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ユリシーズ

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 まさか、チェルシーの誕生日を知らなかったとは……

 まさか、紫色が好きではなかったとは……  

 チェルシーの趣味なんて考えたことなかった……





「ユリシーズ様! ユリシーズ様ってばどうしたの? せっかくのデートなのに」


 あぁ、そうだった。チェルシーとのお茶会の後にエイラと約束をしていたんだった。


「すまない。少し考え事をしていた」


 せっかくのデートなのに、全く集中できなかった。これも全てチェルシーのせいだと思う。


 もうっ! と頬を膨らますエイラの顔が可愛いと思った。チェルシーはこんな顔を絶対にしない。


「婚約者様に話をしてくれたの?」


 机の上に置いた私の手をギュッと握り甘えるような表情で私を見てくるエイラ。


「あぁ。もちろんしたよ」


 エイラの話はした……それは間違いない……


「なんて仰っていたの? 婚約破棄は了承してくれたの?」

 はっ! とした。そこまでの話はしていないではないか! なんたる失態


「婚約は家と家との契約だから、一方的破棄ということは出来ない。順序を踏まえて両親に話をするよ」


「それもそうね。ユリシーズ様は真面目だもの。チェルシー様はそう言うところがお好きだったのかしら?」


 チェルシーが……? 眉を顰めてしまった


「どうしたの? 違った? もしかして家との繋がりだったから愛は無かったの?」


「いや! そんな事はない! チェルシーは私のことを好きだったはずだよ」


……そうに違いない! じゃないと誕生日も好きな色も趣味も知らないわけがない!


「なぁエイラ、エイラは私の誕生日を知っているか?」


「えっ?! それは……教えてください。ユリシーズ様のこと」


 エイラは向かい合っていた席から移動して私の隣に座り手を繋ぎ直し上目遣いで見てきた。少しいじけるような口元が可愛い。



 ……成る程、誕生日を知らないと言われると結構ショックだな……まだ付き合いも短いのだから仕方がないのかも知らない。
 誕生日パーティーもまだ先だしな。うん、仕方がない。


「私の好きな色……は?」


「ブラウン? 私の瞳の色だもの」


 ……なぜ彼女の瞳の色を好みだと思われたのだろうか。平凡なブラウンを好むわけなかろうに……私の瞳の色は高貴な紫、いやバイオレットだ! バイオレットに決まっているだろうに。
 今日のチーフもバイオレットを上手く使っていると言うのに、気づかないのかな? 答えは私の服装を見れば分かるだろうに


「そ、そうか。私の趣味は?」


「買い物? よくプレゼントをくれるもの」


 ……そう言う割に身につけているところを見たことがない。アメジストのネックレスにブレスレットに、指輪……。


 会う時はラベンダーを渡している。うちの庭師に言って、年中絶やさないようにラベンダーを育てさせている。香りもいいし紫の色が美しいだろう?
 ここにも答えがあるではないか!


 ……時を戻そう、私の趣味は乗馬だ。




 ……あれ? エイラは私のことを知ろうとしてくれているんじゃ無いのか?

 これくらいならチェルシーの方が私を知っていると言うことになる。




「私ってね、アメジストよりもキラキラした、その、大きい宝石の方が好きなのかもしれないわ。ドレスを着た時にこの胸元を飾るには、すこ~し物足りないのかもしれないわ」



 そう言うエイラのぷるんっとした胸元に視線をやると、確かにプレゼントした宝石は小粒のように思えてきた……。



「普段使い出来るようにと思ってプレゼントしたんだ」



 隠れた逢瀬はできても公の場に連れて行く事は流石に出来ない! なんでって? 変に噂をされては困るからね。
 浮気だなんだと言われたら今後お互いの為にもよくないからな



「婚約破棄を急いでくれなきゃ……」


 悲しそうに眉を顰めるエイラに


「あぁ、わかったよ」


 と言って、手を握り返した。表情が豊かで可愛い。












 






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