん学園にはいい思い出もある。
「ありがとうございます。卒業式には出席しますわ。でも今からだと色々準備が間に合わないかもしれませんわ」
「出席するかもしれないと思って用意しておいたの。こちらに戻ってくる用事がなくても卒業式のことは話すつもりだったし、もし欠席したとしてもドレスは無駄にならないもの」
出席するといえばドレスを使えば良いし欠席でも無駄にはならないということを踏まえて聞かれたのね。たくさん心配かけたから卒業式に出て喜んでもらいたい。卒業式には陛下と王妃様が参列されるだろうから、今の元気な姿を見て貰いたい。
「王都には仕事があって来たのだから、アーネスト様にも相談しなくちゃいけませんわ」
「お茶に誘わなかったのか?」
「今日は遠慮しておくって言われました。お疲れだったのかもしれません」
前回は喜んで。とお茶を飲んでいたから何か急ぎの用事があったとか……聞いてないけど。
「そうかもしれんな。アリスも休んだら良い」
はい。と返事をして部屋に向かう。私が帰ってくると知っていた友人からは手紙が送られてきていて、卒業式はどうするの? という内容だった。みんなと一緒に卒業したいから出席する。と返事を返した。
そうだわ。アーネスト様に報告をしていなかったわ! 卒業式の日に大事な用事があったらどうしましょう! すぐに手紙を書き遣いを出した。
アーネスト様は優しい方だからダメとは言わないだろうし、寧ろどうぞどうぞ。と言ってきそうだけど、アーネスト様がなんと言おうと上司であり勝手に進めることはできないのに!
その後家族揃って夕食を摂り部屋に戻る。アーネスト様からの返事はまだない。忙しいのかな……何をしているんだろう。
******
その頃アーネストと言えば。
「アリスフィア様からお手紙が届いています」
「え?! 何かあったのか」
手紙を受け取り机に置く。家に戻ったばかりですぐに手紙が届くなんて何かあったに違いない! 家に着いたらやはり家がいいと思ったからもう戻りません……だったらどうしよう。などと考えながら頭を掻きむしっていた。
コンコンとノックされ執事が入ってきた。
「返事はどうしましょうか?」
出さないと変に思われるかもしれないのだが……
「今ごろは団欒中だろうから邪魔をしたくない。明日の朝返事を書くよ」
同じ家に住んでいたのに王都にきて心理的にも物理的にも距離を感じた。
「ダメだな……」
そして手紙を読む。卒業式に出席したいので用事があってなければその日はオフにしてもらいたい。という内容だった。
「なんだ。卒業式か。そんなのもちろんいいに決まっているのに律儀だな」
早速返事を書いて朝一に届けさせよう。
アーネスト様に言われた言葉が不思議でならない。王都に滞在中は実家で過ごすのだから必要なものは道中のものだけで良いもの。道中もアーネスト様はぼんやりしていたり少し元気がなかったように思える。
王都について家まで送って貰い、お茶を勧めたけれど遠慮しておきます。と断られた。今後の予定はまた。と言って帰って行った。別々の家に帰るなんて不思議な気分だわ。それだけ一緒の家に帰るのが普通になっていた。慣れって怖い。
「アリス、おかえり」
お父様とお母様に迎えられたのでただいま帰りました。とハグをする。着替える間もなくお茶をする。手紙のやり取りはしていたけれど直接聞きたかったみたい。困っている事はないか、足りないものはないか、最後に戻ってくるつもりはないのか……
そうよね、良い年頃の娘がふらふらとしているのは良くないわよね。
「卒業式には出席するの?」
すっと机の上に出された紙には卒業式のことについて書かれていた。行かなくても卒業した事にはなるけれど、最後に学園に行くのも思い出になるのかも。
「そうですね。せっかくこの時期に王都にいるので、」
と言いハッとする。だからこの時期に王都に来たのね。急がなくても問題ない報告書だったもの。
「親としてはきちんと卒業させてやりたいと思っている」
晴れ姿を見せるのは親孝行になりますものね。もちろん学園にはいい思い出もある。
「ありがとうございます。卒業式には出席しますわ。でも今からだと色々準備が間に合わないかもしれませんわ」
「出席するかもしれないと思って用意しておいたの。こちらに戻ってくる用事がなくても卒業式のことは話すつもりだったし、もし欠席したとしてもドレスは無駄にならないもの」
出席するといえばドレスを使えば良いし欠席でも無駄にはならないということを踏まえて聞かれたのね。たくさん心配かけたから卒業式に出て喜んでもらいたい。卒業式には陛下と王妃様が参列されるだろうから、今の元気な姿を見て貰いたい。
「王都には仕事があって来たのだから、アーネスト様にも相談しなくちゃいけませんわ」
「お茶に誘わなかったのか?」
「今日は遠慮しておくって言われました。お疲れだったのかもしれません」
前回は喜んで。とお茶を飲んでいたから何か急ぎの用事があったとか……聞いてないけど。
「そうかもしれんな。アリスも休んだら良い」
はい。と返事をして部屋に向かう。私が帰ってくると知っていた友人からは手紙が送られてきていて、卒業式はどうするの? という内容だった。みんなと一緒に卒業したいから出席する。と返事を返した。
そうだわ。アーネスト様に報告をしていなかったわ! 卒業式の日に大事な用事があったらどうしましょう! すぐに手紙を書き遣いを出した。
アーネスト様は優しい方だからダメとは言わないだろうし、寧ろどうぞどうぞ。と言ってきそうだけど、アーネスト様がなんと言おうと上司であり勝手に進めることはできないのに!
その後家族揃って夕食を摂り部屋に戻る。アーネスト様からの返事はまだない。忙しいのかな……何をしているんだろう。
******
その頃アーネストと言えば。
「アリスフィア様からお手紙が届いています」
「え?! 何かあったのか」
手紙を受け取り机に置く。家に戻ったばかりですぐに手紙が届くなんて何かあったに違いない! 家に着いたらやはり家がいいと思ったからもう戻りません……だったらどうしよう。などと考えながら頭を掻きむしっていた。
コンコンとノックされ執事が入ってきた。
「返事はどうしましょうか?」
出さないと変に思われるかもしれないのだが……
「今ごろは団欒中だろうから邪魔をしたくない。明日の朝返事を書くよ」
同じ家に住んでいたのに王都にきて心理的にも物理的にも距離を感じた。
「ダメだな……」
そして手紙を読む。卒業式に出席したいので用事があってなければその日はオフにしてもらいたい。という内容だった。
「なんだ。卒業式か。そんなのもちろんいいに決まっているのに律儀だな」
早速返事を書いて朝一に届けさせよう。
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