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不思議な令嬢、マリさん

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「美味しかったです!」

「うん、あのキャラメルは良かった」

「ナセル様、甘いもの好きですか?」

「普段は食べない。でも嫌いでもないってところかな」


「へー、知りませんでした」

 昔お菓子を食べていたのは私に付き合ってくれていたからなのかな……。いつもお菓子を出してくれたから。

「ごめん、ちょっとここで待っててすぐ戻るから!」

「はい」




 


 どうされたのかしら? 忘れ物……って言うわけではなさそうですね。






「あれ、シャノン?」

 呼ばれた先を見ると



「ミカエルと……えっと、花瓶の人?」

 可愛らしい方でしたもの。私服でもちゃんと分かりました。


「酷いです! まだ根に持っているのね」


 ミカエルの腕に絡みつく花瓶の水の人。ミカエルは腕を解こうとしているけれど、私のことなんて気にしなくて良いのに。



「申し訳ございません。お名前を伺っていなくて……わたくしはシャノン・ド・コレットと申しますの」


「マリ・ロルシーです!」


 ロルシー……確か噂になっていた子爵家のご令嬢ですわね。なぜそんなに機嫌が悪そうなのかしら?


「ロルシー様と、ミカ……、ではなくてロンゴ様はどうされたんですか?」


「デートです。ね! ミカエル」


 笑顔のロルシー様。


「デート?」


 困った顔をするミカエル。



「男女二人で出掛けたらデートでしょう!」



「仲がよろしいのですね」



「いや、単なるクラスメイトとと言うだけで、」
「仲良くさせてもらっています!」


「まぁ、学園で出会いがあったのですね!」


「だから、そんなんじゃないって、」

 またロルシー様の腕を外そうとしていた。






「シャノン、待たせた……ってなんだ?」

 明らかに不信感丸出しのナセル様。




「ナセル様! こんにちは。こんなところで会うなんて、もしかして運命とか!?」

 キャッキャとはしゃぐ花瓶の……じゃないロルシー様。



「シャノン、行くぞ」


「ひど~い! 声をかけたのに無視するなんて」

「私の名前を気安く呼んで欲しくない。なぜシャノンは相手にするんだ。この二人は何でここに?」


「デートをしているそうです」


「シャノン、だからデートじゃ、」
「デートではありません!」


「? 先ほど男女二人で出掛けたらデートだと仰いませんでしたか?」

 聞き間違いではないですわよね?


「気のせいよ! ね! ミカエル」

「僕は何度もいっている。デートじゃない!」




「そうか。私たちはデートの最中なんだ。シャノン行くぞ!」

「え、えぇ。そうですね」


 なんだかこのロルシー様は変わった方なのかもしれません。


「それならダブルデートしませんか?」

 やはりデートでしたのね。



「話になりません。隣にいるのは確かロンゴ伯爵のご子息でしたよね」



「はい。ミカエル・ロンゴでございます」

「すみませんが、見ての通り私たちはデート中です。邪魔をされたくないので、そちらの令嬢とどうか楽しんでください。お願いしますね」


 笑顔のナセル様、ちょっと怒ってるみたい。


「……分かりました」



「よし、行こうシャノン」

 手を取られて早歩きで二人から離れました。不思議な方ですよね。ミカエルとお付き合いをしているのかしら?




「ごめん。少し離れた隙に絡まれるなんて私のミスだ……。あの彼がシャノンのことを保留って言ったんだっけ?」


「そうでした。色々ありすぎて、すっかりと忘れていました」


「忘れていたのかよ……こっちは気にしてたのに」


「え?」

「嫉妬ではらわたが煮えくりかえっている」

「嫉妬?」


「シャノンが好きな男だろ!」

「あ!」

「次は何?」

「返事しなきゃ」


「返事?」

 眉を顰め少し機嫌が悪そうなナセル様。


「学園でいろんな人と出会ってそれでもミカエルが良いならまた告白して欲しいって言われたの。でも告白した事は忘れて。って言わなきゃ。保留って言われて考えたの。好きだったって事には変わりがないけれど、確かに視野は狭かったから、ってきゃっ!」



「うん。それは返事をしなきゃ、早急に」


 気がつくとナセル様の胸の中にいた。ぎゅっと抱きしめられている。前が見えない


「苦しい……」


 


「ごめんごめん。いつ返事するの?」

 パッと離された。


「まだ決めてないけれど、近いうちには」

「私も居てもいい?」


「え! なんで?」

「ダメ?」

「はい」

「ダメなの?」

「良いですよ。って返事をするわけないですよ。デリケートな問題ですからね」


「……それはそうだな。……デリカシーに欠けていた。ごめん」


「そろそろ帰りましょうか? 遅くなったらお父様に心配をかけてしまいます」




「あ、本屋に寄りたいんだ。兄上に頼まれた本を買いたい」


「良いですね! 行きましょう」



 王都で一番大きな本屋さんに着くと、本屋さんの片隅にキャンディが置いてあった。

 カラフルでキラキラしていてプレゼントに丁度いい大きさだった。一番小さな袋を一つ買った。


「お待たせ。なにそれ?」


「お願いがあります」


「お願い?」


「これをマックスお兄様に渡して下さい」

「兄上に?」


 眉間に皺が寄った。



「昔、マックスお兄様にね、よくキャンディを貰ったの。疲れた時は糖分が必要だって。いつもお兄様のポケットに入っていたの。今は知らないけれど懐かしいと思って」


「私は兄上からキャンディなんて貰ったことないよ」

 ナセル様が驚いた顔をしています。


「ふふふ、お忙しいのにお時間を取ってもらったお礼ですって伝えてください」


「私にはないのに?」


「ナセル様には別のものを用意しています。もう少し時間がかかります」


「分かった」

「キャンディもいりますか?」

「シャノンがくれるものはなんでも嬉しいよ」


「またそんな事言って」



「本気だよ。でもそろそろ帰らないと侯爵に怒られそうだから、また今度改めて口説く事にする」




 家に帰ってお父様とお母様に、どこに行ったか矢継ぎ早に聞かれ少し疲れたのは内緒。



「シャノンちゃん、楽しかった?」

「うん、とても」

「「そう」か」


 お母様は嬉しそうで、お父様は寂しそうなお顔をしていたのが印象的だった。




「その髪飾りどうしたの? 可愛いわね。とっても似合っているわ」


 髪飾り? 付けてたっけ……侍女が笑いながら鏡を持ってきてくれた。

「本当だ……」


 あれ? 一体どこで……



「お嬢様、殿下に抱きしめられていた時ですよ」

 こそっと侍女に耳打ちされて、かぁっと顔が赤くなるのがわかった。あ、あの時……?



「待て! 抱きしめられたってなんだ! そんな破廉恥な事をしているのか!」

「あら? 仲がいいのねぇ。シャノンちゃんもやるわね! さすが私の娘」


「ママは黙ってなさい! シャノン! パパはそんな娘に育てた覚えないからなっ! 殿下め! あれほど言ったのに」




 お父様は怒りお母様は楽しそうだった。













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