2 / 93
王様と王妃様がいない事を良い事に婚約破棄されました!
しおりを挟む「前々から思っていた! おまえは単なる政略結婚の相手だから一緒にいてやっただけだ!」
本日は学期末パーティーが行われていた。パーティー会場は王宮の小ホール。貴族のみが通える学園で、パーティーは全学年参加の社交場となっていた。
王宮でのパーティーは本格的な社交をするにあたっての練習とも言えよう。
それなのにこんなところでこんなバカな事を言い出すおバカさんが居るなんて。
そのおバカさんはこの国の第五王子殿下であるフランツ・エル・シーバだった。
……因みに私の婚約者でもある。
「フランツ殿下……このような華やかな場で申す話題ではありませんわよ。それと人に指を差してはいけません」
周りがざわついている。
この第五王子声がとてつもなく大きいのが難点。
「うるさいっ! おまえは口ごたえが多いんだ。生意気なんだよっ! 年下のくせに」
年下関係あるかしら? 私だって言いたくないし、見て見ぬ振りも出来る。それに年下といっても一歳……いいえ、たった何ヶ月遅く生まれただけ。
「それは申し訳ございませんでした。ところでなんのお話でしたっけ? 政略結婚でしたかしら? まだ婚約の段階ですよ? お忘れですか?」
まだ結婚はしていませんものね。可憐に首を傾げてみる。あざとい仕草は令嬢にとって武器になると学びました。
「っそういう口答えがムカつくんだ! おまえとの婚約なんてこの場を持って破棄してやる! そうだな、そこはお前の言う通りまだ結婚してないんだから私の経歴に傷がつく事がない!」
あらあら。そうきましたか……
「それはだめよ。フランツ。アリスフィア様が困っていらっしゃるわ」
えぇ。とても困っています。私をアリスフィア様と言ったのは、現在我が家に住んでいるレイラ。殿下の腕を取り仲良さそうに寄り添っている。とってもお似合いですわ。
レイラはクルー男爵家の娘でブラック伯爵家の遠縁にあたり、学園生活の間は我が家に住んでいる。
「レイラは気遣いの出来る心優しい令嬢でアリスなんかとは大違いだな……」
そう言って殿下はレイラの肩を抱きしめ、イチャイチャし出した。何を見せられているのだろうか……と思わなくもないけれど、レイラは幸せそうな顔をしていた。
「そういった事はお二人の時になさって下さいませ。皆さんが見ていますのよ? 仲の良いところを見せびらかしているようにも思えますわね」
呆れてしまいつい口に出してしまった。仲睦まじい事は誰の目から見ても明らか。ほら他の生徒たちも興味ありげにこちらを見ている。ここは王宮のホールで、このままだと騒ぎを聞きつけた他の貴族たちの耳にもすぐ入ってしまう。
「アリスフィア様……そんな……二人の時にだなんて……婚約者がいるフランツと二人きりになるわけないじゃないですか……そんな事をしたら私たちの関係がどう思われるか、ねぇ、フランツ?」
「二人の時にとこいつは言った。婚約破棄を受け入れたと言う事だ。そうだな?」
勝ち誇った顔をするフランツとその胸の中にすっぽりとおさまるレイラ。小さくて庇護欲が湧くのよね。分かるわ。とっても可愛いもの。
「はい。了承致しました。どうぞ婚約を破棄して下さいませ」
面倒ごとはゴメンよね。取り敢えず屋敷に帰って……そう思いながら会場から出ようと思った。
「待て! おまえは私とレイラをバカにしたな! レイラはいずれ王子妃となるんだぞ? 王族をバカにした! これは立派な不敬罪にあたる! よって私とレイラの百キロ以内立ち入り禁止とする!」
ザワザワ……周りがザワつく。取り敢えず学園は辞める事になりそうね。百キロ以内ねぇ。
「えぇー! そうなると田舎しか居場所がなくなってしまいますよぉ? アリスフィア様は都会生まれなのに……百キロと言ったらクレマン地方……超ど田舎ですよぉ!」
……レイラがいた孤児院のある場所ね。レイラは元孤児で男爵家に引き取られたのだけど。
「ほぅ。クレマンか……それは良いな。ついでに不敬罪として身分剥奪も加える」
ザワつく会場に衛兵たちが慌ただしくなってきた。王宮から摘み出して笑いものにするという事? それにしても不敬罪の意味を知っているのかしら? バカバカしくて反論するのも面倒。はぁっ。困ったようにため息を漏らすとカツカツと早足の靴音が聞こえた。
「おい! 何の騒ぎだっ」
そこに現れたのは第三王子のフェリクス殿下だった!
