上 下
58 / 93

アリスフィア

しおりを挟む
「アリス準備はできたかい?」

「はい。お待たせいたしました」



 本日はとうとう王宮に行く日となりましたが憂鬱。スッキリさせたい気持ちもあるけれど、今まで陛下や王妃様、殿下達お義姉様方達にはよくしていただいたもの。

 辛かった事もあったけれど、私の人生における学び場で、たくさんの人達にお世話になって支えられた場所。

 殿下のことを好きだと聞かれたらわからないけれど情はあるし、優しいところも知っている。ボタンを掛け違えたまま、居心地が悪いまま過ごしてしまった。

 
 レイラと仲良くするのはいいけれど、学園で人目のつくところではどうかと思う。と注意したら鼻で笑われたわねぇ。

 特定の令嬢(レイラ)と噂になるような真似をするのはどうかと思う。と注意したら心が狭いって言われたわねぇ。

 他国のお客様から誘われたお茶会をドタキャンしたから注意したら、お前が上手くやったのなら問題ないと言われたわねぇ。

 その後王妃様にバレて、私も一緒に怒られた。

 私が何を言っても殿下には響かない。私が努力をしても気に入らない。どれだけ外国語を習得しても殿下は興味がない。

 隣でただ笑って癒してくれる存在が必要だったみたい。誰にも言えないけれど私は疲れていたしそんな存在にはなれっこない。婚約破棄? 追放? そんなものはすぐに撤回されると分かっていた。私にも悪いところはあるけれど、学園のイベントで大々的に宣言した殿下には嫌気がさした。そこにいたレイラも同罪。婚約破棄は家との話だけれど事前に話をしてこなかったと言うことは私たちの関係はそれまでだったと言うこと。

 レイラは孤児だけど持ち前の頑張りで良くやっていたと思う。レイラをお茶会に連れ出したのは、足りないマナーを身につけさせようと思ったから。

 男爵家では足りない社交界のマナーやルール、レイラは素直に見えて私のする事が気に食わなさそうだったから、それなら私が教えるのではなく見て学べる場を設けようと思った。

 レイラは子爵家に嫁ぐことになっていた。男爵夫妻はレイラを嫁がせるために教育をしっかり受けさせていたけれど、本人の努力が足りないと思った。

 何かを間違えれば孤児だから。と揚げ足を取られる。美しい所作、貴族らしい振る舞いをすると称賛される。それがこの世界なのだから。

 レイラはそれを理解していなかった。殿下と結ばれればロイヤルファミリーになれる。王妃様、お義姉様達と肩を並べられると思っていたのかもしれない。

 そこの場所はね、ただ可愛く笑っていればいい場所じゃないの。マナーを守りルールを守り貴族にも国民にも認められる存在にならなくてはいけないの。そこに立つ時に自分の感情なんていらないの。

 人の裏を読み、政治を理解し、各国のお客様をもてなす国の顔にならなくてはいけない。

 表に立つ時は愚痴を吐く事も、泣く事も許されない。感情を押し殺し、貼り付けた笑顔で人と接する事ができないとダメなの。時には厳しく罰さないといけない事もある。

 王宮のパーテイーでは、羨望の眼差しを受ける事がある。登場すると一斉見られそこに立つ時一つも間違いは許されない。

 殿下との仲は決して良くはなかったけれど、その場では仲のいいふりをする。殿下もそれをわかって私をエスコートしていた。それが仕事だった。でも出来なくなったのだから私達の関係が破綻するのは当然だった。

 王宮での学園イベントで婚約破棄……話し合いで婚約破棄をする事ができないと踏んだのでしょう? だから強行突破のような真似をした。私を辱めるように。

 涙を見せて酷い。といえば可愛げがあった? でもそれは出来ない。私にもプライドがある。人前で、いえ。大勢の前で泣くだなんて恥ずべき事は出来ない。誰も得をしない。

 例え私でなくお義姉様方のどなたかが同じ立場だとしても同じような行動を取ると思うもの。

 追放されている間に全ては終わっているだろうから。私はレイラにも殿下にもそこまで酷い罰を受けさせなくても良いと思っている(お咎めなしということにはならないだろうけれど)


 大好きな王妃様、お義姉様達。でも息苦しく、生きにくい王宮。そこから抜けられるのならそれで良いとさえ思う。今がタイミングだったと思おう。
 でもそれは言わない。言えない。お義姉様達の中でそう思っている人がいると足並みが揃わなくなるから。

 残念なのは卒業後他国を回れなくなる事。外国の文化に触れたかった。外から見たこの国を知りたい、だから勉強に力を入れていた。

 今後どうなるかわからないけれどせっかく学んだ語学を活用できるような仕事に就きたいかも。


 そんなことを思っていたら馬車が王宮に着いた。


「行きますか……」

 

 




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」  ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。 「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」  一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。  だって。  ──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈 
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

