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見られたくなかったのに……

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「たくさんの人がいらっしゃるのですね」

 辺境警備隊とは名ばかりで騎士団だ。王都の騎士達とはまた違って気さくな人たちみたい。

「ブラック伯爵令嬢だ」
「初めて近くで見た」

 などと声が聞こえてきたのでクララさんと共にぺこりと頭を下げる。

「ジェシーも騎士になるって言ってた」

「そうなのですね。アーネスト様のように強くなると良いですね」

 アーネスト様の剣術の腕前は師範になれるレベルなのだそう。

「あら、あの方が新人騎士かしら?」

 なんだか見た事があるような? 中々お強いようでアーネスト様が楽しそうな顔をしている。うーん。

「かっこいいお兄ちゃんだね」

「クララさんのタイプなんですか?」

 ふふ。おませさんですね。青い瞳の金のサラサラヘアー。

「アーネストとジェシーのとこいこ!」

 クララさんと手を繋いで声をかけに行く。

「お疲れ様です」

 クララさんがジェシーさんにタオルを渡していた。本当に仲が良い二人です。飲み物を持ってきたのでアーネスト様に渡した。

「これは美味しいですね」

「ヤマブドウとハーブで作りました。料理長と配合を決めたんですよ」

 飲み心地が良いように冷やしておいた。アーネスト様と少しお話をして邪魔にならないようにクララさんとそろそろ屋敷に戻ろうと手を繋いで歩き始めた時でした。


「アリスフィア・ブラック伯爵令嬢、お久しぶりです」

 先ほどの金髪の新人騎士様でした。

「えっと、どこかでお会いした事がございましたでしょうか?」

 見たことはあるのです。

「王宮騎士団にいました。学園でも同級生だったのですが……ニック・パウエルと申します」

「まぁ! 失礼致しました」

 学園で見た事があったのですね。服装が違うからわかりませんでした。

「令嬢はこちらにいらしたのですね。学園で見かけなくなったのでどうされているかと思っていました」

「学園は行っても行かなくても良かったので、縁あってこちらでお手伝いをしているのですが、パウエル様こそ学園はどうされたのですか?」

「私も令嬢と同じです。行っても行かなくても良いのです。王宮騎士団もやめて、こちらでお世話になることになりました。またお会いする事もあるかと思いますがよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いしますわ」

「クララもよろしくするー」

「可愛らしいレディですね。よろしくお願いします」

 クララさんもご挨拶して屋敷に戻りました。王宮騎士団って中々入団できないのにどうしてもこんな辺境に来たのかしら。


 ******

「あの方がブラック伯爵令嬢か!」
「キレイだったな!」
「中々見る事がないから眼福だ!」
「おい新人! 令嬢に声をかけるなんて生意気だぞ」


 ん? それは聞き捨てならない。

「ニック・パウエル、もしかしてアリス嬢と知り合いなのか?」

 だからわざわざ辺境に来たとか? 王宮騎士団に居たらなんの苦労もないだろうに!

「同級生です。しかし令嬢は私の顔を知っていても名前までは知りませんでした。令嬢は有名でしたし私は見習い騎士でしたから接点はありませんでした。学園で見かけなかったのにまさか辺境にいるとは思わず、つい声をかけたまでです」

「そうか。同級生だったのか」

「はい」

 同級生のイケメンがアリス嬢の近くにいるというのはなんともいえない気持ちになる。

「そうか。それにしても王宮騎士団に合格したのになぜこんな辺境に来た?」

 アリス嬢がここに居るのは知らないよな? ただの偶然だよな?

「グレマン卿に憧れて両親を説得してきました! 王宮騎士団にいては体験できない事があると思いました」

「そ、そうか。うちは厳しいが頑張れよ」

 訓練は隊長に任せている。今までは率先して稽古をしていたがアリス嬢に来てもらっているのに書類仕事を放ってはおけまい。その書類仕事が捗っているのでこうして訓練に参加できているのだが……

 体を動かすというのはやはり気持ちがいいものだ。それにしてもアリス嬢の評判が良すぎる。また見に来ないか。だの、見学に来るだけでもやる気が出る。だの……くそ。見られたくなかった! アリス嬢はにこにことしているからあいつらが調子に乗るんだ!

 見学に来なくても良いと遠回しに言っておこうかな。

「アリスおねーちゃんまた観にくるって! 僕の練習見て凄いねって言ってたよ」

「そうか、良かったな……」


 ジェシーがいるから来るのか! それとも訓練の日はアリス嬢に仕事を入れれば良いのではないか!

 その後ジェシーが何か言っていたがそれどころではない。騎士達の前に出て欲しくないなど言えないから作戦を練らなければならない。











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