「げっ。兄上……」
「何の騒ぎだと言っている? 今日は学園のパーティーだろうっ!」
じろっとフランツ殿下を一睨みすると周りに静寂が訪れた。フェリクス殿下は第二騎士団をまとめる騎士団長でもある。
フランツ殿下を睨んでいる間に私は後退りをしなんとか距離を取り出口へ……
「フランツの横にくっついている女はどこの誰だ? おまえにはアリスという婚約者がいるだろう!」
そんな事を言われても……もう婚約破棄は決まった。全校生徒の目の前で婚約破棄をされ元に戻る事はない。もしそうなったとしたら我が家の恥だわ。
「兄上! 私はアリスと婚約破棄を皆の前で宣言しました。その後はレイラと婚約をする事をここに宣言いたしますっ!」
しーーん。と静まり返りフェリクスは頭を抱えた。
「正気か?」
「もちろんです! アリスには私たちに危害を加えぬよう百キロ以内を立ち入り禁止とし、クレマン地方へ追放します」
フランツの実兄であるフェリクスだが、フランツを見る目は冷え切っていた。
「百キロ以内……? クレマン……? それは誰が決めたんだ?」
「私です! 王族として決定を致しました。不敬罪も併せて身分の剥奪もです。おいアリス! 私は優しいから猶予を半日やろう! 朝が来るまでに王都から出ていくように」
王族が一度口にした事は決定。それを覆すのは王若しくは王妃の口添えがいる。しかし言動には責任が伴われる。覆すと言う事は間違いであったと認める事になる。
「フェリクス殿下そう言う事ですので、御前失礼致しますわ。みなさんも騒がせてしまい申し訳ございませんわ。それではご機嫌よう」
笑顔でカーテシーをして会場を去ろうとした。フェリクス殿下まで登場した事により、周りはポカンとしていた。
「アリス、100キロは遠いぞ……グレマンなんて120キロは離れている」
フェリクス殿下はグレマンと言った?
「え? グレマン?ですか」
「そうだ! 遠いぞ?」
フェリクスはフランツに分からないように私に目配せしてきた!
そしてグレマンと言う地名をなんとなく濁して言ってくる。
クレマンじゃなくグレマンへ行けと?
「良いな? グレマンだぞ」
また地名を濁した。
「アリス! 兄上の言う通りだ! とっとと出て行け!」
はいはい。出ていきます。私は今度こそ会場を後にした。
フェリクス殿下はもう一度小声でいいか? グレマンだぞ? と念押しに言ったので、にこりと笑って返事した。フェリクス殿下がそこまで言うのなら何か考えがあるのでしょう。
57
お気に入りに追加
3,583
あなたにおすすめの小説
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
(完結〉恐怖のギロチン回避! 皇太子との婚約は妹に譲ります〜 え? 私のことはお気になさらずに
にのまえ
恋愛
夏のおとずれ告げる王城主催の舞踏会。
この舞踏会に、婚約者のエスコートなく来ていた、公爵令嬢カサンドラ・マドレーヌ(18)は酔って庭園にでてきた。
酔いを冷ましながらバラ園の中を歩き、大昔国を護った、大聖女マリアンヌの銅像が立つ噴水の側で。
自分の婚約者の皇太子アサルトと、妹シャリィの逢瀬を見て、カサンドラはシャックを受ける。
それと同時にカサンドラの周りの景色が変わり、自分の悲惨な未来の姿を垣間見る。
私、一度死んで……時が舞い戻った?