虐げられていた姉はひと月後には幸せになります~全てを奪ってきた妹やそんな妹を溺愛する両親や元婚約者には負けませんが何か?~

***あかしえ
恋愛
「どうしてお姉様はそんなひどいことを仰るの?!」 妹ベディは今日も、大きなまるい瞳に涙をためて私に喧嘩を売ってきます。 「そうだぞ、リュドミラ!君は、なぜそんな冷たいことをこんなかわいいベディに言えるんだ!」 元婚約者や家族がそうやって妹を甘やかしてきたからです。 両親は反省してくれたようですが、妹の更生には至っていません! あとひと月でこの地をはなれ結婚する私には時間がありません。 他人に迷惑をかける前に、この妹をなんとかしなくては! 「結婚!?どういうことだ!」って・・・元婚約者がうるさいのですがなにが「どういうこと」なのですか? あなたにはもう関係のない話ですが? 妹は公爵令嬢の婚約者にまで手を出している様子!ああもうっ本当に面倒ばかり!! ですが公爵令嬢様、あなたの所業もちょぉっと問題ありそうですね? 私、いろいろ調べさせていただいたんですよ? あと、人の婚約者に色目を使うのやめてもらっていいですか? ・・・××しますよ?

(完結〉恐怖のギロチン回避! 皇太子との婚約は妹に譲ります〜 え? 私のことはお気になさらずに

にのまえ
恋愛
夏のおとずれ告げる王城主催の舞踏会。 この舞踏会に、婚約者のエスコートなく来ていた、公爵令嬢カサンドラ・マドレーヌ(18)は酔って庭園にでてきた。 酔いを冷ましながらバラ園の中を歩き、大昔国を護った、大聖女マリアンヌの銅像が立つ噴水の側で。 自分の婚約者の皇太子アサルトと、妹シャリィの逢瀬を見て、カサンドラはシャックを受ける。 それと同時にカサンドラの周りの景色が変わり、自分の悲惨な未来の姿を垣間見る。 私、一度死んで……時が舞い戻った? カサンドラ、皇太子と婚約の破棄します。 嫉妬で、妹もいじめません。 なにより、死にたくないので逃げまぁ〜す。 エブリスタ様で『完結』しました話に 変えさせていただきました。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

妹と婚約者が結婚したけど、縁を切ったから知りません

編端みどり
恋愛
妹は何でもわたくしの物を欲しがりますわ。両親、使用人、ドレス、アクセサリー、部屋、食事まで。 最後に取ったのは婚約者でした。 ありがとう妹。初めて貴方に取られてうれしいと思ったわ。

【完結】婚約者も両親も家も全部妹に取られましたが、庭師がざまぁ致します。私はどうやら帝国の王妃になるようです?

鏑木 うりこ
恋愛
 父親が一緒だと言う一つ違いの妹は姉の物を何でも欲しがる。とうとう婚約者のアレクシス殿下まで欲しいと言い出た。もうここには居たくない姉のユーティアは指輪を一つだけ持って家を捨てる事を決める。 「なあ、お嬢さん、指輪はあんたを選んだのかい?」  庭師のシューの言葉に頷くと、庭師はにやりと笑ってユーティアの手を取った。  少し前に書いていたものです。ゆるーく見ていただけると助かります(*‘ω‘ *) HOT&人気入りありがとうございます!(*ノωノ)<ウオオオオオオ嬉しいいいいい! 色々立て込んでいるため、感想への返信が遅くなっております、申し訳ございません。でも全部ありがたく読ませていただいております!元気でます~!('ω')完結まで頑張るぞーおー! ★おかげさまで完結致しました!そしてたくさんいただいた感想にやっとお返事が出来ました!本当に本当にありがとうございます、元気で最後まで書けたのは皆さまのお陰です!嬉し~~~~~!  これからも恋愛ジャンルもポチポチと書いて行きたいと思います。また趣味趣向に合うものがありましたら、お読みいただけるととっても嬉しいです!わーいわーい! 【完結】をつけて、完結表記にさせてもらいました!やり遂げた~(*‘ω‘ *)

私だってあなたなんて願い下げです!これからの人生は好きに生きます

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のジャンヌは、4年もの間ずっと婚約者で侯爵令息のシャーロンに冷遇されてきた。 オレンジ色の髪に吊り上がった真っ赤な瞳のせいで、一見怖そうに見えるジャンヌに対し、この国で3本の指に入るほどの美青年、シャーロン。美しいシャーロンを、令嬢たちが放っておく訳もなく、常に令嬢に囲まれて楽しそうに過ごしているシャーロンを、ただ見つめる事しか出来ないジャンヌ。 それでも4年前、助けてもらった恩を感じていたジャンヌは、シャーロンを想い続けていたのだが… ある日いつもの様に辛辣な言葉が並ぶ手紙が届いたのだが、その中にはシャーロンが令嬢たちと口づけをしたり抱き合っている写真が入っていたのだ。それもどの写真も、別の令嬢だ。 自分の事を嫌っている事は気が付いていた。他の令嬢たちと仲が良いのも知っていた。でも、まさかこんな不貞を働いているだなんて、気持ち悪い。 正気を取り戻したジャンヌは、この写真を証拠にシャーロンと婚約破棄をする事を決意。婚約破棄出来た暁には、大好きだった騎士団に戻ろう、そう決めたのだった。 そして両親からも婚約破棄に同意してもらい、シャーロンの家へと向かったのだが… ※カクヨム、なろうでも投稿しています。 よろしくお願いします。

処理中です...