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番外編
新年のパーティー
しおりを挟む新年を迎えるパーティーは国中の貴族が集まる。もちろん実家の両親もお兄様も例外ではない。いえ、例外として数年前までは来ていませんでしたけどね? 和解してからはきちんと参加するようになりました。
そして私の出産に合わせて両親は暫くはこのまま王都に滞在するのだそうです。
「じぃじ、ばぁばぁ、ジュードおじたん!」
リュカが、お父様とお母様とお兄様に向かって、走りました。
「あら、リュカ走ってはいけませんよ」
お父様が走ってきたリュカを受け止めてくれました。
「じぃじ!」
「……リュカ殿下。ますますエヴァン殿下に似てこられましたな」
「ばぁばぁ!」
「はい。ばぁばぁですよ。久しぶりですね。本当エヴァン殿下にそっくりで……」
遠い目をするお父様とお母様……
「おじたん!」
「リュカ殿下、久しぶりですね」
お兄様は笑顔でリュカの頭を撫でてくれました。リュカは嬉しそうにお兄様の方へ両手を出しました。抱っこしてほしいのでしょうね。
お兄様はリュカを抱っこしました。あらあら、リュカは嬉しそうにしてますわね。良かったですね。
「お父様、お母様会いにきてくださって嬉しいです」
お父様とお母様にハグをしました。遠い領地から来てくださって、パーティーの前にこうやって会いに来てくれてとても嬉しく思いました。やはり家族に会うと嬉しいですね。
「アイリス、体の調子は良いのかい?」
「えぇ。ありがとうございます。安定しています。新年のパーティーですが、挨拶だけで下がらせて貰いますが、お父様もお母様もお兄様も気になさらずに楽しんでくださいね」
と言っても、おそらく早々に帰られるでしょうね。私は王太子妃ですから、お近づきになりたいという貴族達が……ね。
十数年社交から遠ざかっていて、田舎の伯爵家と陰でバカにしていた人達と特別仲良くしたいとは思いませんよね? ですから私も何も言いません。
「こうやってアイリスと会う時間を作ってくれた殿下には感謝しないといけませんわね」
「えぇ。後でお礼を言っておきますね。今頃は大臣たちに今日のパーティーについての説明を受けている最中だと思いますわ」
「アイリスは良いの?」
「えぇ。わたくしは挨拶だけですし、説明は既に聞きました。リュカも国民の前に出て挨拶をするのよね?」
「うん。手を振るんだよ」
ばいばい。と手を振っていました。
「リュカ殿下お上手ですわ」
お母様が褒めてくれました。
「リュカは手を振るのが上手なんですよ。いつもエヴァン様に手を振っています」
最近はレイ様が迎えにくるまで、執務に行かないのです。
なのでリュカはいつも“パパ、バイバイ”と手を振っています。お手のものです。
「あら、仲が良いのね」
「なんだかんだとエヴァン様はリュカの面倒を見てくれていますよ」
ママーと言って今度は私に抱きついてきました。
「本当に幼い頃のエヴァン殿下にそっくりで……思い出しちゃうわ。あの時にアイリスが見初められていたなんて」
お母様ったら寒いのかしら? 腕をさすっていますわね。
「もう少し部屋を温めますか?」
「……あぁ、大丈夫だ。そういうのではない。少し昔を思い出していただけだよ」
さっきからお父様もお母様も変ですね。
「アイリスは相変わらずのんびりしているね。そんなんで王太子妃なんて務まるのかい? 心配だよ」
お兄様が頭を撫でてくれましたが、先ほどリュカの頭も撫でていましたわよね? お兄様の目からしたら私はいつまでも幼いままなのかしら?
「王宮の皆は良くしてくれるし、王妃様もリュカの面倒を見てくださるしとても助かっていますよ。エヴァン様は相変わらずで少し? いえ、かなり? おかしな人ですけれど、お仕事はきちんとしていますし、わたくしはまだまだですけれど、皆に助けられています」
「そうかい。困ったことがあったらすぐに言うんだよ。昨日街歩きをしてみたんだけど、王都にはカフェがとても増えているんだね。アイリスは行った事がある?」
お兄様は領地で過ごす事が増えて王都に来ても忙しくて街歩きをする暇がないようでした。
「えぇ、この子がお腹にいると分かった頃にエヴァン様に連れて行って貰いました」
「相変わらずアイリスは甘いものに目がないんだね。お菓子をあげるからと言われても知らない人について行ってはいけないよ?」
「まぁ。お兄様ったら」
懐かしいですね。そういえばあの時の人ってどうなったのかしら? お兄様なら隣国の情勢にも詳しいはず。
「あの時わたくしがうっかりついて行ってしまった人は捕まったのでしたね? 悪い事はしてはいけませんね」
「……そうだな、急展開ってあるんだな。何をどうして隣国の情勢に口を出してあぁなったんだ」
最後の方は聞き取れませんでした。
「リュカ殿下、良いですか? お菓子をあげると言われてもついて行ってはいけませんよ」
お兄様に言われて首を傾げるリュカ。
「リュカにはまだお菓子を食べさせていないんですよ。虫歯になっては困りますし、甘味はフルーツをあげています。それにわたくしもお腹の子のために控えています」
「まぁ。そうだったの? それじゃお土産に持ってきたマロングラッセは皆さんで分けて貰いましょう」
「え! マロングラッセですか!」
お母様特製の!!
アイリスは領地のマロンを使ったグラッセが大好物だった。王太子妃の口に入るものなので、家族といえど毒味は終わっていて許可されたものを持ってきていた。
「良かったら、これ皆さんで分けてください」
お兄様がメイドに渡そうとする!
「ダメっ。少しだけ……でも少しじゃ……いいえ。五つだけ」
肩を落としながらも五つだけ口にした。
「美味しい……足りないわ」
悲壮感漂うアイリスにメイドが声をかけてきた。
「妃殿下、あの、まだありますよ?」
首を振るアイリス。
「うちの領地の栗はとっても美味しいの……皆で分けてちょうだい。出来ればすぐにでも……目に見える範囲にあったら全部食べてしまいそうなの」
メイドはえ? これ全部? と思い驚いた。ずっしりとした量があるのだから。
「お願い、すぐに分けてきて」
「かしこまりました」
一礼をしてメイドは下がった。その後アイリスの実家のマロングラッセの美味しさに虜になり奪い合いになったようだ。
「アイリスは妃殿下になっても変わらないね? 腹黒ストーカー男には勿体無いよ」
お兄様は嬉しそうにしていた。最後の方は聞こえなかったけど。
「早く生まれてきてママにお母様のマロングラッセをお腹いっぱい食べさせてね」
お腹を撫でるアイリス。家族はそんなアイリスを見ながら変わらないなぁ。と嬉しそうにしていた。
さぁ、今から国民の前に出て新年の挨拶をしてきます!
******
久しぶりの更新となりました( ˊᵕˋ ;)
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