カサンドラ、皇太子と婚約の破棄します。
嫉妬で、妹もいじめません。
なにより、死にたくないので逃げまぁ〜す。
エブリスタ様で『完結』しました話に
変えさせていただきました。
【完結】婚約者も両親も家も全部妹に取られましたが、庭師がざまぁ致します。私はどうやら帝国の王妃になるようです?
鏑木 うりこ
恋愛
父親が一緒だと言う一つ違いの妹は姉の物を何でも欲しがる。とうとう婚約者のアレクシス殿下まで欲しいと言い出た。もうここには居たくない姉のユーティアは指輪を一つだけ持って家を捨てる事を決める。
「なあ、お嬢さん、指輪はあんたを選んだのかい?」
庭師のシューの言葉に頷くと、庭師はにやりと笑ってユーティアの手を取った。
少し前に書いていたものです。ゆるーく見ていただけると助かります(*‘ω‘ *)
HOT&人気入りありがとうございます!(*ノωノ)<ウオオオオオオ嬉しいいいいい!
色々立て込んでいるため、感想への返信が遅くなっております、申し訳ございません。でも全部ありがたく読ませていただいております!元気でます~!('ω')完結まで頑張るぞーおー!
★おかげさまで完結致しました!そしてたくさんいただいた感想にやっとお返事が出来ました!本当に本当にありがとうございます、元気で最後まで書けたのは皆さまのお陰です!嬉し~~~~~!
これからも恋愛ジャンルもポチポチと書いて行きたいと思います。また趣味趣向に合うものがありましたら、お読みいただけるととっても嬉しいです!わーいわーい!
【完結】をつけて、完結表記にさせてもらいました!やり遂げた~(*‘ω‘ *)
妹に全てを奪われるなら、私は全てを捨てて家出します
ねこいかいち
恋愛
子爵令嬢のティファニアは、婚約者のアーデルとの結婚を間近に控えていた。全ては順調にいく。そう思っていたティファニアの前に、ティファニアのものは何でも欲しがる妹のフィーリアがまたしても欲しがり癖を出す。「アーデル様を、私にくださいな」そうにこやかに告げるフィーリア。フィーリアに甘い両親も、それを了承してしまう。唯一信頼していたアーデルも、婚約破棄に同意してしまった。私の人生を何だと思っているの? そう思ったティファニアは、家出を決意する。従者も連れず、祖父母の元に行くことを決意するティファニア。もう、奪われるならば私は全てを捨てます。帰ってこいと言われても、妹がいる家になんて帰りません。
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。
だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。
しかも新たな婚約者は妹のロゼ。
誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。
だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。
それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。
主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。
婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。
この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。
これに追加して書いていきます。
新しい作品では
①主人公の感情が薄い
②視点変更で読みずらい
というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。
見比べて見るのも面白いかも知れません。
ご迷惑をお掛けいたしました
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
【完結】姉に婚約者を奪われ、役立たずと言われ家からも追放されたので、隣国で幸せに生きます
よどら文鳥
恋愛
「リリーナ、俺はお前の姉と結婚することにした。だからお前との婚約は取り消しにさせろ」
婚約者だったザグローム様は婚約破棄が当然のように言ってきました。
「ようやくお前でも家のために役立つ日がきたかと思ったが、所詮は役立たずだったか……」
「リリーナは伯爵家にとって必要ない子なの」
両親からもゴミのように扱われています。そして役に立たないと、家から追放されることが決まりました。
お姉様からは用が済んだからと捨てられます。
「あなたの手柄は全部私が貰ってきたから、今回の婚約も私のもの。当然の流れよね。だから謝罪するつもりはないわよ」
「平民になっても公爵婦人になる私からは何の援助もしないけど、立派に生きて頂戴ね」
ですが、これでようやく理不尽な家からも解放されて自由になれました。
唯一の味方になってくれた執事の助言と支援によって、隣国の公爵家へ向かうことになりました。
ここから私の人生が大きく変わっていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる