絶対に近づきません!逃げる令嬢と追う王子

さこの

文字の大きさ
上 下
46 / 55
番外編

新年のパーティー

しおりを挟む

 新年を迎えるパーティーは国中の貴族が集まる。もちろん実家の両親もお兄様も例外ではない。いえ、例外として数年前までは来ていませんでしたけどね? 和解してからはきちんと参加するようになりました。

 そして私の出産に合わせて両親は暫くはこのまま王都に滞在するのだそうです。


「じぃじ、ばぁばぁ、ジュードおじたん!」

 リュカが、お父様とお母様とお兄様に向かって、走りました。

「あら、リュカ走ってはいけませんよ」


 お父様が走ってきたリュカを受け止めてくれました。

「じぃじ!」

「……リュカ殿下。ますますエヴァン殿下に似てこられましたな」

「ばぁばぁ!」

「はい。ばぁばぁですよ。久しぶりですね。本当エヴァン殿下にそっくりで……」

 遠い目をするお父様とお母様……

「おじたん!」

「リュカ殿下、久しぶりですね」

 お兄様は笑顔でリュカの頭を撫でてくれました。リュカは嬉しそうにお兄様の方へ両手を出しました。抱っこしてほしいのでしょうね。

 お兄様はリュカを抱っこしました。あらあら、リュカは嬉しそうにしてますわね。良かったですね。


「お父様、お母様会いにきてくださって嬉しいです」

 お父様とお母様にハグをしました。遠い領地から来てくださって、パーティーの前にこうやって会いに来てくれてとても嬉しく思いました。やはり家族に会うと嬉しいですね。


「アイリス、体の調子は良いのかい?」

「えぇ。ありがとうございます。安定しています。新年のパーティーですが、挨拶だけで下がらせて貰いますが、お父様もお母様もお兄様も気になさらずに楽しんでくださいね」

 と言っても、おそらく早々に帰られるでしょうね。私は王太子妃ですから、お近づきになりたいという貴族達が……ね。


 十数年社交から遠ざかっていて、田舎の伯爵家と陰でバカにしていた人達と特別仲良くしたいとは思いませんよね? ですから私も何も言いません。


「こうやってアイリスと会う時間を作ってくれた殿下には感謝しないといけませんわね」

「えぇ。後でお礼を言っておきますね。今頃は大臣たちに今日のパーティーについての説明を受けている最中だと思いますわ」


「アイリスは良いの?」

「えぇ。わたくしは挨拶だけですし、説明は既に聞きました。リュカも国民の前に出て挨拶をするのよね?」

「うん。手を振るんだよ」


 ばいばい。と手を振っていました。


「リュカ殿下お上手ですわ」

 お母様が褒めてくれました。


「リュカは手を振るのが上手なんですよ。いつもエヴァン様に手を振っています」


 最近はレイ様が迎えにくるまで、執務に行かないのです。

 なのでリュカはいつも“パパ、バイバイ”と手を振っています。お手のものです。


「あら、仲が良いのね」

「なんだかんだとエヴァン様はリュカの面倒を見てくれていますよ」

 ママーと言って今度は私に抱きついてきました。

「本当に幼い頃のエヴァン殿下にそっくりで……思い出しちゃうわ。あの時にアイリスが見初められていたなんて」

 お母様ったら寒いのかしら? 腕をさすっていますわね。


「もう少し部屋を温めますか?」

「……あぁ、大丈夫だ。そういうのではない。少し昔を思い出していただけだよ」

 さっきからお父様もお母様も変ですね。


「アイリスは相変わらずのんびりしているね。そんなんで王太子妃なんて務まるのかい? 心配だよ」

 お兄様が頭を撫でてくれましたが、先ほどリュカの頭も撫でていましたわよね? お兄様の目からしたら私はいつまでも幼いままなのかしら?


「王宮の皆は良くしてくれるし、王妃様もリュカの面倒を見てくださるしとても助かっていますよ。エヴァン様は相変わらずで少し? いえ、かなり? おかしな人ですけれど、お仕事はきちんとしていますし、わたくしはまだまだですけれど、皆に助けられています」

「そうかい。困ったことがあったらすぐに言うんだよ。昨日街歩きをしてみたんだけど、王都にはカフェがとても増えているんだね。アイリスは行った事がある?」


 お兄様は領地で過ごす事が増えて王都に来ても忙しくて街歩きをする暇がないようでした。


「えぇ、この子がお腹にいると分かった頃にエヴァン様に連れて行って貰いました」

「相変わらずアイリスは甘いものに目がないんだね。お菓子をあげるからと言われても知らない人について行ってはいけないよ?」


「まぁ。お兄様ったら」

 懐かしいですね。そういえばあの時の人ってどうなったのかしら? お兄様なら隣国の情勢にも詳しいはず。



「あの時わたくしがうっかりついて行ってしまった人は捕まったのでしたね? 悪い事はしてはいけませんね」


「……そうだな、急展開ってあるんだな。何をどうして隣国の情勢に口を出してあぁなったんだ」

 最後の方は聞き取れませんでした。


「リュカ殿下、良いですか? お菓子をあげると言われてもついて行ってはいけませんよ」


 お兄様に言われて首を傾げるリュカ。

「リュカにはまだお菓子を食べさせていないんですよ。虫歯になっては困りますし、甘味はフルーツをあげています。それにわたくしもお腹の子のために控えています」


「まぁ。そうだったの? それじゃお土産に持ってきたマロングラッセは皆さんで分けて貰いましょう」


「え! マロングラッセですか!」


 お母様特製の!!


 アイリスは領地のマロンを使ったグラッセが大好物だった。王太子妃の口に入るものなので、家族といえど毒味は終わっていて許可されたものを持ってきていた。


「良かったら、これ皆さんで分けてください」

 お兄様がメイドに渡そうとする!

「ダメっ。少しだけ……でも少しじゃ……いいえ。五つだけ」

 肩を落としながらも五つだけ口にした。


「美味しい……足りないわ」

 悲壮感漂うアイリスにメイドが声をかけてきた。


「妃殿下、あの、まだありますよ?」

 首を振るアイリス。


「うちの領地の栗はとっても美味しいの……皆で分けてちょうだい。出来ればすぐにでも……目に見える範囲にあったら全部食べてしまいそうなの」


 メイドはえ? これ全部? と思い驚いた。ずっしりとした量があるのだから。

「お願い、すぐに分けてきて」

「かしこまりました」


 一礼をしてメイドは下がった。その後アイリスの実家のマロングラッセの美味しさに虜になり奪い合いになったようだ。



「アイリスは妃殿下になっても変わらないね? 腹黒ストーカー男には勿体無いよ」


 お兄様は嬉しそうにしていた。最後の方は聞こえなかったけど。



「早く生まれてきてママにお母様のマロングラッセをお腹いっぱい食べさせてね」

 お腹を撫でるアイリス。家族はそんなアイリスを見ながら変わらないなぁ。と嬉しそうにしていた。


 さぁ、今から国民の前に出て新年の挨拶をしてきます!


******

 久しぶりの更新となりました( ˊᵕˋ ;)


しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

心の中にあなたはいない

ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。 一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。

二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。

当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。 しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。 最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。 それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。 婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。 だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。 これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

処理中です...