絶対に近づきません!逃げる令嬢と追う王子

さこの

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番外編

朝一で

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「アイリス!」

「……まぁ殿下」

 つん。と顔を背けるアイリス。応接室で待たされていたエヴァン。なぜかというと、アイリスの部屋に入れてもらえなかったのだ。

 そしてエヴァンの事を殿下と呼ぶ。アイリスは怒ると絶対に名前を口にしない。エヴァンが一番嫌な呼ばれ方。


「なぜ何も言わずに里帰りなんかしたんだ」

 空気がピリッと冷える感じがした。





 アイリスは王妃に影に会わせるようにと頼んだ。これは今までで初めてのことだった。アイリスに影がついていた事は知っているが、見たこともなければ会った事もない。どこかにいるんでしょ? くらいの気持ちでいた。

 そして王妃の部屋で影のリーダーを呼び出して聞いた。


『あなた方の雇い主は誰ですか?』


 と聞く。すると陛下と王妃だと答えた。王族に仕えているが、現在は陛下と王妃がトップ。エヴァンは王太子とはいえ本来は勝手に動かす事はできない。


 それならば今から里帰りすることはエヴァンには言うな。と。王妃の口から言ってもらったが返事がない。と言うか躊躇していた。それならば陛下に頼むまで! と立ち上がるアイリス。王妃は影にする。

 すると“仰せのままに”と返事が返ってきた。躊躇した理由は陛下が了承した上で王太子が命令しアイリスを見張っているから。

 そして王妃はアイリスが実家に帰っている間は変わらず危険がないよう見張るようにと言い、影との話を終わらせた。




「わたくしは帰ります。と言いましたわ。皆に迷惑が掛からないように連れてきましたのよ」

「屁理屈だ! リュカも住み慣れた王宮から出て寂しがっているだろう。リュカはどこだ、帰るぞ」


 いつもならアイリスから離れないのに何故かいない。


「リュカならお父様と遊んでいますからお気になさらずに」

「は?」

 義父上がリュカと? そんな姿想像が出来ない。


「殿下はリュカと喧嘩ばかりしていましたものね? リュカは王宮にいる時よりたくさん食べてのびのびしていますわ」


「は?」


「お話は終わりですか? お忙しいのでしょう?」

「……アイリス、話をしよう。昨日は私が悪かった」






「何に対してですか?」

「それは、王女の前でアイリスに注意をした事だ」

「へぇ? それで?」

 アイリスの顔に表情はない“無”この顔を見て一緒に来ていたレイはマズイと思った。これは荒れる……


「申し訳なかった。一方的だった」


「で? 潰すの? あの女」

「…………潰す?」


「エヴァンを名前で呼んでいたわ。それに勝手に触れていたわね」


「あぁ……そっか、そうだな」


「ダンスをしてエヴァンに夢心地になったみたいですよ? わたくしに内緒にするほど素敵なダンスだったのね」


「あれは父上に一曲だけと言われて仕方がなく」


「へぇ? 仕方がなかったら言わなくても良いのでしょう? それならわたくしも里帰りをする事を言う必要がありませんわね。仕方がなかったので帰ってきたのですから。それにユベール様が来るのに勝手に断ったでしょう!」


「それとこれとは話が違う」


「あの女、リュカに近寄ろうとしていたんですわ。もちろん周りに阻止されていましたが、王宮に住んでいる限り、会うか分からないもの。ただでさえ危険が多い王宮で害虫を飼うだなんて」


「それも報告がされていない……」

 リュカに何をしようとした……
 

「あの女、エヴァンのことを狙っているみたいよ。さぁ、どう行動されるのか見ものですわ」



「相手は王女だぞ」

「だからなんです?」


「そうだな……関係ないか」

「先ほどから聞いていればハッキリしませんわね!」

 立ち上がり怒りをぶつけるアイリス。


「穏便に済ませたいと思っただけだ。アイリスには身体のことを一番に考えて、」

「身体のことを考えたから実家に帰ってきたのです!」

 アイリスの息が荒くなってきた。はぁはぁ。と肩で息をしている。


「アイリス! どうした!」
「妃殿下?!」



 ふーふーと苦しそうに息をするアイリス。


「お腹、が、いた、い……」


 はぁはぁ。とお腹を抑えソファの肘掛けにもたれ掛かるアイリス。


「レイ! 医師を呼べっ!」

 返事をする間もなく扉を開け医師を呼ぶレイ。アイリスの背中をさする侍女。


「アイリス、アイリス! 今医師がくるからな……私が興奮させてしまったから」

 アイリスの手を握るエヴァン。


「いたっ、い、エヴァン、どう、しよう、お腹の子が、」

 はぁはぁ。ふーふーと呼吸が乱れるアイリス。

「大丈夫だ、大丈夫だから」


 そうこういっていると、医師が駆けつけてきた。


「殿下、すいませんがどいてくださいっ! 邪魔です」

 不敬な言い方ではあるが、エヴァンは医師に言われアイリスの側を離れる。


「……これは、」

「どうした!」


「殿下、妃殿下を思いやってあげてください。どうして出産を控えた妃殿下を興奮させるのですか……」


「そ、それは」

「デリケートな時期なんです。妃殿下を部屋へお運びください! 少し早いですが産まれてきます! 準備をしてくださいっ」


 看護師達は慌てて準備を始めることになっだ。屋敷が忙しなくなる。


「アイリスは、アイリスは大丈夫なのか? 子は……」


「そんな心配をするくらいなら、妃殿下の些細な我儘くらい聞いてやりなさい! 早く妃殿下を運んでっ!」


「は、はいっ。アイリス、少し揺れるがしっかり捕まっていてくれ」


「エヴァン、さ、」


 よいしょ。とエヴァンはアイリスを抱き抱える。


「ごめん、なさ、周りに、罰は与えないで、私が悪い、の」


 ふるふると頭を振るエヴァン。

「悪いのは私だ。アイリスは悪くない。誰にも罰は与えない。頼むから母子共に健康でいてほしい」


 エヴァンは目頭に涙を浮かべていた。そしてアイリスを部屋に連れて行き、エヴァンはアイリスの母によって追い出された。













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